インタビュー

日産「アリア」に込められた“Japanese DNA”をデザイン部マネージャー山崎氏に聞く

目指したのは、新たなジャンルを切り開くような存在のクルマ

日産アリア デザインスケッチ(日産提供)

 日産からフルEVのSUV「アリア」が発表された。“人々の生活を豊かに”という日産のビジョンを体現し、自社のコアとなる強みに集中する事業構造改革「Nissan NEXT」を推進する最新の技術とデザインを採用しているというので、早速エクステリアを担当した日産デザイン部マネージャーの山崎一樹氏に話を聞いてみた。

デザインスケッチ(日産提供)

新しい日産を背負う次世代のクルマ

――初めに山崎さんがアリアの担当デザイナーに就任された時、会社からどのようなオーダーがあったのでしょうか。

山崎氏:純粋に新しい日産の四駆を作るということでした。今となってみれば日産を背負って立つ次世代のクルマということです。そこで一言でいうと「今までの既存のクルマではない、新たなジャンルを切り開くような存在のクルマ」を目指してデザインしました。

――山崎さんとしてはどんな気持ちでデザインに臨んだのでしょう。

山崎氏:私は25年くらいカーデザインをやっています。このアリアのデザインを手がけたのは今から3年くらい前で、その頃感じていたのは「エクステリアデザインは割とどのメーカーも同じようなクルマを作っているな」ということでした。昔は国ごと、メーカーごとにキャラクターがありました。そのクルマを見ただけでその国のイメージが浮かび上がるような、各ブランドで非常に個性的なクルマを作っていたのです。しかし今はどこのメーカーだっけ? と思えていましたので、ここで日産としては何ができるかなと思いました。

 日産はチャレンジャブルなメーカーです。十数年前に初代「FX」や「ムラーノ」など時代にエポックなSUVを出していました。その日産のアドバンテージ、日産ならではのチャレンジャブルな商品が最近少ないなと思っていたので、このプロジェクトはいけるのではないか、そういう表現ができるのではないかと、非常にテンションが上がりました。

 そこで、新たなジャンルを切り開くような存在のクルマを作れたらなと思い、このプロジェクトに挑んだのです。

――実際にどうでしたか。

山崎氏:すごく上手くいったと思います。

デザインスケッチ(日産提供)

Japanese DNAはEVに相応しい

――外装のデザインのコンセプトはどういうものですか。

山崎氏:日産デザインは「Timeless Japanese Futurism」というベースの考え方があるのですが、これはアリアと共に発展してきたと思っています。アリアも結果的にグリルが組子のパターンを取り入れていますが、それはダイレクトに日本文化からインスパイアされてデザインしたものです。しかし最初のプロポーザルではそういったものは入っておらず、日本という表現がないアプローチもいくつかありました。

 ただし案のひとつとして、Japanese DNAにこだわったプロポーザルがあったのです。その時にこれは少し新しいのではないか、次世代のEVとして表現したいことがリンクするということから、Japaneseというキーワードが絞り込まれブラッシュアップされていったのです。

デザインスケッチ(日産提供)

――フロントまわりの組子の話が出ましたが、このような直接的なアプローチではなく、クルマ全体として日本的なものを感じさせたいと思ってデザインを手掛けていると思うのですが、そこはどうでしょう。

山崎氏:まさにその通りで、ディテールもそうなのですが、クルマ全体の骨格などからもJapanese DNAを感じさせるデザインをしています。

 例えばJapanese DNAはすごくシンプルでダイレクト、かつ心地いいデザインだと思っています。エクステリアをデザインするとき、僕はスケッチを何百枚も書くのですが、これはデザインテーマを探すと共に、形の純粋さをブラッシュアップしていく作業でもあります。従ってどれだけ形を純粋にできるかをキーワードにしていて、このアリアはEVですからいつもより作業を費やしたところでもあります。

 単純にいうと、シンプルということです。このアリアのデザインで垣間見られるのが、ボディサイドのキャラクターがフロントからサイドリアへ抜けて1本のオーバルで繋ぐことができることでしょう。その軸上にヘッドライト、グリル、リアコンビランプなどのすべての機能を集約している。その結果、1つ軸を通してシンプルにできているのです。それがこのアリアの1つのキーだと思っています。

 これは最初からやりたかったことで、しかも非常に薄いヘッドライトとリアコンビランプでテクノロジー感も表現しています。そこは最初から一貫してぶれずに、デザインのNGも出ず(笑)、通せたところですから、純粋なデザインだといえます。

 リアコンビランプも非常に薄くて1本だけ基線がパシッと通っています。それにプラスして、下の方にパターンを散りばめているのですが、これはグリルと同じで組子のような日本的なパターンからインスパイアされています。これらはインテリアの照明で行灯や人を迎え入れるような優しい光とかを用いていることにも通じているのです。

 こういったランプ類は機能品です。ただしそこに優しさや心地よさがあると、やはり今までの単なる機能的なランプとは意味が変わってきます。そういったことはインテリアとエクステリアでやっていることは近く、しかもJapanese DNAから発信している表現なのです。

たおやかな面構成

――フロントの組子細工の部分もグラデーションのように描かれていますね。

山崎氏:このパターンは昔の職人の高度に熟練した技からリスペクトしています。とにかく精密な作り込みをデザインで表現することによって、テクノロジー感まで表現できると思っているのです。つまりEVらしさとともに、この組子のパターンは根本的につながっているわけです。こだわった精緻な作りをすること、イコールテクノロジーを表現できるのです。

――サイドのキャラクターラインの上の面と下の面とで綺麗にコントラストがついていて面で勝負しようというのが伝わってきますね。

山崎氏:その通りです。あくまでもキャラクターラインは結果的に入れた軸の話であり、それよりも大事なのはサーフェイスなのです。しかもこのサーフェイスは普通のガソリン車では扱わない非常にナチュラルでピュアな面に仕上げています。クルマが走るとリフレクションが流れていく。その時にスピードシェイプのようにバンバン流れてスピードを感じさせるのではなく、ゆったりとたおやかに流れていく。その様がEVの滑らかな走りにリンクして、EVらしさをより表現したサーフェイスになっているのです。

 本当にこの面を作るのは大変でした。単位を大きくすることでシンプルにしたかった。つまりその面の面積を広げたかったのです。ただし、面が大きくなるとのっぺりと単調になってしまいがちなのですが、リフレクションにこだわった面を作ったことによって、凝縮感が与えられて充実しながらも大胆なシェイプになったと思っています。

――ドアハンドルの下あたりからリアホイールに向けて下がりながら、かつ膨らんでいく面がありますね。

山崎氏:リアフェンダーに入っている塊をきちんと表現しようとしています。このクルマはフロントの日産の新しいブランドロゴからすべての形が発生しています。そこ(フロントのブランドロゴ)を起点にボディサイドに非常に強くて大胆な骨、塊がリアフェンダーに向かってグッと入っているイメージです。内側にちゃんとストラクチャーがあるような構造をしているので、ただのゆらゆらした面ではなく、艶やかでありながらしっかりと見えるところをキーとしてデザインしています。

アーチ形のキャビンが一目でわかるように

――Cピラーまわりの処理も興味深いですね。通常ですとCピラーはリアホイールに落とし込みたくなりますが、後ろに逃がしています。

山崎氏:最近のクルマはフローティングCピラー、羽のように蹴り上がって途中で加飾などで切れている表現が多いですね。しかしこれは単にグラフィックでしかなく、塊表現ではないと思っています。アリアではそうではなく、キャビンの美しさをより主張したいと、SUVにしてはものすごくクーペイッシュで綺麗なキャビンを残しました。それを第一に印象的に見せたいのです。

 そこでサイドウインドウの上に1本のフィニッシャーを象徴的につけることで、アーチキャビンがひと目でシンプルに分かるようにしています。そうしたことによって、Dピラー(1番後ろ側のピラー)はデザインする必要がなくなりました。つまりキャビンのフォルムをまず見せることを優先したことによって他の要素が必要なくなりましたので、これもシンプルな表現の1つです。その辺りでも新しさが表現できたかなと思っています。

 また、ピラーとタイヤを関連させて力を伝えたくなるものですが、アリアは、アッパーボディとロアボディの2つの塊で構成されていて、リアドア周りの面でリアホイールオープニングに力を込めた塊がドカンときています。それで強さは完結表現できているのです。後はアッパーのクーペイッシュなキャビンをさらりと載せたかった。そういった意味で、軽さを表現することからピラーでの表現は必要ではなかったのです。

――フロントまわりの力強さも印象的ですね。

山崎氏:フロントはインバース面がサイドに向かって非常に大胆に3次元的に捻れて流れており、その動きで全体を表現しています。その面に、新しい日産のVモーションシグネチャーを添えています。どうしてもシグネチャーはVの字などグラフィックで語られがちですが、そうではなく、立体が動きをともないながら、そこにグラフィックがさらに加わることによって、より象徴的で新しい顔ができたと思っています。

 シールド(フロント中央の組子が組まれている部分)は、リーフから発展しています。日産ならではのクリスタルな表現で組子を表しており、新しさと日産の顔をさらに強くアピールしているポイントです。

――Vモーションはクルマによって微妙に変えているのですね。

山崎氏:ボディ形状はクルマごとに違います。それに日産のVシグネチャーをビルトインしていく時に、いかにボディとVモーションのグラフィックを関連させるかはひとつのチャレンジです。ただ単に平面にグラフィックを乗せるだけでは既に表現としては時代遅れ。そういった意味で、アリアは大胆な形とグラフィックが上手くマッチングして、クルマ全体、顔全体でVモーションを表現していることが上手くいった点だと思っています。

――最後にアピールをお願いします。

山崎氏:このクルマはすべてがチャレンジでした。今までにない表現の集大成みたいな感じですね。エンジニアなどといろいろやりましたが、みんな新しい日産を作るという気合が根底にあるので、オーダーを出してもほとんどノーといわずにチャレンジしてくれました。そういうことも含めて私としても純粋にデザインだけではなく、このクルマを作り上げた皆の努力の結晶がよい形のアウトプットにつながった自信作になってるのです。