ニュース

ジウジアーロとデ シルヴァが参加した新型「ゴルフ」発表会

歴代ゴルフとオーナーも国立代々木競技場に集合

フォルクスワーゲン AG グループ デザイン責任者のワルター デ シルヴァ氏(左)と、初代ゴルフをデザインしたジョルジェット・ジウジアーロ氏(右)
2013年5月20日開催

 フォルクスワーゲン グループ ジャパンは5月20日、同日発表となった新型「ゴルフ」の発表会を 国立代々木競技場 第一体育館で開催した。初代ゴルフの開発者であるジョルジェット・ジウジアーロ氏、今回発表した7代目となる新型ゴルフの開発を担当したワルター デ シルヴァ氏が登場、デザインについて語るトークセッションを行うなど、ゴルフの開発のバックグラウンドをより深く知ることのできた発表会となった。

国立代々木競技場 第一体育館前には、歴代ゴルフが並べられた
会場内には歴代モデルオーナーが車両を持ち込み、初代から新型までを比べて見ることができるようになっていた。発表会の招待者は報道関係者のほか、車両オーナー、先行受注車を予約したオーナーや美術学校生など

MQBを採用「先代モデルと1つとして同じパーツがないと言ってよい」

新型ゴルフを説明するフォルクスワーゲン グループ ジャパン代表取締役社長の庄司茂氏
ゴルフの伝統と実績

 発表会では、最初に代表取締役社長の庄司茂氏が登壇した。庄司氏はゴルフがモデル別登録台数で25年間、ナンバー1を獲得していることから“トップランナー”と評価、ナンバー1の理由を「ゴルフがゴルフであることを頑なに守り続けていること。そして、常に絶え間ない革新を続けてきたこと。伝統と革新がゴルフの真髄。そして、多くの人々に常に最高のモビリティを提供する、これこそが、フォルクスワーゲン、そして、ゴルフの伝統」と説明した。

 また、新型のスタリングを「先代とあまり変わってないと思う方がいるが、このスタイルこそがゴルフ。実は先代モデルと1つとして同じパーツがないと言ってよいほど。ゴルフの名は受け継いだが、全く新しい作り方を取り入れた」と語り、外見よりも中身が大きく進化している点を訴えた。

安全装備を充実させるも、価格は低下

MQBの採用と、安全装備が新型の特徴
2012年、ゴルフの購入トレンドと満足度
全車エコカー減税対象
価格は従来型よりもダウン
マーケティング本部長の正本嘉宏氏

 続いて、マーケティング本部長の正本嘉宏氏が登壇、MQBについて、さらにコンパクトな「ポロ」から上級セダンの「パサート」まですべてのクルマを同じモジュールを組み合わせて作ることができるとし、MQBを初採用した新型ゴルフを「これまでパサートクラスでしか実現しない品質や先進装備をまとった名実ともにクラスレスのクルマ」と説明した。

 正本氏は新型ゴルフの仕様について説明、1.4リッターエンジンの気筒休止システムの採用、1.2リッターエンジンのDOHC化、安全装備の充実などの特徴を挙げた。

 そのうち、安全装備についても説明、安全性には一切妥協しないとした上で、レーダーで前車との距離を検知して危険を予測し減速や停止を行うプリクラッッシュブレーキシステム“Front Assist Plus”、追突事故発生の場合に自動でブレーキをかけて二重衝突を防ぐマルチコリジョンブレーキ、急ブレーキや極端なオーバー/アンダーステアを検知してシートベルトのテンションを高めたりパワーウインドーを閉めるプロアクティブ・オキュパント・プロテクションを全車標準装備とした点を特に強調した。

 また、価格についても言及、全車がエコカー減税制度対象で、自動車取得税、自動車重量税が100%減税となる点、さらに今回発表の3グレードともに安全装備を充実させながら従来型よりも低価格化を図った点も強調、「閉塞感のある日本の自動車マーケットに一石を投じたいと考えているので、期待してほしい」と話した。

 なお、正本氏よれば、現在のところ受注状況は好調。納期については販売店や販売会社の発注状況によるとしながらも、現時点ではそれほど時間がかかるわけではないとしている。

ゴルフはCピラーなど、これまでのフォルム言語を踏襲

フォルクスワーゲン AG グループ デザイン責任者のワルター デ シルヴァ氏が登壇

 デザイン面については、フォルクスワーゲン AG グループ デザイン責任者のワルター デ シルヴァ氏が語った。ゴルフのデザインの特徴は「歴代のゴルフとの間で、アイデンティティとフォルムの一貫性をもたせることが、意表を付くような外見を作るよりも重要である」とし、毎回のモデルチェンジごとに違ったものを提案している他のクルマとは違うことを強調した。

 その上で、ゴルフのデザインのフォルム言語として「強靭なCピラー」「美しいボディーパネル」などを挙げ、ジウジアーロ氏が製作した初代ゴルフから、デ シルヴァ氏による新型までデザインを踏襲しているとした。

 デ シルヴァ氏による新型ゴルフのデザインは機能性に合わせて作られ、特徴はフロントライン、機能性を追求したエアーインテーク形状を挙げた。

展示された新型ゴルフ

●TSI ハイライン

TSIコンフォートライン

ジウジアーロ氏を交えたトークセッション

元アウディのデザイナーでSWdesign TOKYO代表の和田智氏(左)の司会でトークセッションが進行した
ジョルジェット・ジウジアーロ氏
フォルクスワーゲン AG グループ デザイン責任者のワルター デ シルヴァ氏

 発表会では、ジョルジェット・ジウジアーロ氏、ワルター デ シルヴァ氏によるトークセッションも行われた。自動車デザイン界の重鎮である両氏から話しを引き出すのは、かつてアウディに在籍し、デ シルヴァ氏のもとでアウディA6などをデザインした和田智氏。発表会場には美術学校の学生も招待されており、そういった未来のカーデザイナーたちにエールを送るような流れで進められた。

 ジウジアーロ氏は初代ゴルフのデザインをした際「1日に一定の台数を作ることができ、価格的経済性をもったデザイン」と実用性を重視したことを明かし、新型ゴルフについては「代々に渡って元々の考え方が受け継がれていき、テクノロジー的に大きな進化を遂げていると思う」と語った。

 デ シルヴァ氏はそれに対し「ゴルフは文化。世界を見回してもポルシェ911のほかに40年以上、デザイン的なアイデンティティを引き継いでいるクルマはない」と語った。

 和田氏はアウディ在籍時代に「売れるようなデザインをしろと一回も言われたことがない。ただ、美しさに対する執着心だけは忘れるな」とデ シルヴァ氏に教えられたことを話し、「美」とは何かを両氏に聞いた。

 デ シルヴァ氏は「私にとって美しさとは、世界をよくするもの。私たちみんな美しいものが欲しいですよね。そして、美とは倫理でもあり、美とは正しいプロポーションを持つということでもある。私たちは世界をよくしていく努めがある。それに対して美は大きく貢献ができる。街の中に建物があるが、きちんと計画されたものは美しい。美というのは、数学的なものだと言いたい。1ミリメーター変わることで美しさが生まれたり生まれなかったりすると覚えておいてほしい」と語った。

 ジウジアーロ氏は「日本には素晴らしいものがある。着物、建物、ライフスタイル。本当に美的センスにあふれた中で生活していると思い、ヨーロッパからも日本の文化的側面に対し、尊敬の念を持っている。だから、日本の和田さんから“美しさとは何か?”という質問を聞くこと自体が、困惑してしまうくらい。みなさんの中にも美はあると思う」と日本にエールを送った。

 ジウジアーロ氏はさらに続け「日本のクルマに言われているのはアメリカ車のボディーが小さくなったもので、美的感覚はアメリカの真似をしているんじゃないかと言うこと。しかし、日本とヨーロッパ、小さい国々同士で共通したことがたくさんある。細かいところに注意してデザインすることは日本とヨーロッパの共通点。ヨーロッパでは大きな工場で荒っぽい作り方をしていたが、日本は“ジャスト・イン・タイム”という考え方で改良したように、よいものを作るベースがある。だから、みなさんの中に持っているものをベースにしていれば、自然と、美しいもの、しっかりしたものが作れると思う」と語った。

 デ シルヴァ氏は「若い自動車業界で働く人たちに言いたいのは、適正な形で仕事をしていけば、後ろを振り返る必要はない。トレンドを追いかけることもない。デザインは6年から7年くらいは続かなければならない。それは、作る側にとっても使う側にとっても必要なことで、数カ月で関心が薄れてしまうようなものを作るのは間違い」と付け加えた。

 また、和田氏は、両氏に最も影響を受けた1台を挙げてくれと問うとデ シルヴァ氏は「それはシトロエンDS19だ」と即答、その理由として「デザインというのはいろいろな要素を含み、いろいろなものを含めた“全体”で、当時誰かが勇気を持った」とDSが登場した当時の背景を想像、「全体的に統合的なクルマができる今では達し得ないクルマで、私の研究対象」と絶賛した。

トークセッションの3人と庄司社長でフォトセッション

 ジウジアーロ氏も「DSのスタイルは、デザインをインダストリアルに近づけたと言える」とし、「あのクルマに関しては、真似することのできない唯一無二の存在。モダンで、それまで存在しなかったもの。ビートルやゴルフのように世界的に台数が売れたクルマではなかったが、デ シルヴァ氏が選んだのは偶然ではなく、私も選べと言われれば、DSを選んだ」とDSの感想を述べた。

展示された歴代ゴルフ

初代ゴルフ
2代目ゴルフ
3代目ゴルフ
4代目ゴルフ
5代目ゴルフ
6代目ゴルフ

(正田拓也)