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フォルクスワーゲングループジャパン社長に7世代目「ゴルフ」について聞く

ぶっちゃけ“なんとか300万円切れよ!”と指示したTSIハイライン

299万円の価格設定となった、上級グレード「ゴルフ TSIハイライン」

 5月20日にフルモデルチェンジが発表された新型「ゴルフ」。発売は6月25日からとなるが、その戦略的ともいえる価格が話題となっている。新型ゴルフ発表会後、フォルクスワーゲングループジャパン 庄司茂 代表取締役社長および同社主要メンバーと、報道陣の間でインタビューが行われた。その主なやりとりを紹介する。

フォルクスワーゲン グループ ジャパン 庄司茂 代表取締役社長
正本嘉宏 マーケティング本部長(右)、神戸誠 営業本部長(中央)も出席して行われた

──価格設定が戦略的で、円安にもかかわらずなぜ価格を下げてきたのか? MQBプラットフォームの採用は影響しているか?
庄司社長:輸入車の価格設定は難しい時期で、低くすれば多く売れるわけでもない。微妙な舵取りが大事な時期と思っています。特に、前モデルから何円下げると意識したのではなく、いちばん反応の良い価格帯にぶつけることができるかを考えました。上級のTSIハイラインで、見え方の良い価格設定をしたかったのです。

 実は昨年発売の「up!」もそうで、最低価格は149万円でしたが、最初に売れたの180万円台の上級グレード。なのでTSIハイラインの299万円は、我々として考えに考えぬいた値段。前モデルからの値下げというより、お客様がいちばん反応しやすい価格を意識しました。

 MQBが価格に影響しているかは微妙なところですが、イエスかノーで問われれば“イエス”。ただ「MQBで価格低減が実現」という単純なものでなく、いろんな車種で共有し、長いスパンで低減できるという話。むしろ、イニシャルはお金がかかっています。

──MQBの顧客側のメリットは何か?
庄司社長:MQBは高級車でも使ってるものを共有化することで、みんなが使えるようにする。という考え方。それをコストダウンと呼べばそうですが。高級車用の部品を“民主化”するようなイメージ。単なるコストダウンのイメージではないです。

正本マーケティング本部長:今回で言うと、今までなかった装備が標準化されてるのは目に見えるメリット。さらにボディーの軽量化で環境性能が上がります。軽くなったがボディが弱くなったのではなく、よくなっているのは乗れば分かっていただける。

 コストダウンは見えないものを外す、というイメージが多いですが、MQBは、全体でどう効率化していくかということ。結果的にスケールメリットも含めてコストが下がるが、クオリティは下がらない。よりいいものがリーズナブルに、多くのお客様に提供できるようになるということです。

──燃費については新型ゴルフはどうでしょう
正本マーケティング本部長:カタログ燃費と実燃費が乖離している。国産の燃費がいいクルマほど。3割~4割減はあたりまえです。我々もエコカー減税にも関わってくるのでカタログ燃費のこだわりがあるのは事実ですが、実燃費という本当のベネフィットがどれだけ提供ができるのかを重点を置いています。

 今後は、内燃機関のさらなる改良、ガソリンだけでなく、ディーゼルも含めて、さらなる追求を図っていくと同時に、PHVとか電気自動車とか国産車さんのお家芸にもできるだけ早く対応していきたいと考えています。

──今回の価格設定はハイエンドクラスで300万円を切っている、それを第一に考えたのか?
庄司社長:ぶっちゃけの話ですが、確かに“なんとか300万円切れよ”とは指示しました。悩んだ末、なんとか実現した。僕から見れば、そこは“299”とかにしようってなるわけです。

正本は「うちのお客さんは99って数字で響くわけないじゃない」と言いましたが、議論した結果、正本が折れた。フォルクスワーゲンもベタな営業の会社になっているんですよ(笑)。

正本マーケティング本部長:ハイエンドを300万円を切るようにしたもそうですが、ベースグレードはあれだけ安全装備を充実させて250万円を切るのも重要なことです。

──-販売上の競合車は何を想定しているか
庄司社長:メルセデス・ベンツのAクラスが競合として当たりそうですが、販売店では思ってるほど事例がなく、BMW派、メルセデス派、フォルクスワーゲン派に分かれていているんじゃないかと思います。

 その一方で価格帯が合ってるのかトヨタ プリウスと競合したとの声は出てくる。プリウスとは予算的に合うのと、プリウスを買おうという方の考え方がゴルフと似ていて、ついでにゴルフも見てみようと思っているのではないでしょうか。

正本マーケティング本部長:Aクラス、ボルボ V40は、彼らとしてはゴルフのお客様を狙って価格、装備を設定してきているので、注意はしないといけないです。でも、輸入車ばかり狙っていても、ゴールにたどりつかない。直接の競合という言い方ではないですが、プリウスなどを検討になる方に、ちょっとでもゴルフも見ていただける活動をしていきたい。

──装備も充実、価格もキャッチー、その結果、ゴルフの客層が変わってくるのでは?
正本マーケティング本部長:コアのユーザーは変わらないが、今まで、国産車にお乗りの方にフォーカスを当てたことはなく、そのまわりを広げていくようなアプローチをとっていく。足クルマではなくクルマに対して思いを持っている人。乗ることが好きで、自分の生活をクルマで彩りたいというポジティブな考えもってる方へ、アプローチしたいと考えている。

庄司社長:個人的には女性に買っていただきたい。女性に乗ってもらいたい。なぜなら、安全装備が充実して乗ってて安心なクルマだから。こんな安心なクルマはなかなかない。ただ、ピンクのボディーカラー設定はない(笑)

──国産車と競合する上で、新型ゴルフの具体的なウリなどは?
庄司社長:いろいろやって分かったのは、ぼくらは知ってると思っていたことが、一般の方には知られてないことです。輸入車って、フォルクスワーゲンって、知られていない。up!の展示会でも「小さいゴルフってあるんだね」と言われるくらい。そういう状態なので、ウリは何かと言う以前に、まずは触ってもらう、表に出て行ってご挨拶っということからやってみたい。

 価格のことも一般の方はご存知ない。輸入車っていくらか言えない。ぼくらからすれば、BMWの人気車種といえば400万円からと分かるし、ゴルフは200万円台の後半から300万円と分かるが、一般はそうではないです。そんな状態なので、地道な宣伝活動の余地が残ってると思います。

正本マーケティング本部長:燃費の点では、ユーザーが燃費を登録した「e燃費」で実際が分かる。しかし、このデータはお客様からアクセスして知ることのできる情報。アクセスをしてもらうまでの活動が必要。フォルクスワーゲンを知ってるブランドから、気になるブランドへ。変えていく活動を強化していく。

──フォルクスワーゲンの入門車種はゴルフというイメージから、ポロ、up!が台頭してきて変わってきてるのか?
庄司社長:そういう実感はない。お客様の認知があって、変わってくる話なので、今までの話のようにそこまでいってない。

──都市部では、国産メーカーはインポーターと競争が激化した話を聞くが、地方は軽自動車を含めて国産に優位性がある。地方を含めてどのような展開をするのか?
庄司社長:現在約250店舗。スバルさんが490店舗だそうで、それに向かって近づこうとしている。地方での地道な活動はしています。ショッピングモールでイベントをやったりとか、駅ナカでイベントをやったりと、輸入車とは思えない地味なことをやってる(笑)。

 それが意外とじわっと効果がある。ある時期、青森県の輸入車の中でのフォルクスワーゲンのシェアが4割いったこともある。地味な作業は効くことが分かったので、これからもやっていきたいと考えている。

──アベノミクスはフォルクスワーゲンと国内の輸入車市場に影響は?
庄司社長:アベノミクス……期待はしたいが期待したわりにグっとこない感じです。現在の輸入車市場は母数が小さく、景気の左右よりもモデルの投入によって変動しているのではないでしょうか。乗用車の総市場が少し落ちるという傾向からすれば、輸入車市場は逆行している。でも、アベノミクスの影響かというと、直接は結びつかない。

──輸入車のシェアが高まってる背景で、こういうことをしたからシェアがアップしたとか、そういう話はないか?
庄司社長:メーカーの立場から見ると車種を増やしてます。うちで言えばポロ、up!。BMWでは1シリーズ、メルセデス・ベンツも使いやすいAクラス、一般のお客様が興味を持てる車種が増えています。

 さらに、一般の方の外国製品に対する心理的バリアが下がってる、クルマの業界だけでなく、例えば携帯電話。前はパナソニックやNECが主だったのが、サムスンがあり、iPhoneのアップルがあり、輸入物ばかり。それで輸入ものに対する拒絶感はじわじわ下がってる。その両方があって、少しずつ、シェアが上がってるんじゃないでしょうか。

──現在の販売台数はプリウスから比べれば10分の1くらい。量的にどれくらいまでくれば国産と競合できたと考えますか?
庄司社長:確かにプリウスの10分の1で、その点は販売店に「こんなんじゃないだろ」って叱咤激励し続けています。そうは言っても、これだけ国産のブランドが強い日本では限界がある。自分は自動車の販売をいろいろな国で行なってきたが、目安としてみたいのは、1980年代に日本車がアメリカをひととおり攻略し終わって、ヨーロッパに行ったときのこと。

 当時、自分はマツダ車の販売を担当し、ドイツで日本ブランドNo.1だった。ドイツで面白い現象があって。マツダ、トヨタ、日産、ホンダの合計シェアが10%を超えたときに現地の国産車、つまりフォルクスワーゲン、オペル、フォードの攻勢が始まった。日本でも10%を超えるようなことがあれば、攻勢が始まってハードルになる。10%というのは、こちらは頑張りたいし、相手は目障りになるレベルと思うからです。

──ゴルフの場合、どこまで販売実績ができたら、ひとつの目標を達成したということになりますか?
庄司社長:ヤナセが輸入していた時代を含めると、最高が年間3万8000台弱なんです。これは超えたい。まだ、そこには届かなくて、下からスカイツリー見上げるくらい(笑)。ですが、過去にヤナセが実現できたことなので頑張っていきたい。今回の7世代目のゴルフなら、十分頑張れるのではないかと思っています。

(正田拓也)