【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記
第42回:多くの人々の力で蘇った愛機で、オートポリス無傷完走を目指す
2018年6月1日 18:00
菅生戦のクラッシュ&リタイアというレースを終えておよそ1カ月。その間はクルマも精神もボロボロだった。ゴールデンウイークは全ての傷を癒すこともできず、悶々とした日々を過ごすばかり。クルマも同様、ガレージで修復開始を待つのみという状況だった。さまざまな復旧が始まったのはゴールデンウイークが明けてから。時間との勝負が始まる。
今、GAZOO Racing 86/BRZ Raceには参加者が加入できる保険が用意されているが、その処理をまずは開始。その後は、メンテナンスガレージのレボリューションが損傷したパーツの代替品を揃えてくれたり、板金屋さんに段取りを済ませてくれたりとスムーズに事が運んだが、愛機が蘇ったのは次戦のオートポリスへ向けた出発の4日前。その後は外装ラッピングを行なってくれているアートファクトリーに自らの運転で入庫。そこでもたった2日で全てを完成したとの連絡が入り、慌てて取りに行くことに。ギリギリセーフでオートポリスへ出発だ。
一瞬の判断ミスで多くの人々を巻き込み、苦労させてしまったことを悔いている。次こそは無傷で帰ってくる! 結果を出すことはもちろん大切だが、今僕に必要なことは無事にレースを終えて、少しでもスッキリとレースを終えることなんだろう。クラッシュもリタイアも百害あって一利なしである。
無傷を願い、自走で目指すはオートポリス
絶対に当たれない状況に追い込むためにも、そしてコストダウンのためにも、今回はあえて自走でオートポリスを目指すことにした。積載車を使わず、自らの運転で長距離を走ってレースをし、そしてきちんと無傷で帰還すること、これが第1目標。それに結果がついてくれば万々歳だ。とはいえ、レースに出る前に疲れ切ってしまえば意味がない。そこで、今回もまた大阪から別府まではカーフェリーを使ってそこで1泊することにした。
久々の自走で大阪までのドライブはなかなか楽しめた。蘇ってくれた86の感触を掴みながら高速道路を走っていると、気分は次第に晴れやかになってくる。1人でのロングドライブは孤独と眠気との闘いになるのが常だが、今回ばかりはそんなことも皆無。走れていることが嬉しくてたまらない。短期間でこの状況を作ってくれた皆さま、本当にありがとうございました!
大阪港に到着すると、僕と同様に自走で関東から走ってきた86レーサーがいた。Beeレーシングの今井選手である。チューニング業界をご存じの方々であれば、ご存じの方々も多いはず。そんな今井選手が顔を見るなり「乗船したらレストランで飲もう!」と誘ってくれ、そこからは酒盛りが始まった。共にロングドライブをしてきたにも関わらず、レースの話で大盛り上がり。楽しいレースウイークになりそうだ。
翌日早朝に別府港に到着してからは2台でオートポリスまでのツーリングである。阿蘇の山間を流しているだけでもなかなか面白い。こんな移動なら自走だって悪くない。時間があれば記念写真でも撮影しておけばよかったと後悔しているが、まずは朝イチの練習走行に間に合うことが大切。寄り道もせずに真っ直ぐにオートポリスへと乗り込む。
練習走行で発覚したクラッシュの影響
そこからはクルマから荷物を降ろして練習走行開始! だが、走り出してすぐに愛機は悲鳴を上げてしまう。エンジンが一切吹け上がらず、スロー走行をしてピットに滑り込む始末。縁石などに乗り上げた瞬間にエンジンがグズつく症状が止まらない。一体何が起きているのか? メカニックさんが診断機をかけてチェックしたところ、さまざまなエラーが発生していることが判明する。どうやらクラッシュの影響がまだ残っているらしく、ABSユニットの不良があるとまずは判明。そのほかにもステアリング操舵角センサーなども怪しいようだ。こうして練習走行初日はトラブルシューティングで終始してしまう。たった2周走れただけで何もできず、ライバルのセットアップを横目に見ていると不安ばかりが募ってしまうのだった。
パーツの手配や交換作業で初日は終始してしまったが、その甲斐あって2日目には調子が戻ってきた。だが、ドライビングはまだまだ。1年ぶりのオートポリスは攻略するのに時間がかかっている。その最たる要因は足元を支えてくれているブリヂストン「POTENZA RE-12D」を使い切れていないからだろう。2017年とは違うタイヤで新たなコースを走っていることで、2017年の経験が活かせていない感覚。即座にピークに持っていけない不甲斐なさが残る。
けれども、同チームのプロクラスドライバーである佐々木選手に、データロガーや車載ビデオをチェックしてもらい問題点を明らかにしてもらうと、ブレーキングが行き過ぎているところがあることが判明。自制心のなさがタイムアップにつながらないといういつものパターンに陥っている。ブレーキングポイントを手前にして、立ち上がりでシッカリとアクセルを踏めるように。これがアドバイスのキモである。いつも聞く言葉だが、やはりコースが違うとなかなか即座にできるもんじゃない。走行を繰り返して次第にそれも修正されるが、とにかく時間が足りない。やはり、初日のトラブルで走れなかったことが僕にとってはかなりイタイ!
そしてもう1つ判明したことは、どうやらオートポリスは前期型のほうがギヤ比がマッチングするということだった。特に登り勾配のところで差が出てくる。とりわけジェットコースターストレートを終えてからの回転ドロップでの差が大きく、こちらは4速ホールドのまま登るか、3速に落として再び4速にシフトアップするかで迷う。前期型は3速に入れっぱなしで高回転をキープして登り続けられるところにウマ味があるようだ。
だが、そんなことを言っていても仕方ない。今ある道具でどこまで行けるか? できるだけ最善策を探して予選に挑む。しかし、ここでも上手くはいなかった。アタックラップを終えようかという最終コーナーにおいて、完全にトラフィックに引っかかってしまったのだ。そこでアタックを続ければ危険な状況に陥りかねない。残念ながらそこで1回目の予選アタックは断念せざるを得なかった。その後、気を取り直して2回目のアタックを開始するが、そこでも満足に走れずにベストタイムを出すことはできず。比較的満足に走れたのは3アタック目のことだった。それでも記録したタイムは予選8位。今季ワーストグリッドである。
これにはかなりヘコんだが、実は周囲の何人かのドライバーも同じような状況だったらしい。参加台数がいつもよりも少なく、予選が2組に分けられることがなかった今回のオートポリスでは、コース上に41台ものクルマがいたのだ。引っかからずに走れた人が上位に行ける、そんな状況だったのだ。いくら間合いを取っても誰かに出会ってしまう、そんな予選だったのだから仕方ない。
ヘコんでいる場合じゃない。いかに決勝でポジションを上げるか? そこが問題だ。グリッドにつけば目の前には昨年のチャンピオンである神谷選手、そして右前にはいつもライバルになる全日本ジムカーナチャンプの菱井選手が立ちはだかっている。ここをどうクリアするか? 難しい戦いになりそうだ。
完走とともに上位を目指し、スタートでポジションアップ!
決勝レースはスタートが見事にキマって2コーナーまでに6位まで浮上。その後はずっとポジションキープの旅となるが、タイヤが持ってくれればコチラにもチャンスはありそうな雰囲気だ。冷静に無理せず、淡々と上位集団に食らいついて行く。しかし、レース終盤からクルマの動きが怪しげになってくる。特に高速100Rでリアタイヤが滑り、タイムがダウンしてくることに。予選でアタックを多くしてしまった結果が、そこにつながっていたのだ。リアタイヤは悲鳴を上げてラップタイムはズルズルと落ちている。背後に迫る菱井選手はジリジリと迫ってくる状況だ。
100R脱出で追いつかれ、その後のヘアピンでインを刺されるという展開が何周か続き、前とは離れはじめていた。もう時間の問題だ。あと2周というところで菱井選手はそのヘアピンでインを見事に突き、そこからギリギリの並走をしてジェットコースターストレートの後の右コーナーでアウトから抜き去られてしまった。そこでポジションは7位へ。だが、ラスト1周でトップ2台の競り合いの結果、1台がコースアウトしたことで、再び6位へと浮上。そのままチェッカーを受けた。辛うじて入賞したが、ハッキリ言えば内容はボロボロである。予選の戦い方に失敗し、タイヤを使い切ってしまったことが何といっても敗因だろう。
だが、気分はスッキリしていた。クルマは無事でありながら、菱井選手とギリギリの戦いができたからだ。実は再車検時にクルマを見ると、左のウインカーレンズと配線が外へと引きずり出されており、菱井選手とは軽い接触をしていたようなのだが、ボディには一切キズが入っていなかったのだ。ほんのちょっとの突起が引っかかっただけという惜しい状況。無傷とはならなかったが、それを見た時には充実感があったのだ。
新たなウインカーレンズを手に入れてアッと言う間に修復を終えた86は、公道走行チェックも無事に終えることができ、難なく自走で帰路に着くことができた。これぞナンバー付きレース車両の生き方と言ったら大げさかもしれないが、遠方の地でそれができたことにまずは満足。いいバトルができたことも充実感に満ちていた。抜かれて満足と言ってはマズイかもしれない。だが、クラッシュ&リタイアで終わった菅生のことを考えれば、個人的には一歩進めたような気がする。この調子で、次戦の岡山では上位に完全復活し、あわよくば優勝したいものだ。