インタビュー

ケーヒンブルーからアステモレッドに SUPER GT第2戦優勝の17号車 Astemo NSX-GT 塚越広大選手に聞く

ケーヒンブルーからアステモレッドへカラーリングを一新した17号車 Astemo NSX-GTを駆る塚越広大選手にインタビュー(Photo:佐藤安孝[Burner Images])

 今年のSUPER GTでメインスポンサーのブランドが変更されるなどカラーリングが一新した車両は複数あるが、その中で最も印象的な変化を遂げたのが17号車 Astemo NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット組)であることは論をまたない。2020年まで同社はケーヒン(Keihin)のスポンサードを受けてそのカラーリングであるブルー(ケーヒンブルーという愛称で親しまれてきた)が印象的なチームだったが、2021年1月にケーヒンを含む複数の部品会社が統合されて新会社「日立Astemo(アステモ)」がスタートしたことにより、その日立アステモの新しいコーポレートカラーのレッド(アステモレッド)へとカラーリングが大きく一新されたからだ。

 そうしたアステモレッドをまとって今シーズンのSUPER GTに参戦している17号車 Astemo NSX-GTは、早くもアステモレッドでの2戦目となる「2021 AUTOBACS SUPER GT Round2 たかのこのホテル FUJI GT 500km RACE」において、みごと総合優勝を獲得した。今回、ケーヒン時代の2009年から今シーズンまで13シーズンに渡り同車をドライブし続けているエースドライバーである塚越広大選手にお話を伺う機会を得たので、その模様をお届けしたい。

 とはいえ、そのアステモレッドに変わった車両だが、塚越選手が一番応援してほしいとある「ファン」には最初は認識してもらえなかったそうだ。そのファンとは?

ケーヒンブルーからアステモレッドへ変わった2レース目の第2戦富士で新体制初優勝

優勝したSUPER GT第2戦の振り返りから、塚越選手の新しいテーマ「輝赫の弾丸」などについて語ってくれた

──新体制となって1勝目を挙げたが、その感想は?

塚越広大選手:12年一緒に戦ったケーヒンからアステモになってイメージも変わり、会社の規模も大きくなり、よりリアル・レーシングを注目していただく機会になっている。われわれとしても新しく心機一転という訳ではないが、カラーリングもケーヒンブルーからアステモレッドに変わって、17号車が強く、勝てるチームだということをまずは皆さんに感じてもらえるようにと思ってやってきた。

 そうした中で第2戦を迎えて、予選や決勝もものすごく調子がいいという訳ではないが、FCY(フルコースイエロー、第2戦から導入されたコース全体をイエローフラッグにして全体のスピードを落とすことで、セーフティカーを導入しなくても事故車両などの排除をやりやすくする仕組みのこと)が出されたタイミングがとてもよくて、チーム全体がそのチャンスをしっかり生かしきることができた。すごくうれしいというよりも、チームとしてもドライバーとしてもチャンスを生かすことができる強さを見せることができたと思っている。

 日立アステモになってから、旧ケーヒンの方だけでなく、新しい仲間たちも増えている。また、世の中がいろいろ大変な中で、レースに来ていただくのもなかなか難しい状況だが、僕たちがよい結果、よい走りをすることで、元気やうれしさなどを共有するストーリーを描けたのではないかと思っている。

──日立アステモになってケーヒンに比べて規模も大きくなっており、発表会の時もグループ全体で9万人の社員さんの圧がということを金石監督が言及していた。そうした中、第2戦で優勝したことで何か反響はあったか?

塚越広大選手:現状そうした新しい仲間と直接お会いするのはなかなか難しい状況だが、お祝いのメッセージをいただけたり、ケーヒン時代から活躍されていた方々からお祝いをいただけたりしている。やはりこうした変化のタイミングで注目していただいているのだなと感じた。また、失礼な言い方かもしれないが、意外とレースを見ていただいているのだと感じ、改めてわれわれのレースの結果などを皆さんが気にしていただいているのを再認識した。

──カラーリングがケーヒンブルーからアステモレッドになった、違和感などはなかったのか?

塚越広大選手:自分としては何もなかったが、娘は「この赤いクルマはパパのクルマじゃない」と言って、最初は認識してくれなかったようだ(笑)。今ではしっかり理解してもらえてアステモレッドのクルマを応援してくれている(笑)。

──優勝した第2戦を振り返ってどうか?

塚越広大選手:FCYが導入されて大きなチャンスを得た後、しっかり走っていった。第3スティント(2回目のタイヤ交換ピットストップ後の最後のスティントのこと、塚越選手がドライブしていた)でも、8号車と1号車の方がペースがよく、単純なスピードで比べると負けていた。しかし、GT300を抜いていくときなどに差を作るといったことを必死につなぎ合わせて優勝までたどり着くことができた。僕らの方がよかったという訳でなく、耐えて耐えて得た結果だ。

(僅差で2位になったGR Supraの追い上げを聞かれて)ストレートのスピードとしては相手の方が上まわっていた。最終コーナーを立ち上がった時点で差をつけていないとストレートで抜かれる可能性があった。残り10週近く、自分の方がよかったセクター2で引き離し、最終コーナーを立ち上がった段階で十分な差をつけていられるようにドライブした。

新しいテーマは「輝赫の弾丸」

──第2戦の優勝会見では新しいテーマとして「輝赫の弾丸(きかくのだんがん)」を明らかにした。これについてもう少し詳しく教えてほしい。

塚越広大選手:“弾丸ボーイ”と言われてきた時期があったのだが、そろそろボーイな年齢でもないし、アニメとか映画とか好きな人間からすると何か名前がある方が親しみやすいかなというのがあって、いいのがないかと考えてきた。特に2020年は、コロナ禍でレースができない時期があり、普段の生活を含めてイレギュラーな動きになったこともあり、自分自身がレースができることに対しての感謝の気持ちだったり、自分が会いたい人に会える時間がとても大切な時間だっりしたということを誰もが感じた時期だったと思う。

 そうした中、自分の趣味はアニメとかマンガを見ることなのだが、それらを楽しんでいく中でいいイメージとか、こういう考え方もあるのだなと感銘を受けることがある。特に2020年に一番影響を受けたのが「四月は君の嘘」という作品で、自分が好きなレースをやっている中で自分の思いだったり、キラキラが伝わるようなドライバーにもっとなりたいと、作品を見て感じていた。2020年の第4戦(ツインリンクもてぎでの1レース目)でそれを読んですぐに優勝したのもあって、プロとして小さくまとまったりしないように結果を残していきたい、そうした自分の気持ちや考え方が伝わるといいなという思いが強くなっていた。

 そうした中で今年カラーリングがアステモレッドに変更されたこともあるし、弾丸ボーイから新しい名前にしたいと考える中で、キラキラ輝くという意味で「輝」と赤が2つ「赫」を組み合わせて「輝赫」と弾丸ボーイからとった「弾丸」を組み合わせて「輝赫の弾丸」というテーマにした。とても立派な感じの意味になるので、それに負けないような走りをしないといけないと感じている。

──マンガやアニメがお好きとのことだが、どんなタイトルがお好きなのか?

塚越広大選手:エヴァンゲリオンシリーズも好きだし、先ほど述べた「四月は君の嘘」も好き。また、「さよなら私のクラマー」なども好きだ。例えば、サッカーとかだとファンタジスタとか、守備がうまい人はなんとかの守護神とか名前がついている。そういうのはレースの世界ではあまりないなと考えていて、例えばオーバーテイクするときになんか技名をつけるとか、そういうのがあったら子供たちももっとレースに興味を持ってくれるのではないか、そういうことを目指していきたいなと考えている。

──パートナーとなるベルトラン・バゲット選手と組んで3年目だが?

塚越広大選手:(組む前からもいい関係だったが)一緒に組んでからも、お互いにすごくいい走りができており、パートナーとしていい関係が築けている。特に2020年は走りだけでなく、それを2勝という結果につなげることができた。そこからさらに戦略でシーズンをどのように戦っていくかが今のSUPER GTは大変で、レースでサーキットを走るだけでなくそれ以前からどういうプログラムを組んでいくかが重要になっている。去年よかった部分を伸ばしつつ、今年はそうした部分を強化していきたいと考えている。

──バゲット選手とは普段どんな話をしているのか?

塚越広大選手:プライベートで会ったりとかはあまりないが、サーキットではお互い子供が学校に通う年になったので、子供の話をすることなどが多くて、結構そういう話をしている。また、ベルトランもクルマがすごく好きなので、クルマの馬力がこれぐらい出ているとか、新しいあれはいいよね、みたいな話をなどをしている。

──鈴鹿の第3戦が中止になったことで、次戦は第4戦として予定されていたツインリンクもてぎのレースになる。その展望を。

塚越広大選手:次のレースに関しては、われわれ17号車としてはサクセスウェイト(選手権ポイント×2のハンデウェイトのこと)が重くなり、なかなかタフな状況になっていく。ただ、NSX-GTは単体で見ても、岡山と富士では苦しかったが、予選、決勝で速さがある。このため、週末を通じてミスを犯さないということが重要になる。去年から今年にかけてテストなどにも制限があるなかで、セッティングで一気に性能を上げるというのも難しく、どこのチームも小さな積み重ねが重要になっている。そうした中で客観的に見ると、17号車は他のホンダ勢に比べるとスピードはまだ足りていないと思うので、もてぎに行くまでに改善していく必要がある。

 他メーカーとの比較で言うと、トヨタ勢がある1台だけというよりは集団で仕上がっているイメージがある。それにホンダ勢の1台ないしは2台が絡むという状況になっており、走行時間が限られている状況の中では週末が始まる時点でしっかりしたセットアップを持ち込む必要がある。

 ツインリンクもてぎはウェイトが効いてくるサーキットであり、軽いマシンが有利になると思う。17号車は燃料リストリクター(注:サクセスウェイトが50kgを越えると、燃料制限の径の調整に置き換えられる)で絞られる状況になってくる。その意味では、同じホンダ勢でもサクセスウェイトが少ない1号車や8号車が優勝候補になると思う。17号車はチャンピオンシップを争うトヨタ勢よりも前でゴールすることが目標になると考えている。