インタビュー

パナソニックの新カーナビ「ストラーダ」2020年モデル、10V型有機ELディスプレイ&フローティング構造について開発陣に聞く

「液晶とは画質が全く異次元」

2020年10月中旬 発売

オープンプライス

「ストラーダ」の10V型有機ELディスプレイ搭載モデルが10月中旬に発売

 パナソニック オートモーティブ社は9月2日、10月中旬に発売するSDカーナビステーション「ストラーダ」の10V型有機ELディスプレイ搭載モデル「CN-F1X10BLD」「CN-F1X10LD」、9V型WVGAディスプレイ搭載モデル「CN-F1D9VD」をはじめとする新製品発表会をオンラインで開催するとともに、パナソニックセンター東京 有明スタジオで内覧会を実施した。

「CN-F1X10BLD」「CN-F1X10LD」の2機種は“F1X プレミアム10”との愛称が付けられ、色域が広く、色再現性の高い有機ELパネルを採用したことがトピックの1つで、さらに新車にも既販売車にも対応し、業界最多となる430車種以上に10V型の大画面が装着できること、Blu-rayなどの映像メディアもオプションカメラもHD高画質で表示可能なことが特徴として挙げられている。

 今回採用された自発光方式の有機ELパネルは「CN-F1X10BLD」「CN-F1X10LD」に向けて開発されたもので、コントラスト比が高く、映像の基礎となる黒色を黒浮き(バックライトによる光漏れ)なく再現。明暗が混在するシーンも明部と暗部をそれぞれクッキリと表現するという。

 この有機ELパネルの採用に伴い、ディスプレイ部は厚さ約4.7mmという驚きの薄さに仕上げられたほか、外装フレームには軽量で高剛性なマグネシウムダイカストを採用し、内部にハニカム構造を設けることで軽量化と強度確保の両立を図っている。ディスプレイ部の重量は従来モデル(2019年モデルのCN-F1X10BD/F1X10D[10V型])から約30%減となる約0.7kgを実現した。

 また、画面の反射を抑制することで、前後の揺れからくるディスプレイのチラつき感を抑制するとともに、カーナビセット全体の軽量化とディスプレイ保持部の剛性の向上により、上下の揺れを抑制して耐振動性を高めることに成功している。

“F1Xプレミアム10”では有機ELパネルの採用をはじめ、430車種以上に10V型の大画面が装着できること、オプションカメラもHD高画質で表示可能なことなどが特徴として挙げられている

 そのほか、ディスプレイの上下スライド、前後チルト、奥行き調整(取付時のみ)に加え、左右各々15度のスイング機能を搭載しており、ディスプレイの角度を好みに調整できるのもポイントの1つになっている。

 今回はこれら“F1X PREMIUM10”の特徴について、内覧会でパナソニック オートモーティブ社 インフォテインメントシステムズ事業部 市販・用品ビジネスユニット長の荻島亮一氏、市販事業推進部 商品企画課 課長の坂本佳隆氏に話を聞くことができたので、その模様をお伝えする。

画質が全く異次元

パナソニック株式会社 オートモーティブ社 インフォテインメントシステムズ事業部 市販・用品ビジネスユニット ビジネスユニット長 荻島亮一氏

――今回有機ELパネルを採用したということで、製品化した理由や背景、また有機ELの特徴について教えてください。

荻島氏:今回の一番のポイントは有機ELパネルの採用と思っていまして、有機ELパネルはこれまで車載として搭載されていませんでした。テレビやスマートフォンでは一般的になっているのになぜかというと、車内の温度(高温になる)という点で非常に厳しいものがあるため使えなかったというのが挙げられます。これに対してしっかりと品質的な担保ができたことが大きいです。

 では、そもそもなぜ有機ELなのかというところですが、やはり見た目の映像美が液晶とは全く違います。2019年モデルの10V型もかなりきれいなのですが、それが色あせて感じるほど鮮やかですし、黒色の沈み込み方もかなり真っ黒になりますので、夜のドライブあたりで違いを感じていただけると思います。また、モニターを薄く、軽くできるというメリットもあり、軽さというのも信頼性の観点から非常に大事だと思っています。

 これまで(有機ELの採用が)なかなかできなかったのですが、今回パネルメーカーさんと一緒に車載向けのものを開発し、実現することができました。

有機ELパネルは黒色の沈み込み方が特徴で、美しい画質で映像を楽しめる

――今回の新しい有機ELパネルでは高温に耐えられるようになったということでしょうか?

荻島氏:やはり焼き付きが大きな問題になり、特に高温になるとそれが加速しますので、いかに焼き付きを抑えるか、寿命を延ばすかといった、家庭用のものとはまた違った品質条件をつけて評価を繰り返してきました。パネル面の対策、画面に表示するものの対策のめどが立ったので製品化することができました。

坂本氏:企画的な背景でいうと、上位のFシリーズの商品コンセプトとして「みんなのクルマに大画面」を掲げており、1つにディスプレイが車室内を演出するというディスプレイの存在感をポイントとして考えているのですが、その価値を突き詰めた結果、要素としてより大きく、より薄くというのがキーワードになっていきました。お客さまが製品を装着したときに所有欲が満たされるようなデザインを完成させるために、この有機ELパネルでは画面を大きくしながら薄くできることからキーパーツになったというのがあります。

 もう1つの特徴として高い視認性というものがあり、圧倒的に見やすい。クルマの中は外光などで画面の見え方が色々と変わってしまうという厳しい環境ですが、その中でも圧倒的に見やすいという価値を提供し続けるという点でも、有機ELを選んだ大事なポイントになっています。

パナソニック株式会社 オートモーティブ社 インフォテインメントシステムズ事業部 市販・用品ビジネスユニット 市販事業推進部 商品企画課 課長 坂本佳隆氏

――カーナビですと、特に焼き付きという面から言うとずっと同じものが表示されていることも多いかと思いますが、この対策というのは何かやられていますか?

荻島氏:やはりカーナビでは現在地というのがずっと表示されていますので、そういうところでの焼き付きというのは課題になるのですが、このことを含めて対策を行なってきました。具体的に言いますと、有機ELは画素に負担を与えることが苦手でありますので、そこを避けるようなパターンにするとか、見た目は変わらないのだけど実はちょっとずつ変化しているですとか、あとストレスがあったことをパネル側で覚えておいて、そこを後からリフレッシュする形の処理を加えるといったこともやっています。

坂本氏:パネルでやっている対策と、ナビセット全体でやっている対策の両方があり、パネルでやっている対策としては“ウォブリング”というものがありまして、これは画素を微小に動かす技術があり、これをパネルの中に搭載しています。焼き付きというのは同じ色、輝度をずっと同じ状態で出し続けると起きますので、極力起こさないように画素を微小に移動させています。また、焼き付きをある程度予測して、各画素の輝度をそれに合わせて補正していく「ストレスプロファイラー」と呼ばれる技術もパネル側に搭載しています。

 あと、ナビセット全体でやっている対策としては、やっと車載環境で有機ELを使えるようになったわけですが、熱が直接あたるとどうしても厳しいというのがありますので、回路の熱が有機ELパネルに極力伝わっていかないような回路構成にするなど、設計でも配慮を行なっています。そうはいっても実際に熱が伝わることはありますので、その上でナビゲーションの絵作りのところでも、例えば地図があってその上に空とか雲とかがあるのですが、それらが実は流れているなど、ずっと静止画にならないようにしています。

――画面内のメニュー覧などで透過処理を行なっているのもその一環ですか?

坂本氏:透過処理もベタ絵でずっと同じものを表示していると、どうしても焼き付きやすくなってしまうので、透過することでクルマが動いていると地図がスクロールしていきますので、それで透過の裏で常に何かの絵が変わっているといった工夫を組み合わせて今回車載に耐える品質を作り上げました。

荻島氏:社内でも焼き付きは大丈夫かという声もありましたので、ずっと評価を続けながらもしダメだったら液晶に戻す覚悟で開発を続けていました。最終的には車載向けの品質基準をクリアできたので今回に至ったのですが、もしダメだったら(これまでのモデルと)代り映えのない発表になったのかなと(笑)。

――パネル部がかなり薄いですが、薄いところを持って動かすのに最初勇気がいりました。

荻島氏:パネル部がガラスだけだとパキッといってしまうかもしれませんが、内部にハニカム構造を用いているので大丈夫です。最初は恐る恐るかもしれませんが、かなりがっしりとしていますのでそこは持っていただいても大丈夫です。

バックライトが不要な有機ELパネルと外装フレームには、軽量で高剛性なマグネシウムダイカストを採用。内部にハニカム構造を設けることで強度も確保した。厚さは約4.7mmとのことで、重量を2019年モデルの10V型から比べて約30%減の約0.7kgに軽量化

――ディスプレイの向きを調整できる機構は2019年モデルでも採用されていましたが、可動領域は同じですか?

坂本氏:基本的には同じです。

――フローティング構造ですと振動などが気になるところですが、2019年モデルから変更されたポイント、改善点などを教えてください。

荻島氏:パネル自体の重さがだいぶ軽くなっていますので、かかる負荷が小さくなっています。ですので、ガタガタ道などでの耐久性は上がっていると思います。

――ディスプレイ本体が重いほうがかえって振動などが出にくいのかなと思ったりするのですが、そのあたりいかがでしょうか。軽ければ軽いほうが振動の影響は受けにくいのでしょうか?

荻島氏:そうですね、軽いほうがやはりガタは少なくなります。

坂本氏:装着するナビはクルマの揺れを拾いますし、ナビ自体も揺れます。それらが画面の揺れにつながっていくのですが、ドライバーからは上下の揺れと左右の揺れというのが最終的に混ざって画面の揺れとして見えます。これらの対策としてガッチリと固定するというのもあるのですが、最終的に効いてくるのは振り子と同じように重りとなる部分の重量で、ここが軽いと混ざった揺れをなくしていく上では非常に効果的になります。今回は有機ELパネルとハニカム構造のマグネシウムダイカストを組み合わせたことで、2019年モデルと比べてディスプレイだけで300g軽くなっていて、それが効いています。

カーナビセット全体の軽量化に加え、ディスプレイ保持部の剛性の向上によって上下の揺れを抑制して耐振動性を向上させている

――御社が先鞭をつけた格好のフローティング構造ですが、Fシリーズは高価格帯商品では珍しく既販車への装着が半数を占めているとの話がありました。

荻島氏:新車を買われる方の方が若干多いのかなと思っていましたが、今見ると(新車と既販車の)半々です。当然ながらクルマを買い替える人もいれば、今乗っているクルマをちょっとリニューアルしたいという人もいて、そうした需要にマッチしたのかなと思っています。既販車に乗っている方で大画面がほしいという需要は潜在的にはあったけれど、車種専用だとなかなか新しいクルマしか対応していなくて、でもストラーダだと付けられるね、と。市場の中でだんだんとフローティング構造というものが1つのカテゴリーとして認知いただけてきたのかなと思います。

――なかなか言いにくいかと思いますが、この先次の一手となったとき、カーナビはどういう方向に進むのでしょうか。

荻島氏:次は中身をさらに進化させていきたいなと内部的には検討しています。ナビは機能としては一定レベルまできていると思いますが、画面としては今回のような有機ELもありますので、今日お話しさせていただいた新たなブランドメッセージ「移動を、感動に。」というコンセプトからすると、さらにブラッシュアップする部分があると思っています。ナビ機能も実はやりようがあるということは内部的にも分かっていますので、そこに手を付けていきたいと思います。具体的に何かというのは言いにくいですね(笑)。

――世間では若者などから「据え置きナビは要らないんじゃないか」という声もあるので、ぜひ頑張っていただきたいです。

荻島氏:若い人ほどスマホの利用率は高いけれど、スマホだけというよりも据え置きナビと併用する方も多く、知っているいつもの道ならいいですが、知らない道や首都高速のような分岐が連続するようなところではまだまだ据え置きナビの方が安心感があるのかなと思っています。

――2019年モデルでは400車種に対応とのことでしたが、今回は装着対応車種が430車種以上になりました。

荻島氏:この調査が大変なのです(笑)。まずクルマを入手してからナビを装着し、シフトなどに干渉しないか1つひとつ動かしながら確認しています。地道な活動なのですが……。

――ハイエースの装着例が多いと聞きました。

荻島氏:われわれもびっくりしました。後席から見やすいですとか、アウトドアやキャンプなどに行ったときに活用いただいているのかなと。

――大画面を選ぶ人が多い車種というのはありますか?

坂本氏:たくさん走っている車種に比例しますが、ハイエースやプリウスは多いですし、N-BOXも多いです。N-BOXで言うと、大画面を装着すると後席からも十分にモニターが見えるということもあり、モニター1つで済むというお声を実際にいただいています。

――最後に製品アピールをお願いします。

荻島氏:商品として一番力を入れたところは有機ELで、画質が全く異次元ですのでそこをぜひ見ていただきたいのと、車載向けの有機ELというのは製品化するのに勇気がいるところだったのですが、しっかりと品質も担保してリリースしていますのでぜひ一度実機を見ていただきたいと思います。