インタビュー

住友ゴムのグローバルブランドとなったダンロップ、スーパーGTタイヤ競争最終年にかける思いとは?

スーパーGT参戦タイヤメーカーインタビュー2026「ダンロップ」編

左が住友ゴム工業株式会社 タイヤ事業本部 モータースポーツ部 モータースポーツ開発1グループ 課長代理 久保直也氏(GT300担当)、右が同 タイヤ事業本部 モータースポーツ部 モータースポーツ開発2グループ課長 菅野展寛氏(GT500担当)

 スーパーGTは、1994年の全日本GT選手権として本格的にシリーズが開始されて以来、屋根つきのレーシングカーが2つのクラス(GT500とGT300)に分かれて同じレースを戦う、異種格闘技のようなユニークさが受けて日本で最も人気があるレースシリーズとなっている。

 そのユニークさの1つとして、どちらのクラスにも複数のタイヤメーカーの参戦が許されており、タイヤメーカー同士の競争がある。そして「ダンロップ」のブランドで知られる住友ゴムもスーパーGTに参戦しているタイヤメーカーの1つだ。

 そこで今回は、ダンロップのスーパーGT活動に関して、住友ゴム工業 タイヤ事業本部 モータースポーツ部 モータースポーツ開発2グループ/開発3 グループ 課長 菅野展寛氏、住友ゴム工業 タイヤ事業本部 モータースポーツ部 モータースポーツ開発1グループ 課長代理 久保直也氏に、スーパーGTに関する話を聞いてみた。

2025年の12月からグローバルに「ダンロップ」ブランドが住友ゴムの「コミュニケーションブランド」に

 住友ゴムは1909年創業と100年以上の歴史を誇る伝統のある企業で、タイヤ事業、スポーツスタイル事業(ゴルフやテニスなどのスポーツ用品)、そして産業用のゴム製品事業など複数の事業を展開している。

住友ゴムの主要事業

 タイヤ事業に関しては、日本でイギリス「DUNLOP」のブランド製品の製造事業を始め、1983年には事業を買い取るなどして少しずつダンロップブランドを自社のブランドにしていった。その後、1999年に住友ゴムと米グッドイヤーが合弁事業を始めた関係で、アジア太平洋地域では住友ゴムが、欧米ではグッドイヤーがダンロップブランドを活用するという共存時代があり、モータースポーツ活動でも日本ではダンロップブランドが使われ、ニュルブルクリンク24時間レースのような欧米のレースでは「FALKEN(ファルケン)」ブランド(FALKENも住友ゴムが2003年に買収したオーツタイヤのブランドだった)を利用して活動するという形になっていた。

 この複雑なブランド体制も、2025年の12月に終止符が打たれている。昨年発表された、ダンロップブランドがグローバルに住友ゴムの所有となるというグッドイヤーとの合意に基づき、住友ゴムはダンロップをグローバルに「コミュニケーションブランド」(メインのブランドとして外部にコミュニケーションしていくという意味)にしていく方針を明らかにしている。

 モータースポーツにもそうした新しいブランド戦略による変化はすでに起きている。具体的にはニュルブルクリンク24時間レースで、住友ゴムは17号車を「DUNLOP Porsche 911 GT3 R」としてダンロップの伝統的カラーのイエローに塗装し、もう1台の44号車「FALKEN Porsche 911 GT3 R」は青と緑のおなじみのFALKENカラーに塗装して参戦した。今後、グローバルのモータースポーツ活動が盛んになっていく、従来はファルケンブランドで供給されていたタイヤがダンロップに代わっていくことになるだろう。

 日本では元々ダンロップブランドであったため、目に見える大きな変化はなくスーパーGTを筆頭に、FIA-F4選手権、全日本ラリー選手権、GR86/BRZ CUPなど幅広くタイヤを供給。国内の主要なカートレースへもタイヤ供給を続けるなど、グラスルーツモータースポーツも支えている。

GT500に参戦する64号車 Modulo HRC PRELUDE-GT(大草りき/イゴール・オオムラ・フラガ組、DL)

 GT500クラスでは、64号車 Modulo HRC PRELUDE-GT(大草りき/イゴール・オオムラ・フラガ組、DL)の1台に、GT300クラスは開幕戦で優勝した777号車 D'station Vantage GT3(藤井誠暢/チャーリー・ファグ組、DL)を筆頭に、合計4台に供給している。

ダンロップがサポートしているGT500マシン

カーナンバーマシンドライバー
64Modulo HRC PRELUDE-GT大草りき/イゴール・オオムラ・フラガ

ダンロップがサポートしているGT300マシン

カーナンバーマシンドライバー
11GAINER TANAX Z富田竜一郎/大木一輝
60Syntium LMcorsa LC500 GT吉本大樹/河野駿佑
61SUBARU BRZ R&D SPORT井口卓人/山内英輝
777D'station Vantage GT3藤井誠暢/チャーリー・ファグ

シミュレーション開発やサステナブルな再生素材の導入といったモータースポーツ由来の技術が市販タイヤに

──シーズン開幕からここまでの2戦を振り返って、自己評価を教えてほしい。

菅野氏:まだ2戦が終わっただけだが、第2戦富士では予選で一発の性能をみせることはできたと考えている(筆者注:64号車は第2戦富士の予選で5位を獲得している)。この結果はホンダ勢の中ではトップだったということもある。ただ、開幕戦の岡山と第2戦富士の決勝レースを通してみると、ロングランの性能にはまだ課題があると考えており、今回の富士ではそこも考慮して開発したタイヤを投入している。

住友ゴム工業株式会社 タイヤ事業本部 モータースポーツ部 モータースポーツ開発2グループ課長 菅野展寛氏(GT500担当)

──近年の64号車はベテランと若手ドライバーと組み合わせで、昨年はベテランの伊沢拓也選手(今シーズンは64号車の監督)と大草りき選手という組み合わせだったが、今シーズンは大草りき選手とイゴール・オオムラ・フラガ選手というどちらも若手ドライバーというフレッシュな組み合わせになったが、チームの雰囲気などはどうか?

菅野氏:若手2人はどちらのドライバーともわれわれに熱心に質問をぶつけてくれて、とにかくタイヤの開発をしようという姿勢が見えることがメリットだと感じている。そのフレッシュでモチベーション高い2人の若手に、今年は監督という新しい立場の伊沢さんが、これまでのダンロップタイヤの開発経験などからリードしてくれているので、やりやすい体制ができあがったと思っている。第2戦富士での予選5位も、やっぱり若さの勢いがいい意味で出ていたと考えています。どちらも今勢いがあるスピードがあるドライバーなので、今後シーズンが進むにつれて、それがさらに発揮されるシーンに期待している。

──GT300の過去2戦を振り返ってどうか? 特に777号車は開幕戦で優勝し、この第4戦富士を前にポイントリーダーとなっているが

久保氏:GT300に関しては、今シーズン4チームにタイヤを供給している。特に777号車は開幕戦でポールtoウィンできたし、その流れそのままに第2戦富士でもシングル7位入賞できたという点で、成績としては非常に順調に推移している。他メーカーも実力のあるチームばかりだが、結果が伴っていない部分はしっかりサポートしていきたい。決して楽観している訳ではないが、まずはポテンシャルが確認できた第1戦と第2戦だったと考えている。

住友ゴム工業株式会社 タイヤ事業本部 モータースポーツ部 モータースポーツ開発1グループ 課長代理 久保直也氏(GT300担当)

──61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝組)は第2戦富士でポールポジションを獲得するなど速さをみせている、それが結果につながらなかったのは惜しかったが……

久保氏:61号車に関しては、今シーズンから車両側で新しいエンジンが投入されるなど、変化点があった。タイヤもそれにアジャストしていて、それがハマればちゃんとした結果をみせられるというのが第2戦のポールポジションだったと思う。

ただ、タイヤにも課題はあり、そちらについては適切な対応を早急に進めている。今後きちんとレースを戦えるようになれば、おのずと結果もついてくるだろうと期待しているし、タイヤサイドとしても全力でサポートしていく。

 タイヤメーカーの視点では、開幕戦で777号車がきっちり結果を出してくれたのは大きい。タイヤの開発の方向とは間違っていないことが確認できたので、その方向性を他の車両にも横展開できる。

61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝組、DL)

──今シーズンのタイヤで新しくなったところはどこか?

菅野氏:GT500は64号車 Modulo HRC PRELUDE-GTの1台体制だが、一番大きいのはホンダの車両が昨年までのシビックTYPE R-GTからプレリュードGTに変わったということ。車両が変化すると、タイヤの使われ方や負荷が変わる場合があり、それに伴って性能も変える必要がある。実際に去年までのシビックTYPE R-GTに比べて、今年のプレリュードGTはタイヤにかかる負荷が大きくなっている。このように新しい車両特性や重量配分などに合わせてこんだタイヤとしている。

──GT500の車両は、基本的なシャシーは同じで、車両の変更というとボディが変わるだけというイメージがあるが、そんなに大きな変化があるものなのか?

菅野氏:ボディが変わるだけのように見えて、実は全然違ってくる。そのため今シーズンの開発を進めるにあたり、これまでのデータの蓄積やGT500の解析手法などを駆使して、ある程度こういうタイヤが必要になるだろうということを予想した上で、それを反映したタイヤを開発して、シーズンオフのテストから投入している。そこで大きな不具合なくスタートできたところはよかったと思っている。

──第2戦までに実際に戦って見えてきた課題は?

菅野氏:ドライバーが変更になったことで、まだドライバーの好みに落とし込めていない面があり、そこをもう少し合わせこむ必要がある。GTのドライバーやレースではないが、アンダーステアが好きなドライバー、オーバーステアが好きなドライバーと好みがあるので、リアタイヤとフロントタイヤのコーナリング特性のバランスを変更するなどのチューニングを行なう場合などもある。まだ合わせ込む余地はあるので、今後煮詰めていく。

インタビューはスーパーGT第4戦富士の決勝前に実施した

──GT300の方はどうか?

久保氏:GT300の車両変化点は、細かい部分は多数あるが、GT500ほど影響が出ていないという認識。ただ、61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTのエンジンが新しくなった部分は特筆すべき点。2025年以前から継続供給のチームであり、コンペ最終年というのもあり、大きな変更をあえてせず、基本的に昨シーズンまで熟成したタイヤをベースにして、正常進化というコンセプトで開発を進めている。

──GT300の方は台数が多く、かつ車両もバラエティに富んでいる。GTA-GT300もあれば、FIA-GT3もあればという形になっているが、そのあたりの合わせ込みはどうか?

久保氏:GTA-GT300とFIA-GT300を共通でやるというのは結構難しい面もある。基本的には大きく車両特性が違うところに対して極力アジャストして各チームのマシンに最適なタイヤを用意しているが、種類が多いとそれにも限界があるので、やれる範囲内できちんと調整している。

 時代によっては、車両の差が大きくて、1つのチームだけ特殊な構造になっていたり、ゴムの種類を変えたりという時代もあった。しかし、そうなるとダンロップ全体で成績を残すというのが難しくなっていくと部分もあるので、そういうのは極力基本的な構造を近づけるなど、平準化することをしてきた。ただ、完全に平準化すると、全体の性能を下げてしまう恐れがあるので、そこのバランスが非常に大事だと考えている。

GT300クラスに参戦する60号車 Syntium LMcorsa LC500 GT(吉本大樹/河野駿佑組)

──今シーズンはタイヤメーカーのマルチメイクが最終年で、来年よりワンメイク体制に移行する。ダンロップにとって思い出のレース、あるいは思い出のシーズンを教えてほしい。

菅野氏:GT500に関しては、2017年の鈴鹿1000kmレース(2017年 第6戦鈴鹿)のレース。当時スーパーGTとしては最後の鈴鹿1000kmになるといわれて、長年パートナーとして戦ってきた64号車(当時はEpson Modulo NSX-GT、ドライバーはベルトラン・バゲット/松浦孝亮組)と一緒に勝てたことが印象に残っている。その前に優勝したのが2006年の最終戦 富士で32号車 EPSON NSX(ロイック・デュバル/武藤英紀組)となり、自分たちの中でも優勝するというのは目に見える成果になるので、それをチームと喜びを分かち合えたという意味で印象的なレースだった。

GT500に参戦する64号車 Modulo HRC PRELUDE-GT(大草りき/イゴール・オオムラ・フラガ組、DL)

久保氏:GT300に関しては、やはり今年の開幕戦の岡山でのレース。自分はこれまで他部署にいてレースに関わる仕事はしていたが、自分が直接関わるようになったのは最近なので、自分が直接の担当者になった今年の開幕戦で勝てたというのは強く印象に残っている。というのも、岡山国際サーキットは低速のテクニカルコースで、それまでダンロップが強いコースという印象があまりなく、競合メーカーさんが強いサーキットという印象だった。そのコースで777号車が力強いレースをして勝ったので、本当によかったと感じた。

──スーパーGTのレース活動から市販タイヤへのフィードバックはどのようにしているのか?

菅野氏:スーパーGTのような競争があるレースでは、ゴムの技術も、構造の技術も磨かれていくので、その中で市販タイヤに応用できる技術がフィードバックされていく形になっている。もちろん技術はいきなり市販タイヤに展開する場合もあるが、まずは他のレースタイヤやワンメイクシリーズのタイヤに導入され、そのあと市販タイヤの技術として採用する場合もある。

 また、そのタイヤを開発している人材のローテーションも非常に重要な要素となり、市販タイヤを開発していた人材がモータースポーツ部門にきたり、その逆もあるので、多くの経験を経てモータースポーツ由来の技術が市販タイヤへとフィードバックされていく。

レース活動から市販タイヤへのフィードバック内容を語る菅野氏(GT500担当)

 その他にも2020年代になって加速した技術としては、シミュレーションを利用したタイヤ開発があり、特にモータースポーツ用のタイヤ開発では活用が進んできた。以前は多くのテスト用のタイヤを作って、それを実際に走らせてどれがいいかを決めていたが、今はテストの機会も限られているし、タイヤ生産工数も増えるなどの課題があり、まずはコンピューターの中でタイヤを作り、それをシミュレーションで走らせて、ある程度性能目途をつけてテストに持ち込むことが当たり前になっている。

シミュレーション技術の進化がタイヤ開発を大きく進化させてきたという

 当初は、リアルとの突き合わせ精度は低かったが、それもモータースポーツ開発を行なう中で磨かれてきた。タイヤはその時の路面コンディション、温度、内圧などさまざまなパラメーターがあり、今でも完全に合わせることは難しいが、研究段階ではあるものの突き合わせの精度や解析技術も進歩してきた。それを市販タイヤの開発にも少しずつに活用されるようになっている。

 また、昨年の第4戦富士でGT300向けに導入することを発表したサステナブルな再生素材を利用したタイヤなども重要な取り組みの1つで、そうして磨いた技術が市販タイヤにフィードバックされている。

モータースポーツという厳しい環境で技術は大きく進歩し、その恩恵により市販タイヤの性能も進化している

──今シーズンの目標を教えてほしい

菅野氏:GT500に関しては、もちろんシリーズチャンピオンを狙ってといいたいところではあるが、現実的に見ればまずは目先の1勝を目指したい。今年はタイヤのマルチメイクの最終年でもあるのでまずは1勝してそこから勢いに乗っていきたい。われわれが最後に優勝したのは、2017年の鈴鹿1000kmレース(2017年 第6戦鈴鹿)になる。そこまで戻らなくても、近年でもレースペースのよかった夏の鈴鹿レースがあるので、次の鈴鹿にはおおいに期待している。

久保氏:GT300はシリーズチャンピオンを目標にしていきたい。開幕戦で幸先よく777号車が優勝しており、ここまで来たらマルチメイク最終年でしっかりシリーズチャンピオンをとっていきたいと考えている。777号車以外もおおいにポテンシャルがあるチームなので、ダンロップ全体で上位にあがれるようにしっかり開発サポートを継続し、その中の1台がシリーズチャンピオンをとれるようにしていきたい。

今シーズンの目標を語ってくれた久保氏(GT300担当)

ダンロップは2027年からのGT300のワンメイクタイヤのマニファクチャラーに選定される

 スーパーGTは2027年から両クラスにワンメイクのコントロールタイヤが導入されることが明らかにされており、このインタビューのあとスーパーGTのプロモーターであるGTA(Grand Touring Association)が発表を行ない、2027年はダンロップがGT300クラスのコントロールタイヤのマニファクチャラーになったと明かした。

 GT300のタイヤに関してはそうしたワンメイク化だけでなく、来年の鈴鹿1000kmレース(国際的なFIA-GT3のレースシリーズとなるIGTC=Intercontinental GT Challengeの1戦として開催される)にGT300車両が出走可能になることも話題の1つといえる。IGTCではピレリがコントロールタイヤを履くことになっているが、2027年の鈴鹿1000kmに出走するGT300車両がシリーズ戦と同じダンロップタイヤを履くのなら、ピレリとどのような戦いをみせることになるのかなどは新しい注目ポイントになるだろう。その意味で来シーズンのダンロップがGT300でどのようなタイヤを投入してくるのか、モータースポーツファンとして期待したいところだ。

2027シーズンのGT300クラスはダンロップタイヤのワンメイクとなる