試乗レポート

ホンダ新型「シビック TYPE R」鈴鹿サーキット初走行 先代モデルと一緒に走って見えた進化のポイント

2022年9月2日 発売

499万7300円

ホンダの新型「シビック TYPE R」を鈴鹿サーキットで試乗する機会を得た

「最速のTYPE R」と言わしめた先代シビック TYPE Rリミテッドエディションがマークした鈴鹿サーキットのFF車最速タイム2分23秒993をあっさりと破り、「2分23秒120」をマークしたという新型シビック TYPE R。

 先代のリミテッドエディションのように軽量化を行なうことなく、スタンダードモデルでそのタイムを叩き出したことは衝撃的なニュースだった。重たく、ホイールベースも伸びたことが災いしないなのか? ひょっとして直線だけが速い? あらゆる疑問符が浮かびながらの鈴鹿サーキット入りだった。

今回の試乗は新型シビック TYPE RがFF最速タイムを更新したという鈴鹿サーキット

 先代と並べられていた新型を見ると、色々と大きくなっていることがうかがえる。それもそのはず、全長は+35mm、幅は+15mm、ホイールベースは+35mm。だが、それと帳尻を合わせるように、トレッドはフロント+25mm、リア+20mmと縦横比は旧型と近似値かもしれない。さらに、全高は-30mmとなり(ヒップポイントも-8mm)、ロー&ワイドでいかにも走りそうな雰囲気が漂っている。

スポーツモデルの本質的価値である「速さ」と官能に響く「ドライビングプレジャー」の両立した究極のピュアスポーツ性能を目指したという新型シビック TYPE R。ボディサイズは4595×1890×1405mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2735mm、車両重量は1430kg、乗車定員は4名
エクステリアはロー&ワイドを強調し、圧倒的な速さと美しさを兼ね備えたデザインを両立。冷却性能向上のためグリル開口部を大きくするとともに、サイドシルガーニッシュやリアスポイラーなどで空力性能を追求しながらも、リアフェンダーをボディと一体化したしたことで、流れるような美しいデザインを実現している
新型シビック TYPE R寸法図
先代シビック TYPE R リミテッドエディション寸法図

 そこに収められるタイヤは、先代リミテッドエディションと同じ、ミシュランの「パイロットスポーツCUP2 CONNECT」。サイズは先代の245/30ZR20から改められ、265/30ZR19となった。実は標準装着タイヤは「パイロットスポーツ4S(専用開発品)」だが、このタイヤは用品としてラインアップされる。もちろんCUP2も専用開発品だ。

 ミシュラン曰く「265サイズの場合、センターの接地圧が出にくい傾向があるため、ベルトアングルやキャッププライの高さ、テンション、ビードフィラーハイトを専用としています。ケーシングは両タイヤとも共通です」とのこと。265サイズをFFで使うことがあまりないため、4SもCUP2も専用開発が必要だったそうだ。こうしたハイグリップとハイパワーに耐えるため、フロントサスはナックル、ダンパーフォーク、ロアアームを新設計とし、キャンバー剛性は先代比で約16%も向上させている。

専用に開発されたミシュラン「パイロットスポーツCUP2 CONNECT」
左がパイロットスポーツ4S、右がパイロットスポーツCUP2 CONNECT。2本を見比べるとパイロットスポーツCUP2 CONNECTは排水用の縦溝が1本少なく、横(コーナー外側)方向の踏ん張りがさらに効く構造
パイロットスポーツCUP2 CONNECTのサイドウォールにはホンダ専用開発品の証「H0」が入る

 エンジンは先代の2.0リッターVTECターボをベースとするが、ターボチャージャー本体の変更を行なっている。これはタービンブレード(翼)の外径や枚数、形状を新設計。回転イナーシャを低減させることで、回転数と応答性を向上しているという。これで効率向上は3%、イナーシャ低減は-14%となった。

 また、吸入流路径拡大により吸気流量を+10%。インタークーラーを9段から10段にすることで圧力損失を低減。マフラーは3本のうちの真ん中を太くすることで排気流量を+13%アップ。そこにはバルブが備わり音量のコントロールも可能となる。結果として最高出力330PS、最大トルク420Nmを実現。これは先代比でパワーが10PS、トルクは20Nmアップを実現している。

2.0リッターVTECターボエンジン。エンジン本体はアメリカで組まれて日本で車両に組み込まれている。手前にあるのがコアを10段にすることで圧力損失を低減させたインタークーラー
高応答の小型ターボをさらに進化させた
翼の枚数や形状で効率を向上
フライホイールも先代比で重量-18%、慣性モーメント-25%低減を実現。それによりシフトダウン時にエンジン回転を自動的に上げてくれるブリッピング性能も10%向上している
新型シビック TYPE Rのマフラー。排気の主流が通過するサイレンサーの中央配管には、「アクティブ・エキゾーストバルブ機構」を新採用。エンジン回転数に応じて最適なバルブ開度とすることで、車外騒音法規を満たしながら、エンジン出力向上と迫力ある排気サウンドを両立する
先代モデルのマフラー出口はセンターが最も細く、新型とはまったく逆の構成

 ボディは構造用接着剤の塗布エリアを先代比で3.8倍としたことで、リアねじり剛性を15%もアップ。樹脂製テールゲートの採用により、鉄製だった先代より約20%も軽量化できたこともメリットだろう。また、空力についても見直しが図られ、ドラッグ(空気抵抗値)が軽減される一方で、先代比で圧倒的なダウンフォースを獲得。200km/h走行時で、ベース車(5ドアのシビック)に対して+約900Nmにもおよぶという。

シフトフィーリングは剛性感があって心地良い
ドライブモードセレクターの上に「+R」ボタンが配置されている
+Rモードにするとエンジン回転計メインのメーター表示となる。画面の上にはシフトインジゲーターも内蔵している
新たな機能となる専用データロガー「Honda LogR」を搭載。自分の走行データを記録できるうえに、その情報をTYPE Rユーザー同士でシェアすることも可能
エンジン・ステアリング・サスペンション・エンジンサウンド・レブマッチシステム・メーターを自分好みにカスタマイズできる「インディビジュアルモード」も搭載。設定はエンジン再始動時も保持される仕様となっている

鈴鹿サーキットでどんなポテンシャルを見せてくれるのか

この日の鈴鹿サーキットはF1日本GPの準備でメインパドックが使えず裏にあるパドックからコースインを行なった。前方の黄色の先代リミテッドエディションは武藤英紀選手がステアリングを握っている

 さて、そんな新生シビック TYPE Rをいよいよ鈴鹿サーキットで走らせる。今回は残念ながら先導車つきという環境ではあるが、先導ドライバーは国内最高峰の自動車レースSUPER GTのGT300クラスにホンダのNSX GT3で参戦している武藤英紀選手で、乗るのは先代のリミテッドエディション。これは間近で新旧比較ができそうだ。

 停止時でないとスタビリティコントロールのVSAがフル解除できないということで、走行前に「+Rモード」を選択してVSAボタンを5秒長押ししてフル解除完了。さらに、GPSと連動してサーキットに来るとスピードリミッターが解除できるというボタンも押してもらい、いよいよコースインする。

まずは完熟走行からスタート。1度に3媒体が走ったが筆者は武藤選手のすぐ後ろを走行

 まずは完熟走行で1周走るが、ピットアウトした時点でかなり爽快な乗り味であることが理解できた。エンジンが軽やかに吹け上がり、それと同時にエキゾーストノートも室内のサウンドコントロールも豊かに反応。「たしかターボ、だったんだよな?」そんなことさえ頭に浮かんできてしまうほどなのだ。

 また、+Rモード時のメーター演出もなかなかで、S2000を思い出すようなグラフィックが泣かせるし、レブリミット近くになると光と音によるワーニングが行なわれ、それもまた気分が高まる。さらに、少しステアしただけでクルマ全体が間髪入れずにリニアに応答する様や、剛性感あるシフトの感触もたまらなく心地良い。さほど飛ばさずに感動できるなら、きっと公道で乗ったとしても楽しいだろう。

 車両&コースチェックが完了して全てを開放すれば、とにかく安定感ある走りが驚きだった。危うい動きは皆無といっていいほどで、ハイスピードからのフル制動であってもリアがナーバスになるようなことはない。その一方で前を走る旧型は常に同じ状況でテールがフラついていることがうかがえるのだ(動画だとよく分かる)。

 あれがクルマの向きを変えるきっかけになっているのだろうが、新型はそんな危うさもなく、けれどもしっかりとクルマの向きが変わっていく。安定感高く、それでいて曲がる絶妙なセットだったのだ。おかげでラインの自由度は旧型より遥かに高く、どこからでも抜きにかかれそうな雰囲気がある。

先代モデルと同じペースで走ると、ノーズが入りやすくクルマの向きが変わるのも早い

 2度目の走行では先導車との距離を10車身ほど開けてからシケインを通過。そこから全開で追いかけてみることに。シケイン出口の少しステアリングを切った状態からのトラクションが優れており、パワーアップもしっかりと使い切れる雰囲気にまずは感心。

 その後はS字区間でみるみる差をつめ、ダンロップコーナーを駆け上がる頃には旧型の背後につけるほどだったのだ。コーナリングスピードも高いし、曲がりながら脱出するような時のトラクションが何より向上。上り区間におけるトルクもなかなかだ。

先代モデルよりもラインに自由度があるうえに、ナーバスな雰囲気もなく安心感と安定感が高い

 また、その後のデグナー進入などでリアが安定しているところも扱いやすい。縁石に乗った時の安定感も高い。ただ、荒れた路面や高めの縁石に乗り上げると、リアが跳ねるところは気になった。

 それと、走る場所によっては、+Rモード以外を選びたくなるシチュエーションも出てくるだろうが、+R以外を選ぶとVSAはフル解除できないというジレンマに陥る。そのあたりの組み合わせにもう少し自由度が欲しいところ。

 試乗当日はまだまだ暑い環境だったのだが、熱ダレによるフェールセーフなども介入しなかったこと。ブレーキも旧型初期のようにすぐにジャダーが発生するようなことがなかったところは進化した部分だろう。フロントバンパーの開口部をはじめ、あらゆる対策を行なったことが効いている。これならサーキットを存分に楽しめるだろう。

 ここまでの進化がありつつ、価格はリミテッドエディションのおよそ50万円安とは恐れ入る。コンフォートモードを選べば乗り心地はよく、静かにだって変身できるというオールマイティさも魅力の1つ。これならファミリーカーとしての立ち振る舞いもできそうだ。サーキット特化と思いきや、実はストリートでもなかなかの走りを展開しそうな新型は、かなり買いの1台だ。納期2年とも3年ともいわれているようだが、気になる方はとりあえず注文しておいたほうがいいと思う。

シビック TYPE R 開発主査の柿沼秀樹氏に、先代のようにリミテッドエディションを作る余力を残しているのか聞いてみたが……当然のように明確な回答はなく。この笑顔に期待するしかない
【ホンダ】新型「シビック TYPE R」鈴鹿サーキット走行インカー映像 ドライバー:モータージャーナリスト橋本洋平
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo・Movie:堤晋一