試乗記

ロータス「エミーラ V6 ファーストエディション」、新ミッドシップスポーツはどんな未来を見せてくれた?

“最後のミッドシップエンジン車”として世に送り出されたエミーラに試乗

エリーゼやエキシージとは違う存在感

「ロータス カップ ジャパン」に出場するタイミングで、現行モデルとなる「エミーラ V6 ファーストエディション」を借り出した。レースでは「エリーゼ」や「エキシージ」に乗っていたが、それはもう販売が終了したモデル。最近ではSUVでBEV(バッテリ電気自動車)の「エレトレ」の登場なども注目されてはいるが、それはまるで異なる世界。これまでのロータスの延長上にあるエミーラの存在はどんな未来を見せてくれるのか? そしてスポーツモデルの行方はどうなっていくのかが気になるところだ。

 エミーラの基本コンポーネントは2+2シーターの独特なスタイルで成立されていた「エヴォーラ」がベースとなっている。アルミ製のバスタブシャシーはそこからの流用だ。だが、圧倒的に違うのはそのスタイルだ。グラマラスなボディを身に纏い、ボディサイズは4413×1895×1226mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2575mmとなっている。コンパクトにギュッと凝縮されていたエリーゼやエキシージとは違う存在感がある。

 そのためか重量はMTモデルで1405kg、今回借り出したATモデルで1458kgにも到達する。1tを切っていたエリーゼ、1200kg以下を達成していたエキシージとは違った路線であることが伺える。ボディはオールグラスファイバーとなるが、これまでの一体成形とは違い、細かく分割されていることが特徴的だ。ちょっとぶつけても丸ごと取り外して修正や交換する必要があったものを、ぶつけた箇所だけ取り外して直すことが可能になった。大きく重くなっただけでなく、ようやく一般的なクルマに近づいたのだということが伝わってくる。

 けれどもパワーユニットはエキシージと同様のトヨタ製2GR-FE型で、V型6気筒3.5リッターにスーパーチャージャーを組み合わせている。ロータス カップ ジャパンで乗ったエキシージはインタークーラーを搭載しない350ユニットだったが、こちらはインタークーラーを搭載し最高出力298kW(405PS)/6800rpm、最大トルクは430Nm(43.8kgfm)/2700-6700rpmとなっている。ちなみにMTモデルは最大トルクが420Nmとなる。これにより0-100km/h加速はATモデルで4.2秒、MTモデルで4.3秒を記録。最高速は288km/hだという。おとなしくなったとはいえ十分に速そうだ。

今回試乗したのは「東京オートサロン2022」の会場で日本初公開されたミッドシップスポーツカー「エミーラ」のV6 ファーストエディション。2023年秋以降に生産を開始する予定で、価格は1661万円。AMG製の直列4気筒 2.0リッターターボエンジンを搭載する「エミーラ ファーストエディション」や、サーキット走行専用のレース車両「エミーラ GT4」もラインアップする
エミーラ V6 ファーストエディションのボディサイズは4413×1895×1226mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2575mm。シャシーはロータス製オールアルミモノコックを採用する
撮影車はグロスブラックの20インチ超軽量Vスポーク鍛造アロイホイールを装着。タイヤはグッドイヤー「イーグル F1 SuperSport LTS」(フロント:245/35R20、リア:295/30R20)を組み合わせる。サスペンションには単筒式ビルシュタイン製ダンパーにアイバッハ製コイルスプリングを採用し、フロントにはAPレーシング製の4ピストンアルミ合金製キャリパーもセットする
リアピラーにファーストエディションの専用バッヂを装着
キャビン後方に搭載されるV型6気筒DOHC 3.5リッタースーパーチャージャーエンジンは最高出力298kW(405PS)/6800rpm、最大トルク430Nm(43.8kgfm)/2700-6700rpmを発生。トランスミッションはスポーツレシオの6速MT、パドルシフトを備える6速ATから選択可能

 そんなエミーラは一体どんな仕上がりか? まずはドライバーズシートに乗り込んでみると、その時点でこれまでの世界観とはまるで違うことに気づく。ロータスのバスタブシャシーといえば、高くて横長いサイドシルを跨いで乗り込むのが当たり前だと思っていたが、その感覚がかなり改善されていたのだ。それはサイドシルまわりの作りだけでなく、シートの座面高が稼がれた豊かなサイズのセミバケットシートのおかげもある。このシートは電動で12WAYの調整が可能。チルト&テレスコピック搭載のステアリングもあり、座高が高めの筆者でもゆったりとした空間が得られているから心地いい。

 また、そもそも2+2を考えられて成立していたバスタブモノコックということもあって、座席の後ろには208Lのラゲッジが展開されている。トランクルームも151L確保されているから、2人で旅するにも十分だろう。シートは横からレバーを引けばワンタッチで前に倒れ、そこから荷物にアプローチしやすい。また、後ろに空間もあるため、その気になればシートを45度くらい寝かせて仮眠をとることも可能。実はパーキングエリアで3時間ほど寝てしまったほど快適だった。こんなミッドシップスポーツカーはなかなかない。

 コクピットは現代流のスポーツカーらしく12.3インチのTFTディスプレイメーターとセンターにも10.25インチのモニターを備える。Apple CarPlayも使えたし、ドリンクホルダーだって2つもついている。さらにはセンターコンソールやダッシュボードパネルには革が巻かれ上質な感覚も伝わってくるから驚くばかり。体育会的なイメージは完全に払拭されているのだ。

インテリアでは12.3インチのTFT液晶ディスプレイを使ったデジタルメーターを採用するとともに、インフォテインメント情報に加えGメーターやエンジン出力なども表示できる10.25インチ HMIタッチスクリーンをダッシュボード中央にレイアウト。英国の音響機器メーカー「KEF」が車載オーディオを手がけるのはエミーラが初めてになるという
エミーラは2名乗車仕様だが、後方にスペースがあるのでシートをリクライニングして休憩することもできる

誰もが安心してパフォーマンスを引き出せる

 市街地からまずは走り出すと、あくまでフツーな感覚だ。ツアーモードを選択し、ゆっくりと走らせていればエキゾーストもおとなしくアクセルだって穏やかだ。今回はさまざまなシーンで乗ったが、燃費はおよそ10km/L前後を行ったり来たり。燃費走行もせずにその数値なら納得できるだろう。

 感心したのはロングドライブにおける疲労度が少なかったことだ。今回の個体はツアーサスペンションを装着し、さらにATモデルで重量が重かったこともあるのだろうが、とても落ち着いた走りを展開し、当たり前のように真っ直ぐ走ってくれるのだ。突き上げ感もなく、腰痛持ちにも優しいフラットな乗り味はなかなかありがたい。

 だが、ワインディングに訪れてスポーツモードを選択すれば、それなりにというか、むしろ速い部類で駆け抜けていくから十分なようにも感じてくる。ナーバスさがなく、誰もが安心してそのパフォーマンスを引き出せるようになった安定感はなかなか。油圧パワーステアリングをまだ残し、濃厚なステアフィールが味わえるところは、旧世代のユーザーにとっても喜んでもらえる部分だろう。ATモデルも当たり前のようにブリッピングを繰り返してシフトダウンを実行。アクセルにもダイレクト感があり、これならATでも許せるかな、という印象が残った。

 これまでのロータスからすればかなり肩の力が抜けた感覚に仕上がっていた、それがエミーラの第一印象だった。はじめはもの足りないのかもと心配していたのだが、それは大きな間違え。これならいつでもどこでも乗って行きたいとさえ思えてくる。ロータスの新たなる方向性が完成したと言ってもいいだろう。

 ただし、これで終わってほしくはない。エミーラにはMTモデルもあるわけだし、直4モデル(こちらはメルセデス製エンジンでATのみ)もこれから入ってくる。さらにはレーシングモデルであるエミーラGT4の存在まで登場が明かされている。これは今回のV6エンジンにシーケンシャルミッションを組み合わせたレース専用車両。高嶺の花というか、現実的にはなかなか見えてこない。最上級とエントリーは完成したが、その中間がいまのロータスにはないというわけだ。エリーゼやエキシージに乗っていた人が次に行きたいと思える仕様の登場を期待したい。それは今回参戦してきたロータス カップを末長く継続するためにもマスト。走りを愛し、ホビーレースを地道に支えてきた姿勢もまた、崩さずにいてほしい。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学