試乗記
最新のポルシェ「911カレラS」「タイカンGTS」、延べ1500kmで乗り比べ
2026年10月23日 11:45
911のベストバイは「カレラS」?
日本に上陸したての「911 カレラS」を、一番乗りで試す機会に恵まれた。「慣らしも込みで!」というポルシェジャパンからのリクエスト付きだったが、腕も買われてと理解(誤解)して、喜んで引き受けた。途中、四国に寄り道をしながら、東京から3日間かけて延べ1500kmを走った。そしてこの相方として今回は「タイカンGTS」が選ばれた。
筆者の自宅となる横浜を出て、150kWの急速充電が可能な第2東名高速道路の浜松サービスエリアで合流。タイカンGTSに、まず腹ごしらえをさせて長旅に備えた。夏休みながらも早朝・平日のサービスエリアはまったく混み合っておらず、充電器を使っているのは筆者たちだけ。まだまだ日本でEVが普及するのには時間が掛かりそうだけど、だからこそ今は充電しやすい状況だとも言える。
さていきなりだが筆者は、911のベストバイは「カレラS」だと常々思っている。ベーシックグレードの「カレラ」よりも一段トルキーなエンジンは、街中でのスマートな身のこなしを演出するのにひと役買ってくれるし、当然ながらきっちり走らせても漲るパワー感が抜群におもしろい。
しかしながらGTSほど過激じゃないからその力を持て余さず、よりもしなやかな足まわりがスポーツカーとしての存在感をきちんと高めながらも、デイリーユースを可能にしてくれる。911 GT3のようなハードコアモデルの興奮を別にすれば、カレラSは911シリーズの中で、一番バランスが取れたモデルだ。
転じて最新型のカレラSはというと、これまでの経験とは少しようすが違っていた。端的に言ってしまえば乗り心地がわるい。リアからの突き上げはエンジンおよびトランスミッションの重みと、マルチリンクサスの剛性がしっかり受け止めている。対して荷重が極端に少ないフロントは、バンプやジョイントでガツンと付き上げる。そのたびにアラームが鳴って何かと思えば、ドライブレコーダーが衝撃を感知していた。
その原因の1つは、991型から採用しているフロントの20インチタイヤだろう。さらに今回はオプションの「PASM スポーツサスペンション」まで装着されていた。カレラよりも10mm低いカレラSの車高を、さらに10mm下げたスポーツサスはストロークを規制し、おそらくレートも少し高い。
それでも街中では縮み側をソフトに採ったノーマルモードのダンパーが、バネ下で大きなタイヤをなんとか裁き切った。しかし大きなうねりや凹凸ではタイヤの動きを抑え切れず、カツン! と来る。そして高速巡航になるとこれが頻発する。
というわけで高速道路では、ダンパースイッチを押して減衰力を高めてみたら、それが最適解となった。乗り味はソリッドになるけれど、タイヤと足まわりに対してはバランスが合っている。もしかしたらノーマルサスなら、通常のダンパー減衰力でも乗り心地は保たれたのかもしれない。とはいえ速度域が低い日本では、カレラSでもフロント19/リア20インチサイズが適当ではないかと筆者は思う。
それでも走りの本質を問えば、やはり911はすばらしいスポーツカーだ。別体のオイルタンクを持たないインテグレーテッドドライサンプとはいえ、水平対向6気筒エンジンは低く搭載されているのだろう。ただ真っ直ぐ走らせているだけでもその高いボディ剛性の芯の部分には、重心の低さを強く感じ取ることができる。
“慣らし”を兼ねているからエンジン回転数は4000rpmに縛られてしまっていたが、常用域ではそれ以上まわす必要性がまったくない。数字的には530Nmの最大トルクが2200rpmから発揮されるわけだが、実際2000rpmもまわっていれば、8速のギヤ比なら第二東名の上限である120km/hまで余裕でカバーできる。
そしてアクセルを踏み込めば、おそらくこの分厚いトルクはトップエンドまで続くのだろう。果たしてレブリミッター付近になって、カレラのように金属音を伴う“最後のひと伸び”があるのかは分からない。だが普通にまわしているだけでも、今の世の中にあってはこれが尊いエンジンだということが分かる。
右ハンドル仕様は、アクセル及びブレーキペダルが若干中央寄りにオフセットされる。左足ブレーキ派にはちょうどよいポジションだが、右足派は気になるドライバーもいるかもしれない。
ステアリングはノーマルモードでも、ずっしりとした手応え感だ。ブレーキのタッチはかっちりとしていて、正確で繊細な操作がしやすい。このユーザーに媚びない姿勢こそが911であり(とはいえそれなりの配慮はしているのだが)、だからこそユーザーとの信頼関係が作られるのだと思う。
国道九四国フェリーで佐賀関港へ渡り、福岡を目指す。ハイライトは大分自動車道で訪れた。眼前に由布岳を置く緩やで、アップダウンのあるワインディングは、まるでドイツの郊外路を走っているかのようだった。この道が初めてではないはずなのにそう思わせたのは、もちろん911 カレラSのおかげだ。
ステアリングをわずかに切っただけで、正確にラインをトレースするハンドリングの正確さ。20インチタイヤのオフセットでも、まるで遠回り感のない操舵応答性は、後輪操舵との協調がなせる技か。
曲がり込んだカーブのボトムスピードはすこぶる高く、緩やかな高速コーナーでの挙動は実に落ち着いている。もはや常用域ではリアエンジン・リアドライブのネガティブなど微塵も感じられなくなった911だが、アクセルを踏み込んだときの“ツキ”の良さ、トラクション性能の高さはきっちり残されている。
もちろんここからさらなる高見に持ち込めば、GT3のようなフロントダブルウィッシュボーンや、エアロダイナミクスが必要になる。しかし私のようなクルマ好きの幸せはその少し手前にあって、911カレラSはそれを与えてくれる。
やっぱり911カレラSは、私の中でベストの選択だ。
一方のバッテリEV「タイカンGTS」も走りが魅力
ポルシェ初の市販バッテリEVとして2019年に登場した「タイカン」。今回共に連れ立ったのは、その中でも走りの楽しさに主眼を置いた「GTS」グレードだ。とはいえそのパワーは、2024年のマイナーチェンジでシステム最高出力(ブースト時)が598PSから700PSにまで高められており、0-100km/h加速は3.3秒を達成するスーパーEVだ。
またバッテリ容量も105kWhと大きく、一充電当たりの航続距離は569kmとなっている。バッテリEVの進化は日々めざましく、すでにマカン・エレクトリックが100kWhで648kmの航続距離を達成していたりはするけれど、ともあれこのタイカンGTSが、今回の旅路をどうこなすかを見てみよう。
911カレラSから乗り換えてまず感じた違いは、「GTS」を名乗りながらもその乗り心地が非常に快適だったことだ。そしてロードノイズが低く、車内がとても静かだった。
ちなみにタイヤはフロントが265/35R21、リアは305/30R21サイズのオプション。フロント(101Y)/リア(104Y)のエクストラロード規格だったが、突き上げ感はほとんどなかった。つまりはそれだけ車重(2330kg)が重たいというわけだ。
ということでタイカンGTSでのロングドライブは極めてイージーであり、いや快適過ぎて運転していると、冗談抜きに眠気が襲ってくる。隣で道案内をするはずのカメラマン氏までもが早々に眠りについたことを考えると、一番大切な装備はおしゃべりなパッセンジャーだと言えそうだ。
そんな眠気を吹き飛ばすのは、やっぱり走りだ。エンジンを搭載せず、車体の底部に一番重たいバッテリを敷き詰めるEVが、その重量を除けば高い運動性能を示すのはもはや常識。その上でタイカンGTSは、ポルシェならではの技術を持って、スポーティさを訴えてくる。
フロントにダブルウィッシュボーンサスを備えた操舵応答性は、これがストラット式となる911カレラS以上の出来栄えだ。エアサスとこれをコントロールするダンパーの制御があまりに滑らかだから気付きにくいだけで、路面をつかむ感触は絶品の部類である。そしてリア・アクスルステア(オプション)との連携が、この重たい巨体をタイトターンでもいとも簡単に曲げてしまう。
スポーツモードに転じれば、エレクトリックスポーツサウンドが華を添える。常時700馬力を解放する「スポーツ+」モードは日常にはトゥマッチだけれど、右側パドルで「プッシュ・トゥ・パス」に転じれば、10秒間だけ最大70kW(95PS)のパワーを上乗せした“全部盛り”状態をつまみ食いすることができる。
とはいえ常用域でもその出力は605馬力あるわけで、加速に不満などあろうはずがない。むしろこのパワーとトルク(790Nm)を、常用域ではまったく悟らせずに管理しきっていることに感心させられる。
パドルシフトで段階的に回生ブレーキを効かせないのはポルシェのポリシーのようだが、それでも左側パドルを引けば一段階回生ブレーキが強まるから、前走車との車間を調整するのにはこれでこと足りた。
タイカンは、ポルシェが初めて市販したバッテリEV“スポーツカー”の、彼らなりの最適解だ。そのスタイリングからハイパーサルーンだったり、パナメーラのEV版と思われがちだが、その長いホイルベースは現状で高出力を実現し、かつ航続距離が稼げる大型バッテリを積むためのもの。結果的に大人4人(オプションを選べば5人乗りも可能)を快適に運ぶ居住空間を獲得しながらも、パナメーラよりひとまわり小さく低重心なボディは、一応スポーツカーとして考えられている。
だからこその後輪操舵であり、GTSグレードの設定である。個人的にはGTSグレードなら、もっと割り切ってしまってもよいと思う。むしろ911をデジタルコピーしたかのようなサウンドや、操作系の重さ、特に回生ブレーキのソフトなタッチには、もっとソリッドさを与えてもよいと感じた。とはいえ相対的には、非常に高いレベルでまとめられたEVスポーツだ。























