インプレッション
メルセデス・ベンツ「E250アバンギャルド」
Text by Photo:堤晋一(2013/6/12 12:54)
2000カ所以上の変更を受けた新型Eクラス
自動車業界ではモデルライフを通じて、最低1回は外観を含めた大きな変更を加えるのが通例だ。これは一般的にマイナーチェンジという言葉で表現されているが、このところのメルセデス・ベンツが送り出すイヤーモデルは、各車ともに劇的な進化を遂げている。2011年に行われたCクラスの変更たるや、もはやマイナーの域を超え、完全なるメジャーチェンジと言えるだろう。
そしてこの5月、4年ぶりに新型となったEクラスも、Cクラス並みの2000カ所以上に変更を加えていると言うが、メディア試乗会の場にズラリと並べられた試乗車を前にすると、それが誇張ではないことがすぐに理解できた。
エッジを適度に取り除いたことで、人間味のある表情に生まれ変わった2灯式LEDヘッドライトと、Eクラスセダン/ステーションワゴンでは初となるスリーポインテッドスター内蔵のグリルは、その趣を一気に明るいものにした。特徴的だったリアホイールアーチ周辺のプレスラインも直線基調に変更し、併せてそのプレスラインをリアバンパーにまで刻み込むことで、よりワイドなシルエットを造り出している。フルLEDのリアコンビランプも意匠が改められ、被視認性も高められた。
さて、2011年から前期型Eクラスを皮切りにメルセデス・ベンツが各モデルで訴求している「レーダーセーフティパッケージ」だが、御存知の通り、今回のEクラスからセンシングデバイスに「ステレオマルチパーパスカメラ(SMPC)」を追加しつつ、短距離レーダーセンサーを使用制限のあった24GHzから25GHzに変更するなど、新たなフェーズに突入している。その点については第2弾の原稿でじっくり解説するとして、まずは販売の約半数(6月11日の速報値)を占める「E250アバンギャルド」(以下、E250AV)のロードインプレッションから始めたい。
E250AVで採用する成層燃焼リーンバーンとは
E250AVが搭載するM274型エンジンは、新開発となる直列4気筒2.0リッター直噴(メルセデス・ベンツではBlueDIRECTと表記)ターボで、211PS/35.7kgm(燃費は15.5km/L)を発生する。A/Bクラスの250モデルに搭載される270M20型エンジンと同じボア×ストローク値(83.0×92.0)だが、M274型は成層燃焼リーンバーンとターボを組み合わせた世界初の燃焼技術を採用している点が大きく違う。
成層燃焼リーンバーンは、E300/E350アバンギャルドに搭載されているV型6気筒3.5リッター直噴エンジン(M276型)にも採用されている燃焼技術で、成層燃焼と均質燃焼、さらにその混合である均質成層燃焼の3モードを走行状態に応じてシームレスに切り替えることを特徴とする。その結果、M276型は3.5リッターながら2.0リッターダウンサイジングターボエンジン並みの17.9km/Lの高速巡航燃費(中央道の河口湖IC(標高854m)→大月JCT(同395m)→諏訪南IC(同965m)までの約116kmを平均速度78km/h(外気温11度~15度)で実走テストした筆者による実測値)と、306PSものハイパワーを両立する。
E250AVのM274型では、こうした特性をも持つ成層燃焼リーンバーンにターボチャージャーによる過給を行っているため、さらなる低燃費性能と全域でハイトルクなエンジン特性を実現しているのだ。では、そもそもなぜ、これまでリーンバーン+ターボが製品化されなかったのかと言うと、ある燃焼モードでは排気ガス中のNOxが急激に増えてしまうというジレンマがあったからだ。M274型では、高度な制御技術によるEGR(排出ガス再循環装置)の最適化によって排気温度を効果的に下げつつ、きめ細やかな燃焼制御や過給圧コントロールを行うことでこれを克服、製品化に至っている。もちろん、国内外の各社もリーンバーン+ターボの開発を手掛けており、うち数社はすでに具現化しているものの、車両に搭載しての発売、つまり市販化としてはメルセデス・ベンツが世界初となった、という経緯がある。
2.5リッタークラスのゆとりある走りを堪能
試乗コースは往復70km程度の道のりで、自動車専用道路から箱根のワインディング路、そして市街路とバリエーションに富んだもの。そこをいつものように、大人3人+撮影機材を満載した状態でスタートした。
走り出しの瞬間から前期モデルとの違いは明確だ。質感が高められたシート表皮に加え、ステアリングを通して伝わるバイブレーションが非常にマイルドになっているため上質感は格段にアップした。また、前期型「E250」が搭載していた直列4気筒1.8リッター直噴ターボ(M271型)よりも、800rpm低い低回転域(1200~4000rpm)で最大トルクを発揮し、そのまま中回転域に向けてフラットな加速が続くため、まさしく2.5リッタークラスのゆとりある走りが堪能できるのもポイントだ。M271型も204PS/5500rpmとスクランブルブースト時のパワーにはまったく不足がなかったものの、このクラスに大切なフラットトルクの演出という意味では、2500rpmあたりから急激にトルクカーブが立ち上がるなど、いささかスポーツフィールが先行していたのも事実。
さらに、自動車専用道路への合流では一気に80km/h近くまでの加速を試みたが、フラットなトルク特性に加えて5500rpm以上までしっかりとパワーがついてくるので、安全にかつスムーズに本線へと合流することができた。
カタログや資料には大きく触れられていないが、じつはサスペンション特性にも大きな変化がある。一般的に乗り味は、体に触れる部分であるシート表皮に加え、シートそのもののダンピングやタイヤ(試乗車はMOタイヤであるブリヂストン「RE050」を装着)の影響を大きく受けるが、やはり基本特性はボディー剛性とサスペンションによるところが大きい。その意味で、剛性感が増したE250AVの足回りはしなやかさを手に入れたと言える。
もう少し具体的に表現するとこうだ。たとえば、80km/h巡航時に路面のジョイント部分と通過したとしよう。その際、相応のショックを伴うのだが、その値は身構えているよりも小さく、前期型よりも角がとれたグニュッとした衝撃(しかも短時間に収束)に波長を変えて身体に伝わるのだ。結果、高められた静粛性と併せ、非常に上質でフラットな乗り味を堪能できるようになった。
ちなみにタイヤサイズは、前期E250AVと同じ245/40 R18(フロント)、265/35 R18(リア)と前後異形サイズを踏襲しており、さらに新型E250AVは減衰力の高められたスポーツサスペンションを組み合わせている。よって、もう少しマイルドな足回りの特性を希望するならば、前後ともに245/45 R17を装着し、スポーツサスペンションではないダイレクトコントロールサスペンションのみとなるE250という選択肢でもよいだろう。
60km/h程度で流すワインディング路は非常に快適だ。7Gトロニックプラス(7速AT)の変速モードをE(エコノミー)に固定したままでも、先のトルク特性が功を奏し、前期型よりも一段高いギヤでクルージングが楽しめる。じつはダウンサイジングターボを評価するポイントの1つとして、こうした中回転&高負荷領域での走りに注目が集まっている。今や、アクセルを踏み込んで速いのは当たり前だ。巡航ギヤをしっかりとホールドしたまま、アクセルに込める力をほんの少しだけ強めるだけで、1700kgのボディーはスピードを落とすことなく5%以上の勾配路を駆け抜ける。そのときのエンジン回転数は2000~2500rpm。だからキャビンは平穏に保たれる。スペックにはなかなか現れない劇的な変化をここでも実感することができた。
レーダーセーフティパッケージを標準装備するE250AV以上がおすすめ
現在、日本市場におけるメルセデス・ベンツブランドでは全16車種で97グレード用意されているが、そのうち、約22%におよぶ21モデルがEクラスで占められている。そうしたなか、595万円(E250)と明らかに戦略的なスターティングプライスを掲げるEクラスだが、本来の性能を存分に味わうには、第2世代とも言うべき「レーダーセーフティパッケージ」が標準装備となるE250AV(655万円)以上をおすすめしたい。
E250にもレーダーセーフティパッケージ(19万円)とユーティリティパッケージ(キーレスゴー&後席分割可倒機構、14万円)をオプション装着できるが、AMGスポーツパッケージ(他グレードでの比較で30万円)はE250にはオプション装備としても選択することができない。仮にAMGスポーツパッケージが装着できたとしても、上記オプションの総額は63万円と、E250とE250AVの価格差60万円を超えてしまう。加えてE250AVにはE250のファブリックシートではなくレザーDINAMICAシートが標準装備としておごられるため、所有満足度はさらに高くなる。
さて、グレード選びでも重要な位置づけとなる「レーダーセーフティパッケージ」だが、果たして価格以上の価値はあるのだろうか? 次回はハイブリッドモデルの「E 400 HYBRID アバンギャルド」やディーゼルモデルの「E 350 BlueTEC アバンギャルド」、そして駆動方式に4WDが選べるようになった「E 63 AMG」のリポートを交えてじっくりと掘り下げてみたい。