試乗レポート
三菱自動車の新型軽EV「eK クロス EV」はさながら高級コンパクトカー? その実力をレポート
2022年7月8日 00:00
i-MiEVに続く軽自動車EV
三菱自動車の「eK クロス」にBEV(バッテリ電気自動車)の「eK クロス EV」が加わった。平たく言ってしまえば日産自動車「サクラ」の三菱自動車版であり、スキンチェンジというのが正直なところだ。だが、決してコチラが分家的な扱いではない。そもそも軽自動車EVを日本で初めてリリースしたのは三菱自動車の「i-MiEV(アイ・ミーブ)」なのだから。
ちょっと昔話になるが、i-MiEVの価格はバッテリが大きいモデルだと約430万円で一充電走行距離は10・15モードで160km。対してこの度登場したeK クロス EVは価格がその半分ちょっとからで、WLTCモードで一充電走行距離が180km。随分と進化したものである。駆動方式はRRからFFとなり、より使いやすくなったところもまた大幅な進化。以前は低ミュー路を考えて積極的に回生を入れられなかったというが、今回はキッチリと回生を取ることも可能。ガソリンモデルと比較しても、使い勝手で我慢を強いられるようなところはない。
eK クロスの派生モデルということもあり、エクステリアはこれといった変化がない。区別できるのは左側にあったはずの給油口がなくなり、代わりに右側に充電口が設けられたこと。そしてフロントグリルの印象を若干変えたくらいだ。事実上の兄弟車といっていいサクラは、新規でデザインできたことに加えて防音材をドアに多めに入れられたというが、eK クロス EVはガソリンモデルとそこは変わらないという。そこが吉と出るか凶と出るか?
一般道、高速道路のフィーリングは?
今回はトップグレードとなる「P」を駆り出して試乗することに。ドライバーズシートに収まればメーターまわりのデザインが三菱自動車独自のものとなっていることがうかがえる。センタートンネル内にラミネート式のバッテリをうまく搭載し、リアサスはビーム式から4WDモデルで使っていた3リンク式を採用することで、インテリアに制限を与えていないところはサクラと同様。ベースモデルとなんら変わらない室内空間と使い勝手はなかなかだ。
だが、走り出せば随分とガソリンモデルと違った印象を持つ。滑らかに走り出し、アクセルに対して実にリニアに応答することはBEVだから当たり前なのだが、それ以上に俊敏さを手にした印象が強く感じられる。ガソリンターボモデルの約2倍となる195Nmという最大トルクを発生させるeK クロス EVは、街中の複雑な交通環境をスイスイとクリアして見せるのだ。軽自動車ならではのコンパクトさを活かし、駐車車両をクリアしながら2車線道路の左車線を難なく駆け抜けてくれる。実質ワンペダルで扱えるアクセルは街中では慣れれば扱いやすい。乗り心地はドッシリとマイルドで、これもまた軽自動車とは思えないところだ。フラットに突き進む感覚もなかなかだ。
コーナリングをしてみれば、前後バランスがガソリンモデルの63:37から56:44へと改められたことで、フラットさが光る気持ちのいい走りを手にしたことが感じられる。交差点での曲がりながらの発進などで、ちょっと急いでアクセルを踏むとイン側のタイヤが簡単に悲鳴を上げたりもするのだが、そこはBEVらしさというかヤンチャさというか……。それほどにトルクフルなのだ。
それをより感じられたのは、編集者+カメラマン+機材を積んでおよそ200kg増(?)という状況で勾配路に差し掛かった時。そこでも全く非力だとは感じず、とにかくグイグイ上ったところに関心した。これなら山間部で使うユーザーであっても満足できるだろう。軽自動車に乗っているという感覚は幅の狭さくらいなもので、それ以外は高級コンパクトカーといったフィーリングだ。
最後に高速道路でも試乗してみたが、合流加速も巡行時にもこれといった不満はない。高速道路同一車線運転支援機能の「マイパイロット」を使いながら巡行すれば、ステアリングサポートも行なってくれるため疲れ知らずで走ることが可能。荒れた路面に差し掛かった時にはロードノイズがそれなりに入ってくるが、無理に遮音を奢っていないためか、それが突出して感じられることもないから音のバランスはよいように感じた。
現在、受注は約4400台で納期は6か月というeK クロス EV。兄弟車のサクラは直近で受注1万8000台をオーバーしたという。元祖軽EVのi-MiEVは国内で1万2000台を売るに留まったが、両モデルを合わせれば発売開始の時点ですでにi-MiEVを超えている。この2台がBEVへの移行を早める立役者となるのは間違いなさそうである。