インプレッション

フォルクスワーゲン「ポロ・ブルーGT」

GTIとハイラインの中間に位置する「ポロ・ブルーGT」

 登場したばかりの「ゴルフ7」に話題が集中している感じだが、出来のよい弟分「ポロ」も忘れてもらっては困るとばかりに、新機種を投入した。それが「ポロ・ブルーGT」である。ポロ・ブルーGTはエコエンジンを搭載した、燃費追求型でありながらGTのネーミングからイメージできるように、GTIとハイラインの中間に位置するモデルになる。

 何といってもハイライトはエンジンで、MQBベースの最新エンジンは気筒休止システム(ACT:アクティブシリンダーマネージメント)を採用している。このシステムはエンジン回転が1400-4000rpmの間でトルクが25Nm-100Nmの領域で作動する。つまり必要とされる負荷がかかった時などは4気筒のままで走行し、コースティングなどの状況では2気筒を休止させる。作動中はメーター内に「2Cylinders」の表示がされるので状況が分かるが、それがないと気筒休止状態は分からない。

 つまり、始動は瞬時に行われるのでドライバーが気付くことはほとんどない。システムは走行条件を検知して、高速道路や市街地などで負荷がかかる時には4気筒のままで走行することになる。休止するのは2、3番シリンダーとなり、最大100㎞の走行で1Lの燃料が節約できると言う。

 さて、このポロ・ブルーGT、エンジンは1.4リッターのTSIエンジンだが、この画期的な燃費エンジンに対してさまざまなアプローチを行っている。まずエンジンそのものはアルミブロックを使用することで114㎏という軽量エンジンになっている。これは従来の鋳鉄ブロックよりも22㎏も軽い。単にアルミブロックに置き換えただけで達成できた数字ではなく、クランクシャフト、コンロッド、ピストンピン、ピストン形状も見直され軽量化が図られている。

 軽量化に貢献しているのは熱管理によるマネジメントもある。このエンジンではエキゾースマニフォールドをシリンダーヘッド内に内蔵することで冷却系を特別に設計して、負荷がかかった状態での熱効率を上げている。それによってターボチャージャーもこのクラスでは最小のシングルスクロールのターボユニットにすることができた。ちなみにインタークーラーはプラスチック成型のパイプと一体成型されており、距離が短く、レスポンスの向上に役立つ効果もある。

 このほかでも注目すべき点がある。それはカムドライブに通常はチェーンを用いることが普通だが、ポロ・ブルーGTでは久しぶりにシングルステージのコックドベルトが採用された。これまでコックドベルトで心配された寿命は、クルマのそれと同じぐらいに耐久性が向上していると言う。さらにウォーターポンプなどの補機類もブラケットなしで直接取りつけられ、こちらもコックドベルトで一体に回される。

 また、TSIの直噴の噴射圧はガソリンエンジンとしては非常に高い200barを達成しており、5穴のインジェクターノズルより微細化された燃料が噴霧される。もちろん燃焼形状は最大限の注意が払われている。可変バルブタイミングも従来は吸気側だけだったが、このエンジンでは排気側も可変とされ、低速回転でも高いトルクが期待される。

 このように、ポロ・ブルーGTのエンジンは単に気筒休止に留まらず、技術的にも高い目標を達成した新エンジンになっている。ちなみに排気量は1349ccで、GTIの1389ccとも異なり、最大出力は140PSでGTIの179PSよりも少ないが、最大トルクは250Nmと変わりがない。燃費はJC08モードで21.3㎞/Lとなり、エコカー減税75%を受けられる。組み合わされるトランスミッションは7速デュアルクラッチ「DSG」。このほかにブレーキエネルギー回生システムがポロとしては初めて採用される。

ポロ・ブルーGTが搭載する直列4気筒DOCH 1.4リッターターボエンジン。最高出力103kW(140PS)/4500-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpmで、4気筒のうち2気筒を休止させるアクティブシリンダーマネジメント(ACT)などを採用する。JC08モード燃費は21.3㎞/L

 ポロ・ブルーGTのエクステリアはGTI、あるいはR-line仕様から移植されたリアスポイラー、リアディフューザーなどが特徴的で、専用の17インチアルミホイールも識別点だ。GTとBLUEMOTIONのエンブレムですぐにそれと分かるが、GTIほどのホットバージョンではないが、ほどほどにスポーティにドレスアップされている。

 空力面では専用のアンダーボディーを採用することで改善され、さらにダンパー/スプリングもスポーツサスペンションで、車高がノーマルのポロよりも15㎜ダウンされている。

オプションのオートハイトコントロール機能付きのバイキセノンヘッドライトなどを装備。マフラーの出口は左側で、デュアルパイプになっている

現行ポロ同様、カチリとしたドライブフィール

 さて、実際のドライビングではどうだろう。試乗時間は極めて限られていたが、チョイノリで得られたフィーリングはわるいものではなかった。

 フォルクスワーゲンらしいカチリとしたボディー剛性は乗り始めて直ぐに感じられる安心感の髙いものだ。現行ポロに初めて乗った時にそのカチリとしたドライブフィールに瞠目したものだが、もちろんポロ・ブルーGTでもそれは継承されている。

 ただ、ポロはもともとドイツ流の固めのサスペンションで、乗り心地もしなやかさとはちょっと違ったよい意味での硬さがあり、それがサスペンション、ボディーとの一体感のある持ち味になっているが、ポロ・ブルーGTではさらにサスペンションが硬められているので、突き上げ感は強くなっている。

タイヤはダンロップ製「SPORT MAXX」(タイヤサイズ:215/40 R17)を装着

 装着タイヤは215/40 R17のダンロップ製で、腰のしっかりしたタイヤを履いているが、突き上げ感が強いのはサスペンションのもともとの設定のようだ。しかし路面に忠実に反応はするが、不快感がないのは車体の動きがよく制御されているからで、速度が上がってくるほどバネ上の動きは収束してくる。

 ハンドリングを十分に試す時間はなかったが、それでも日常的な速度ではスムーズで素直なハンドル追従性が楽しめ、いかにもフォルクスワーゲンらしく堅実なステアフィールだ。

 タイトコーナーでもフロントのロールはよく抑えられて、前後バランスの取れた姿勢でコーナリングする。これは左右にハンドルを切り返す場面でも同様で、ハンドルの追従遅れはほとんど感じない。レーシングスピードまで上げればまた状況は違うかもしれないが、普段遭遇するような速度域ではほぼドライバーの思いどおりに動いてくれそうだ。その際のステアリングの操舵力は少し重い程度で、手ごたえ感のある好ましいものである。

極めてスムーズな気筒休止システム

 さて気筒休止システムだが、ある条件が入ると4気筒から2気筒に切り替わる。市街地でもちょっとしたコースティングがあり、しばらくすると4気筒から2気筒に切り替わることがモニターに表示されるので分かる。つまり、モニターに表示されなければ、4気筒で走っているか、2気筒で走っているか分からないのだ。それほど4気筒と2気筒の切り替えはスムーズに行われる。さらに負荷をかけて4気筒走行に戻る時もまったく意識することなく、ショックも皆無だ。

 加速や減速を繰り返し、できる範囲で条件を作り出したが、2気筒に入るのは僅かだが空走時間が必要であるようだ。のべつまくなしで2気筒モードに入るわけでないようだが、もっとも燃費の欲しい条件で2気筒に入ることが分かった。また、ほかのポロにはまだ装着されていないアイドルストップが備わっており、交差点などで停止した時は速いタイミングでエンジンを止めに入る。再始動はちょっとショックを伴うが許容範囲である。アイドルストップは煩わしくもあるが、慣れると逆にエンジンが停止しないと物足りなくなる。そしてもちろん燃費の改善には大きな貢献をしている。

 エンジンは低速トルクがあるので、粘り感のある走りができるが、GTIのようなパンチ力は薄い。出力の絶対値よりもそのエンジンの特性に表れているように低速から立ち上ったトルク特性がポロ・ブルーGTに相応しい。ガツンとアクセルを踏んだ時も7速DSGはすぐに反応してギアダウンをして加速態勢に入るが、比較的素直な出力特性でスマートな加速をしてくれる。トルクは1250rpmほどから4000rpmまで最大トルクの250Nmを出していることから、その滑らかな加速が裏付けられる。もちろんこのクラスとしては十分すぎるほどのトルクなので、走りには余裕が感じられる。

 ギヤレシオはワイドに分散されているので、高速クルージングでは低回転での走行が可能で、燃費に貢献する。このような走行はポロ・ブルーGTの得意科目で、燃費には非常に強みを発揮する。ただしアクセルをガンガン踏むようなシチュエーションとの燃費の差は大きくなるのは過給エンジンの特性だ。またハイオク使用も前提となる。

 ポロ・ブルーGTはポロのハイラインよりもGTIに近いが、燃費とスポーツを両立させたところが魅力となっている。また、外観だけでなくカラーコーディネートされたインテリアやスポーツシートの採用、レザーのステアリングホイールなど、オーナーの心をちょっとくすぐるモノがある。気筒休止システムを初めとしたエネルギー回収システム、アイドルストップなどをエントリーモデルにも導入することで技術的なアドバンテージを築き、フォルクスワーゲン全体のブランドイメージを高めることも期待されている。

 価格は263万円、プレミアムコンパクトとしてはなかなか魅力的な価格だと思うがどうだろうか?

インテリアでは外観とカラーコーディネートしたスポーツシートや、レザーのステアリングホイールなど、オーナーの心をくすぐる装備が施される

【お詫びと訂正】記事初出時、トランスミッションの表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一