レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】トーヨータイヤ「オブザーブ・ガリットギズ」

 トーヨータイヤ(東洋ゴム工業)は、2014年に新たな乗用車向けのスタッドレスタイヤ「OBSERVE GARIT GIZ(オブザーブ・ガリットギズ)」を市場に投入した。それは前作となる「GARIT(ガリット) G5」の登場以来およそ5年の時が経過したフルモデルチェンジだった。

 Car Watchでは昨年、その模様をお伝えしたが、実はテストを行った際のコースコンディションが思わしくなく、アイス路面を試せずに終わるなど、満足な走行が出来なかった。今回は改めて北海道のテストコースへと向かい、走らせて頂く機会を得ることができた。

 オブザーブ・ガリットギズは、そもそもアイス性能を引き伸ばそうと考えられたタイヤだ。GIZ(ギズ)が意味するところは「G:グリップ」「I:アイス」「Z:究極」。そのコンセプトを達成するため、タイヤにはトーヨーのスタッドレスタイヤでは十八番ともいえるクルミの殻を混入。また、「NEO吸水カーボニックセル」を盛り込み、氷の表面にある水膜をタイヤが吸収。乾いた状態を作り出すことでタイヤをグリップさせようというわけだ。さらに、氷に密着するナノゲルもコンパウンドに取り入れることで、アイス路面におけるグリップを少しでも稼ごうと努力している。

OBSERVE GARIT GIZ(オブザーブ・ガリットギズ)

 このタイヤのポイントはそれだけじゃない。実はアイス路面以外のスノー路面についても、今までよりグリップを高めようと様々な試みを行なっている。実は旧製品のガリット G5は、アイス性能を特化させようとしすぎた傾向があり、結果としてタイヤの剛性感が低かった。コンパウンドの技術がまだ現在のレベルに至っていなかったため、タイヤ全体を柔らかくすることでアイス路面に密着させようという考えだったのだ。だが、オブザーブ・ガリットギズはコンパウンド技術が高まり、ゴム自体が氷に密着するために、タイヤの剛性を高めることに成功している。

 見所となるのはサイプの倒れ込みを防止するための設計が多く取り入れられたことだ。センター付近両側のコンビネーションブロックは、ブロック同士が支え合うような設計が行われている。ショルダー部についても、動いた時にしならないように考えられている。

 結果としてオブザーブ・ガリットギズが装着されたクルマにスノー路面で乗ると、たしかな手応えが得られるのだ。路面の状況が手のひらで分かる! クルマの動きもそれとリンクしており、切り始めからクルマが素直に反応を開始。おかげで無駄にステアリングを切り込むこともなく、アンダーオーバーを出しにくい。とにかく素直に走ってくれる。同じ状況でガリット G5は、手応えが薄く、クルマがヨロヨロと動くほど剛性感がない。いかにもスタッドレスタイヤを装着しているクルマの動き。オブザーブ・ガリットギズは、そんな感覚が排除されていたことに改めて気づく。

 ただ、ここまでシッカリとした感覚があると、アイス性能が気になるところ。ガリット G5に比べて制動性能で10%、旋回G比較で14%の向上が見られたというオブザーブ・ガリットギズ。その実力はどうなのだろう?

 半信半疑でアイス路面に突入すると、確実な手応えはそのままで、かつグリップがきちんと得られている。制動距離は明らかに短く、さらにフル制動時にリアのグリップが抜けないところに感心した。ガリット G5はフロントタイヤのたわみが大きすぎ、それでリアのグリップが抜けるようなイメージがある。

ガリット G5
オブザーブ・ガリットギズ

 この感覚は旋回していても同様で、リアのグリップに常に気を遣うG5に対し、何の不安感もなく駆け抜けることを可能にするギズといった感覚。数値上ではたった14%の話でしかないのだが、実際の感覚はそれ以上。数字よりも感覚的に優れたタイヤといった感触がある。縦も横もクセがなく動かせる。言うなればナナメに効くスタッドレス、それがオブザーブ・ガリットギズである。

2012年製のガリット G5で走ってみる

 今回はこのオブザーブ・ガリットギズの試乗以外にも興味深いプログラムが用意されていた。それは、数年経過したタイヤが一体どんな性能になるかを体験できるものだった。準備されていたタイヤは2014年製のG5と、2012年製のG5の2種類だ。2012年製のものは新品時より倉庫に保管されていたもので、ユーザーが保存するよりもたしかな環境下に置いてあったと思われるものである。2014年製のG5については前述した通りだが、それをベースに2012年製のものがどの程度グリップダウンするかが見所だ。

2012年製のガリット G5
2014年製のガリット G5

 2012年製のG5で走ってみると、トラクションも制動もまずまずの感触があり、極端なグリップダウンを感じることは無かった。圧雪をはじめとする整備された環境下なら、これでも十分に走れそうだ。ただ、アイス路面で比較してみると、2012年製のものはスピンモードに入り出す瞬間の動きに粘りがなく、すっぽ抜けるような動きが出てしまうことも理解できた。すなわち、瞬間的なアンダーオーバーが出やすい傾向があるのだ。

 トーヨータイヤとしては、きちんとした保存をすれば十分に使えることを謳いたかったのだろうが、正直な意見としては、やはりタイヤは新しいほうがいい。一般ユーザーが使い倒して保存しているようなスタッドレスタイヤなら、なおさらのことだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。