レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】ブリヂストン「ブリザックWZ-1」を旭川のドライ、シャーベット、雪上、アイス路面で体験

最後の最後まで路面を捉え、粘りのあるコントロール性を実現

北海道は旭川でブリヂストンの新作スタッドレスタイヤ「BLIZZAK WZ-1」を試した

スタッドレスタイヤをレポートするにはもってこいの環境

 4年ぶりに登場したブリヂストンの新作スタッドレスタイヤ「BLIZZAK WZ-1」を北海道のリアルな環境で試してきた。

 以前レポートした際は基本的にスケートリンクにおける氷上性能の向上が確実にあり、グリップ限界付近における滑り出しが理解しやすい粘りのあるスタッドレスであることが確認できている。果たして乾燥路からシャーベット、雪上、そしてアイスとある各種路面にどう対応できているかが見どころだ。

今回北海道で試したのは、従来品「VRX3」と比べ氷上でのブレーキ制動距離を11%短縮し、氷上旋回時のラップタイムを4%短縮、さらに氷上での車両挙動の安定性も向上させた4年ぶりのブリザック新製品「WZ-1」
WZ-1は商品設計基盤技術「ENLITEN」(エンライトン)を乗用車用スタッドレスタイヤとして初搭載し、ブリザック史上で“断トツ”のアイスコントロール性を実現するとともに、サステナビリティへも貢献する製品へと進化。トレッドパターンではブロックまわりへの水の回り込みを抑制するL字ブロック、ブロック面への水の侵入を抑えるL字タンクサイプを採用するとともに、独自技術「発泡ゴム」に業界初の新技術「親水性向上ポリマー」を配合した「Wコンタクト発泡ゴム」を搭載。ゴムの気泡による水の除去に加え、親水性向上ポリマーとわずかに残った水の分子間力により、すべる原因となっていた水をもグリップ力へと変換することに成功

 試乗するために訪れたのは北海道の旭川。この地で平地から山岳路までのシーンをさまざまなクルマに乗りながら試していく。取材したのは11月下旬ということもあって、平地にはまだ雪がない状況。けれどもこの日の最低気温は-1.8℃、最高気温は7.1℃である。ゴムの硬化を考えれば例え雪がなくても冬用タイヤを装着すべき温度。実際にヨーロッパでは7℃を下回る場合はスタッドレスタイヤなどが推奨されているくらいだから、乾燥路とはいえスタッドレスタイヤをレポートするにはもってこいの環境だろう。

 そんな中をアルファードとアウディ Q5で走った。いずれも重量級でありスタッドレスタイヤにはまさに荷が重いと思える状況ではるが、冷えた状況であれば「WZ-1」が持つしなやかさは安心感に繋がる。早朝の路面であったとしても交差点でズリズリと滑り出すこともなく動けるところはさすが。狙ったラインをなぞるようにピシッと応答するようなタイプではないが、スタッドレスタイヤとして考えれば、まあこんなものなのかと受け入れられるくらいには走ってくれる。以前の試乗会では、真夏に「WZ-1」で走らされたことがあったが、その際は高速走行でやや危ういとも思える剛性のなさを感じたが、寒ければそんな心配もない。

重量級モデルで乾燥路を走る。早朝の路面でも交差点で滑り出すことなく動けたのはさすが

 ワインディングに訪れいよいよ雪道に突入する。とはいえ日向はシャーベット、日陰はアイス。高地に行けばスノー路面とあらゆる環境があるような難しい路面だった。N-BOXに乗って走ればこの悪条件を見事なまでに走破していくからおもしろい。確実なトラクションとコーナーリング性能は見事。軽さと「WZ-1」の組み合わせはここまで安心感が高まるのかとおどろくばかり。

 その後、真逆ともいえるZR-V、RAV4、クラウンクロスオーバーといったSUVに乗るが、重量級で背が高くなろうとも、基本的な印象があまり変わることはなかった。縦グリップと横グリップのバランスは非常によく、滑り出しが理解しやすいところは変わらず扱いやすい。旧製品に対して氷上ブレーキで11%、氷上旋回のラップタイムで4%短縮というデータはダテじゃなさそうだ。それが雪上においても変わらずグリップバランスと限界付近のコントロール性が高かったこと、これが扱いやすくうれしい。

N-BOX、ZR-V、RAV4など次々と試乗。特に軽量のN-BOXと「WZ-1」の組み合わせによる安心感には同乗者からもおどろきの声があがった

 夕方になり日陰はアイス、日向はシャーベットという変化幅が大きくなってきたところで、ヤリスとカローラに乗った。今回の試乗車では最もバランスが良さそうな2台で走れば、これまで以上に安心感高く走れるから新鮮だ。ついついペースが上がってしまいそうになる。そんな状況でこれまで通り走っていると、シャーベット路面に突入したところで思った以上に滑るように感じた。少しペースが速すぎたのがその要因。氷上やスノー路面における性能アップに気をよくしてペースを上げるのは御法度だ。シャーベットはこれまでと同等であるのだから。

 けれどもアイス性能の向上は夕方の日陰で大いに役立った。日陰のコーナー部分だけ凍っている状況があったのだが、最後の最後まで路面を捉え、コントロールしやすく駆け抜けてくれた時の安心感の高さ、これが「WZ-1」の真骨頂であると感じることができた。

日が落ちてきた夕方には路面も刻々と変化。そんな中でも「WZ-1」は最後の最後まで路面を捉え、コントロールしやすく駆け抜けてくれた

最後まで路面を捉え、粘りのあるコントロール性を実現

「WZ-1」のポイントとは

 このタイヤにはWコンタクト発泡ゴムが奢られており、そこに盛り込まれる「親水性向上ポリマー」がかなり良い仕事をしているとのこと。このポリマーはゴムが水に触れると覚醒するもの。従来のゴムは撥水してしまい、タイヤの表面を水がコロコロと転がっている状態だったが、今回の「親水性向上ポリマー」ではゴムの上をゆっくりねっとり流れていくのだとか。ボディコーティングでよく見るコロコロか、ジワーっと広がりながら水捌けしていくかの違いに近いという。

 また、トレッドパターンに盛り込まれるサイプは、一部を貯水可能な「L字タンクサイプ」とすることで、トレッド表面には水を残さないようにする工夫も凝らされている。さらにタイヤの張りを均一化して接地圧分布を良好にするENLITEN TECHNOLOGYの「WZ Motionライン」も役立っているのは間違いない。

 これらの合わせ技があるからこそ、最後の最後まで路面を捉え、粘りのあるコントロール性を実現してくれるのだろう。最後の最後でグリップが一気に抜けないところは好感触。リアルなシーンで走るとこれらのありがたみがよく伝わってくるタイヤだった。

リアルなシーンで走ったからこそいろいろと見えた今回の「WZ-1」。さまざまな路面で見事な性能を見せてくれた
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛