インタビュー

アルファ ロメオの今後についてジャン・フィリップ・アンパラトCEOに聞いた

アルファ ロメオ CEOのジャン・フィリップ・アンパラト氏にブランドの今後について聞いた

 2022年、「ステルヴィオ」の直下に位置するコンパクトSUV「トナーレ」の登場が控えているアルファ ロメオ。そのCEOであるJean Philippe Imparato(ジャン・フィリップ・アンパラト)氏が、日本の報道陣とのラウンドテーブルを2021年12月3日に開いた。

 アンパラト氏いわく日本はアルファ ロメオにとって重要な地域であり、かつ「世界のベンチマーク」であると語る。よってメディアとは今後年に1回、相互コミュニケーションを取っていくつもりだという。

 その言葉が単なるリップサービスでないことは、直近のセールスでも証明されている。先日限定生産で発売された「ジュリア GTA/GTAm」は、なんと世界限定500台のうち、84台が日本で売れた。それは日本人が「限定に弱い」からだけではなく、アルファ ロメオというメイクスに特別な思いを抱いているからだと筆者は感じている。

 ということでここからは、ジャーナリストや報道陣から投げかけられた質問をベースに、アンパラト氏が応えていく形で進めていくことにしよう。

アルファ“e”はどうなる?

「EV DAY2021」に出席したステランティス CEO(最高経営責任者) カルロス・タバレス氏

 2018年にステルヴィオを日本に導入したとき、アルファ ロメオは50億ユーロの投資とともに8モデルを市場に投入するというアナウンスをした。しかしその後、急激なEV化の波があったことで、その戦略には見直しがあったと思われる。そして2021年7月に「EV DAY2021」が開催され、この中でカルロス・タバレス氏(ステランティスCEO)が2024年からアルファ“e”ロメオになると発表した。

 2024年以降、アルファ“e”ロメオはどんなブランド・ポジションになるのか? そこからデビューしてくるモデルたちは、STNAプラットフォームでバッテリーEVとなるのか、あるいはロー・エミッションビークルのハイブリッドやPHEVを含むモデル構成となるのか?

アンパラト氏:今から話すのは、2021年9月初頭にタバレスCEOと検証した内容です。私はアルファ ロメオが大好きであり、ステランティスグループの中でプレミアムなブランドとなってほしいと考えています。なぜなら私たちはアルファ ロメオをヨーロッパ、北米、そしてアジアの3大市場で販売しているからです。

 それには今後10年間の戦略的な計画を持たねばなりません。50年先を見据える上では、2年やそこらでは時間が足りないのです。その10年間の計画はすでに検証されており、さらに5年先の計画については予算も決まっています。まず毎年、日本には翌年の計画を報告したい。これは信用問題です。そして1年に1台、新型車の発表を行ないます。あるいは大規模なプロダクトイベントを2030年までに必ず行ないます。

 2022年に関しては、トナーレのローンチがあります。生産開始は3月で、ローンチは6月。イタリアでデビューしてから半年以内に、その他の都市でこれを進めていきます。そして2024年には、歴史上初めてフルEV化されたアルファ ロメオが発表されます。そして2025年からは、BEV(バッテリーEV)のみをローンチして、2027年からは完全にBEVのみの販売となります。

 アルファ ロメオは世界でもごくわずかなブランドのうちの1つとして、完全に新しいエレクトロニクスのアーキテクチャを展開します。そしてこれらは、アルファ ロメオが持っている歴史を尊重した上で進められます。

コンパクトSUV「トナーレ」

――今後アルファ ロメオのブランドを、これまで以上に日本で浸透させていくにはどんな秘策を考えているのか?

アンパラト氏:日本にはスキルと経験のあるディーラーが42店舗もあります。アルファ ロメオとしてやらなければいけないのはこのチームとネットワークをサポートすることです。私にとって、ボリューム(販売台数)は重要ではないと考えています。われわれを動かしているのは顧客との関係の質です。カルロスCEOとは、(当面の販売台数の少なさに関しては)数が稼げないことを最初は辛抱しなければならないと議論しました。ブランドの価値、カスタマージャーニーとカスタマーエクスペリエンスを上げていけば、数はついてくるとステランティスでも考えています。ディーラーが丁寧に販売車両の説明をして、ボリュームよりも価値の増大を狙っていきます。

――今後アルファ ロメオは何を強みとして勝負していくのか?

アンパラト氏:それは過去の歴史と、最もよく開発された技術とのアライアンスです。ブランドの歴史と遺産は忘れられるものではなく、一方で将来の備えをしなければブランドは死に絶えます。アルファ ロメオはドライバー中心のアプローチを保ちます。それはわれわれのDNAですから。私たちは、iPadが真ん中にあってでき上がるようなクルマを売るのではない。ドライバーが中心にいて、さまざまな経験ができるクルマを作ります。

――アンパラト氏が考えるアルファ ロメオらしさとは?

アンパラト氏:私の父はアルファ ロメオのファンでした。そして私もアルファ ロメオと共に育ってきました。ですからここでは、父から言われたことを皆さんと共有したいと思います。

 彼いわくアルフィスタは、クルマが単なるコモディティではなくクルマが人生の一部という人たちだと言います。アルフィスタは普通のお客さまではなく、1つのトライブ(部族)やクラブの一員のような人たちです。

 そして彼らはワークショップに自分の愛車を持ち込んだら、自分のクルマに何をするのかをきちんと知りたがります。納得しなければ、クルマに触れさせることを許さないのです。自動車は自分の人生の一部分であるからこそ、何をしたのか説明を細かく求めるのです。

――アンパラト氏は着任早々に市販間近だったトナーレの販売を延期したという話を聞いたが、それは本当か? もし本当であれば何が理由だったのか?

アンパラト氏:インフォメーションとしては正しいです。私はトナーレのローンチを12週間延期しました。デザインは素晴らしかったので変えたくはなかった。しかし電動化の度合いが十分ではなかったのです。そしてトナーレは正しいデベロップを得て、予定通り2022年にローンチされます。

――今後アルファ ロメオのモデルには「GTA」や「GTAm」が用意されるのか? トナーレに関してもGTAは登場するのか?

アンパラト氏:意志としては、イエス。しかしたぶん実際は、アイコニカルなモデルに限定されると思います。ビジネスとして通常のモデルを販売する一方で、特別で奇想天外な提案も続けていきます。われわれは常に、パッションと忍耐の両方を持ち続けながら前進していかねばなりません。

日本では2021年4月26日~5月9日の期間に受注が行なわれた「ジュリア GTA」「ジュリア GTAm」。「ジュリア クアドリフォリオ」をベースに大幅な軽量化とともに、さらなる高出力化を実現したモデル

――ミトのようなBセグメントカーは再び登場するのか?

アンパラト氏:大変面白い質問ですね。アルファ ロメオは今もBセグメントに関心を持っています。そこには日本も含め、アルファを待っているカスタマーがたくさんいます。ですからここには投資も行なっていきます。そして必ず美しい結果が得られるでしょう。

現在は販売終了となっているミト

――これまでアルファ ロメオはFRベースのジョルジョ・プラットフォームを用いてきたが、今後はステランティスの「EMP2」や「CMP」プラットフォームを使っていくのか? それをどう使い分けていくのか?

アンパラト氏:この問題はとてもシンプルであり、われわれはステランティスのスモール/ミディアム/ラージプラットフォームを使っていきます。なぜならプラットフォームを活用することで、グループ全体の技術から必要となるモジュールを選択することができるからです。そして私たちは“本物のアルファ ロメオ”を設計するために、「アルファ ロメオ タッチ」という項目を仕様書の中に盛り込んでいきます。


 こうしておよそ1時間に及ぶラウンドテーブルは、アッという間に終わりを告げた。

 ここから見えたのは、アルファ ロメオが3年後の2025年から、完全にEVシフトを行なうという事実だ。そしてこれはアルファ ロメオのいくつかの黄金期を経験した“アルフィスタ”たちにとっては、かなりショッキングなひとことだったと言えるだろう。

 とはいえ彼らもこのEV化が、どれほど慎重に行なわれるべきかは重々承知している様子だった。そしてそのアルファ“e”ロメオには、彼らが小排気量ターボ化で失った最大の資産である“エモーション”を、ごっそりと盛り込んでくるはずである。いやそうしなければ、アルファ ロメオに明日はない。

 アルファ ロメオはその歴史が示す通り、浮き沈みの激しいメーカーである。戦前はフェラーリの祖としてレース界を席巻し、なおかつ戦後も初代ジュリアシリーズが大ヒットを飛ばした。しかしその後は長らく低迷が続き、1990年代後半に155をDTMやBTCCといったツーリンクカー選手権に投入して人気を回復。そして1997年に156、そして2000年には147を登場させて大ブレイクを果たしたが、それ以降低迷を続けているのはご存じの通りである。

 それでもアルフィスタたちは、待っている。もう一度、アルファ ロメオが輝く日を。半信半疑になりながらもどこかに期待してしまうのは、それがいかに素晴らしいものであるかを、彼らは知っているからだ。

 アンパラト氏の言葉を借りれば、アルファ ロメオは単なるクルマではなく、人生の一部となるクルマだ。電動化された未来でそれがどのように実現されるのか、アルフィスタならしかと見定めるべきである。