インタビュー
メルセデス・ベンツ新型「Sクラス」の特徴をダイムラーAGの開発者に聞く
レベル3自動運転のパッケージを2021年に導入計画
2020年9月4日 15:17
- 2020年9月2日(現地時間) 世界初公開
メルセデス・ベンツは9月2日(現地時間)、7年ぶりにフルモデルチェンジした新型「Sクラス」をワールドプレミアした。その模様は別記事に詳しいが、本記事ではその製品開発を担当したダイムラーAGの担当者に電話でインタビューする機会を得たので、その模様をお伝えしていく。
新しいSクラスは従来からのロイヤリティが高い顧客と、より若いユーザー層の両方をターゲットにしている
まずは、新型Sクラスの商品企画について話を聞いた。ダイムラーAGの回答者は、ダイムラーAG Sクラス/マイバッハ/プルマン 製品企画担当 ダーク・フェッツァー氏とダイムラーAG Sクラスプログラム部長 オリバー・トーン氏となる。
──新しいSクラスのターゲットカスタマーを教えてほしい。
ダイムラーAG:われわれのSクラスのお客さまは非常にロイヤリティ(英語でロイヤリティというときには日本語で忠誠心を持っているという訳語が当てられるが、より正確に言うとその「ブランドが好き」という意味で使われている)が高いお客さまで、そうしたお客さまがターゲットであるのはもちろんだ。しかし、新しいSクラスを開発するにあたっては、やや若い顧客層にターゲットを広げている。欧州のSクラスのお客さまは60代が多かったが、例えばアジアなどでは若年層のお客さまもSクラスにとても興味をもっていただいている。まとめると、従来のロイヤリティの高い顧客層に加えて、大学の学位をお持ちで、テクノロジーに造詣が深く、ネットも使いこなしていて、ビジネスで成功されている若い世代、そうしたユーザーの両方をターゲットにしている。
──シートの電動調整機能を利用したENERGIZINGシートについて、もう少し詳しく教えてほしい。
ダイムラーAG:ENERGIZINGシートは、現行のSクラスでもすでに導入されており、ラグジュアリー(豪華さ)とコンフォート(快適)という2つの機能がある。今回はそれに加えて新しい機能を追加している。例えばシートヒート機能(シートを温める機能)、ライティング機能、サウンドなどの機能がそれにあたる。また、ドライバーがウェアラブルデバイスを体に装着した場合には、ストレスレベルなどを計測することが可能になり、シートをそれに併せて自動で調整することが可能になる。
──新しいセンターコンソールに設置されているMBUXはディスプレイサイズが大きくなっているが、その半面ボタンの数は減っている。これは若いユーザーを意識した設計なのか?
ダイムラーAG:新しいMBUXをはじめとしたセンターコンソールはとてもエルゴノミック(人間工学に配慮した作りという意味)なデザインになっている。センターディスプレイやMBUXに関しては、誰でも容易にアクセスして操作できるように配慮されている。例えばナビゲーションの操作は、音声認識で操作もできるし、ジェスチャーやタッチ操作も可能と、悩まずとも操作できるようになっており、操作性は良好だ。また、安全性の機能としてはシートの調整や窓の開閉などは特に使い方を説明されなくても簡単にできるだろう。こうしたMBUXの特徴はどんな世代にもそれぞれ使いやすい方法で使うことが可能で、非常にシンプルであるということだ。どの世代のユーザーにも使いやすいと考えている。このあたりは実際に実車に乗っていただければ十分に感じていただけるだろう。
──新しいSクラスの走りについてはどうか?
ダイムラーAG:もちろん従来世代のよさを維持しながら、さらにそれに磨きをかけている。乗っていただけると最初に感じていただけることは、新しくデザインされ直したシートだ。この新しいシートは現在市場に投入されているクルマの中では最高峰だと自負しており、快適に心地よく運転することができるだろう。またボディの幅が広げられているので、NVH(騒音、振動体験、ハーシュネス、騒音や振動を減らす取り組みのこと)体験の新しいスタンダートを感じていただけるだろう。
また、いくつもの新しいテクノロジーを投入している。例えばリアアクセルステアリングはその代表だ。これは新しい操舵体験のベンチマークになるだろう。プレスリリースですでにご覧いただいているように、最小回転半径を2m削減している。これはAクラスに比べてさらに改良されている。そして新しい乗り心地に影響を与えるサスペンションは、素晴らしい快適かつスムーズな乗り心地を提供し、どんなスピードレンジでも素晴らしい安全性能を実現しており、どんなスピード領域でも快適に運転できるだろう。
進化したMBUXとUN-R79という厳しい基準をクリアした自動駐車機能など安全運転機能を搭載
続いて、MBUXや自動運転機能などに関するダイムラーAGの回答者は、ダイムラーAG ドライバーアシスタンスシステム/アクティブセーフティ担当部長 ミハエル・ハフナー博士と、ダイムラーAG デジタルビークル/モビリティ担当副社長 マッシン・ジョージ氏。
──新しいMBUXの特徴であるパーソナライゼーションについて教えてほしい。
ダイムラーAG:以前のMBUXにも搭載されていたように、新しいMBUXでもパーソナライゼーションの機能は用意されている。今回のMBUXではそのパーソナライズ機能を次の段階に引き上げている。指紋認証と顔認証の機能の追加に加えて、プロファイルへの統合が実現されており、ユーザーが使うさまざまなデバイスが自動車に統合されている。例えばユーザーがスマートフォンでモバイルアプリを使っていれば、MBUXで利用しているのと同じサービスをスマートフォン上でも利用することができる。そしてそうしたデータはセキュリティを高めることで保護するようになっている。
ドライバーはそれぞれ自分自身のプロファイルを持ち、例えばシートの自動設定はドライバーシートに座ったときだけでなく、乗客席(助手席や後席のこと)に座ったときにも適用される。自動車が今運転しているのか誰かというのを自動で認識するのだ。
──認証は1つしか使えないのか? それとも複数ものを使えるのか?
ダイムラーAG:複数を利用することができる。1つだけという設定も可能だし、それらを複数組み合わせてということも可能だ。ピンコードを利用して認証することもできるし、顔認証も可能だし、指紋認証も可能だ。顔認証は主にドライバーために、指紋認証は助手席のために、ピンコードは後席のために使われるようになるだろうとわれわれは考えている。
──センターコンソールに大型のディスプレイを採用しているが、OLEDパネルと自動車にはあまり採用されてこなかったようなパネルを採用している。
ダイムラーAG:その通りで、12型OLEDのパネルを採用している。今回のセンターコンソールのデザインでは、物理的なボタンを大きく減らしている。従来はそうしたボタンで実現していた機能の多くは、ディスプレイの中で実現されている。ディスプレイにOLEDを採用したのは、われわれが世界で最高のクルマをお客さまに提供したいと考えているからだ。美しく、清潔感があり、見やすいディスプレイが必要であり、そのためにSクラスのディスプレイとしてOLEDを採用した。
──確かにOLEDは美しいが、その一方ボタンを減らしたというのは従来のSクラスでの中心ユーザー層だったと考えられる熟年層にとっては慣れるのが難しいという考え方もある
ダイムラーAG:そのことは開発段階で何度も話しあった。そこで、単にディスプレイ化するということだけなく、AIの力を活用し、熟年層のユーザーの皆さまにとっても使いやすいものを目指している。すでに熟年のユーザー層のお客さまもスマートフォンを使いこなされていると思うし、すぐに慣れ親しんでいただけると信じている。この新しいMBUXでは異なる機能がクルマの中に沢山ある、そうした複雑さを削減することを意識して設計した。
──クラウドやアプリケーションの活用に関してのメルセデスのビジョンを教えてほしい。
ダイムラーAG:われわれのビジョンは非常にクリアだ。数十億の人々が、新しい「インテリジェンス」を使えるようにする、それがわれわれのビジョンだ。この新しいMBUXのデビューに先立って、昨年のフランクフルトモーターショーで、われわれは新しいSDK(筆者注:ソフトウェア開発キットのこと。ソフトウェア企業はSDKを参照してソフトウェアを設計して作成する)を公開し、サードパーティ(メーカー自身がファーストパーティーで、サードパーティとはそうしたメーカーの製品にソフトウェアなどを提供する企業のこと)がモバイルアプリ(筆者注:スマートフォンなどに提供されるソフトウェアのこと)を作成することができるようになっている。
このように、われわれはシステムをオープンにしており、中国ではAliOS(中国の自動車向けの基本ソフトウェアのこと。中国のIT企業アリババが作成し、自動車メーカーなどに提供している)のエコシステムをMBUXの中で利用できるようにしている。そのようにわれわれはシステムをオープンにしていて、お客さまのニーズを満たせるような仕組みにしたいと考えている。
また、第2世代のMBUXを実現するにあたり、われわれは数年間に渡りさまざまな機能を開発してきて、今回の製品に組み込んでいる。それはこれまで説明してきたとおりだ。
──PRE-SAFE インパルスサイドは側面衝突のおそれがある場合、E-ACTIVE BODY CONTROLサスペンションを用いて車体を瞬時に最大80mm持ち上げ、パッセンジャーセルの変形や乗員にかかる負担を軽減させるとのこと。改めて概要の説明とともに、なぜ最大80mmなのか、最大80mmによってどのような事故の影響が軽減できるようになるのか教えてほしい。
ダイムラーAG:基本的な考え方は、両サイドにあるレーダーがサイドインパクトを感知するとインパクトを可能な限り最小限にするようにするということだ。その場合に、そのままであればそのインパクトは、ドアかドアの下にある構造体で受け止めることになる。それを80mmほど持ち上げるという意味だ。なぜならば、80mm持ち上げることで、ドアではなく構造体で衝撃を受け止めることができるからだ。それにより、乗員の安全性は大きく高まることになる。
──新しいSクラスのADASについて教えてほしい。
ダイムラーAG:第1にわれわれは何よりも自動車の安全性を大事にしている。大きく言うと、ドライブ関連の機能と快適機能がある。そしてもう1つの大きな機能としては駐車関連の機能で、これが従来よりも強化されている。
いくつかの例を紹介したい。安全関連の追加機能としては衝突回避機能がある。最大130km/hまでの速度で走っていて、レーンから外れたときに作動して衝突を回避する。また、エマージェンシーアシストの機能はクルーズコントロールを利用している時だけでなく、人間がマニュアルで運転しているときにも作動するようになった。これらにより自動車の安全性は大きく高められている。
レベル2やレベル2+の機能拡張に関して言うならば、信頼性や性能が大きく向上している。これにより、自動車がこれまでよりも複雑な状況に対処可能になり、これにより多くの状況でまるでレールの上を走っているような感覚で運転できるだろう。
駐車機能に関しては360度プロテクション機能が導入され、われわれの知る限りこれは、より厳しい規制となっている新しいUN-R79規則(協定規則第79号、自動ハンドル操作に関する技術要件の国際的な規則)に合致した最初の例となる。これにより自動駐車時の安全性が高まっている。それはまるでラインの上を駐車するようなものだ。そして、2D/3Dのアニメーションを利用して駐車操作の状況表示する。われわれはこれをレベル3やレベル4の入り口にある技術だと考えており、実際Sクラスの自動駐車機能は言うならばレベル4の自動駐車ということになる。それを利用するには駐車場側のインフラの更新も必要になるが、対応していればドライバーは駐車するのを待っているだけでいい。
──新しいSクラスにはいくつのセンサーがあるのか?
ダイムラーAG:基本的にはパッケージに依存する。基本構成としてはフロントカメラと、最大5つのレーダーがあり、360度の状況を把握することができる。それに加えてウルトラソニックセンサーを搭載しており、2021年に導入を計画しているレベル3のパッケージではさらに多くのセンサーが搭載される。
──新しいSクラスに導入されているADASはレベルでいうとどのレベルに相当するのか?
ダイムラーAG:Sクラス全体としてはレベル2となり、オプションによってはレベル2+となる。レベル4に関しては自動駐車で有効になっており、ただしお話ししたとおり駐車場側のインフラも必要になるので、その普及を待っている状況。それが普及すればいつでもそれを有効にすることができる。レベル3、レベル4に関しては各国で規制も違っており、それらが整うのを待つ必要があるが、レベル3に関しては国際的な協定が2021年に有効になるので、それが実現されれば、導入を検討するだろう。