試乗レポート

三菱自動車の軽EV「eK クロス EV」でロングドライブを体験してみた

「eK クロス EV」でロングドライブを体験

80%を超えても充電速度が衰えない

 一充電あたりのWLTCモード航続距離が180kmであることがよくもわるくも注目されているが、本来想定した使い方でないことは重々承知の上で、もし遠出したらどんな感じなのか、試してみることにした。

「eK クロス EV」の場合は、あくまでeKシリーズの一員として、純粋にパワートレーンの好みで選んでもらえるようにとあえてガソリン版と外観の差別化を図っていないのが特徴だ。この小さいながらも存在感は大きい三菱自動車らしいスタイリングが好みという人も少なくないことだろう。有料色のミストブルーパールとカッパーメタリックという組み合わせは見た目にも印象的だ。最上級のGグレードで5万5000円のプレミアムインテリアパッケージを選ぶとインテリアの居心地もさらによくなる。

6月に発売された軽自動車タイプのBEV(バッテリ電気自動車)「eK クロス EV」。試乗車は「P」グレード(293万2600円)でボディサイズは3395×1475×1655mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2495mm。ガソリン仕様(2WD/G、Tグレード)から15mm高くなるものの、ほぼ同寸に仕上げた。電力量20kWhの駆動用バッテリを搭載し、一充電走行距離は180km(WLTCモード)。なお、eK クロス EVの累計受注(9月末時点)は約6600台と好調な販売をみせている
エクステリアは新世代のダイナミックシールドフロントフェイスといった三菱自動車ならではのSUVテイストのデザインに、ダーククロムメッキのフロントグリルやLEDのフロントフォグランプを採用するなどBEVらしいアレンジを加えたもの。撮影車のボディカラーはミストブルーパールに電気銅線をイメージしたカッパーメタリックのルーフを組み合わせた2トーン仕様
「P」グレードは15インチアルミホイールにブリヂストン「エコピア EP150」(165/55R15)の組み合わせ
普通充電(AC200V/14.5A)と急速充電の2つの充電ポートを装備。普通充電は約8時間で満充電、急速充電では約40分で80%の充電が完了
駆動用モーターについては日産自動車「ノート e-POWER 4WD」のリア用などで使われるMM48型を採用し、最高出力は47kW/2302-10455rpm、最大トルクはガソリンターボモデルの約2倍となる195Nm/0-2302rpmを発生。走行モードは「NORMAL(ノーマル)」に加えモーター出力を抑えて電費を向上させる「ECO(エコ)」、アクセルレスポンスがよくキビキビ走れる「SPORT(スポーツ)」の3モードを設定
インテリアでは電子制御セレクターレバーや7インチカラー液晶メーターを採用するとともに、インストルメントパネルはUSBポートや随所に設けた収納スペースなど、機能性にもこだわった仕様。撮影車はオプション設定の「プレミアムインテリアパッケージ」仕様で、ライトグレーを基調に合成皮革と立体感のあるダイヤ柄エンボス加工を施したファブリックのコンビネーションを用いて上質感を演出している
後席シートバックは50:50分割可倒式を採用

 まずは都内から静岡方面に取材へ。往路は途中で2回充電し、取材を終えて一般道で帰路につく。車載のカーナビの充電スポットを検索して、静岡県富士宮市の急速充電器のある自動車販売店で充電することにした。充電スポットを探す機能も充実していて、いろんな条件で絞り込みができるのも便利だ。充電スポットを自動登録する機能もある。

9インチスマートフォン連携ナビゲーションは充電スポットや目的地までの推定電池残量などを表示でき、スマートフォンと連携することでAndroid AutoやAppleCar Playも活用可能。

 バッテリ容量が20kWhとそれほど大きくないので、充電中のディスプレイを見ているとSOC(State Of Charge=充電状態)の数字がみるみる上がっていく。しかも、80%あたりを超えると一般的には充電のスピードがゆっくりになるところ、バッテリの温度管理をしっかりやっているeK クロス EVはあまりペースが衰えない。メーターに充電中の電力値を表示させることもできるのだが、当初は30kW近かった数値が、80%台になっても半分以上を維持して、十分に急速で充電されることが分かった。30分充電して、SOCが96%で航続距離が140kmと表示された。

 カーナビで目的地を筆者の世田谷の自宅に設定したところ、そこまでの距離は130kmとの表示。航続可能エリアを地図上に表示させる機能もあり、どれぐらい余裕があるか色で分かるようになっていて、目的地にはギリギリたどりつけるかもしれない感じだったが、高速道路を巡行するのは電費には不利。はたしてどうなることか……。

走りのよさを再確認

 走行時の条件としては、ノーマルモードでイノベーティブペダルはOFF、エアコンは24°Cに設定した。国道139号線を7kmあまり走って新富士IC(インターチェンジ)についたときには、SOCは93%に下がったが、走行条件がよかったようで航続距離は140kmのままだった。

 メーターのドライブコンピュータをリセット。センターディスプレイには電力消費計もあり、空調や電装品でどれだけ電力を使っているかが一目瞭然で分かるほか、エアコンをOFFにすると走れる距離がどれだけ増えるか等の情報を表示させることもできる。

 新東名高速を5kmほど走ったところで、SOCも5%減って88%になり、航続距離は133kmになった。さらに、出発から33kmあまり走行した御殿場JCT(ジャンクション)では同59%で83kmになった。SOCの減りに対し、航続距離の減りが大きめ。やはり高速巡行は不利なようだ。

 クルマ自体は軽自動車なのでトレッドの制約がある上にタイヤサイズも小さく、それでいて車高は1.7m近くあるという、走りにおいては不利なパッケージであることには違いないが、バッテリが床下に上手く収められたことで、走りに重心の高そうな感覚もあまりなく、安定している。ブラシレスモーターを備えた電動パワステのフィーリングも上々で、操舵に対して正確に動いてくれるのも好印象だ。音については、一般道を走っているときはかなり静かだと思っていたのだが、高速道路では100km/hを上限で走ったものの、風切り音やタイヤのロードノイズがやや気になったことを、一応お伝えしておこう。

 出発から54kmほど走った75.6kmポスト付近、鮎沢PA(パーキング)まで3kmと掲げられたあたりで、同50%で67kmの表示。約50kmの走行でほぼ半減したわけだが、このあたりの大井松田~御殿場間といえばアップダウンとアールのきつい、条件としては厳しいエリア。それでも平均電費は6.7km/kWhとまずまずの値をキープしていた。

 出発からちょうど1時間が経過し、距離としては出発から75km走行した中井PA(パーキングエリア)で、同39%で59kmの表示。このあたりになると勾配はだいぶゆるやかになるので、SOCが減ったわりに航続距離はそれほど減らず。平均電費は7.7km/kWhへと上がった。

30分で60%超を充電

 最先端の「マイパイロット」のおかげで、高速道路を走るのも本当にラク。モーター駆動の強みでACCの追従制御も緻密で、もたついてストレスを感じることもあまりない。また、PAのようにアタマから駐車場に止めたいときに、枠と車輪の位置関係が掴みづらくて斜めになってしまいがちなところ、「カメラ」のスイッチを押すと即座に俯瞰画像を見ることができるのも重宝する。16万5000円の「先進安全快適パッケージ」はもはや必需品だ。

 さらに、クイックチャージのある海老名SA(サービスエリア)まで走行。走行距離97.6kmで平均電費は7.9km/kWh、SOCが20%で、航続距離が32km、目的地までの距離があと32.5kmという非常に微妙な状況だった。海老名SAには3台の急速充電器があり、性能に違いがあるのだが、eK クロス EVは最速でも上限30kWで充電されるので、どれでも変わらないはず。もっとも高性能な充電器が空いていたので30分充電したところ、同81%、123kmまで回復した。

 ところで、われわれが到着する前から充電器につながっていた車両が、30分経ってもそのまま置かれていたのが気になった。そうしたモラルの低いユーザーの迷惑行為を排除するため、充電後に一定時間、車両を放置していたら罰金ということをやっている例もあるのだが、件のようなユーザーが現実として存在する以上、なんらか取り組みも必要かと思う。

 そして自宅近く、東名高速を降りたところで、SOCが55%で航続距離が80km、平均燃費は7.7km/kWhだった。これぐらいの小旅行でも、やはり常にバッテリのことを考えなければならず、あくまでコミューター的な使い方に向いたクルマであることには違いなさそうだが、走りのよさとマイパイロットにはあらためて感心した。むろん航続距離が長いにこしたことはないが、その余裕があったら価格をさらに安くしてくれたほうがありがたいかなと思う。eK クロス EVは、これでいいのだ!

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛