試乗記

日産の新型「ルークス」試乗 快適な乗り心地と安定性で競合車の中でも存在感光る

新型「ルークス」のターボ(左)と自然吸気(右)に試乗

11月30日時点で受注台数が2万2000台を突破

 軽自動車は全長(3400mm)×全幅(1480mm)×全高(2000mm)が制限されておりメーカーが激しい競争を繰り広げた結果、日本市場では3台に1台を軽自動車が占める。しかもその半分が「ルークス」も参入するスーパーハイトワゴンだ。限られたサイズの中で最大の広さを求めるニーズに応えた結果である。

 マーケティングも小型車メーカーらしいターゲットカスタマーを想定して行なわれているのもおもしろい。子育てが一段落したポストファミリーを仮想顧客とし、品質が高く行動範囲が広がることで新しい世界が開ける軽自動車、それがスライドドア+スーパーハイトワゴンという形となって新型ルークスが生まれた。

 エクステリアはサイズ以上にワイドに見えるフロントマスクと全幅いっぱいに広げられたリアコンビネーションランプで安定感を与え、サイドラインも直線から凹型にすることでルークスらしいアクセントを与えている。またそのサイドラインから上の塗色を変えた2トーン仕様もこれまでになかった試みで新しさを感じる。ちなみにカラーは17色を展開する。

 プラットフォームはキャリーオーバーだが、Aピラーを立てることでルーフを前方に出してロングキャビンになったことも特徴的だ。そのため斜め前方の死角が少なくなったことも安心感につながっている。

今回試乗したのは日産と三菱自動車工業の合弁会社NMKVのマネジメントのもと、日産が企画、開発を行なったスーパーハイトワゴンの新型「ルークス」。写真は「ハイウェイスター G ターボ プロパイロットエディション」(224万9500円/2WD)でボディサイズは3395×1475×1785mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2495mm。なお、新型ルークスは11月30日時点で受注台数が2万2000台を突破し、好調な滑り出しを見せている
ターボモデルが搭載する直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンは最高出力47kW(64PS)/5600rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/2400-4000rpmを発生。WLTCモード燃費は19.3km/L
新型ルークスではAピラーを立てることでルーフを前方に出し、ロングキャビンになった
ターボモデルのホイールは15インチ仕様(165/55R15)
インテリアでは乗る人全員がリラックスできる居心地のよい空間を目指し、インパネには軽自動車初となる12.3インチの大型統合型インターフェースディスプレイを採用。クラスを超えた先進性と上質感を演出している
室内長は先代モデルより115mm拡大し、クラストップとなる2315mmを実現するとともに、後席ニールームについても先代モデル同様クラストップの795mmの広さを確保。後席もクラストップの最大320mmスライドさせることが可能
ラゲッジスペースもクラストップの荷室最大長675mmを確保し、48Lのスーツケースを同時に4個積載しつつ、大人4人が広々と過ごせる空間を作り上げた

 スッキリと整理されたインテリアではダッシュボード上面も視界に入る突起物がなく明るく感じられ、全方位での視界をよくすることでドライバーに余計なストレスを感じさせない。ついでに言えば斜め後方もウィンドウを広げて確保されている。

 センターディスプレイは軽初の大型12.3インチでGoogleと連携しており、アカウントを同期すればスマホのマップがそのまま使える。また「OK,Google」でエアコン操作や、ナビに目的地を入れたりミュージックを捜したりできるのもルークスの世界を広げる。スマホ世代では簡単に利便性を享受できるだろう。

 シートは日産得意のゼログラビティ思想で作られ、前後シートともホールド性とシート全体で受け止めてくれる感触が落ち着きを呼ぶ。後席もクラス最長の前後長を活かして、シートの全長も伸び、ゆったりと座れるのがポイントだ。日産は酔いにくいクルマを目指し、シートの改善もその一環で進めている。

 もっとも大きいのはサスペンションの進化。フリクションを軽減したショックアブソーバーとゴムブッシュを合わせたチューニングが挙げられ、基本構成は変えていないが丁寧な設定変更ですばらしい成果を上げた。

こちらは自然吸気モデルの「X」(173万9100円/2WD)。ボディカラーはフローズンバニラパール
自然吸気の直列3気筒DOHC 0.66リッターエンジンは最高出力38kW(52PS)/6400rpm、最大トルク60Nm(6.1kgfm)/3200rpmを発生。WLTCモード燃費は21.0km/L
自然吸気モデルは14インチホイール(155/65R14)をセット
シートトリムには柔らかい肌触りと伸縮性により、しっかりと体を包み込むメランジ生地を採用し、自宅のソファのような快適性を目指した。後席はシートの着座接地面を拡大し、体圧をより分散させるように改良するとともに、振動吸収性に優れる高密度のウレタンを採用

おどろきの静粛性

両モデルに試乗

 装着タイヤはブリヂストン「ECOPIA EP150」(165/55R15、指定空気圧240kPa)。新型ルークスで横浜市街地に乗り出す。港近くの荒れた路高や風の強い高速道路などを走った。従来のルークスも疲れないクルマだったが、新型では荒れた路面からの突き上げはよく抑えられており、特に突起乗り下げ時のサスペンションの追従性がよく、スーと納まる。バネ上の動きはさらにフラット感が高くなった。

 ハンドリングではステアリング操舵の応答性が素直になり、初期のロール量は少ない。大きな要因はスタビライザーの強化とコラムタイプEPS(電動パワーステアリング)の軽量化などが効果的だ。重心高の高いスーパーハイトワゴンではロールのコントロールが難しく乗り心地にも大きな影響を与えるが、現時点での最適解を見出した感じだ。またステアリング操作の際の手応え感を確保しつつ、操舵力が小さくなっているので市街地での取りまわしもよい。

突起乗り下げ時のサスペンションの追従性がよく、バネ上の動きはさらにフラット感が高くなった

 市街地で便利なのは「インテリジェント アラウンドビューモニター」(移動物検知、3Dビュー機能付)。従来の機能に加えて狭い道から出る際にドライバーからは見えない自転車や人などをディスプレイで確認できる機能が加えられた。

「インテリジェント アラウンドビューモニター」では、本来は見えない車体下の映像を生成する軽自動車初の機能となる「インビジブルフードビュー」を備えるとともに、車両の周辺状況を3D映像でより直感的に確認できる「3Dビュー」、交差点などで運転席から死角になる前方の左右をサポートする「フロントワイドビュー」といった表示機能が搭載された

 高速道路ではステアリングのスワリがよく、自然と直進安定性が高い。この日は横風も強かったが、進路を大きく乱されることなくステアリングホイールに手を添えているだけで巡航できた。またそのためか、レーンキープ性能も上がったように感じ安心して任せられた。

 そして一番伝えたいのは静粛性。軽はどうしてもエンジン回転が上がり、エンジンからの振動やノイズが大きくなるが、ルークスでは振動遮断とフロントから入るノイズがしっかり遮音されておりおどろいた。フロントウィンドウに遮音ガラスを使っている効果が大きいようだ。

 また後席でも恩恵を受けるのはサイドドアの2重遮音材とドア下部に貼られたシール材、そしてリアに貼られた吸音材でタイヤのロードノイズやパターンノイズがよく遮断されており、気になる音が大幅に低減されている。これも疲れない大きな要因だ。

新型ルークスでは静粛性も際立っていた

 ドライバビリティでは先代からマイルドハイブリッドシステムが外された。先代の発進時はジェネレーターの若干のサポート受けて滑らかな動きだったと思うが、新型ではエンジン特性とCVTの設定変更でカバーする。感覚的にはアクセル開度を大きくすると二乗的な加速感となる。もう少し穏やかでもよいように思うが、すぐ加速したいニーズが強いと判断されたようだ。ジワリと走らせるには少しアクセルコントロールが必要だが、登坂や中間加速では力強く感じられるに違いない。

 ドライブモードはSTANDARD、ECO、SPORTから選べ、SPORTは最初からギヤ比の低い設定で、減速時のエンジンブレーキも強くなる。急激な加速力の変動がなく、使用範囲は広がりそうだ。

 ターボと自然吸気は共通の味付けだが、自然吸気はパワーが小さいだけにアクセル開度は大きくなるため、エンジンノイズも高め。またステアリング応答性も少しゆるく感じた。出力に合わせた感じでこれはこれでちょうどいい設定だと思う。

 上質なデザイン、室内のクオリティ、使いやすいインフォテイメント、快適な乗り心地と安定性。ルークスは数多くの競合車の中でも存在感を出せそうだ。

新型ルークスは数多くの競合車の中でも存在感があった
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一