インタビュー

F1ドライバー角田裕毅選手がシーズン前記者会見で今年の抱負やトレーニング内容、F1裏話などを語る

2022年3月9日 実施

角田裕毅選手(Scuderia Alpha Tauri)のオンライン・メディアセッションが催された

 2021年にアルファタウリ・ホンダからF1デビューを果たした角田裕毅選手が、3月9日にレッドブル主催の記者懇談会にオンラインで参加した。

 角田選手は本日(3月10日)から始まるバーレーン国際サーキットでの「プレシーズンテスティング2022」(いわゆるシーズン前公式テスト)に参加するためにバーレーンに滞在しており、そこからオンラインで参加する形になった。

オフはトレーニング漬けで過ごし、昨年の課題だったフィジカル強化を実現

──オフについてどのように過ごしたか? また、オフで至福だったひとときは?

角田選手:ほとんどの時間はトレーニングに費やしていて、例えば首など昨年の課題の1つだったフィジカル面を向上させることに集中していた。至福のひとときは日本に帰ったときだったが、3週間の滞在のうち、2週間は待機期間だったりして、実質的には6~7日程度だけ友人と過ごしたりしていたが、そのときにカニを食べに行ったこと。今でもその味は鮮明に覚えているが、しゃぶしゃぶにして食べたのが最高だった。

──トレーニングの話が出たが、これから「ここをやっていかないと」とかはあるか?

角田選手:コーナーでGがかかるので首のトレーニングは必須。昨年レース中に首の疲れを感じていたので、それを克服するために首に関しては集中してやった。それ以外にも心拍や足、体力を上げるなど、トレーナーには自分のイタリアの家に泊まってもらって毎日トレーニングしていた。また、レッドブルのトレーニングルームがオーストリアにあるのだが、そこで自分のフィジカルをデータとして見ることができるが、昨年に比べるとほとんどの数値が上がっており、30~40%近くレベルアップできたので、よいシーズンオフになったと思う。

──メンタルトレーニングはどんなことをやってきたか?

角田選手:昨年のシーズン中はメンタルコーチがいたが、今オフに関してはそこまで話をしていない。自分としては、今オフはフィジカル面のトレーニングを重視していた。

──昨年スキージャンプで活躍中の小林陵侑選手との対談の中で、トレーニングはそんなに好きじゃないといった話と、レース前のルーティン(習慣的な行ない)に関しての話をしていた。

角田選手:トレーニングが好きか嫌いかなら、正直大嫌いだ。だが、レースで必要なことであるという、今はまったく違う考え方をしている。嫌いだがレースでは必要なので、今オフに関しては集中してやった。その結果、自分の考え方も少しずつ変わってきており、自分からやらないといけないとなってきている。2022年シーズンをいい形でスタートを切りたいし、自分自身のパフォーマンスを上げていきたいからだ。

 レース前のルーティンに関しては、この対談を行なったときは昨年の7月頃だったと思うが、ちょうどその時期は自分のルーティンを見失っていた。F2時代までは自分のルーティンがあってそれを自然とやっていた。ところが、F1に来てクラッシュが続いた時期があって、ルーティンが削られていった。どうしたらクラッシュしないかということに頭がいっぱいになってしまっていた。しかし、シーズン後半は再びルーティンが形成されていき、自分の目標としてどういう形でラップを走り込んでまとめていくかを頭の中でシミュレーションするようになった。もちろんまとめられずに乱れることもあるので、そうしたときにどうするのかをシミュレーションとしてやっている。

──昨シーズンさまざまな人にアドバイスをもらったと思うが、一番役立ったのは?

角田選手:後半ルーティンの形を取り戻すことができたのは、イタリアでのトレーナーの話が一番有効だった。イギリスに住んでいたときにはイギリスのトレーナーにお世話になっていたが、イタリアに転居してからはチームが用意したトレーナーにお世話になってきた。クラッシュの事などいろいろ考えてしまうからペースが遅くなってしまうし、思うようにコントロールできなくなると言われて、それからは理想のラップを考えていくようになった。その会話が転機になった。

──現在DAZNでドキュメンタリーが配信されているが、どう思ったか?

角田選手:DAZNさんのドキュメンタリーは、昨シーズンの一番苦戦していろいろな事を学んだアップダウンの大きなシーズンだった。どん底まで下がるところからはいあがるところまで自分の素を見ることができるものだと感じている。そうした中で、カメラの前でもよくないことなどをしていても格好よく扱っていただき、上手に作ってくれてうれしい。今シーズンもまたDAZNさんと一緒にレースができるのはうれしいことだ。

──今の自分が去年の自分にアドバイスするとすれば?

角田選手:自分を信じろということだ。過信は危険だが、自信は必要だ。そしてチームともっとコミュニケーションをしろということだ。あとは、結構引きこもりなので、オフのときは外を歩いて外の空気をもっと吸ってほしい(笑)。

──1年戦ってきて、自分自身の心境変化はあるか?

角田選手:現実的になって目の前のことに集中できるようになった。昨年は何の経験もなく、何も予想できずに戦っていたので、すべてをコントロールできないのに、表彰台に上るとか言っていた。そうなるためにどういうプロセスを経たらいいかということを考えないで言っていて苦戦した。今はやるべき事や、どうしたらパフォーマンスが上げられるかなどがすべてクリアになっている。もっとレースを現実的に見ていると思う。もちろん今も表彰台に立ちたいと思っているが、まずはポイントをとることが大事で、(開幕戦の)バーレーンでは自分の思うようなレースをしたい。

新型車両はオーバーテイクがしやすくなっている、またタイヤの18インチ化の影響も大きい

──今シーズンからの新レギュレーションで、自分に有利に働くのはどこか?

角田選手:レギュレーションの大きな変化は、(車両の空力が)オーバーテイクしやすい設計になっていることだ。それによりエキサイティングなレースになると考えている。去年のマシンはダウンフォースで走っているので、他のマシンの後ろにつくとダウンフォースが失われてコーナーで引き離されてしまうという課題があった。それが解消されるということなので、オーバーテイクしやすくなり、よりエキサイティングなレースになると思う。バーレーンのレースでそれがどこまで反映されるのか楽しみだ。

 実際バルセロナのテストでは、前のマシンに追いつけるようになっていることを実感できた。今年はすべてのマシンが完全に新しいマシンになる。昨年はレギュレーションが凍結されていたこともあって、各車とも熟成が進み差も小さかった。新しいマシンではその差が大きくなる可能性もあり、(勢力図がどうなるか)楽しみだ。

──タイヤが18インチ化された影響はどうか?

角田選手:13インチよりも大きくなって、市販車のタイヤに近くなった。挙動の変化は、新しい規定のマシンよりも、タイヤの変化の方がむしろ影響が大きいと考えている。今までのクルマは高速コーナーで後ろが滑り出したらコントロールするのは難しかったけれど、今年の18インチと新型車両はコントロールが容易になっている。

 ただ、ホイールは大きくなり重くなるので、ピット作業するメカニックは大変そうだ。ブレーキへの影響も考えられるが、今のところブレーキのフィーリングは以前から特に変わっていないと感じている。

──新型車両への評価は?

角田選手:見た目がシンプルになって格好よくなった。カラーリングも全チームよくなったと思う。

──ポーポイズ現象というクルマの振動がバルセロナテストでは話題になっていたが?

角田選手:われわれのチームではバウンシングと呼んでいるが、われわれのチームでも発生している。ただ、チームによってバウンシングの現象も異なっているので、詳しいバウンシングの状況は言えないが、速度が増してくると、少しずつクルマがはねてきて、クルマが縦に振動するというのが症状だ。1コーナーのブレーキ、あるいはコーナーでも影響することもあり、視界が見えづらくなるときもあるぐらいだ。今までのマシンでは感じたことのない感覚で、レースでずっと続くと気持ちわるいと思う。

──バーレーンで3月10日から始まるテストでクリアしたい部分があるか?

角田選手:今回のバーレーンでのテストでは、バルセロナで見えてきた課題や、予想していなかった課題を解決していくことになる。バーレーンテストからレースまで少し時間があるのでその間に対策を進めて、少しでもいい状態でレースに臨めるように、チームやガスリー選手と協力してやっていきたい。現状ガソリンの量だったり、タイヤだったりの条件がチームによって異なっているので、テストでのタイムで遅い速いとハッキリしていないが、自分たちのやるべき事をやって、バーレーンの予選で勢力図がハッキリしてくると思うので、それまで1周1周しっかりやりたい。

──テスト中にガスリー選手とのフィードバックを聞いたりしているのか?

角田選手:ガスリー選手が担当している間にはメディア対応だったりがあって、なかなか聞けていないというのが現状だ。ただ、昨年からそうだが、自分とガスリー選手のフィードバックは同じで、それはチームにとってポジティブなことだと思う。自分は自分のなすべき事をして、去年よりもフィードバックを多くするようにしている。今年は無線でも冷静になってフィードバックするように心がけていて、エンジニアからも無線のフィードバックは去年よりいいよと言われている。

──今シーズンの戦い方、目標とかを教えてほしい。

角田選手:自分のやるべき事はクリアなので、リズムを大事にして1戦1戦リセットしながら戦い、まずは1ポイントでも多く獲得し自分らしく走っていきたい。目標はチームメイトのガスリー選手を倒すことだ。

F1ドライバーは西欧版LINEのWhatsAppグループで連絡を取り合っている

メディアセッションで質問に回答する角田裕毅選手

──F1裏話があれば教えてほしい

角田選手:実はドライバー全員が参加しているWhatsApp(筆者注:Facebookの運営会社メタ・プラットフォームズが提供するチャットツール。欧米人にとってLINEのようなものだと考えると理解しやすいだろう)のグループがある。そこではGPDA(Grand Prix Driver Association:F1に参加しているドライバーが参加している団体)に参加しているドライバーがレースに対して意見できる場所になっている。そこでもっとも熱心に参加しているのがセバスチャン・ベッテル選手で、ウクライナで紛争が発生したときに、ドライバー全員で意見を伝えていこうとか提案してくれている。ベッテル選手のそういう面は、とてもリスペクトできる一面だ。

──角田選手もそこで意見を表明したりしているのか?

角田選手:何回かはあるが、ペナルティへの愚痴などを言ったりしている。昨年のブラジルGPで、ストロール選手に接触してしまって10秒ペナルティをもらってしまったが、まったく腑に落ちないのでそういうことを言ったりした。ほとんどのドライバーから「あのペナルティは疑問だよね」と言ってもらえたので、次のドライバーブリーフィングでそのことを言ったりした。ほとんどはベッテル選手に任せている。

──最後にファンヘの一言、日本GPへの想いを語ってほしい。

角田選手:日本GPは今年こそ開催してほしいと願っている。日本のファンの皆さんの前でF1を走るのは自分の夢だった。誰もができる経験ではないので、1周1周かみしめて走りたい。また日本に帰っておいしいご飯を食べたいし(笑)、日本GPまでにさらに経験を積んでよいパフォーマンスの状態で鈴鹿に望みたい。

 今年の目標はできるだけポイントをとって、また違った自分を見せていきたいと思う。


 2022年のF1開幕戦は、3月18日~3月20日に予定されているバーレーンGPで、3月10日(現地時間)からはバーレーンGPの会場となるバーレーン国際サーキットにおいて「プレシーズンテスティング2022」(いわゆるシーズン前公式テスト)が始まり、3月12日(現地時間)までの3日間に渡って開催される。角田選手は現地時間明日の3月11日~12日の午後にステアリングを握る予定とチームより発表されている。

 なお、このテストの模様は、ネット配信の「DAZN」では前日の午前と午後の両セッションを、CS放送の「フジテレビNEXT」では午後のセッションのみが配信・放送される計画となっている。