レビュー

【タイヤレビュー】グッドイヤーの新オールシーズンタイヤ「ベクター フォーシーズンズ Gen-3」、ドライとウエットの実力やいかに?

日本グッドイヤーの最新オールシーズンタイヤ「Vector 4seasons Gen-3」を試した

雪上に続いてドライやウエットで実力をチェック

 関東では次第に気温が下がり始め、そろそろ冬タイヤのことを考える時期に差し掛かってきた。だが、正直なところ非降雪地域に住んでいる場合、夏タイヤでも雪が降らなければ春を迎えられることも多いため、クルマやタイヤに気を配るユーザーが少ないことも事実。いま、そんな方々にこそ履いてほしいと思えるのがオールシーズンタイヤという存在だ。

 日本市場にいち早くオールシーズンタイヤを持ち込んだ日本グッドイヤーは、今シーズンそのオールシーズンタイヤの第3世代に突入した「Vector 4seasons Gen-3」をリリースした。これまで通り、凍った路面には適合しないと謳っているが、スノーフレークマークをタイヤのサイドウォールに掲げ、高速道路などで冬用タイヤ規制がかかったとしても走行が可能。凍った路面ではチェーンを装着しなければならないが、それほどの状況に立ち入らない限りは概ね走破してしまう。

 事実、2022年の冬に長野県の女神湖やその周辺で走ってみたが、かつてのレベルからはグリップレベルが引き上げられ、かなり頼りになるタイヤであることを確認できた。スノーブレーキでは5%向上したというデータも出ている。けれども、そこまで冬路面が良くなったとなればドライやウエットが苦手になるのでは? 今回はソコを見極めるため、舗装路面をとことん走ってみることになった。

 グッドイヤーいわく、舗装路における性能アップも今回の「Vector 4seasons Gen-3」の見どころの1つだという。このタイヤはセンター部でスノー性能を、ショルダー部でドライ性能を得ようという設計だ。ショルダーブロックに存在する微細ブロックのブレードがブロック間をお互いに支え合い、無駄な動きを抑制。ブロック合成を高め設置形状を最適化したことで偏摩耗が抑制され、結果としてライフはこれまでの30%アップに達しているそうだ。

 静粛性についてはセンターへ向かうほど細くなる新Vシェイプトレッドを採用。また、ピッチ配列を最適化することで路面からのピッチ音を分散させている。これらの対策でパターンノイズは旧製品に対して36%、ロードノイズは31%低減したという。パターンの配列を細分化したことで剛性への影響が懸念されるところだが、弧を描いており、内側に向かっていくに従ってRがキツくなっていることで剛性を高めることにも成功。センターリブがないことで直進性が不安だが、トレッドセンター部を浅溝化することでリブに近い構造としている。内部構造についてはSUV用のみポリアミドを1枚から2枚にすることで対処。伸縮性がありつつシッカリとした特性を持つこの素材により、コシがある乗り味が可能となり、減衰感も生み出しているという。

グッドイヤー「Vector 4Seasons Gen-3」は欧州で研究・開発、生産される2022年に発売されたオールシーズンタイヤ。従来の「Vector 4seasons Hybrid」からセンターリブが廃止され、ブロックには多くの切り込みが入れられる。サイドウォールには浅雪用を示す「M+S」(マッド&スノー)が刻印されるとともに、欧米では「M+S」以上に冬道性能が高いスノータイヤと認められている「スノーフレークマーク」が入る

雪が降らない時期から装着していても全く問題なし

 今回はそんなSUV用の「Vector 4seasons Gen-3 SUV」をまずは一般道で走らせていく。走り出しての印象は、もはやオールシーズンタイヤであることを意識せずにいられるということだった。事前にこのタイヤを装着していることを知ってからの試乗だったため、重箱の隅をつつくように感じれば微振動や高周波ノイズがやや聞こえるし、ステアリングを切り込んだ時に発する音もやや大きい感覚がある。斜めの溝と進行方向が合致したポイントが苦手なのだろう。また、操舵感がやや甘く高荷重領域は踏ん張り感がややもの足りないところはある。

 だが、もし装着しているタイヤを知らずに走っていたら、これがオールシーズンだったと言い当てることができたかどうか自信はない……。かつてのようにゴロゴロ感が付きまとい、シャー音を出し続けていたようなフィールはもう過去のものになったという感覚だ。

 舞台をクローズドコースに移して今度は「Vector 4Seasons Hybrid」に乗り、ウエット路面で60km/hからのフル制動を行なってみる。引き合いに出した旧製品では発進時のトラクションも薄く、60km/h以上に到達するのに時間がかかる。対してフル制動を行なえば発進と同じように減速感がすぐに出ないイメージ。制動距離19.6m、アベレージG・0.7G、ピークG・0.8G、2.3秒という結果。「Vector 4seasons Gen-3」では制動距離17.9m、アベレージG・0.8G、ピークG・0.9G、2.1秒という結果に。数値が物語っているが、速度が乗せやすくかなり止まっていることは明らかだ。

 続いてはドライのスラロームコースを「Vector 4Seasons Hybrid」で走れば、やはりトラクションも薄くテールも動き出し腰砕けに。静かに走らせればもちろん問題はないが、緊急回避的な動きをするとグリップ感がもう少し欲しくなるというのが正直なところだ。続いて「Vector 4seasons Gen-3」で走れば、同じ環境とは思えないほどに安定感が高い。ステアリングの手応えはシッカリとしているし、スラロームでも腰砕けするような頼りなさはなく、シッカリと路面を捉えてくれる。パターン剛性の向上にプラスして、新オールウェザーシリカコンパウンドが良い動きをしているのだろう。

 このように、スノー路面だけでなくドライもウエットもかなり向上した「Vector 4seasons Gen-3」なら、まだ雪が降らない今のような時期から装着していても全く問題はないだろう。スタッドレスタイヤを購入するか、はたまたオールシーズンタイヤにするかは迷いどころ。だが、非降雪地域にお住まいの方でウインタースポーツに出かけないような方々であれば、オールシーズンタイヤはかなり魅力的な存在となることだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学