インプレッション
ジープ「レネゲード」
Text by Photo:中野英幸(2015/11/5 00:00)
グレードは全3タイプ
どことなく親近感の沸くエクステリアデザインだが、走りは本格派のジープ「レネゲード」。すでに発表となっているフィアット「500X」の兄弟車であり、そしてともにSUVでありながら、よりオフロード走行を意識したのがレネゲードの特徴だ。生産も500Xと同じイタリアの「メルフィ工場」で行われる。
フラグシップで4WDモデルの「トレイルホーク」は最低地上高(200㎜)が高く、アプローチアングル(30.5度)やディパーチャーアングル(34.3度)、そして前後ホイールベース間のランプブレークオーバーアングル(25.7度)も大きくとられ、本格的なオフローダーに負けない数値を確保する。4WDシステムは路面状況に応じて5つのモード切り替えが可能だ。サスペンションはフロント/リアともにマクファーソンストラット方式を採用する。
導入当初のグレードは全3タイプでの構成で、エンジンとトランスミッションを併せたパワートレーンは2種類用意される。4WDモデルの「トレイルホーク」は2.4リッター自然吸気エンジン(175PS)を搭載し、クラス初の9速ATを組み合わせており、2WD(FF)モデルは「オープニングエディション」と「リミテッド」の2タイプで、1.4リッターターボエンジン(140PS)を搭載し、こちらはトルコンATではなく6速DCTとの組み合わせとなる。最大トルクは両エンジンとも23.5kgmと共通だ。ちなみに500Xの場合、4WDモデルも1.4リッターターボエンジンだが、30PSと2.0kgmアップの170PS/25.5kgmとなり、トランスミッションは9速ATになる。
エクステリアには懐かしさを感じさせる工夫が随所に織り込まれた。フロントフェンダーアーチモールやテールランプのデザイン処理は、1941年に登場してジープを象徴するデザインを築いた「ウィリス」をモチーフとしている。しかし、レネゲードでは単に流行だからとレトロデザイン手法を採り入れるのではなく、線の長さやボディーラインを現代風にアレンジすることにこだわった。だから懐古主義が持つ独特の癖がない。往年のジープ世代にも、またその偉業を知らない新たな世代にも好かれるユニバーサルなデザインに仕上がっている。
ボトムグレードである「オープニングエディション」以外には、スピードメーターとタコメーターの間に7.0インチのフルカラーTFT液晶画面が埋め込まれた。ここには、車両設定状況から燃費数値などの情報画面、さらには安全装備であるレーンキープアシスト機能などの作動状況をグラフィック化して精細に表示することが可能だ。また、EPB(電動パーキングブレーキ)が全グレードに採用されているため、センターコンソール周辺は非常にすっきりとしたデザインにまとめ上げられた。
前後独立式ルーフの「MySkyオープンエアルーフ」は、トレイルホークにオプション設定。写真のように前後それぞれのルーフを独立して取り外しができるので、気軽にオープンエアを堪能できる。一枚あたり2.2kgと軽量なので男性であれば片手で持てるし、女性でも軽々取り外しの操作が行え、取り外したルーフは2枚とも車内に収納できるなど実用性も高い。また、前側ルーフは単独でアウタースライド式のサンルーフのように車内からスイッチ1つで開閉もできる。
オススメはトレイルホーク
乗り味は駆動方式で大きな違いがある。もっとも、搭載エンジンとトランスミッションが違うので当たり前なのだが、結論から述べてしまうとトレイルホークの俊敏さとFFモデルのしっとりとした走り、それぞれに強い個性がある。筆者のお気に入りはトレイルホーク。2.4リッターエンジンのゆとりと9速ATの緻密なシフト制御が日本の道路事情に合致しているからだ。
高速道路ではおよそ85km/hでシフトアップされる9速(エンジン回転数は約1600rpm)ギヤが有効に使える点がよい。それに伴い実用燃費は伸びるし、そもそも回転数が低いだけあってエンジン透過音は極めて小さく、キャビンは静かに保たれるなどメリットも多い。また、必要であれば速度域にもよるが3段分のキックダウンがDレンジのままで行え、シフトダウンそのものも瞬時に行われるのでもたつく印象は一切ない。
さらに2.4リッター+9速ATの組み合わせは市街地走行でも良好だ。頻繁なシフトダウンやシフトアップでギクシャクすることもなく、じんわりアクセルを踏んでいくと、まるでCVTのように低回転域を保ったまま淡々と増速していく。最大トルクは23.5kgm/3900rpmに留まるが、多用する1500-2000rpm台前半のトルクが厚く、そこにマナーのよい9速ATの組み合わせとなるため不足はない。5000rpm台中盤からエンジンノイズが高まってくる点が惜しいが、オンロードでの基本的な運動性能はとても高い。
長めのホイールトラベルに設定されたサスペンションだが、本格的なオフロード走行も意識しているだけありオンロードでは引き締めが強く、荒れた路面では身体が揺さぶられる量も多め。もっとも、そのおかげで舗装路では前後ピッチングや左右ロールは非常に少なく、通常速度域でゆったりと流す程度のワインディング路では、大径のマッド&スノータイヤ(215/60 R17)を履いているにも関わらずステアリングインフォメーションも確かで、撮影時のような土砂降りの下り勾配路でも不安なくコーナーをクリアすることができる。
とはいえ、トレイルホークの神髄はオフロード性能だ。今回はそれを体感することはできなかったが、オート/スノー/サンド/マッド/岩場の5つの路面状況に応じた最適な駆動配分の切り替えができる「ジープセレクテレインシステム」によって、ジープブランドに恥じない悪路走破性能を得ることができるという。
一方、FFモデルに搭載される1.4リッターターボエンジンは、低回転域からの豊かなトルクが心強い(最大トルクの発生回転数は1750rpm)。しかし、発進時にアクセルを大きく開けた際の瞬間的な加速は緩慢だ。ここが惜しい。この点、他メーカーとなるが、同じくDCTを搭載しており本国でマイナーチェンジを行ったメルセデス・ベンツ「Aクラス」では、ドライビングセレクター的な機能を設け、ここでスポーツモードを選ぶと自動的にアイドリング回転数を100rpmほど上昇させて発進加速性能を向上させている。
とはいえ、この症状はDCTの構造上、完全に拭うことのできない部分であり、また、燃費数値は多少悪化するがアイドリング回転数の上昇など、トレードオフによって解決できる部分でもある。しかし、現状のセッティングでも走り出してしまえば十分に力強く、瞬間的な変速が特徴のDCTによってぐいぐい速度を上げていくため不足はない。また、後席での乗り心地は突き上げが少なく、トレイルホークから2割は良好な印象だった。
安全装備では、車線逸脱警報/前面衝突警報/ブラインドスポットモニターの装着が可能。これにACC(Adaptive Cruise Control)が装着され、EPBにブレーキホールド機能が付けば満足度はさらに向上するだろう。こうした走行性能だけでなく、価格的にもFFモデルであれば297万円と非常に魅力的なレネゲード。多彩でポップなボディーカラーが揃うだけでなく、兄貴分である「チェロキー」同様、豊富なディーラーオプションが用意されている点も新たなファンを獲得する材料になりそうだ。