試乗記

「25式」になった進化型GRヤリスと「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車を袖ケ浦で試乗

重箱の隅をつつくようなところにしかもはや不満はない

「25式」になった進化型GRヤリスの「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車。今回の試乗では「20式」との比較も行なえた

「25式」になった新しいGRヤリス

 昨年大幅な改良を行なったばかりのGRヤリスが、今年もまたマイナーチェンジを行なう。そもそもGRではそれをマイナーチェンジと言わず、「進化型」だと表明。けれども今回また進化しちゃったため、話がさすがにややこしくなると、今回からは呼び名を「25式」とするそうだ。これまで進化型と言っていたモデルは「24式」、初期モデルは「20式」と交通整理された。まるで戦車のようではあるが、よくよく考えてみればGRヤリスはスーパー耐久、全日本ラリー、そしてニュル24時間やWRCにだって挑戦しているわけで、つまりは戦車なわけだから「〇〇式」と言うのは自然な流れなのかも!?

 そんなわけで「25式」の進化のポイントを見ていく。まずは最も目を引くであろう「エアロパフォーマンスパッケージ」の追加だ。ダクト付きアルミフードに始まり、フロントリップスポイラー、フェンダーダクト、燃料タンクアンダーカバー、角度変更可能なリアウィング、そしてリアバンパーダクトを備えるおよそ50万円のパッケージが登場した。富士スピードウェイにおいてラップタイムが約1秒もアップしたというから興味深い。ちなみにこのパッケージには専用のEPS(電動パワーステアリング)プログラムも異なったものが入れられている。

縦引きパーキングブレーキのオプション装着が全グレードで可能になった「25式」の進化型GRヤリス

 続く変更はボルト類だ。クルマとの一体感を進化させようとした結果、リアサスペンションメンバー×ボディを止めているボルト頭部サイズを拡幅。フロントロアアーム×ロアボールジョイントのボルトフランジにリブ形状を追加。リアショックアブソーバー×ボディを止めるボルトフランジの厚みアップを行なった。結果として目標とした一体感を高めることに成功したが、乗り心地は悪化方向に。そこでショックアブソーバーの減衰力を変更。微低速域は減衰力をアップしロール感やグリップ感を、中速域以上では減衰力をダウンし接地性の改善も行なっている。スプリングの変更はないが、ショックの味付けはMTと8速DATで変えている。また、EPSプログラム変更を行ないリニア感を追求。これはMTモデルとDATモデルでそれぞれプログラムを変え、できるだけ近いフィーリングを目指して仕上げたそうだ。

「25式」の進化型GRヤリスでは、ボルト類のフランジ厚みの増加と、締結強度増加に伴うサスペンションやEPSの再セッティングが行なわれている

 さらにDATもプログラムを進化させている。Dレンジ走行中のダウンシフト可能回転数の拡大。パドル操作変速時間短縮、Mモード×スポーツでレブ当て作動時間拡大などとにかく細かい。また、上り勾配に応じてシフトアップタイミングを変更。アップタイミングを少し遅らせることで、変速後の高出力を維持するという。加えて制動時シフトダウンを早め、安定方向にすることも行なう。

 これはアクセルからブレーキの踏み替えが極端に速いドライバーの場合、コンピュータがビギナードライバーだと判断。ウエット路面などでブレーキを踏み切れていない場合、積極的にシフトダウンを行なうことでクルマを安定させるらしい。

一般公道に加えて、袖ケ浦フォレストレースウェイを走らせる

 そんな「25式」を袖ケ浦フォレストレースウェイで走らせることになった。実は別の機会にこの試乗会の前に一般公道を700kmほど走ったのだが、「25式」のファーストインプレッションはかなり質感が高まっていたということだった。クルマとの一体感やタイヤの接地性が高まり、路面の凹凸にあまり影響されずに突き進んでいく感覚が強く、ロングドライブでも疲れ知らずの仕上がりだったことに驚いた。ちょっとオトナになったのか? いずれにしてもマイルドさが出てきたこの「25式」がサーキットでどう振る舞うかが気になるところだ。

 RCグレードでなくてもメーカーオプションで装着が可能になった縦引きパーキングブレーキを下ろして走り出す。コクピットはこれ以外に、フットレストが拡大されているところが「25式」ならではの部分だ。やや踏ん張りやすくなったか?

 DATの制御変更は前述したもの以外にも実は存在する。それはパドルシフト時にレブリミッターに当ててしまった場合、これまではシフトアップした先のギヤでトルク制限が発動していた。通称・お仕置き制御でこれがあるばかりにサーキットではパドルシフトを使うと遅くなるばかりだった。だが、「25式」ではトルク制限を実施するレブ当て条件を変更。0.4秒から3.0秒へと拡大したことで、お仕置きをくらうようなことが少なくなったところがかなり違う。

 だが、正直に言ってこのDATはDレンジがそもそも優秀だ。レブリミッターに当てることなく、次々にシフトのアップダウンを繰り返してくれるDレンジは、サーキット走行において無駄がなくとにかく速い!

 今回は勾配のある場所でアクセルを少しオフにしたとしてもギヤをキープしてくれるようになり、例えば袖ケ浦の2コーナー(上りの緩い右コーナー)ではそれがとにかく扱いやすい。ただ、コーナーリングスピードを高めて行こうとすると4コーナー立ち上がりなどでギヤが合わなくなってくる。しっかりとボトムスピードを落として全開で立ち上がると、2速にシフトダウンし速いということもあった。

 また、スライドコントロール中に回転がドロップした場合は、シフトダウンをあえて行なわないという安定指向なプログラム思想もまたやや物足りない。スタビリティコントロールを全オフにしているサーキットのような環境ならば、トルク優先でシフトダウンしてもよいようにも感じてくる。ちょっとしたクセを掴んで走ることができればDレンジお任せが一番だ。

 シャシーはやはりソフト路線となった印象が強く、ロードホールディングは豊かになり、高速域の安定性が高くなったが、一方でクルマの向きをキビキビと変化させるような仕上がりではなくなってきたのかな、というのが正直なところ。この日はたまたま「20式」も乗り、その回頭性のよさに舌を巻いたこともあり、「25式」はクルマの向きが変えにくいという感覚が強くなってしまった。

 質感は大幅にアップしていてもちろんよいクルマではあるのだが、ミニサーキットで乗るともう少しヤンチャさが欲しくなるのも事実。ブレーキングで向きを変えるのではなく、駆動力配分に頼って安定して走るのがキャラとしては合っているのかもしれない。「25式」は真っ当なロードゴーイングカーになったということなのだろう。

「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車は「レベルが高い!」

「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車

 最後は「エアロパフォーマンスパッケージ」を装着したDAT仕様に乗る。走り始めるとまず感じるのがステアリングの確かな手応えだった。専用のEPSプログラムが入り、ダウンフォースも考慮したものになっているというが、どっしりしっかりとした反力が得られ、これはかなりスポーティに感じる。

 車速を高めて行くと、みるみる4輪の接地感が高まって行くことが感じられる。なかでもフロントの接地感は高く、ノーマル仕様とはまるで違う操舵の効きが感じられ、かつての「20式」のような感覚が蘇ってくる。けれどもリアはかつてのようにすっぽ抜けるのではなく、じわりと動き出すからレベルが高い!

フロントまわりはダウンフォース発生のためのリップスポイラーを追加
ボンネットはダクト付きアルミフードに
3段階に角度調整可能な可変式リアウィング

 リアスポイラーは3段階中の真ん中にセットされていたというが、このバランスはなかなかだ。速さもあるし振り回すこともできる。「25式」を選択し、そのままサーキットで楽しもうというのであれば、もれなく「エアロパフォーマンスパッケージ」を付けることを忘れずに!と伝えておきたい。これがあればロードゴーイングカーとしてのマナーのよさを保ちつつ、サーキットベストも楽しめるのだから。

 ここまで進化してくるとこの先も見たくなってくる。あと求めるとすればDATらしさをもっと活かすためのペダル配置だろうか? 身体をまっすぐにした状態で、左足ブレーキがカートのようにできるようになれば最高だ。実は今年のニュル24時間では左足ブレーキを考えたペダルが実戦投入されていたという。それが市販化されたとき、DATの本当のゴールがあるような気がする。

 左足ブレーキを考えていないペダル配置で左足ブレーキを続けると腰にわるいのだから……。

 さらに求めるのはバケットシートの肩のホールドか? 年々内容が高まるにつれてコーナーリングスピードは上昇。結果としてノーマルシートでは身体がズレるようにもなった。バケットシートに変更すればよいじゃないかという人もいるだろうが、ここまでオールマイティなクルマ作りならば、ノーマルのままでサーキットも全開で行けるという姿勢を貫いてほしい。

 そして最後の要求はDAT車のキックダウンスイッチの重さを軽くしてほしいということ。カチッと右足に反力を感じる現状は、繊細にアクセルコントロールをしようとしたとき、やや動きを阻害されているようにも感じる。求めるのは何も感じないセンサーか!? 言えば解決してくれるだろうから、とことん求めておくことにしよう(笑)。

 このように重箱の隅をつつくようなところにしかもはや不満はない。それほどに「25式」+「エアロパフォーマンスパッケージ」という組み合わせは最高だ。外気温が35℃前後のサーキットをガンガン走ったとしてもビクともしない頼もしい仕上がりもまた魅力の一つだ。さまざまな環境で鍛えられてきた戦うクルマだけのことはある。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛