インプレッション
ロータス「エヴォーラ 400」
Text by 河村康彦(2016/2/17 00:00)
優に半世紀を超える歴史のなかで、数度の経営危機に見舞われるなど、数奇な運命を辿ってきたイギリスの名門スポーツカーブランドの「ロータス」。このブランドが、ほかの大手メーカーの作品とは大きく異なるストイックでシンプルな文字どおりの“ピュアスポーツカー”のみを手掛けることで、独自の存在感を放って来たことは紛れもない事実だ。
そんなロータスが、「自らの史上で最もパワフル、かつ最速のロードカー」と紹介するのが、日本では2015年の11月に販売を開始した「エヴォーラ 400」。その車名に含まれる400という数字が、キャビン背後に搭載されるメカニカルスーパーチャージャー付きの3.5リッターV型6気筒エンジンが発生する406PSという最高出力に由来していることは想像に難くないだろう。
ロータス久々のブランニューモデルとしてエヴォーラが世に送り出されたのは2009年。そんなベースモデルに対して、より面積の広いエアインテークや新たなリアバンパーの造形、そして新デザインのホイールやドアミラーなどが採用されたことで、ロータス車ならではのコンペティティブなルックスは、さらにその迫力を増している。
“スーパーカー”を凝縮したかのようなその佇まいは、全長4390mm、全幅1850mm(ミラーを除く)という実際のサイズを遥かに凌ぐ存在感をアピール。全高はわずかに1240mmに過ぎないが、そのスペックから覚悟をするよりも乗降性に優れるのは、このモデルの押し出し結合アルミ構造を持つボディが、ねじれや曲げに対する剛性はこれまでと同等をキープしつつ、サイドシル幅を40mm以上狭め、高さも50mm以上低減するなど、従来型をベースにリファインされたモデルだからでもあるのだ。
また、その外観からはとても察しが付かないものの、現行のロータスラインアップ中では唯一“リアシート”を備えるのも、エヴォーラならではの大きな特徴。絶対的にはストイックなスポーツカーそのものに思えるこのクルマだが、そこにはATも用意するなど、実はロータス車のなかではGTカー的な要素も強いモデル。それゆえに、そのデザインやパッケージングも、乗降性まで含めた“実用性”の向上などが無視できないと判断された結果であるはずだ。
そうは言っても、そこはピュアなスポーツカー作りを信条とするロータスの作品。思い切り低い位置へとレイアウトされたドライバーズ・シートへと腰を下ろせば、まるで自身が“キャビンを構成する1つのピース”となったかのようなタイトな雰囲気が、なんとも言えずコンペティティブな感覚を盛り上げる。
スピード&タコメーターを並べたシンプルなメータークラスターや、大きなダイヤル式ライトスイッチの採用などは、見た目の先進性よりも機能性を最優先するというクルマ造りの姿勢をイメージさせる部分。そんななかで目を引くのは、センターコンソール上にレイアウトされたプッシュ式ATセレクターボタン。ラインアップ中で唯一6速AT仕様が用意されるのがこのモデルではあるものの、そのキャビン内に“ファミリーカー”を連想させるような一般的なATセレクトレバーを配することは、「スポーツカーづくりの美学が許さなかった」ということでもありそうだ。
やっぱり“本流”はMT仕様
テストドライブは、まず50万円強アップのオプションとして扱われるAT仕様車からスタート。
前述したコンソール上の“セレクターボタン”でDレンジを選択してブレーキをリリースすると、オーソドックスなトルコン式ステップATを採用することもあって、ごく滑らかなスタートを切ることができる。
総走行がまだわずかに500kmほどという個体だったこともあってか、トヨタ製ユニットをベースに大容量のメカニカル・スーパーチャージャーが追加されたエンジンが発生するパワー感は、意外にもまだやや重い印象。ちなみに、走行モードがノーマル状態ではそのサウンドも思いのほかジェントルで、「このルックスの持ち主であれば、アクセルOFF時に“破裂音”が加わる、スポーツ・モードを常用したくなる」と、個人的にはそんな思いを感じることとなった。
フロントに235/35 ZR19、リアに285/30 ZR20と、前後に異サイズのシューズを組み合わせるフットワークはコンベンショナルな構造。300km/hレベルに達する速度域をカバーすべく、街乗りシーンではかなり硬めの設定。
ただし、それがさほど不快感に繋がらないのは、波形が尖った振動も即座に減衰されてしまうため。さすがに、補修跡が連続するような不整路面は少々辛い乗り味となるものの、それでも“跳ねる”ことなく路面を捉え続けるのは立派なものだ。
そんなAT仕様からMT仕様へと乗り換える。
奥行きの深いトーボード内にレイアウトされた3つのペダルは、全般的にやや左側へとオフセットされてはいるものの、それもなんとか違和感は抱かずに済む程度。むしろ気になったのはアクセルペダルのレイアウトで、ヒール&トーの操作時にかなり意識的にペダルを踏み込まないと、エンジン回転の上昇が足りなくなりがちなのは惜しいポイントだ。
クラッチをミートして走り始めた瞬間、「やっぱり“本流”はこちらだな」と実感させられたのは、こちらの加速感の方が明確にパワフルであったことがまず1つ。実はこちらのモデルは、AT仕様とは異なりすでに2000kmほどを走破済み。AT仕様と同じスペックであるはずのエンジンそのものもよりパワフルな印象だったし、ギヤレシオも、1速→2速、3速→4速の間隔がそれぞれ離れ気味なATと比べると、こちらのMTの方が繋がりに長けていることもさらなる好印象に繋がった。もちろん、やや硬めではあるものの小気味よく決まるシフトフィールも見逃せない。そんなこんなで、よりリズミカルな走りを楽しめるのはやはり“こちら”という感覚が強いのだ。
そんなゴキゲンな加速感に加え、ダイレクト感に溢れたハンドリングのほか、まるで「足の裏で直接ディスクを挟み込んでいる」かのような、やはりピュアそのもののブレーキのタッチも秀逸。そんなこのモデルでワインディングロードをアップテンポで駆け抜けていると、いつしか“ドライビング・ハイ”な状態になっている自分に気が付いた。
レーシングマシンの雰囲気を持ち、日常での使い勝手も考慮した実用スポーツカーとして巧みに融合させた名門ロータス発の最新フラグシップモデル、それがエヴォーラ 400というモデルの神髄でもあるのだ。