試乗記
BMWの新型「M3ツーリング」試乗 浮世離れした高性能ワゴンを味わう
2023年8月22日 09:10
やけにカッコよく見えた
SUVの台頭によりすっかりワゴンは追いやられてしまったが、欧州製のいくつかのワゴンは日本でも根強い人気を維持している。そんな中に、とても気になるニューモデルが現れた。「M3ツーリング」だ。BMW Mの創立50年を記念して登場した中の1台で、日本では2023年1月に発売された。
現行型で6代目となるM3にツーリングが設定されたのは歴代初めてのことだ。日本導入は、現行G80型セダンのちょうど2年遅れとなる。Mハイ・パフォーマンス・モデルのツーリングというのは、過去に「M5」にはあったのだが、日本には正規導入されなかったので同モデルが初めてとなる。SUV全盛の中で、あえてこうしてワゴンで新しいことにチャレンジするとは、それなりに勝算もあってのことだろうとはいえ大したものだ。
もともと筆者はM3のようなクルマは大好物だが、とくにワゴン派というわけではない。ところが実車と対面すると、なんだかやけにカッコよく見えて、ひと目ボレしてしまった。大きく張り出した迫力満点のブリスターフェンダーを身につけたツーリングのボディからは、セダンとはまた違った凄みが感じられる。
一連のM3やM4と共通のフロントはもちろん、いかにも効きそうなディフューザーと4本のテールパイプが覗くリアビューにも目が引きよせられる。M3でツーリングという組み合わせに、妙に惹かれる思いがした。印象的な「Mブルックリン・グレー」のボディカラーと、「Mカーボン・エクステリア・パッケージ」によるデコレーションが実によく似合っている。
コクピットには他モデルと同じく眼前にカーブドディスプレイが配されていて、撮影車に装着されていたオプションの「フル・レザー・メリノ」と「Mカーボン・ファイバー・トリム」が織りなす雰囲気も上々だ。
ツーリングとしての利便性についても触れておくと、荷室はスペースが十分に確保されているほか、フロアには走行時に空気を送り込んでラバーのレールがせり上がって荷物を固定するような仕組みや、BMWのSAVやSACのXモデルでもやってない、テールゲートのガラスハッチの部分を単独して開閉できるといった強みもある。
0-100km/h加速は3.6秒
日本に導入されるのは、よりパフォーマンス志向の「コンペティション」のみの設定で、価格はなぜかM3セダンのコンペティションよりも12万円安い1398万円となる。これは、「M340i」に対しては300万円あまり高く、ざっくり「320~」の倍となる。
ドライバビリティとドライビングプレジャーがいかに高いかは想像に難くない。最高出力375kW(510PS)/6250rpm、最大トルク650Nm/2750-5500rpmを発生するS58B30Aという型式の3.0リッター直6ツインターボは、始動時の音からしてタダモノではない気配をただよわせ、いざ走り出せば俊敏なアクセルレスポンスと力強く盛り上がる中間加速に圧倒される。猛々しくも洗練されたエキゾーストサウンドにもホレボレする。そこには刺激的な速さと叙情的な味わいが共存している。性能的にも0-100km/h加速はセダンとコンマ1秒差の3.6秒というからかなりのものだ。
このあり余るパワーを確実に路面に伝えるため、インテリジェント4輪駆動システム「BMW xDrive」とアクティブMディファレンシャルをベースに、専用に開発したシステムにより制御するM専用4輪駆動システム「M xDrive」を搭載している。
DSC等との組み合わせで、「4WDモード」のほか後輪への駆動力配分を増やすとともにスリップ許容量を大きくする「4WD Sportモード」や、制御の介入を断って完全後輪駆動とする「2WDモード」を選ぶこともできる。今回は公道のみでの試乗につき限界走行は試していないが、選択により走りのキャラクターを大幅に変えられることは少し試しても重々伝わってきた。ドリフト・アナライザーのようにユニークな機能も搭載されている。
Mハイ・パフォーマンス・モデルの一員として
車検証には車両重量が1870kg、前軸重が950kg、後軸重が920kgと記載されており、ツーリングゆえ前後がより均等に近い。タイヤは4WDにもかかわらず前後でサイズが異なり(外径は近い)、フロントが19インチ、リアが20インチのミシュラン製「パイロットスポーツ4 S」を履く。取材車には100万円あまりのオプションの「Mカーボン・セラミック・ブレーキ」も装着されていた。
基本素性として、「コンペティション」というだけあってドライブフィールはかなり締め上げられたスパルタンな雰囲気となっている。握りが太くズッシリと手応えのあるステアリングホイールを切ると、可変レシオも効いて大半のコーナーは小さな舵角のまま駆け抜けていけるあたりもMモデルらしく、両スポークには好みの設定を即座に呼び出せるMボタンが配されているのもMモデルならではである。
ツーリングとなると使う機会の増えそうなリアシートは、成人男性がゆったり座れる十分なスペースと厚いクッションが与えられているものの、乗り心地はそれなりにハードなので、本質的にはドライバーズカーと認識したほうがよさそうだ。
そのあたりはMハイ・パフォーマンス・モデルの一員として、サーキットで培われたテクノロジーがふんだんに投入されていることには違いなく、その浮世離れした性能を味わいつつ、ツーリングとして日々の生活で颯爽と乗りこなすカーライフを送ることのできるクルマである。