試乗記

ダイハツ「e-ハイゼットカーゴ」に試乗 商用でもバッテリEVならではの加速力・乗り味・静粛性・快適性は健在

軽商用バッテリEVの「e-ハイゼット カーゴ」に乗った

ガソリン車のハイゼット カーゴから乗り換えても違和感のない設計

 ダイハツ、スズキ、トヨタの共同プロジェクトで誕生したハイゼット カーゴをベースとしたバッテリEVの軽商用車群がそれぞれのメーカー名で販売される。1万台/月で採算ベースに乗ると言われる軽商用車はガソリンと電気、それぞれのユニットを搭載することでコストを抑えている。生産はすべてダイハツ九州 大分(中津)第1工場で行なわれ、ガソリンの他車種と混流生産される。

 搭載バッテリは衝撃に強く安定しているリン酸鉄系リチウムイオンを採用する。容量は36.6kWhと意外なほど大きく、そのため、航続距離はWLTCモードで257kmと長い。

 特徴的なのは軽キャブオーバーバン最大とされる積載スペースはそのままに、重量290kgのバッテリを床下に配置し、積載重量350kgを確保したことだ。利便性はこれまでのガソリンのハイゼット カーゴオーナーが乗り換えても違和感がないとしている。

オプションのBEVデカールが電動車であることをアピール
2シーターと4シーターがラインアップされるe-ハイゼット カーゴのボディサイズは3395×1475×1890mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mmで、ガソリンモデルと変わらない数値。車両重量は1240~1260kg。価格は314万6000円
タイヤは横浜ゴムのバン専用タイヤ「BluEarth-Van RY55」(145/80R12 86/84N LT)を装着
フロントに普通充電と急速充電ポートを配置。充電時間は、普通充電(6kW/30A出力の普通充電器、バッテリ温度25℃)では電欠ランプ点灯から約6時間で満充電可能。急速充電(50kW出力の急速充電器、バッテリ温度25℃)では電欠ランプ点灯から約50分で充電率80%まで充電できる
キャブオーバーなのでボンネット内はあまり詰まってはいない
シート下にESU(電力供給ユニット)などが収められている。モーターは最高出力47kW(64PS)/3562-4500rpm、最大トルク126Nm(12.9kgfm)/0-3562rpmを発生する
36.6kWhの大容量薄型リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を床下に配置
リアにeAxleを搭載する
ステレオカメラの性能を向上した最新の予防安全機能「スマートアシスト」を標準装備
e-ハイゼット カーゴのインテリア
ステアリング
シフトまわり。オートエアコンを全車標準装備
7インチTFTマルチインフォメーションディスプレイを採用。スピードメーター以外にパワーメーターや電池残量、航続可能距離などをわかりやすく表示
オーバーヘッドシェルフなどの収納スペースを数多く採用している
全車AC100V・1500W電源を採用
プッシュボタンスタートが標準装備される
フロントシートは撥水加工となる
リアシート
BEVになってもガソリン車と変わらない荷室容量を確保し、最大積載量は350kgのまま。荷室灯はLED化され、利便性を高めた
e-アトレー。価格は346万5000円。仕事にもプライベートにも活用できるよう、e-ハイゼット カーゴよりも装備を充実させ、スーパーUV&IRカットガラスや両側パワースライドドアなどを採用している
e-アトレーは専用デザインのフロントシートと、しっかりとしたヘッドレスト付きのリアシートを標準装備。フロントシートにはアームレストも採用される。ラゲッジには、高さを調節できるカーゴボードも設定
e-ハイゼット カーゴ、e-アトレーともに外部給電機能を備える
停車時に専用の外部給電アタッチメントを使えば安全に電気を供給できる

坂道もぐんぐん走る

 実際に市街地に乗り出してみた。タイヤは横浜ゴムのブルーアースの商用車用。バッテリで重量が増加した荷重に耐えるように剛性を上げて8プライとした145/80R12。空気圧は前輪300kPa、後輪450kPaと高圧で使用する。さぞやポンポン跳ねるかと思ったが全くそんなことはなく、後述するように予想以上の乗り心地だった。摩耗もガソリン車装着のタイヤと同程度に抑えられているという。

 ドライブモードは1種類と割り切り、回生ブレーキによる減速もガソリン車のエンジンブレーキ程度の強さに固定されている。これもガソリンのハイゼット カーゴから乗り換えても違和感がないように配慮された結果だ。

 発進はBEV特有の水平移動するような動き方。音もなく移動する軽商用バンに大きな可能性を見いだした。350kgの荷物を載せてもエンジンを高回転で回す必要がないのはストレスフリー。電気特有の大トルク(126Nm)が瞬時に出せる力強さは商用車向きだ。

 勾配の強い坂道でも難なく登る力強さは大きな魅力だ。長崎にある有名な35%勾配でも荷物を積んで登れることで実証している。後車軸上にeAxleを置いているので後輪荷重が大きく、2輪駆動でも登坂力が大きい。

坂道もスムーズに走れる

 また、乗り心地は軽商用車としては思いのほか良い。リアサスペンションはトレーリングリンクの固定軸の型式は同じだが、重いバッテリを支えるために各部を新設計として、特にリンクブッシュは再設計されている。

 床下に置かれた重量290kgのバッテリは側突対応にも高い防御性を持つ構造を採用し、結果的に低重心となって、乗り心地や安定性にも高い効果をもたらした。

 前述のようにタイヤも高空気圧仕様の専用タイヤだが、ちょうどいいバランスが取れている。荒れた路面での突き上げもドンと鋭角的な突き上げはなく、サスペンションとタイヤで余裕を持った設計になっていると感じたが、リアシートに同乗した編集者からも「乗り心地がいい」と声が上がった。BEVならではのモーター駆動の滑らかさと静粛性は大きな魅力だ。積載荷物が重くてもアクセルを踏み込まないで静かなまま自然と速度が乗っていく大トルクの魅力。そう思うと時たま音を発するインバーターノイズなど気にならない。

高速道路で感じた安定性

 コーナーの多い首都高速2号線も走った。商用バンに必要なのは安定性だが、低重心化できたことで曲がり込んでいるコーナーもハンドル操作時に小さくロールするだけで、前後バランスもよく、安定した姿勢のまま走れる。軽の商用バンとしては望外の安定性だ。しかも高速道路のギャップを通過した際もリアがあまり跳ね上げられないのも素晴らしい。荷物を積んで安定して走れることを使命とした商用バンらしく、姿勢変化に対しても許容量が大きい。

高速道路も安定して走る

 ステアリングは手応え感があまりないが、軽く大きく切れる方が商用車にとってありがたい。電動パワステは最後まで操舵力が軽く、最小回転半径はガソリン車と同じ4.3m。小まわりの良いハイゼット カーゴの美点を継承している。

 開発陣のテーマはガソリン車と乗り換えても違和感がないことだ。確かに回生ブレーキは弱いエンジンブレーキのようだし、ブレーキタッチもストローク感があって違和感がない。加速時のアクセルコントロールは少なくて済み、排気量のあるバンを操っているようだ。

 また、BEVらしく振動がほぼなく、長時間の運転でもドライバーの疲労が圧倒的に小さくなるのは間違いない。商用バンにとってこのメリットは非常に大きい。

 バッテリの消費を減らすためにエアコンに頼らずともシートヒーターが備わっているので、こちらを使う方が航続距離の延伸にも役立つ。まだ設定のないステアリングヒーターも働くクルマには必要ではないだろうか。

 e-ハイゼット カーゴの充電口はフロントに設けられている。フリートユーザーは駐車の際にギリギリに止めるケースが多く、サイドだと邪魔になることからフロントに設けられたという。充電口は普通充電と急速充電の2つがあり、思わず航続距離が延びた場合でも急速充電ができれば保険になる。

 もう1つ商用車らしいのはダッシュボードに100Vの給電ソケットがあることだ。夏場では扇風機付きベスト着用が義務付けられている事業所もあり、その電池の駆動時間が2時間とのことで、移動しながら充電できるという。確かにダッシュボードにソケットがあるのは便利に違いない。

 また、ドライバーから手の届く位置にオーバーヘッドシェルフなど収納スペースが豊富にあるのも働くクルマらしい。

 予防安全も抜かりはない。ダイハツの“スマアシ”、スマートアシストも最新版で、ステレオカメラのレベルアップによって夜間の横断中の歩行者、そして自転車まで検知できるようになった。

 いいことずくめのBEV軽商用車。高価になりがちな価格だが、メーカー希望価格で314万6000円。国の補助金は最大で58万円あるので、実質的には256万6000円、さらに地方自治体の補助金がある。ガソリン車との差はまだ大きいが、ランニングコストの安さと何よりも使う人の快適さが大きな魅力だ。

 改めて軽商用BEVの魅力を体感したe-ハイゼット カーゴだった。

軽商用BEVの魅力が小さなボディにぎっしり詰まっていた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛