インプレッション
アウディ「RS 7 スポーツバック」
Text by Photo:高橋 学(2014/2/25 00:00)
0-100km/h加速3.9秒。搭載されるV型8気筒DOHC 4.0リッター直噴ツインターボエンジンの最高出力は412kW(560PS)、最大トルクは700Nmを発生……。そのスペックだけを聞けば、まるでスーパースポーツとさえ勘違いするほどのパフォーマンス。アウディ「A7 スポーツバック」ベースの「RS 7 スポーツバック」とは、そんなクルマだ。
だが、見ればあくまでエレガントな佇まい。アウディが4ドアクーペと謳う5ドアハッチバックのボディーは、A7譲りの流麗なボディーラインを描いている。テールへ向かってなだらかに降りて行くルーフラインを眺めていると、このクルマがまさかスーパースポーツ並みのパフォーマンスを宿していると想像することはできないだろう。
けれども、足下を見ればハイパフォーマンスカーであることは一目瞭然。装着されるタイヤは前後ともに275/30 ZR21。フロントブレーキには6ピストンの対向キャリパーを備えている。加えて室内では4座すべてがバケットシートときている。いったいどれだけのスピードと、どれだけのコーナーリングGを想定しているのか? 4ドアクーペの走りを本気で磨き込んだ結果がそこにある。
ドライバーズシートに収まり、さっそく自慢のV8ユニットを目覚めさせてみると、始動時に野太く豪快ながらも乾いたサウンドが襲ってくる。試しにブリッピングを試みれば、V8エンジンが横方向にシェイクされ、クルマ全体が武者ぶるいをするがごとく横揺れを始める。
ただ、走り始めて即座にその豪快さが味わえるかといえば、そんなことはない。タウンスピードではあくまでも静か。8速ティプトロニックトランスミッションは小刻みにシフトアップを繰り返し、2000rpmあたりをキープしながら速度を高めて行く。そして巡行状態になれば1000rpm台で走り、静粛性高く快適にクルージングして見せるのだ。
これは560PSという破天荒ともいうべきパワーユニットを搭載しながらも、燃料消費を抑え、さらには排ガスの削減を狙っているからにほかならない。V8ユニットはアイドリングストップシステムを搭載するだけでなく、気筒休止を行うことも可能とし、低負荷状態では4つのシリンダーを休めている。結果としてJC08モード燃費は10.4km/Lを実現するのだ。
牙を抜かれたかのようにも走れ、けれどもそれがストレスとはならない。これがRS 7のよさの1つだ。しかし、高速道路の流入路やETCレーンからの再加速時に右足をわずかに踏み込めば、即座に豪快な加速を味わうことができる。スロットルに対する要求に実に敏感に従う様は、調教されたサラブレッドのよう。いざとなれば荒れ狂うことさえ容易なV8ユニットは、右足のミリ単位の動き次第でどうにでもなる。
シャシーの仕上がりについてもそんな二面性を垣間見れる。このクルマに装着されるDRC(ダイナミックライドコントロール)付きRSスポーツサスペンションプラスには、コンフォート、オート、ダイナミックという3つのモード選択が可能になっている。
まずはコンフォートモードを選択してタウンスピードを試してみると、エアボリュームの少ない21インチを装着している割には快適に路面の入力をいなしている感覚。こんな快適に走るの? と感心したほどである。ただ、路面が荒れているとさすがに突き上げが大きいように感じるが、このキャラクターのクルマならそれも許せるかもしれない。一方でオートモードやダイナミックモードで高速道路を走れば、ピッチングやロールが少なく、まるでスポーツカーのごとく走ってみせるのだ。
リアシートに腰掛けてみても走りのサポート性は抜群。ドライバーがどんなヤンチャな走りをしようとも、しっかりと支えてくれるシートには好感が持てる。また、ピラーやルーフまでもがバックスキンで覆われ、リアシートにいても上質感が味わえるところはさすがだ。どのシートに乗っても走りの感覚を楽しみつつ、クルマのよさが感じられるところが素晴らしい。
このように、RS 7はどの領域に対しても妥協せずに仕上げていることは明らかだ。走りもエコも、乗り味も上質さも捨てず、さらには自慢の4WDで路面も選ばないそのオールマイティぶりには、ただただ感心するばかり。1台ですべてを満足させてしまう、夢のような1台だと感じた。