【インプレッション・リポート】 P.G.O.「セバンヌ」 |
世界中のメジャーな車種の多くを並行輸入・販売するかたわらで、日本のマニアックなエンスー諸氏に向けて、世界各地に潜む個性あふれる魅力的な少量生産車を発掘し、その輸入・販売を手がけることで知られる名古屋のオートリーゼン。彼らがこのほど取り扱いを始めたのが、フランスの「P.G.O」だ。
2011年秋の時点におけるP.G.Oのラインアップは3モデル。「スピードスターII」と「セバンヌ」がソフトトップを持つオープントップモデル、「エムラ」がハッチバックのクーペで、いずれもポルシェ「356」を現代的にデフォルメしたデザインのボディーをまとう2シータースポーツカーである。
P.G.Oを生産する「P.G.O.オートモービル」というのはいわゆるコーチビルダーで、ネーミングは創業者3人の名前の頭文字に由来する。1980年の創立当初からしばらくは、レプリカやキットカーの製造を行なっていた。やがて2000年頃から、ネオレトロ調の市販モデルの開発を本格的に始動し、スピードスターIIのプロトタイプをパリショーに出品。そして2003年には、そのスピードスターIIの販売を開始した。
続いて2005年にセバンヌ、2008年にエムラをリリースした。執筆時点で年産300台程度の規模ながら、商圏は欧州の数カ国やクウェート、アルジェリアなどに及び、すでに中国や韓国にも導入実績があるという。
そんなP.G.Oをオートリーゼンが扱うにいたったのは、お客様からの紹介がきっかけとのこと。紹介を受けて調べたところ、これは面白そうだということで大いに興味を持ったオートリーゼンの代表が、P.G.Oオートモービルを訪問。意思の疎通を重ねた上で、日本での販売独占権を取得するにいたったという。
■レトロなボディーに現代のメカニズム
そして、待望の日本上陸をはたしたセバンヌが、この日の試乗車として用意されていた。ごく短時間ではあったものの、山中湖畔をドライブすることができた。
オープンモデルであるセバンヌとスピードスターIIの違いは、スピードスターIIがクラシカルな雰囲気であるのに対して、セバンヌは開口部の大きいフロントグリルを持ち、エアロパーツをまとい、よりスポーティな若々しいスタイリングとなっていること。519万7500円という車両価格は同一で、パワートレインの仕様など内容的にも同じと考えていい。
スムーズで美しい造形のボディーパネルはフルFRP製。インテリアもシンプルなデザインのボディー同色の樹脂パネルに、丸いメーターや小さな各種警告灯がズラリと並ぶ。スピードメーターは内側がkm/h、外側がmi/h表示となっており、エンジンスタートはセンターパネルの真ん中のボタンで行なう。
プジョーより供給を受けるパワートレインは、ミッドシップ搭載されている。その都合上か、ATのシフトゲートのまわりや、スイッチ類、ドアミラーなども、プジョーから譲り受けたと思しきパーツがちらほら見られる。
今どきこれほど切り立ったウインドシールドが目の前に迫るスポーツカーなどほとんどないし、幌の開け閉めするときの操作性も昔ながらのものだ。また、ちょっと走ってみたところ、風の巻き込みもなりゆきまかせという感じで、それに対してあまり気を配られたような印象もない。
ただし、それらはあえて残された、このクルマならではの「持ち味」と認識すべき。今や世界中の自動車メーカーがどこもラインアップするようになった量産のオープンモデルが、いかに乗員の手間を省き、不快に感じさせないかに注力しているのとは対極的な印象だ。
ソフトトップは手動開閉 |
そして、こうしたレトロなデザインと雰囲気を楽しめるクルマでありながら、メカニズム的には現代的なものが与えられていて、レトロさと新しさが同居しているところがこのクルマの特徴だ。いうまでもなく始動は一発で決まるし、運転も楽で、ATも選べるし、エアコンもよく効くなどといった快適性を備えている。その点は、往年の仕様を再現したレプリカやキットカーとの大きな違いでもある。
■安定したハンドリング
走りについて、性能面では特筆すべきものはなく、スペック的にもそれなりで、とくに目を引く部分はない。とがった部分はなにもなく、リラックスしてドライブを楽しめるところがよい。
とはいえ、とても現代的でしっかりとしたドライビング感覚を身に着けていた点は、予想をずいぶん超えていた。フロントにエンジンを搭載していないおかげで、ステアリングを切るとなんの抵抗もなくスッと軽やかにノーズが向きを変える。反対に、フロントタイヤが荷重不足で曲がらなくなることが心配なのだが、セバンヌは舵の利きが安定していて、フロント荷重の確保にあまり気を使う必要がない。無頓着にステアリングを切っても、ちゃんと気持ちよく曲がってくれるのだ。
このことは、本来はできて当たり前の話であって、そうなっていないと困るのだが、実際にはずっと規模の大きな自動車メーカーですら、フロントにエンジンを積んでいないクルマのハンドリングを上手く仕上げるのには苦労しているのが実情。にもかかわらず、P.G.Oはそれをサラリとやってのけていて、ミッドシップならではのよさが前面に出ている。
エンジンはミッドシップ搭載 | フロントにはラゲッジスペースがある |
スチール製のチューブラーフレームによるオリジナルシャシーは剛性感が高く、走りはいたってしっかりとしていて好印象。そして、1tに満たない車両重量のおかげで、なによりも軽い。
コンパクトなサイズと軽快なハンドリングのあいまった、手のうちで操れるドライビング感覚は、このクルマならではの美点といえる。最近ではBセグメントのクルマですらサイズが拡大し、重量も重くなってしまった中で、この感覚は、あらためて小ささと軽さがもたらす運転の楽しさを思い出させてくれた。
プジョーから供給を受けるパワートレインは、最新の直噴ターボユニットではなく、世代としては少し前の、直列4気筒2リッター自然吸気エンジンと4速ATを組み合わせたものだ。
プジョー自体も、ATが4速である点については、とやかく言われていたが、P.G.Oであまりそれについて細かいことを云々するのは野暮というもの。ひとまずは、パワーもほどほどだし、あまり深く考えなければ、大きな不満を感じずドライブできるとお伝えしておこう。あるいはMTという選択肢もあるのだから、MTを選ぶという手も大いにアリだろう。筆者も機会があれば、今度はぜひMTをドライブしてみたいと思う。
安全性についても、ヨーロッパの安全基準や保安基準に適合していることを証明する「COCペーパー」と呼ばれる適合証明書(日本でいう「完成検査証」で、EC指令に基づく車両型式認可車両に交付される)が付くので心配ない。もちろん車検もそのままOKだ。
ボディーカラーやソフトトップの色も特別色も含め非常に豊富に設定されており、さらにカーペットやトリムなども、幅広く用意された中から好みに合わせて選べるなど、かなり自由度の高いアレンジが楽しめるというのもP.G.Oの魅力。納期はオーダー内容により多少前後するが、概ね4~6カ月という。
短い試乗時間でも楽しさはよく伝わった。景色のよい中をオープンにして流すと、とてもほのぼのとした気分になれるクルマだ。まずは、こうした魅力的なクルマが存在し、価格も現実的な範囲で、日本でも比較的簡単に手に入れられることを、より多くの人に知ってもらえるといいと思う。
セバンヌ | |
全長×全幅×全高[mm] | 3,700×1,735×1,320 |
ホイールベース[mm] | 2,230 |
トレッド前/後(欧州仕様)[mm] | 1,440/1,430 |
全備重量(欧州仕様)[kg] | 980kg |
エンジン | 2リッター直列4気筒DOHC |
最高出力[KW(PS)/rpm] | 103(140)/6,000 |
最大トルク[Nm(kgm)/rpm] | 195(20)/3,000 |
最高速度[km/h] | 200 |
0-100km/h加速 | 約7秒 |
サスペンション | 前後マクファーソンストラット |
タイヤ | 205/40 ZR17 |
ホイール | 7J×17 |
ブレーキ | 前後ベンチレーテッドディスク |
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2012年 2月 13日