試乗レポート

日産の新型軽バッテリEV「サクラ」、公道でのフィーリングはいかに?

新型軽バッテリEV「サクラ」に公道で乗った

インテリアはこれまでの軽自動車になかった新鮮さ

 注目の軽自動車タイプのBEV(バッテリ電気自動車)「サクラ」を公道で走らせることが可能となった。ディーラーに試乗車が揃う前に受注はすでに1万台を軽く超えており、注目度の高さが伺える。

 サクラはバッテリを20kWhとしたことで軽量化とコストのバランスをとっており、車両重量はガソリンの「デイズ」(ハイウェイスターGターボ)より200kgほど重いが、試乗車の「G」グレードで1080kgと本格的な4人乗りBEVの中では軽い。200kgはほぼバッテリの重さだ。航続距離は約180km(WLTC)と短いが、軽自動車の使われ方の多くが短距離移動が中心と考えると、自宅充電を起点とする行動半径はそれなりに広い。

 試乗は日産本社からみなとみらいの市街地と首都高速を使ったコースになる。事前試乗では軽自動車ともコンパクトクラスとも違う、新しさを感じていたのでちょっとワクワクだ。

 インテリアの作り込みはこれまでの軽自動車になかった新鮮さがあり、素材の使い方も工夫が凝らされている。水平を強調したダッシュボードと液晶メーターで前方視界は広がり感がある。ドアとの間隔が狭いことで軽自動車を思い出すくらいだ。ヘッドクリアランスはデイズ譲りでタップリしているので、小型車からの乗り換え組はびっくりするに違いない。ユーティリティも軽自動車らしい気配りでグローブボックスは上部の引き出し式とその下の蓋式の2つが備わっている。

 エクステリアデザインはシンプルなアウターパネル構成とアルミホイールの面造詣で金属的な塊感が特徴となっている。

6月16日に発売となった軽自動車タイプのBEV「サクラ」。試乗したのは上級グレードの「G」で、価格は294万300円だがクリーンエネルギー自動車導入促進補助金を活用した場合の実質購入価格は約239万円から。さらに地方自治体による補助金制度もあるので購入を検討される場合はこちらも調べてみてほしい
サクラのMM48型モーターは最高出力47kW/2302-10455rpm、最大トルク195Nm/0-2302rpmを発生。総電力量20kWhのリチウムイオンバッテリを搭載し、一充電走行距離(WLTC)は180kmとした。ボディサイズは3395×1475×1655mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2495mm。車両重量は1080kg
標準装着タイヤのサイズは155/65R14で、試乗車はオプションの165/55R15をセット(銘柄はブリヂストン「エコピア EP150」)
充電ポートは右側後方にレイアウト。普通充電用と急速充電用のポートが縦に並ぶ。2.9kWの普通充電器を使用した場合、約8時間で満充電に。30kWの急速充電器を使用した場合、約40分でバッテリ残量警告灯が点灯した時点から充電量80%まで回復する
インテリアではインターフェイスに7インチのアドバンスドドライブアシストディスプレイを採用したメーターと、大画面の9インチナビゲーションの2つのディスプレイを水平方向にレイアウト。Gグレードに標準装備されるBEV専用のNissan Connectナビゲーションシステムでは、充電を考慮したルート設定機能をはじめ緊急時のSOSコール、Apple CarPlayやAndroid Autoとの連携機能などが利用可能
撮影車はオプション設定の「プレミアムインテリアパッケージ」装着車で、本革巻きステアリングや合皮/トリコットのシートを採用。後席は前後スライド機能やリクライニング機能が備わる

BEVの特性を生かした運転する楽しさを表現

 地下駐車場から外に出るには少し長い坂がある。BEVらしい195Nmのトルクはガソリン軽とは比較にならないほどの大きさでごく自然に上っていく。当然ながらいつものエンジンの唸り音が聞こえないので少し拍子抜けする。路面をなめるように走り出す。タイヤは転がり抵抗の小さいブリヂストン「エコピア EP150」(165/55R15)を履いており、デイズからのキャリーオーバーだ。

 室内の静かさは軽自動車離れしており、騒音はよくカットされている。モーターの上下振動も小さく、ノイズの低減にもつながっているようだ。BEVはガソリン車では目立たないロードノイズが一番の騒音源になり、例えはザラメ路などでは音が目立つ。それでもガソリン車と比較すると軽自動車では望外の静かさだ。また、ボクシーなスタイルのボディだが高速道路などでの巡航中もドアミラーからの風切り音が小さく、こちらも静粛性に大きな貢献をしている。

 乗り心地は前席のクッションストロークが大きくとられており、微振動をよく吸収する。さすがに段差通過時やジョイント路での通過ではショックはあるものの、上下収束性は高い。基本的にバッテリを床下センターに搭載していることも大きい。パワートレーンのブルブルした振動もないために極めて滑らかで、これまでの軽自動車の経験からすると異なる存在だ。

 高速道路では追い越し加速でのレスポンスのよさが美点だ。一瞬間を置いて加速体制に入るガソリン車とは異なりスーと前に出る。予想よりも力強く粘りのある加速だ。高速巡航も十分な性能だと思うが、ハンドルのスワリなどはもう少しドッシリさせたい。走りの質感はもっと上げられそうだ。

 一方、首都高速のJCT(ジャンクション)を流れに乗って走った際は、ロール姿勢や角度も安定しており不安を感じることはない。操舵初期のロールは早いが低重心が生かされたハンドリングだ。

 ちなみにFFのサクラのリアサスペンションはトーションビームではなく、4WD用の3リンクが使われている。バッテリ搭載のスペースの関係だが相性はよい。ボディ剛性はバッテリサポートのメンバーもあって、かなりガッチリとしている。この効果は乗り心地や操舵の安定性につながっており、さらにアルミホイールの形状も応答性などに影響を与えていると言われる。

 リアシートはスライド量が大きく、最も後方にずらすと握りこぶし2つほどの余裕が生まれる。驚くほどの広さだ。ただシートのクッションストロークが薄いので、路面からのショックは伝わりやすく微振動もある。それでもサクラが想定する使われ方であれば過不足ないだろう。

 ドライブモードはe-PedalスイッチをONにするといわゆる“ワンペダルドライブ”もできる。アクセルOFFでの減速Gは0.2Gとなる。ただし停止までしないので、最後はしっかりとブレーキペダルを踏む必要がある。ガソリン車から乗り換えても違和感のないドライブモードは「Standard+e-Pedal OFF」だ。言うまでもなくSportモードではレスポンスもよくなり、Ecoモードではバッテリの消耗が抑えられる。ガソリン車以上に差別化が行なわれ、メリハリがある。

 Gグレードではプロパイロットを備え、高速道路での渋滞、クルージング走行での追従運転でドライバーの負担を軽減する。レスポンスのいいBEVとの相性がよく、素早い追従が可能だ。レーントレースも優れているがあくまでもサポートレベルだ。踏み間違い衝突防止アシストや前方衝突予測警報などは標準装備になる。

 サクラは日産にとってデイズの派生モデルではなく、BEVの最小サイズと捉えられており、エクステリア&インテリアにも独自性を出しているのはそのためだ。確かにBEVの特性を生かした運転する楽しさを表現していた。

 さて、充電は3kWの普通充電でエンプティの状態から満充電まで約8時間。ジワリと充電するのはバッテリにも優しい。一方、急速充電では30kW以上の急速充電器では40分で約80%まで充電できる。ただし、90kWの急速充電器でも蛇口は変わらないので30kWでの充電になる。充電料金はいろいろなプランが用意されているので、自分の使用スタイルに合わせたプランを選ぶことになる。サクラ、気になる1台だ。

Nissan Connectナビゲーションシステムでは現在地周辺の充電設備の検索もできとても便利
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛