深田昌之のホンダ「N-VAN」で幸せになろう

第9回:自然吸気エンジンと+STYLE COOLの走りを1000km走って試してみた

 N-VANには自然吸気とターボの2タイプのエンジンが用意されているが、筆者はターボエンジン搭載モデルを購入した。この選択に後悔はないが、出張先でN-BOXの自然吸気エンジン車を借りたとき、想像していたより非力さを感じなかった。そんなことからN-VANの自然吸気エンジン車の走りがどんなものか興味が湧いた。

 そこで今回のN-VAN連載では、N-VANの自然吸気エンジン車に試乗した印象をお伝えしていこう。なお、N-VANにはロールーフの+STYLE COOLというモデルもあり、こちらも一度乗ってみたいと思っていたので、ホンダさんからは自然吸気エンジン車の+STYLE COOLを借り出した。

東京 青山にあるHonda ウエルカムプラザ青山にてクルマを受けとった。筆者の+STYLE FUNとロールーフの+STYLE COOLを並べる。筆者のN-VANは4WDで全高はFFより1.5cm高い。それだけに余計に背高に見える

ロールーフの+STYLE COOLはなにが違う?

 N-VANを最初に見たとき、+STYLE FUNは丸いヘッドライトにハイルーフといった特徴的な部分が多かったのに対して、+STYLE COOLはシンプルゆえにあまり目立たない印象だった。だからN-VANを買うときにも+STYLE COOLは最初から候補に入れてなかったのだが、借り出してしみじみ眺めてみるとやはり縦横比のバランスは+STYLE COOLのほうが自然だ。

 そしてサイズ的なことに気を取られないからか、ボディ側面に入れられた3本のリブなど、ボディそのものが直線的なラインを多く使ったデザインだったことに改めて気がつかされる。

N-VAN +STYLE COOL Honda SENSINGのFF CVTモデル
+STYLE COOLはメッキグリルとなる。ライトはオートコントロール機能付きのマルチリフレクターハロゲンヘッドライト。+STYLE FUNのLEDライトと比べて明るさは少なく思えるが、やや黄色ぽく見える灯りは街灯が明るいところから暗い道、雨の夜など安定して見やすかった
ボディサイズは3395×1475×1850(全長×全幅×全高)。参考までにハイルーフの+STYLE FUNの全高は1945mm(FF)と1960mm(4WD)だ
ボディカラーは+STYLE COOL専用のプレミアムベルベットパープル・パール。これはいい色で+STYLE COOLを検討している方にはお勧めしたい。それにしてもN-VANにはいい色の設定が多い
N-VANは道具箱っぽい車体デザインだが、+STYLE COOLの後姿はまさにそれ
+STYLE専用バンパー。LEDフォグライトのまわりはメッキ加飾。+STYLE FUNも同様のデザインだがグリルがボディカラーなのでフォグまわりのメッキ加飾が浮いている感じもする。その点では+STYLE COOLのほうがバランスがいい
+STYLE COOLにはテールゲートスポイラーがつく。ワイパーは+STYLE FUNと同じくウインド上から拭くタイプ
リアライセンスガーニッシュはフロントグリル同様にメッキとなる。+STYLEは全モデルでエンブレムがメッキなのでここがメッキだと一体感がある

 つぎにインテリアの印象。+STYLE FUNも+STYLE COOLもインテリアの装備やシート形状は同じでシートアレンジのパターンも同様。異なるのはルーフの高さだが、身長約170cmの筆者が運転席に座って腕を上に伸ばした際、+STYLE FUNは腕がほぼ真っ直ぐになったあたりで天井ライナーに手のひらが触れるのに対して、+STYLE COOLは肘が軽く曲がった段階で天井ライナーに手のひらが触れるという差。

 筆者のようにバイクを積むことも用途に含んでいると、車内に立って乗り込むし、バイクのミラーの高さなどあるからハイルーフのほうが都合いい。また、車中泊などで立って着替えるときなどは室内の高さがあったほうが楽なので、そういったことをする人には+STYLE FUNが便利かもしれない。

 だけど+STYLE COOLだって室内の高さは十分なので、一般的な用途なら使い勝手に不自由することはないだろう。

 ここは乗る方それぞれで求めるものがあると思うので、迷ったらホンダカーズに展示されている展示車で確かめていただきたい。希望する展示車、試乗車がどこにあるかはホンダのWebサイト「展示・試乗車検索」で調べることができる。

インテリアは+STYLE FUNと一緒。インテリアカラーも同じなので、ふだんN-VANに乗っている筆者では、うっかりこれが借りているクルマということを忘れるくらい同じ
+STYLEシリーズの純正ステアリングは樹脂性でシルバーのステアリングガーニッシュが付く。筆者は純正アクセサリーのステアリングホイールカバー(本革/ブラック×ブラックステッチ)を装着。握り心地は本革ステアリングだし質感も向上した。でも、樹脂製ステアリングも思っていたよりはるかに握り心地がいい。滑ることもなかったのでこれはこれで十分という印象
室内の形状やシートアレンジは+STYLE FUNと同じ。違いは天井が少し低いところだが、低床なのでロールーフでも十分な高さがあるといえる。室内灯はすべてLED。前席、2列目の左のワークランプ、センターランプ、ラゲッジランプとある。このランプについて、メディアにあまり取り上げられていないが、全点灯するとかなり明るく夜に室内で何かするときには十分な光量。とくにワークランプは左スライドドアを開けて何かをするときにとても便利だ
後席を1つ起こして3名乗車仕様にした。それでも機材と荷物は余裕で積める。また、荷物や人を乗せても1名乗車時と走りの安定度が変わらないのがN-VANのすごいところ。乗り心地に関しては積載物があったほうがいい感じだ

自然吸気エンジンの実力はいかに?

 さて+STYLE COOL、今回の試乗では総走行距離がぴったり1000kmになり、そのうち約200kmくらいが一般道で、残りが高速道路という内訳になった。

 走り出してまず最初に受けたのが、ターボと比べると加速が鈍いという印象。N-VANのS07Bターボエンジンは低回転からブーストが掛かるので約2000rpmからトルクが出るのだけど、自然吸気エンジンではここの域でトルクの盛り上がりがないため、例えば信号が青になってからのスタート加速ではハッキリとした差を感じた。

 しかし自然吸気エンジンは、ターボのトルク特性のその上にトルクバンドがあるので、一度車速に乗ってしまえば差は出にくい。巡航で違和感がないのはもちろん、道路の流れに合わせるための緩い加速といったシーンでは、スタート時のような明確な力の差は感じなかった。

 ただ、厳密にいえばターボと同じような加速を得るには多少余計にアクセルを踏み込むことが必要だったが、それも極端な違いではなかったのですぐに慣れて気にならなくなるものだった。

 つぎに郊外での走行だが、今回の試乗では山道を延々と上がるところもあって、そこでは大人男性が3名乗車+カメラ機材とそれぞれの1泊用の荷物という状況だったが、ここでも非力さを感じることはなかったのでS07Bの自然吸気エンジンとCVTの組み合わせは小さいトルクでもかなり快適に走れる設定だといえる。

 でも、その域からさらに加速が欲しいときにアクセルを踏み込むと約7000rpm付近まで回転が上がるが、それでいてターボより加速は鈍いので、加速のフィーリングを重視したい人はターボを選ばないとN-VANの走行性能に不満が出るだろう。

自然吸気エンジンは最高出力が39kW(53PS)/6800rpmで、最大トルクは64Nm(6.5kgfm)/4800rpm。ターボは最高出力が47kW(64PS)/6000rpmで、最大トルクは104Nm(10.6kgfm)/2600rpmだ

 さて、+STYLE COOLだけど首都高のカーブや山道を走って感じたのが+STYLE FUNより回頭性がいいのでは? ということだった。

 とくに回り込むようなカーブでは、+STYLE FUNは奥でのステアリングの切り足しの際に、向きを変えにくい感じがしていたが、+STYLE COOLはそんなシーンでも素直にノーズが入る感じだった。だからカーブが連続する山道でも乗りやすく、とくに今回は助手席と後席に人を乗せていたので、いつもより揺らさないよう丁寧に運転したがそれがやりやすかった印象だ。

 この理由について、タイヤサイズやサスまわりが同じ場合、高さのあるクルマのほうが挙動変化は大きめになる傾向とのことだった。そんなことからハンドリングのシャープさ(というほどでもないけど)も重視したい人には+STYLE COOLが合うはずだ。

カーブでのクルマの動きは+STYLE COOLのほうが素直な印象。この違いはちょっと驚いた。+STYLEシリーズでも自然吸気エンジン車には6速MTが設定されているので、走りも楽しみたい人は自然吸気エンジン+6速MTという選択はアリかも
ルーフの低さが挙動に関係しているようだ
タイヤサイズや銘柄もターボと自然吸気エンジン車は同じ。+STYLE FUNと+STYLE COOLでも違いはない。異なるのはホイールカバーの色くらいだ
よほど急な上り坂でない限り、登坂でも非力な感じはしなかった。ふだん使いのクルマであれば自然吸気エンジン車で十分かも

高速道路は自然吸気エンジンで物足りるのか?

 つぎは高速道路の印象だ。今回は新東名を使っているので120km/h巡航も試してみた。

 自分のN-VANではたいてい走行車線を80~100km/hで走っている。このときにエンジン回転数は100km/h時で約3000rpmだ。それに対して自然吸気エンジンは3000rpmだと速度は80km/hで、100km/hまで上げると約4000rpmとなる。数字だけ見るとちょっと高めに思えるが、自然吸気エンジンの最大トルクは4800rpmで発揮するので「まあ、こんなものか」という気にもなる。ちなみにこの回転数でもとくにエンジンノイズがうるさいとは感じることはなかった。

 そしていよいよ120km/h区間、速度を120km/hまで上げるのは意外とスッと出た。そしてそのときの回転数だがなんと5000rpm付近とけっこう高め。エンジンの能力的にはイケるのかもしれないが、オーナー心理的には「回りすぎだよな~」的でちょっと厳しい。エンジンがかわいそうに思えることから筆者の感覚では120km/hの巡航は「なし」だと思った。

 つまりN-VANの自然吸気エンジン車では80~100km/hあたりの巡航が向いているのだけど、これはちょうど制限速度内であり、走行車線を走る大型トラックもこのペースなので、走りにくいことはまるでない。というかターボのN-VANもこのペースが基本なので、この域での巡航ならそれほど大きな差はないと言える。でも、前のクルマを追い越すときは明らかにターボのほうが楽である。

助手席の人に撮ってもらったが、このように100km/h巡航でエンジン回転は4000rpmとなる。最大トルク発生回転数が4800rpmなのでまだ余裕といえば余裕
高速道路の移動も想像していたより楽。エンジン回転数は余計に回るがターボと同じくACCを100km/hに設定して巡航できる。東名、新東名のようなアップダウンが少ないコースであればターボとの差を強く感じることはないだろう
帰ってきてトリップメーターを見たらちょうど1000kmを指していた

 という今回の試乗。結果として自然吸気エンジン車が苦手なのは信号ダッシュ、キックダウンしての急加速、そして高速道路での追い越し時くらいなので、ふだんから「急」のつく運転をしないという人ならエンジン的な不満はないだろう。

 そして今回走った1000kmでのトータル燃費は約18km/L。能力を知りたい試乗なので燃費に無頓着に走ってこの数値。しかも積み荷が重いときもあったし登坂もあってなのでわるくない。

 ちなみに筆者のN-VANだと、どう走ってもだいたい15km/Lに落ち着いている。また、4WDは燃料タンク容量が25Lなので航続距離が短いが、FFは27Lタンク。そして18km/L走れば1回の給油で450km以上はいける。ここは羨ましいと思った。

 まとめると「自分が自然吸気エンジン車を買っていた」という想定では、動力的には許容範囲内の非力さだったので、ここでイヤになることはなかったと思う。それよりタンク容量と燃費のバランスがよく、ガソリンスタンドにちょくちょく行かないで済むのが楽に思えていただろう。

 それに車両価格も安いのでそこは大きな違いだ。N-VANは付けたくなる純正アクセサリーが多いが、ターボの4WDだと総額もけっこういくので諦めた装備も多かった。ゆえに装備の充実面では自然吸気エンジン車のほうが満足度が高かったかも。

 ただ、そうはいってもターボは低回転からトルクがあるので、どんなシーンでも自然吸気エンジンより走りはスムーズだ。このメリットは大きし、ターボの走りに慣れているのでもし買い換えるといしてもまたターボを選ぶだろう。ただし、タンク容量の大きさから次はFFにするかもしれない。

 また、+STYLE COOLについてはこれはこれで利点が多かったが、何度も書いているように筆者はバイクも積むのでやはりハイルーフがいい。

 とまあ、ターボのN-VANに1万5000km乗った筆者が感じた自然吸気エンジン車に対する印象はこんなところ。どちらが優れているということではなく、シンプルにいえば「乗る人の事情次第だなぁ」という感想。この辺も道具車であるN-VANっぽいところと言えるだろう。

どちらがいいとか上だという物差しでなくて、道具としてどちらが向いているかという判断基準でいいと思う。N-VAN選びはあくまでも使う人次第ということか

深田昌之