事故の確率を0.1%減らせるかもしれないリレーコラム

第18回:この路地、何km/hで走る?

狭い生活道路、何km/hで走るべきか……

 クルマの運転をしていれば必ずついて回る事故の可能性。でもそんな可能性は少しでもゼロに近づけたい!! そこでいろいろな人に、普段運転で気をつけていることを紹介してもらおうというのがこの「事故の確率を0.1%減らせるかもしれないリレーコラム」です。今回はモータージャーナリストの斎藤聡氏執筆でテーマは「この路地、何km/hで走る?」。速度と停止距離の関係を考えます。


 狭い道路や裏道を走るときには十分な注意が必要です。というのは皆さんも身をもって経験しているのではないでしょうか。では見通しのわるい横道から突然自転車が飛び出してきたらどうするか。

 もちろんブレーキを踏みます、これが基本。最近のクルマにはABSがついているので、ブレーキを強くかけながらハンドルを切ると、ブレーキが強く効いた状態でハンドルを切ったほうにクルマの向きが変わってくれます。免許所有者で、30歳くらいまで人は教習所で急ブレーキの体験をしているのではないかと思います。今回は、その急ブレーキをかけた時の話です。

 唐突ですが質問です。乾燥した舗装路で、40km/hから急ブレーキをかけたら何mくらいで止まるでしょうか? ここでいう急ブレーキは、ブレーキペダルを素早く全力で踏みつけることをいいます。

 制動距離を求める公式は「制動距離=速度の2乗÷(254×摩擦係数)」というのがあるのですが、今回はそんなに厳密な話ではないので、あえて無視します。

 40km/hから急ブレーキをかけて、止まるまでの制動距離はおよそ8mです。

 では速度を倍の80km/hにすると制動距離は何mになるでしょう?

 答えは32m。速度が倍になると制動距離は倍にならず、速度の倍数の2乗、つまり2倍の2乗で4倍=32mになります。速度を倍にすると、制動距離はおよそ4倍になってしまうわけです。スピードを出すほどクルマは止まりにくくなるということです。

 もちろん狭い路地を制限速度の2倍で走ることはないと思いますが、2割り増しならどうでしょう。40km/hなら48km/hです。

 2割り増し=1.2倍ですから、制動距離は(単純計算で)1.2×1.2=1.44となり、制動距離は4.4割増しとなってしまいます。40km/hで8mなら48km/hで約11.5m。ほんの少しのスピードアップで3.5mも制動距離が伸びてしまうんです。

 逆にスピードを落としたらどうなるでしょう。速度を半分の20km/hにすると、制動距離は?

 そう、1/2の2乗なので、1/4になって2mになります。

 まとめると、
・40km/h 8m
・80km/h 32m
・20km/h 2m

 となるわけです。

 焦る気持ちを抑えて速度を少しでいいから抑えめにすると、制動距離はグッと短くなるということです。徐行とは、つまり周りの状況に合わせて必要なだけ速度を抑えること。ブレーキをかけた時どのくらいの距離で止まれるのかを、20、40、80km/h制動距離をその目安にしてもらえるとよいと思います。

制動距離と空走距離を足した停止距離が重要

その速度だと何mで止まれるのか? 制動距離と空走距離を足した停止距離が重要

 ここまでは物理的な制動距離の話をしましたが、実際の路上では、空走距離(反応時間)を含めた停止距離を考えなくてはいけません。

 反応時間は一般的には0.7~0.8秒くらいといわれていますが、これはまったく当てになりません。だってよそ見していたら反応できないわけですから。よそ見はよくありませんが、運転中は前方だけを見ていればいいわけでもありません。

 計算しやすいように反応時間を1秒としましょう。すると、40km/hで1秒間に進む距離は11.1mになります。制動距離が8mですから停止距離は19.1mとなります。路地を走っていて19mより手前で何かが飛び出してきたら止まり切れないということです。

 でも何かが飛び出してくるんじゃないかとブレーキをかける心の準備をしておくと、反応時間は0.5秒くらいに短縮できるかもしれません。反応時間が0.5秒なら空走距離は5.55mに短縮します。つまり停止距離は8m+5.55mで13.5mになります。

 速度が半分の20km/hなら、反応時間0.5秒のときの空走距離は約2.8mですから、停止距離は2+2.8=4.8mで止まれるわけです。

 狭い道を走るような時に、単純に「速度を落とせばいい」ではなく、具体的に何km/hくらいまで落としたらいいのかを、ぜひ考えるようにしてみてください。適切な走行スピードが分かれば、たとえ後ろのクルマがついていても自信をもってゆっくり走ることができると思います。

【お詫びと訂正】記事初出時、一部表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

斎藤 聡

学生時代、クルマの面白さに目覚め、仲間と5000円で買ったサニーを数台共同所有しサーキットに通う。自動車雑誌のアルバイトから編集部員を経てフリーランスライターに。クルマを操るテクニックやメカニズムに興味があり、モータースポーツを通じて学ぶ。ニュル24時間耐久レース出場は個人的金字塔。モータージャーナリストとして自動車媒体を中心に試乗レポート、エッセイ等を執筆。守備範囲は軽自動車から1000馬力超のチューニングカーまで。タイヤにも造詣が深く、タイヤレポートも多数。また、某国産自動車メーカーの安全運転スクール社外インストラクターを約10年務めたのをきっかけにドライビング・インストラクターとしても活動。AJAJ会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。