インプレッション

アウディ「RS 7 スポーツバック」

 0-100km/h加速3.9秒。搭載されるV型8気筒DOHC 4.0リッター直噴ツインターボエンジンの最高出力は412kW(560PS)、最大トルクは700Nmを発生……。そのスペックだけを聞けば、まるでスーパースポーツとさえ勘違いするほどのパフォーマンス。アウディ「A7 スポーツバック」ベースの「RS 7 スポーツバック」とは、そんなクルマだ。

 だが、見ればあくまでエレガントな佇まい。アウディが4ドアクーペと謳う5ドアハッチバックのボディーは、A7譲りの流麗なボディーラインを描いている。テールへ向かってなだらかに降りて行くルーフラインを眺めていると、このクルマがまさかスーパースポーツ並みのパフォーマンスを宿していると想像することはできないだろう。

 けれども、足下を見ればハイパフォーマンスカーであることは一目瞭然。装着されるタイヤは前後ともに275/30 ZR21。フロントブレーキには6ピストンの対向キャリパーを備えている。加えて室内では4座すべてがバケットシートときている。いったいどれだけのスピードと、どれだけのコーナーリングGを想定しているのか? 4ドアクーペの走りを本気で磨き込んだ結果がそこにある。

RS 7 スポーツバックのボディーサイズは5010×1910×1425mm(全長×全幅×全高)。車両重量は2070kg。撮影車のボディーカラーはスズカグレーメタリック
ホイールはオプション設定となる21インチの5スポークブレードデザイン ハイグロスブラックアルミホイール。タイヤサイズは275/30 ZR21

 ドライバーズシートに収まり、さっそく自慢のV8ユニットを目覚めさせてみると、始動時に野太く豪快ながらも乾いたサウンドが襲ってくる。試しにブリッピングを試みれば、V8エンジンが横方向にシェイクされ、クルマ全体が武者ぶるいをするがごとく横揺れを始める。

 ただ、走り始めて即座にその豪快さが味わえるかといえば、そんなことはない。タウンスピードではあくまでも静か。8速ティプトロニックトランスミッションは小刻みにシフトアップを繰り返し、2000rpmあたりをキープしながら速度を高めて行く。そして巡行状態になれば1000rpm台で走り、静粛性高く快適にクルージングして見せるのだ。

搭載するV型8気筒DOHC 4.0リッターツインターボエンジンは最高出力412kW(560PS)/5700-6700rpm、最大トルク700Nm/1750-5500rpmを発生。アイドリングストップシステムに加え、エンジン回転数や負荷が低い状態の際、2、3、5、8番シリンダーの吸排気バルブを閉じて稼働を停止する「シリンダーオンデマンドシステム(COD)」などを搭載し、JC08モード燃費は10.4km/Lを実現

 これは560PSという破天荒ともいうべきパワーユニットを搭載しながらも、燃料消費を抑え、さらには排ガスの削減を狙っているからにほかならない。V8ユニットはアイドリングストップシステムを搭載するだけでなく、気筒休止を行うことも可能とし、低負荷状態では4つのシリンダーを休めている。結果としてJC08モード燃費は10.4km/Lを実現するのだ。

 牙を抜かれたかのようにも走れ、けれどもそれがストレスとはならない。これがRS 7のよさの1つだ。しかし、高速道路の流入路やETCレーンからの再加速時に右足をわずかに踏み込めば、即座に豪快な加速を味わうことができる。スロットルに対する要求に実に敏感に従う様は、調教されたサラブレッドのよう。いざとなれば荒れ狂うことさえ容易なV8ユニットは、右足のミリ単位の動き次第でどうにでもなる。

 シャシーの仕上がりについてもそんな二面性を垣間見れる。このクルマに装着されるDRC(ダイナミックライドコントロール)付きRSスポーツサスペンションプラスには、コンフォート、オート、ダイナミックという3つのモード選択が可能になっている。

 まずはコンフォートモードを選択してタウンスピードを試してみると、エアボリュームの少ない21インチを装着している割には快適に路面の入力をいなしている感覚。こんな快適に走るの? と感心したほどである。ただ、路面が荒れているとさすがに突き上げが大きいように感じるが、このキャラクターのクルマならそれも許せるかもしれない。一方でオートモードやダイナミックモードで高速道路を走れば、ピッチングやロールが少なく、まるでスポーツカーのごとく走ってみせるのだ。

ブラックでまとめられたインテリア。4座すべてが本革のバケットシートタイプで、ハニカムパターンステッチを施した独特のデザインが与えられる。随所にカーボンデコラティブパネルがちりばめられ、スポーティ感とともに上質さを感じられる仕上がり

 リアシートに腰掛けてみても走りのサポート性は抜群。ドライバーがどんなヤンチャな走りをしようとも、しっかりと支えてくれるシートには好感が持てる。また、ピラーやルーフまでもがバックスキンで覆われ、リアシートにいても上質感が味わえるところはさすがだ。どのシートに乗っても走りの感覚を楽しみつつ、クルマのよさが感じられるところが素晴らしい。

 このように、RS 7はどの領域に対しても妥協せずに仕上げていることは明らかだ。走りもエコも、乗り味も上質さも捨てず、さらには自慢の4WDで路面も選ばないそのオールマイティぶりには、ただただ感心するばかり。1台ですべてを満足させてしまう、夢のような1台だと感じた。

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。