試乗記
今秋に日本導入されるヒョンデの新型EV「コナ エレクトリック」に乗った
2023年8月21日 10:48
Bセグメント SUVのコナはどんなクルマ?
日本導入目前と言われるヒョンデ(Hyundai Mobility)のコンパクトSUV「コナ エレクトリック」を、韓国の公道で試乗することができた。
まずコナの概要をお伝えすると、それはヒョンデのBセグメント コンパクトSUVであり、今回試乗したのはそのコナのEV仕様となる。ちなみに本国ではこの他にガソリン車(1.6リッターターボ/2.0ガソリン)と1.6リッター直列4気筒ハイブリッド、そしてスポーティカスタム仕様の「N Line」(Nライン)がラインアップされている。
内燃機関とプラットフォームを共用するからだろう、コナの駆動方式はフロントモーター・フロントドライブ(FF)。ただし現行コナのプラットフォームは、EV優先で開発・設計がなされたという。
モーターのスペックは、今回試乗したロングレンジモデルで最高出力が150kW(203.9PS)、最大トルクが255Nm。リチウムイオンバッテリ容量は64.8kWhだから、日産「アリア B6」(66Kwh)よりやや少ないくらいだ。気になる日本仕様の航続可能距離は現在認証中だが、日本の計測基準に照らし合わせると、おおよそ500km強になるとのことだった。
ちなみに本国仕様のロングレンジモデルは計算方法の違いから、17インチの航続距離が454km(ルーフラック付きだと415km)で、今回試乗した19インチだと368kmとカタログ表記されている(韓国産業通商資源部 認証距離)。またスタンダードモデルのモーター最高出力は99kW(134.6PS)で、最大トルクは255Nmと同じ。リチウムイオンバッテリ容量は48.6Kwhとなり、同じく本国仕様の航続可能距離は総合値が311kmと記されていた。
ヒョンデいわくコナはBセグメントのSUVとのことだが、パッと見その外観はなかなかのボリューム感だ。実際のボディサイズも4355×1825×1575mm(全長×全幅×全高、本国仕様)と、Bセグ以上Cセグ未満。サイズアップの主な目的は先代ユーザーの声に応えるためで、2660mmのホイールベースでその居住性を高めている。
デザインは近未来的かつハイセンスだ。先んじて登場したIONIC 5(アイオニック 5)はスペシャリティ感が強く、エッジの効いたキャラクターラインと面構成が特徴的だった。そしてゴツいバンパーが織りなす鉄仮面のような顔立ちが、強烈なインパクトを放っていた。
対してコナは、大衆車としてそのシルエットにふっくらしとした丸みを与えながらも、キャラクターラインが要所要所にうまく緊張感を持たせている。特に丸みを帯びたフロントマスクを横一線するLEDデイライトは鮮烈で、空山基(そらやまはじめ)が描くセクシーロボットの目のようだ(ちなみにヘッドライトはバンパー脇に縦型配置)。
また前後のドアをまたぐZ型のキャラクターラインとプレスが、IONIC 5とは逆方向に配置されているのも手が込んでいておもしろい。こうしたボディサイドへのアグレッシブなデザイン提案は、BYDのEV車「ATTO3」にも用いられている手法だが、今後のデザイントレンドになるかもしれない。
徹底して快適性に重点を置いたコンパクトSUV
今回の試乗は、ソウル北部の高揚市(コヤン市)にある「ヒョンデモータースタジオGoyang」と、仁川(インチョン)にあるネストホテルを往復する、約105kmのライトツーリングだった。
先導車に引っ張られる形で、モータースタジオをいざ出発。高揚市の都市部を走った感想は、ひとこと道路が広かった。ソウルもそうだが片側3車線は当たり前で、まるでニューヨークのようだ。
こうした道路では、それに負けないボディサイズの余裕と、見晴らしの良さが運転しやすさにつながった。しかしひとたび普通の道路に入ると1825mmの全幅は、Bセグメントと呼ぶにはやはり大きいと感じた。ただそんなときはステアリング上のレーンキープアシストボタンをひと押しすればステアリングがグッと定まり、車線逸脱を防いでくれるから運転はかなり楽になる。
話に聞いていた交通のアグレッシヴさは、完全に肩透かしだった。むしろ全体的に流れがスムーズで、日本よりも運転しやすいかもしれない。とはいえ慣れない道で先導車を追いかけながら流れに乗るにはちょっとした緊張感もあり、こうした時にこそEVの乗りやすさが際だった。
そのモーター出力特性はEVとして考えるといたって標準的なパワー感だったが、出足はマイルドかつリニアで、アクセルのON/OFFに対するマナーもいい。そしてロングレンジモデルでも1740kgに収まるEVとしては軽めな車重のおかげだろう、その加速も伸びやかだ。
4段階の回生ブレーキはIONIC 5と同じくパドル操作式で、街中ではワンペダル運転も可能。また19インチタイヤと足まわりのバランスが秀逸で、ふんわりソフトだが芯にはコシがある快適な乗り心地を味わうことができた。
高速道路の巡航速度は80~100km/hで、日本と変わらない。この速度域における乗り心地は、街中同様とても快適だ。ただこうした快適性を大切にしようとしすぎたのだろう、通常モードのEPS(電動パワステ)はやや制御が軽すると感じた。もっと速度に応じて座り感を出してくれた方が修正舵が少なくて済む。ACCを起動させればそれも少しは落ち着くのだが、その制御もちょっと滑らか過ぎて、もう少し操舵フィールにメリハリ感が欲しいと感じた。
またADAS制御でいうとウインカー連動の車線変更アシストは、コツがあるのかうまくいったりいかなかったりだった。死角対策でサイドミラーのアラートだけでなく、12.3インチのメインモニターにも後ろから追い越してくる車両を表示して警告してくれるのは、とても安全だと思った。
走行モードはエコ/ノーマル/スポーツ/スノーの4種類。スポーツモードはアクセル踏み始めのレスポンスこそ良くなるが、踏み込んだ領域だと劇的な変化はない。またエコモードもアクセルの踏み始めは出力を絞るが、踏み込めば普通にパワーが出せる。
速度に応じて疑似サウンドを高める「アクティブサウンドデザイン」は、運転の楽しさやEVの新しさを演出するにはやや大人しめで中途半端だった。走行モードとは別仕立てかつ、階層も中央モニターで3つほど深掘りしなくてはならない面倒っぷりだから、もしかしたらヒョンデ自身もコナの日常性を重視したキャラクターには、あまり必要だとは思っていないのかもしれない。
高速巡航ではこうした走行モードよりも、段階的な回生ブレーキ操作の方が役に立った。巡航中は一番弱いモードでコースティングして、電費を稼ぐ。そして車間を調整するときは回生を強める。高速走行が主体だったこともあるが、こうした運転で得た電費は7.4km/KWhと優秀だった。前輪駆動だと回生効率も上がるし、これをパドルセレクターで状況に応じた使い分けができるのはやっぱり便利だ。
サスペンションはフロントがマクファーソンストラットで、リアがマルチリンク。今回はハンドリングを精査できるシチュエーションには恵まれなかったが、レーンチェンジや高速道路の合流ループ等で感じた印象で言うと、そのキャラクターは穏やか系だ。操舵後にサスペンションがジワッとストロークしてから、ワンテンポ置いて向きを変えるタイプである。
とはいえそのボディはEVらしく低重心でカッチリしており、重量配分も良好だから、ロール後の身のこなしはスマートだ。つまりコナは、徹底して快適性に重点を置いたコンパクトSUVである。敢えて例えるならそれは、シトロエンと近しいテイストだ。
余談だがお国柄の違いでおもしろかったのは、ヘッドアップディスプレイにナビゲーション指示だけでなくカメラマークが出たことだった。これはいわゆるオービス対策で、筆者は法定速度で走らせていたから気付かなかったが、ACCと連携すればその速度まで自動で落としてくれるのだという。日本仕様での採用は不明だが、メーカー純正でここまで直接的なのには驚いた。
また韓国ではフロントガラスにもフィルムを貼っているクルマがとても多いのだが、今回の試乗車にもかなり濃いめのガラスを装備したクルマがあった。聞けば法規はクリアしているとのことで、ここにも日本との大きな違いを感じた。
総じてコナは、見た目のインパクト以上にデイ・フレンドリーなEVだと感じた。韓国は公共充電設備の普及率が世界水準でもトップレベルにあるというが、確かに今回もバスから乗用車、そして工事用のライトトラックまで、EVが街中や高速道路を当たり前に沢山走っていた。
こうした環境ではもはやEVが特別な乗り物ではなく、日常に根付いたiPhoneのような存在になりつつあるのだろう。12.3インチの連結モニターや拡張現実ナビを当たり前に使いこなし、沢山走ってバンバン急速充電する。ヒョンデのスタッフいわく、韓国のユーザーはEVをスマホのように使いたいのだという。
そんな韓国で走らせたコナは、尖ったところがなく快適で、とても現実的で、スマートでお洒落なEVだった。なるほどハワイ島のコナからその名前を取っただけあり、ゆったり爽やかなキャラクターが心地良かった。
ちなみにコナ日本仕様の価格はまだ未発表だが、本国仕様の価格幅はおおよそ460~560万円とのこと。この価格でも補助金を当てはめれば、内容を考えるとかなり現実味がある。あとはヒョンデがどのくらい戦略的なプライスを掲げてくるのかが注目どころだ。