深田昌之のホンダ「N-VAN」で幸せになろう
第9回:自然吸気エンジンと+STYLE COOLの走りを1000km走って試してみた
2019年6月29日 00:00
N-VANには自然吸気とターボの2タイプのエンジンが用意されているが、筆者はターボエンジン搭載モデルを購入した。この選択に後悔はないが、出張先でN-BOXの自然吸気エンジン車を借りたとき、想像していたより非力さを感じなかった。そんなことからN-VANの自然吸気エンジン車の走りがどんなものか興味が湧いた。
そこで今回のN-VAN連載では、N-VANの自然吸気エンジン車に試乗した印象をお伝えしていこう。なお、N-VANにはロールーフの+STYLE COOLというモデルもあり、こちらも一度乗ってみたいと思っていたので、ホンダさんからは自然吸気エンジン車の+STYLE COOLを借り出した。
ロールーフの+STYLE COOLはなにが違う?
N-VANを最初に見たとき、+STYLE FUNは丸いヘッドライトにハイルーフといった特徴的な部分が多かったのに対して、+STYLE COOLはシンプルゆえにあまり目立たない印象だった。だからN-VANを買うときにも+STYLE COOLは最初から候補に入れてなかったのだが、借り出してしみじみ眺めてみるとやはり縦横比のバランスは+STYLE COOLのほうが自然だ。
そしてサイズ的なことに気を取られないからか、ボディ側面に入れられた3本のリブなど、ボディそのものが直線的なラインを多く使ったデザインだったことに改めて気がつかされる。
つぎにインテリアの印象。+STYLE FUNも+STYLE COOLもインテリアの装備やシート形状は同じでシートアレンジのパターンも同様。異なるのはルーフの高さだが、身長約170cmの筆者が運転席に座って腕を上に伸ばした際、+STYLE FUNは腕がほぼ真っ直ぐになったあたりで天井ライナーに手のひらが触れるのに対して、+STYLE COOLは肘が軽く曲がった段階で天井ライナーに手のひらが触れるという差。
筆者のようにバイクを積むことも用途に含んでいると、車内に立って乗り込むし、バイクのミラーの高さなどあるからハイルーフのほうが都合いい。また、車中泊などで立って着替えるときなどは室内の高さがあったほうが楽なので、そういったことをする人には+STYLE FUNが便利かもしれない。
だけど+STYLE COOLだって室内の高さは十分なので、一般的な用途なら使い勝手に不自由することはないだろう。
ここは乗る方それぞれで求めるものがあると思うので、迷ったらホンダカーズに展示されている展示車で確かめていただきたい。希望する展示車、試乗車がどこにあるかはホンダのWebサイト「展示・試乗車検索」で調べることができる。
自然吸気エンジンの実力はいかに?
さて+STYLE COOL、今回の試乗では総走行距離がぴったり1000kmになり、そのうち約200kmくらいが一般道で、残りが高速道路という内訳になった。
走り出してまず最初に受けたのが、ターボと比べると加速が鈍いという印象。N-VANのS07Bターボエンジンは低回転からブーストが掛かるので約2000rpmからトルクが出るのだけど、自然吸気エンジンではここの域でトルクの盛り上がりがないため、例えば信号が青になってからのスタート加速ではハッキリとした差を感じた。
しかし自然吸気エンジンは、ターボのトルク特性のその上にトルクバンドがあるので、一度車速に乗ってしまえば差は出にくい。巡航で違和感がないのはもちろん、道路の流れに合わせるための緩い加速といったシーンでは、スタート時のような明確な力の差は感じなかった。
ただ、厳密にいえばターボと同じような加速を得るには多少余計にアクセルを踏み込むことが必要だったが、それも極端な違いではなかったのですぐに慣れて気にならなくなるものだった。
つぎに郊外での走行だが、今回の試乗では山道を延々と上がるところもあって、そこでは大人男性が3名乗車+カメラ機材とそれぞれの1泊用の荷物という状況だったが、ここでも非力さを感じることはなかったのでS07Bの自然吸気エンジンとCVTの組み合わせは小さいトルクでもかなり快適に走れる設定だといえる。
でも、その域からさらに加速が欲しいときにアクセルを踏み込むと約7000rpm付近まで回転が上がるが、それでいてターボより加速は鈍いので、加速のフィーリングを重視したい人はターボを選ばないとN-VANの走行性能に不満が出るだろう。
さて、+STYLE COOLだけど首都高のカーブや山道を走って感じたのが+STYLE FUNより回頭性がいいのでは? ということだった。
とくに回り込むようなカーブでは、+STYLE FUNは奥でのステアリングの切り足しの際に、向きを変えにくい感じがしていたが、+STYLE COOLはそんなシーンでも素直にノーズが入る感じだった。だからカーブが連続する山道でも乗りやすく、とくに今回は助手席と後席に人を乗せていたので、いつもより揺らさないよう丁寧に運転したがそれがやりやすかった印象だ。
この理由について、タイヤサイズやサスまわりが同じ場合、高さのあるクルマのほうが挙動変化は大きめになる傾向とのことだった。そんなことからハンドリングのシャープさ(というほどでもないけど)も重視したい人には+STYLE COOLが合うはずだ。
高速道路は自然吸気エンジンで物足りるのか?
つぎは高速道路の印象だ。今回は新東名を使っているので120km/h巡航も試してみた。
自分のN-VANではたいてい走行車線を80~100km/hで走っている。このときにエンジン回転数は100km/h時で約3000rpmだ。それに対して自然吸気エンジンは3000rpmだと速度は80km/hで、100km/hまで上げると約4000rpmとなる。数字だけ見るとちょっと高めに思えるが、自然吸気エンジンの最大トルクは4800rpmで発揮するので「まあ、こんなものか」という気にもなる。ちなみにこの回転数でもとくにエンジンノイズがうるさいとは感じることはなかった。
そしていよいよ120km/h区間、速度を120km/hまで上げるのは意外とスッと出た。そしてそのときの回転数だがなんと5000rpm付近とけっこう高め。エンジンの能力的にはイケるのかもしれないが、オーナー心理的には「回りすぎだよな~」的でちょっと厳しい。エンジンがかわいそうに思えることから筆者の感覚では120km/hの巡航は「なし」だと思った。
つまりN-VANの自然吸気エンジン車では80~100km/hあたりの巡航が向いているのだけど、これはちょうど制限速度内であり、走行車線を走る大型トラックもこのペースなので、走りにくいことはまるでない。というかターボのN-VANもこのペースが基本なので、この域での巡航ならそれほど大きな差はないと言える。でも、前のクルマを追い越すときは明らかにターボのほうが楽である。
という今回の試乗。結果として自然吸気エンジン車が苦手なのは信号ダッシュ、キックダウンしての急加速、そして高速道路での追い越し時くらいなので、ふだんから「急」のつく運転をしないという人ならエンジン的な不満はないだろう。
そして今回走った1000kmでのトータル燃費は約18km/L。能力を知りたい試乗なので燃費に無頓着に走ってこの数値。しかも積み荷が重いときもあったし登坂もあってなのでわるくない。
ちなみに筆者のN-VANだと、どう走ってもだいたい15km/Lに落ち着いている。また、4WDは燃料タンク容量が25Lなので航続距離が短いが、FFは27Lタンク。そして18km/L走れば1回の給油で450km以上はいける。ここは羨ましいと思った。
まとめると「自分が自然吸気エンジン車を買っていた」という想定では、動力的には許容範囲内の非力さだったので、ここでイヤになることはなかったと思う。それよりタンク容量と燃費のバランスがよく、ガソリンスタンドにちょくちょく行かないで済むのが楽に思えていただろう。
それに車両価格も安いのでそこは大きな違いだ。N-VANは付けたくなる純正アクセサリーが多いが、ターボの4WDだと総額もけっこういくので諦めた装備も多かった。ゆえに装備の充実面では自然吸気エンジン車のほうが満足度が高かったかも。
ただ、そうはいってもターボは低回転からトルクがあるので、どんなシーンでも自然吸気エンジンより走りはスムーズだ。このメリットは大きし、ターボの走りに慣れているのでもし買い換えるといしてもまたターボを選ぶだろう。ただし、タンク容量の大きさから次はFFにするかもしれない。
また、+STYLE COOLについてはこれはこれで利点が多かったが、何度も書いているように筆者はバイクも積むのでやはりハイルーフがいい。
とまあ、ターボのN-VANに1万5000km乗った筆者が感じた自然吸気エンジン車に対する印象はこんなところ。どちらが優れているということではなく、シンプルにいえば「乗る人の事情次第だなぁ」という感想。この辺も道具車であるN-VANっぽいところと言えるだろう。