深田昌之のホンダ「N-VAN」で幸せになろう
第12回:走りのN-VAN!? 6速MT車に乗ってみた
2019年9月30日 14:31
前回の連載で、N-VANの情報を教えてほしいと書いたところ、お2人の読者の方からメールをいただきました。本当にどうもありがとうございます。こうして記事への返答をいただけることはとてもうれしく、「読んでいただいている」ことが改めて実感できます。
筆者はクルマ趣味の雑誌の仕事を長くやっていたので、こうした読者とのやり取りをたくさんしてきました。それがいい思い出でもあるし、雑誌が終わった今でも連絡をくれる元読者の方もいるので、記事の掲載がWebになっても呼びかけに返答していただけることに対してのうれしさは雑誌と同じです。
返事をいただいた方、そして記事を読んでいただいている方とも改めてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。なお、N-VANのオフ会などの情報は引き続き募集していますので、予定があれば編集部までお知らせください。
ということで今回の話。N-VANに1年乗ってみると、このクルマが“お1人さま向け”ということを改めて感じる。ただ、それは助手席の座り心地うんぬんということだけでなく、「1人で行動することが似合う」という意味でのお1人さま向けだ。
仕事で乗る人が疲れず、運転しやすいことを目標にしっかりと作られた運転席は「居場所」としても心地いい感じ。豪華とか快適ということはないが、なんというか「ちょうどいい」のだ。
そして、趣味の道具が適度な密度で積める荷室も自分専用の倉庫的な感覚でどこかシックリくるなどなど、言うなればオトコとしてほしかったいくつかのパーソナルスペースがそこにあるという感じの存在なのだ。しかも自走する。これは最高である。
そんなことから思っていたのは、「N-VANを買うなら思い切り趣味に振るのが正解だ」ということ。筆者は仕事で長距離を走るのでターボモデルを選んだが、6月に公開した第9回の記事で紹介したように、のんびり走るスタイルでいくなら自然吸気エンジン(NA)でも問題なかったかもしれない。
これは燃費面でもメリットがあるし、NAエンジン車には6速MT仕様があるので、NAエンジン車でいいとなればターボ車にはないシフト操作の面白さも味わえる。この選択ならアウトドアやスポーツなどの趣味のほかに「運転も好き」という人にとっては、移動の時間から趣味を堪能できる環境になるだろう。そんなことから「これは一度6速MT車に乗せてもらわねば」ということで、本田技研工業から6速MTのN-VANを1週間ほど借り出してアチコチを走ってみた。
ローパワーだけどちょうどいい
N-VANが積んでいる「S07B」型エンジン(NA版)は最高出力を6800rpmで発生し、最大トルクも4800rpmで発生するという高回転型になっているが、これが6速MTのギヤ比とよくマッチしている。
N-VANに限らず、排気量の小さいエンジンのMT仕様では日常的にエンジンを高回転まで回す傾向があるが、N-VANは6800rpmが最高出力のポイントなので、車速を早めに乗せたいならこの域まで引っ張るのがちょうどいい。そして次のギヤへシフトアップすると回転は約3500rpmくらいまで落ちるが、この辺からトルクが立ち上がるのでもたつきもなく加速。そして6000rpm過ぎまでの広いパワーバンドが使える。さらにN-VANの6速MTは5速MTと比べて各ギヤのレシオがクロスしているので、軽快にシフトアップしていけるのだ。
とはいえ、そもそものパワーやトルクは少ないので「速い」とは言えないが、エンジンの効率のいいところを有効に使っているので、そのエンジンなりの生き生きしたフィーリングがギヤのキレイなつながりを伴って味わえる。これは機械好きには楽しめるものだと思うし、一定回転数をキープして効率のよさを求めるCVTでは味わえないことなので、6速MTの価値の1つでもある。
ちなみに3速から上がクロス気味といっても、このギヤを使う速度域になると吹け上がりの勢いも落ち着くので、シフトチェンジが忙しいことはない。それに市街地走行でよく使う3速と4速はシフトレバーの直線運動で変速できるパターンなので操作性がよく、クロスレシオのうま味はより生きる感じだ。
それに高回転指向のエンジンでも意外と低速域が粘るので、ギヤを3速に入れたままアイドリング付近まで回転を落とし、そこからアクセルを踏んでもスルスルと普通に立ち上がれる。ここで吹け切る感じになったとしても、シフトレバーの直線運動で4速に入れられるし、3速に戻すのも単純な腕の動きですむから面倒な感じはない。
次に高速道路を走行した印象だが、本線への進入時に常用リミットの回転数である7000rpmまで回してみた。N-VANのNAだからということではなく、排気量の少ないNAエンジンではそもそも1速、2速の加速力は乏しいので、N-VANも静止状態からの加速時における1速、2速はポンポン上げるだけのギヤという感じ。トルク感がちゃんと出てくる3速でようやく速度も操作も落ち着く。そんなフィーリングでも、とりあえず7000rpmまで引っ張れるのが楽しい。
そして巡航に移る。走行車線を約80km/hで走ったときのエンジン回転数は6速で約3500rpm付近。そして100km/hに上げたときのエンジン回転は約4000rpmと、NAのCVT車と同じレベルだ。4000rpmと聞くとずいぶん回している印象もあるが、前に書いたように最大トルクの発生回転数が4800rpmなので余裕はあるのだ。とはいえ、一般道の走行よりは高い回転域を使うので、ここでエンジンの負担を気にするのなら小まめなオイル交換をやっておくといい。
さて、自分のN-VANで高速道路を走るときはACC(アダプティブクルーズコントロール)で80~100km/hあたりに合わせてあとは楽をさせてもらうのだけど、6速MT車のN-VANにはACCが付いていなかった。そのため道中は自分でアクセルを踏むわけだが、ACCに慣れているとこれがちょっと面倒。しかもLKAS(レーンキープアシスト)もないので、ステアリングの修正を行なう作業も増えたので、筆者の感覚では正直なところ高速道路での6速MT車の魅力は半減といったところだ。高速道路での移動を楽にしたいと考えているのなら、ACCやLKASがあるCVT車を選ぶ方があとで後悔しないかもしれない。ただ、趣味を満喫することが主題なら目的地に行くまでの行程も趣味のうちなので、そこでの楽しさを取りこぼさないためにも6速MTを優先でいいと思う。
高速道路走行に関して1つ気になったのが登坂時のことだ。6速100km/hで巡航中、上り勾配に差し掛かったときになんとエンジン回転数がジワジワ低下。ギヤを変えずにアクセルを踏み込んでも回転は上がらない状態になった。つまり勾配のきつさに対して6速のギヤ比では「エンジンがギヤを回しきれない」という状態になっているということ。N-VANの6速はかなりのハイギヤなのでこれは仕方のないことだが、自動で最適なギヤ比にしていくCVTでは起こらないことなので、状態を理解していないユーザーだと「故障か?」と思うこともありそうだ。それだけに適切なギヤポジションでない場合に、警告を出す機能があってもいいかもしれない。
この状況を解決するには5速へシフトダウン。これで回転の落ち込みもなくなってアクセルを踏めば加速するようになったが、今度は勾配に対してギヤが少し低いようで、キープするエンジン回転が上がった。もちろん無理な回転ではないのでエンジンの心配は必要ないが、音が大きくなるのと余計に回っているということからの気持ちの落ちつかなさは不快に感じた。まあ、すべての上り区間でこうなるわけではないので気にしなくていいとは思うけど、アンダーパワーのエンジンにワイドレンジの6速MTを組み合わせたときの不器用な部分が出てしまうことになった。
このように、面白いところと弱いところの両方が見えたNAエンジン/6速MT車の試乗だったが、最後に挙げたところは「高速道路の上り区間で6速を使っているとき」に限定されるもので、勾配によってはまるで問題ないこともあるので気にしすぎないでほしい。それよりも、使える特性でありそれなりに楽しい「実用型高回転指向」という感じのエンジンと、低速の扱いやすさと中間ギヤでの楽しさ、そして高速巡航時の静粛性と燃費向上まで考えた6速MTとの独得なマッチングは、N-VAN 6速MT車でしか味わえないフィーリングだと思うので、趣味の道具を運ぶだけでなく「N-VANに乗ることも趣味」という人なら、購入候補に入れていいクルマと言えるだろう。
ユーティリティナットの活用で荷室の使い勝手向上
N-VANの荷室はそれなりに広いが、ストロボ用の三脚を入れたバッグやブツ撮り用のマットなどの「長尺物」をフロアに横置きしておくとけっこうジャマであった。とはいえ、これらは常に使うので基本的に積みっぱなしになる。だけどジャマなのでどうにかならないか……と考えながらN-VANの純正アクセサリーカタログをめくっていると、目に入ったのが荷室に28個も用意されている「ユーティリティナット」にねじ込む「ユーティリティフック」というもの。ユーティリティナットにこれを付けてゴムバンドで固定すれば、長尺物を立てて積んでおける! とひらめいたのだ。
そこで買う気マンマンで改めてアクセサリーカタログを見直してみたところ……、リングの部分が少し小さそうで、荷物固定用のゴムバンドに付いている大きめのフックが掛かりそうもない。それに三脚は4本もあって重量もそれなりだから、細いリングと樹脂の本体では荷重も厳しそうだ。
ユーティリティフックを使う作戦は一度は諦めたのだが、長尺物の出し入れのことを考えつつ立てて積む手段は他にないので、代用できるものを探したところ、見つけたのがゴムボートの本体についている係留用ロープ(?)を掛けるためのDリングだ。
これも樹脂の本体にリングが付くものだが、リングのサイズが大きいのでフックが掛けやすいし、本体のセンターに開いている穴はユーティリティナット用のM6ネジにぴったりの径だった。
そこでこのフックを購入。輸入品で10個で約1200円(税別)と安価だ。さらにM6ネジのステンレスアイボルトも発見したので、こちらも購入。これも8個セットで1280円(税別)と安かったが、この手の格安輸入品は品質や耐久性の保証はないので、いきなりリングが外れたりすることがあるかもしれない。ステンレスと書いてあるアイボルトもJIS規格のものではないので、素材のレベルや強度は不明だ。それだけに、これらの不具合から積み荷を傷つけたり壊したりのトラブルがあるかもしれない。余計な心配をしたくないという人は素直に信頼性のある純正アクセサリーを選ぼう。
さて、購入したリング類だが、ボート用のDリングはリングのサイズが大きめだったので、ゴムバンドのフックは余裕で掛けられそうだ。ただ、樹脂製の本体の強度はいささか不安。使っているうちに割れたりしそうな気もする。そこでボート用のDリングの方は軽い撮影用のマットの固定用として、重さのある三脚を支える方は見た目にも強そうなアイボルトを使用することにした。
もの探しに少し手間が掛かったけど、取り付け作業は簡単なのですぐに終わった。そして長尺物を立てて積んだ感想だが、積み荷を減らさず使える床面積が増えたのは画期的。想像以上に使いやすくなった。ユーティリティナットのことは購入前から知っていたので、もっと早くやればよかったという感じだ。
今回は撮影用品を立てて積んだが、アウトドアレジャーのときに使うタープ用のポールなどを同様に立てて積めるし、車中泊などをするときは小物をしまうバッグなどを引っかけておくこともできるなど使い道はいろいろあるので、ユーティリティナットを活用していないというN-VAN乗りの方はぜひ導入の検討を。そして、これからN-VANを買うという方は最初からユーティリティナットを上手に活用して便利な荷室作りをしていこう。