試乗レポート

20周年を迎えたダイハツ「コペン」が愛される理由 トヨタの協力で開発したGR SPORTでも味わえる一貫した“コペンらしさ”

20周年を迎えた「コペン」に改めて試乗してみた

20周年おめでとう!!

 Happy Birthday Copen!

 6月19日は、ダイハツ「コペン」の“はたち”の誕生日。初代コペンの登場は2002年だから、リーザ・スパイダー(懐かしー!)の後輩として生まれたコペンが、人で言うと成人式を迎えたということになる。時が経つのは、本当に早いものである。

 ちなみに2代目となる現行型は、2014年のやはり6月19日にフルモデルチェンジを果たしている。このことからも分かる通りこの子は、ダイハツにとってもかけがえのない愛娘なわけである。

 こりゃめでたい! ということで、今回はCar Watchでも改めてコペンの魅力について振り返ってみようということになった。本当は6月20日から受注を開始した20周年記念特別仕様車「COPEN 20th Anniversary Edition」で行きたいところだったが、待ちきれなかったから「GR SPORT」で繰り出してみた。

試乗中に出会ったコペンオーナーさんたちと、誕生日を祝って一緒に記念撮影! 20年間愛され続けてきたコペンのまわりには笑顔があふれている

 ところでこのコペン、20年間の間にどのくらいの台数が世に出たのかというと、その累計販売台数は約9万5000台(2002年~2022年5月)とのことである。

 その内訳は約12年間販売した初代が5万8000台で、8年間販売した2代目が3万7000台。単純計算だがならせば初代は年4800台平均くらいで、それが2代目になると4600台。どちらも決して多くはないが、ゆったりと同じくらいのペースで売れ続けている。

コペン GR SPORT(243万7200円)。ボディサイズは3395×1475×1280mm(全長×全幅×全高)、ホイールべースは2230mm。GR SPORTは、コペン全体の中でCero、Robe(Robe S含む)に続く販売割合になるとのこと。なお、6月19日に発表された「コペン 20周年記念特別仕様車」は発表から5日、発売から4日で限定1000台が完売となった
コペンは電動オープンルーフを持つ2人乗りの軽自動車。ボディ構造で骨格部分と外装・内装を切り分ける独自の内外装着脱構造「DRESS-FORMATION(ドレスフォーメーション)」を採用し、ヘッドライトやドアパネル、ルーフなどを除く13個の樹脂パーツをボルト締め付けで自在に交換可能としている。また、フレーム構造とモノコック構造をベースにした新骨格構造「D-Frame」により、フロント、サイド、リア、フロアといった車両の骨格全体を切れ目なくつないで一体化。フロア下にトンネル構造やクロスメンバーなどを追加して、骨格のみでスポーツカーに求められる高い剛性を確保している
最高出力47kW(64PS)/6400rpm、最大トルク92Nm(9.4kgfm)/3200rpmを発生する直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンを搭載し、トランスミッションにCVTと5速MTを設定。駆動方式は2WD(FF)のみを用意。なお、ダイハツの乗用車ラインアップで唯一のMTモデル設定車となる(MTの販売比は約3割)

 オープン2シーターのライトウェイトスポーツカーというジャンルだと、そこにはマツダ「ロードスター」という巨人がいる。その累計販売台数は昨年の時点で110万台を突破! おまけにギネス記録更新中!! 最近はコロナ禍の反動や、軽量化を推し進めたモデル「990S」のヒットよってさらにその人気を加速させているわけだが、ロードスターは北米でも販売されているモデルだし(実はコペンも輸出の実績がある)、これと比べるのはまたちょっと違う。

 コペンのすごさはある意味その“ニッチ”さを許されながら、ダイハツが作り続けてくれていることだと筆者は思う。大切なのは、絶対的な数の多さではない。愛され方だ。

 ではなぜコペンが、ここまでロングセラーモデルとなったのか?

 それはきっと「こだわり過ぎなかったから」だと筆者は考えてる。

 ちなみに2代目コペンは、構造的にはかなりこだわったクルマだ。「D-Frame」と呼ばれる主骨格に、樹脂製アウターパネル「DRESS-FORMATION」を装着することで、コストを抑えながら4つのバリエーションを生み出した手法は画期的だった。

 樹脂製パネルを持つクルマはこれまでもいくつかある。軽自動車で言えば「オートザム AZ-1」もこの手法を使ったが、コペンほどにはその限定車や、OEMカー(スズキ・キャラ)が、明確な個性を放ったとは言いがたい。

 それをコペンは先代のイメージを受け継ぐ「Cero」と、スポーティな「Robe」「XPLAY」そしてこの「GR SPORT」という、両極端なテイストできっちり作り分けた。だから2代目となっても尻すぼみすることなく、その人気が保たれたのだと思う。

 しかしダイハツは、「走り」にはそれほどこだわらなかった。

 外板パネルに頼らず剛性を高めるべく、前述したD-Frameは初代コペン比でねじれ剛性が1.5倍、上下曲げ剛性だと3倍にまで高められた。だがホンダS660と比べてしまえば、純粋な運動性能や走りの質感は、残念ながら大きく劣る。

 フロント・ストラット/リア・トーションビームというサスペンション形式は同じながら、路面からの入力を減衰しきれず、たとえばビルシュタインダンパーを入れた「S」グレードなどは、ガツン! と突き上げる場面もある。

 でも。いやだからこそ、コペンは生き残った。

 逆説的な物言いだが、そんな気がするのだ。

 モノコックに近い剛性をオープンボディで得るためには、S660のようなタルガ形状を採る方が有利だろう。しかしコペンは、オープンカーとして純粋に気持ちがいいフルオープントップを選択した。

 なおかつ幌に比べて明らかな重量増となる電動ハードトップも、そのまま踏襲している。

 駆動方式も手持ちのベタなFWDのままであり、それを逆転して後輪駆動とし、スポーツカーのハンドリングやトラクション性能を突き詰めようともしなかった。

 だがプロやマニアが絶賛するような高いボディ剛性を持たずとも、ただふつうに走らせているだけで、コペンは十分楽しいのだ。

 軽自動車枠の小さなボディは、全ての道に圧倒的なリアリティを与えてくれる。路面の凹凸やうねりを避けながら、車線内でラインを描くように走ることができる。そしてそのちょっと雑な乗り味さえもが、クルマを運転している実感に変わる。

 試乗車であるGR SPORTは、そんなコペンにTOYOTA GAZOO Racingが足まわりとボディ剛性向上パーツを与え、乗り味に上質さを上乗せしたモデル。通常のコペンと比べればコーナリングパフォーマンスはちょっと高く、その乗り味はしなやかだ。

 しかし基本的な乗り味や質感は、「コペンの域」を超えてはいない。例えばTRDオプションのヤマハ・パフォーマンスダンパーを付けたとしても、コペンがポルシェやフェラーリになるわけではない。

 しかし、それがいいのだと思う。コペンとしての乗り味が上質になるから、楽しいのだ。

 折しも試乗当日は小雨が降っており、カメラマン泣かせな天候だったけれど、筆者の心は晴れわたっていた。走っている限りは雨に濡れることもなく、ときおり信号で止まると、ポツポツ頬に雨粒が当たることさえもが楽しかった。

 プロダクツの洗練は、メーカーにとっての命題だ。しかし愛される工業製品には、それ以上に大切なことがある。

 ダイハツがコペンの性能を磨き上げなかったとまでは言わないが、少なくとも限られた予算をどこに使うべきかは、しっかり分かっていたのだと思う。

 軽スポーツでライバルたちがことごとくディスコンとなったのを見ても分かる通り、走りにこだわり過ぎることは、自分の首を絞めることにもなりうる。

 しかしコペンには、そうしたストイックさや息苦しさが、みじんもない。だからこそ20年もの間多くのユーザーに愛されたのであり、それこそがコペンの魅力なのだと、筆者もようやく気付いた。

 もしボクが選ぶならGR SPORTは確かに捨てがたいが、初代のイメージを踏襲した「Cero」に、パフォーマンスダンパーを付けて乗ってみたい。トランスミッションは、当然5速MTを選ぶだろう。

 コペン、愛らしいクルマだね。20歳の誕生日、おめでとう!

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:高橋 学