インプレッション

フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」

ゴルフのホットバージョン「GTI」

 ハッチバックセグメントの定番「ゴルフ」。その歴代ゴルフの中でも好評のゴルフ7にGTIが加わった。

 言うまでもなくGTIはゴルフのホットバージョンだが、Rシリーズのような究極のパフォーマンスを追求したものではない。FFのゴルフをベースとしたチューニングモデルなので、親しみやすく、ファン層は広がっており、過去累計で190万台のGTIが世に送り出された。初代ゴルフから生産されているので、GTIの歴史はすでに37年もの伝統がある。

 当初、フォルクスワーゲン自身もこれほどのファンを獲得できるとは思っておらず、生産も限定的だったが、ファンの声に応えて生産規模を拡大し、さらに歴代ゴルフにGTIをラインアップに加えることになった。

 新しいGTIは硬い質実剛健のイメージのあるゴルフにとって、強力なブランド力で華やかな彩を添え、GTIのファン層にはもちろん、潜在的ゴルフユーザー以外からもゴルフに振り向いてもらおうというものだ。

 エクステリアでは、先代から引き継がれたGTI専用のフロントグリルに入った赤いストライプ+ハニカム状グリル、2本出しのエキゾーストパイプですぐにGTIと分かる。さらに新型ではGTIバッヂがフロントとリアに加えてフロントフェンダーサイドにも付けられた。リアのコンビネーションランプもダークレッドのLEDになっている。

 また、標準の17インチ、オプションの18インチホイールからのぞく赤塗装が施されたブレーキキャリパーも、先代から引き継がれたGTIアイテムだ。

ゴルフ GTIのボディーサイズは4275×1800×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2635mm。車両重量は1390kg。専用バンパー、ハニカムグリル、ヘッドライトまで含めた横の赤いラインなどが特徴となっている

 インテリアですぐに目が行くのは、伝統のタータンチェックのシート生地を使ったスポーツシートとスポーツステアリングホイール、それにアルミ調のペダルだ。メーターパネルはカラーディスプレイ、そして赤のアンビニエント照明も心踊らされる。

インテリアではタータンチェックのスポーツファブリックシートや、インテリア各所に赤いステッチがあしらわれる

 エンジンはフォルクスワーゲンのモジュール戦略に則って開発された2リッターのターボエンジン。シリンダーヘッドの改良でゴルフ6のGTIよりも9PS高い220PSを発生し、さらに最大トルクでは350Nmで約25%のトルクアップとなっている。このシリンダーヘッドは吸排気可変バルブタイミングに排気側2段リフトを行い、さらに直噴と間接噴射の両方を行うデュアルインジェクションを採用する。新エンジンは出力アップを図ると同時にBLUEMOTION TECHNOLOGY(エネルギー回生、アイドルストップなど)を採用しており、燃費も歴代GTIの中でもベストの15.9㎞/L(JC08モード)を引き出した。

 新エンジンのポイントは熱管理の向上にある。排気経路の冷却をシリンダーヘッドに一体化するなどが挙げられるが、このほかに暖気運転の時間短縮システムなど、ハード/ソフトの両面で著しい技術的な進歩を果たしたのが第3世代のエンジンだ。組み合わされるトランスミッションは湿式多板の6速DSGで、こちらは先代からの踏襲になる。

ターボチャージャー付きの直列4気筒DOHC2.0リッターエンジン「EA888型」を搭載。最高出力は162kW(220PS)/4500-6200rpm、最大トルクは350Nm(35.7kgm)/1500-4400rpm

特に強大なトルクが魅力的

 テストドライブはショートサーキットと広い駐車場と限られたが、それだけに日常的なドライブでは見えにくい部分まで掘り下げてチェックすることができた。

 ショートサーキットでのドライビングは中々エキサイティングなものだった。その前に緩く走って、フィーリングをチェックする。スタートは低速トルクがあって比較的運転しやすい。DSGのスタート時のギクシャク感は多少はあるものの、スムーズには発進できたが、少なからず低速トルクの髙さも貢献していそうだ。因みに最大トルクの350Nmを1500-4400rpmで出しており、この数字はなかなかの迫力だ。

 タコメーターはそのまま加速度をつけたように跳ね上がり、6500rpmを超えようとする。こちらも鋭い加速だ。高回転まで回転のためらいがないのが嬉しいが、特に強大なトルクは魅力的。速く、乗りやすい。

 試乗車はオプションの18インチホイールを装着していたが、タイヤサイズは225/40 R18のコンチネンタル「スポーツコンタクト2」となる。GTIとのマッチングは優れており、クルマとの一体感が高い。絶対グリップもさることながら、コントロールのレベルが高い。

 ステアリングはプログレッシブギヤレシオを採用しており、センター付近は鈍く、切れ込んでいくと速いレシオに変化する。ロック・トゥ・ロックは2回転強で、ステアリングの操舵量が圧倒的に減った。これまのゴルフは3回弱だったのに対してかなり速いが、違和感はまったくない。単にギヤ比がプログレッシブになっているだけではなく、電気モーターのアシスト量が大きくなっていることからもスムーズなステアリング操作ができる。

タイヤはコンチネンタル「スポーツコンタクト2」(サイズ:225/40 R18)を装着

 ステアリングの切り始めは過敏な反応はしないが、もう少し切りたいときにスパッと切り込んでくれるので、ハンドルの操作量は減っている。ただし、ドライビングのセオリーに則らずに切りすぎるとアンダーステアが顔を出すので、ドライバーは機械任せで強引なことはやってはいけない。

 シャシーはフロント:ストラット、リア:マルチリンクで、GTI専用のスポーツサスペンションとなっており、バネ、ダンパーともにキュッと引き締められている。さらにフロントはロアーアームの硬度を上げたり、軽量化のために中空のスタビライザーが使われていたりする。リアはタイロッドベアリングの強化などで横剛性を向上させている。サスペンション重量は前後で5.6㎏軽量化。この効果は大きく硬い! という印象は薄く、フォルクスワーゲンらしく接地感の髙さと路面追従性の髙さは失われておらず、ギャップ等の乗り越し性もよい。きちんとアシが動いている印象だ。

 GTIにはESC Sport機能が追加される。これまでのESCのON/OFFスイッチに代わるもので、ESCスイッチをチョイ押しをするとトラクションコントロールが切れ、長押しするとESCはより作動が緩くなるSportモードに入る。ECSを完全に切るにはメニューから選択することになる。

 しかしESC Sportはかなりハードに乗り込んでも作動が的確で、スポーツドライビングでも走行の邪魔はしない。サポートのよいシートに体をホールドしてもらいドライビングセオリーに則って走らせている限りは、ターンインからコーナーの立ち上がりまで、スムーズにノーズが入り、またトラクションがかかる。さらにホイールスピン寸前のトラクションを欲する時にはESCをカットしたほうがベターだが、この新世代ESCはスポーツドライビングにはなかなか使い易い。

 また、XDS(電子制御ディファレンシャルロック)はゴルフ7のGTIで進化バージョンとしてXDS+になっている。これはESCを統合制御したもので、コーナリング中のイン側タイヤの接地状況を判断して、イン側だけにブレーキを掛けることでアンダーステアを抑え込み、トラクションを確保する。このシステムとESCのコンビネーションでドライバーはかなりイージーなスポーツドライビングが可能だ。

 XDS+は制動状態でない限りは常にスタンバイして作動を開始する。顕著に感じるのはコーナーの立ち上がりで、アクセルをワンタイミング早く開けても有効なトラクションがかかり、GTIはグイグイ加速する。

 もう1つGTIには第2世代のDCC(アダプティブ・シャシー・コントロール)をオプション装備できる。DCCではエコ、スポーツ、ノーマル、インディビジュアル、コンフォートが選択でき、これらはホイールのポジションセンサー、加速度センサーなどから情報を得て最適セッティングをするが、特にコンフォートではスポーティでありながらダンパー制御を緩めることで、ゆったりとした乗り心地を設定できるとしている。

 サーキットでは強力なブレーキも頼りになる。フロントの重いFFではサーキットのような急制動ではブレーキの負担が大きいが、GTIでは安定した制動力を発揮する。限界があるのでむやみに踏んでもブレーキに負担がかかるだけだが、ちょっと無理をさせたぐらいではまったく動じないのは心強い。

 6速のDSGはパドルシフトも可能だが、Dレンジに放り込んで走らせた方がドライビングに集中でき好ましい。変速も非常に巧みに行ってくれる。

日常でストレスなく使え、サーキットでも痛快に走れるGTIの魅力

 舞台をサーキットから広い駐車場に移し、そこに設定されている緊急回避のセクションやハンドリングセクションで再度GTIの実力を試したが、緊急回避では俊敏な回頭性とシャシー性能の限界の髙さを確認できた。ESCの介入もライントレース性を損なわず、速い速度で障害物を回避できる。これにはプログレッシブステアリングの効果が高いことが知れる。

 ハンドリングコースではスラロームなどでの安定性の髙さを確認することができ、さらに大きなS字でもステアリング追従性の髙さを楽しめた。回り込むコーナーではさすがにアクセルを無暗に踏むとフロントタイヤが悲鳴を上げるが、適度なトラクションを掛けた状態ではFFとは思えない程スムーズなライントレース性をみせる。ロールも適度で姿勢安定性は高い。

 GTIの伝統である軽快かつ高い安定性の両立は新型GTIではさらに磨きがかかって完成度は高まっている。完成度が高まると退屈なクルマになるケースもあるが、GTIはワクワクする楽しさを継承しており、日常もストレスなく使え、サーキットでも痛快に走れる。

 衝突安全などはノーマルのゴルフから継承しており、低速での追突軽減ブレーキ、30㎞/h以下の衝突軽減ブレーキ、30~160㎞/hでのクルーズコントロール(車両停止までコントロールする)、レーンキープアシストなどを選択できる。

 さて価格は369万円。オプションを装備していくと400万円を軽く超えるが、本体価格としてはパフォーマンスと装備からすればリーズナブルと思うがいかがだろう?

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一