特別企画

【特別企画】日産のプレミアムセダン「新型スカイライン」の魅力に迫る

いずれも主役の“世界最速”ハイブリッドと“次世代”ターボ、その乗り味の違いを検証

“世界最速”のハイブリッドと“次世代”ターボ

 登場から半年あまり。ちらほら街で姿を見かけるようになってきた新型「スカイライン(V37)」のスタイリングが個人的にも非常に気に入っているため、思わずその都度、目で追ってしまっている。

 そんなスカイラインに同じように魅せられた人は少なくないらしく、2014年8月末時点での販売台数はハイブリッド車と次世代ターボ車の合計で目標を大きく上回る8894台と、なかなか好調のようだ。

 両モデルの価格にはざっくり80万円ほどの差があり、パワートレーンだけでなく装備にも多少の違いがある。ただし、次世代ターボ車が「廉価版」というわけではない。外観がほぼ差別化されていないことからも、両モデルがどのように位置づけられているかがうかがえる。

 本稿では、タイプの異なる2つの先進的なパワートレーンが設定された、伝統あるネーミングを継承しながらも、極めて先進的で、かつスタイリッシュなプレミアムセダンにどのような違いがあるのか、改めて検証してみたい。

フィーリングの大きく異なるパワートレーン

写真左(HAGANEブルー)がハイブリッド車、写真右(ラディアント レッド)が次世代ターボ車。グレード展開は、ハイブリッド車の2WD(FR)車が「350GT HYBRID」「350GT HYBRID Type P」「350GT HYBRID Type SP」、4WD車が「350GT FOUR HYBRID」「350GT FOUR HYBRID Type P」「350GT FOUR HYBRID Type SP」の計6グレード、次世代ターボ車は2WD(FR)のみで「200GT-t」「200GT-t Type P」「200GT-t Type SP」の計3グレードを展開

 スカイラインのハイブリッド車は、世に数多あるハイブリッド車の中でも特殊な存在で、「世界最速のハイブリッド」を謳う代物だ。それでいてJC08モード燃費は18.4km/L(350GT HYBRID/2WD)となかなかのもの。さらには今のところハイブリッド車にしか設定のないデバイスがいくつか見受けられる。

 一方の次世代ターボ車は、すでにお伝えしているとおりダイムラー製をベースに日産独自のチューニングを施した直列4気筒2.0リッターの直噴ターボエンジンを搭載する。スカイラインにとっては久々の4気筒となるわけだが、これについて話を整理しよう。

 そもそもこのクルマは、スカイラインである以前に世界では「インフィニティ Q50」として販売されている。そして現在、このクラスのプレミアムセダンでは、ダウンサイジングコンセプトによる直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンを積むというのが1つの“定番”になっている。そこに日産が、しかるべき車種と内容で送り出したのがスカイラインの次世代ターボ車だ。

 エンジン自体については、ダイムラーとの戦略的提携関係の中にあったちょうどよいものを、もっとも合理的に調達できる方法を採った。むろん自社製を積むことも可能だったが、開発費を抑えることで、そのぶん車両価格を低くしてユーザーに提供することができる。

 あえて「次世代」と表現しているのも興味深い。歴代スカイラインにおいても、ターボというのは高性能を象徴するものであった半面、燃費がわるいというネガティブなイメージも根強い。そこで、かつてのターボとは違うことを強調すべく「次世代」と銘打ったわけだ。

新型スカイライン(写真は200GT-t Type SP)のボディーサイズは4800×1820×1450mm、ホイールベース2850mm。ハイブリッド車と次世代ターボ車の外観上での違いはバッヂ程度で、大きな違いはない。ハイブリッド車は2WD(FR)と4WDを設定するが、次世代ターボ車は2WDのみの設定
ハイブリッド車は最高出力225kW(306PS)、最大トルク350Nm(35.7kgm)のV型6気筒DOHC 3.5リッター「VQ35HR」エンジンと、50kW(68PS)/290Nm(29.6kgm)を発生する「HM34」型モーターを組み合わせ、システム全体で268kW(364PS)を発生。JC08モード燃費は2WD車が17.8km/L(350GT HYBRID Type P/Type SP)~18.4km/L(350GT HYBRID)、4WD車が16.8km/L(350GT FOUR HYBRID Type SP)~17.0km/L(350GT FOUR HYBRID/Type P)
次世代ターボ車はダイムラー製の直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「274930」エンジンを搭載。最高出力155kW(211PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1250-3500rpmを発生する。JC08モード燃費は13.0km/L(200GT-t Type P/Type SP)~13.6km/L(200GT-t)

 そんなわけでV37型スカイラインでは、世界最速のハイブリッドと今どきの定番的なダウンサイジングターボという、どちらも先進的な2タイプのパワートレーンが選べるようになった。かたやV型6気筒3.5リッター+強力なモーター、かたや直列4気筒2.0リッター直噴ターボ。いうまでもなくエンジンフィールは大きく異なる。

 ハイブリッド車はとにかく速い。そして頻繁にエンジンが停止する。次世代ターボもアイドリングストップするが、その比ではない。高速巡航中もかなり止まる。一方の次世代ターボ車も、そんなハイブリッド車にはさすがに歯が立たないが、スカイラインとしての期待に応える十分な動力性能を身に着けている。

 両モデルではエンジンサウンドの印象も違う。どちらも「アクティブノイズコントロール」と「アクティブサウンドコントロール」を標準装備するのだが、もともとV6と直4というサウンドの質に違いがある上、ハイブリッド車の方が全体的に静かで、次世代ターボ車の方があえてドライバーに音を聴かせて楽しませているように感じられる。

 実走燃費については、概ねどのようなシチュエーションでもハイブリッド車のほうがよい。むろん約80万円の価格差をカバーできるほどではないとはいえ、ハイブリッド車を選ぶことへの背中を押す材料の1つにはなることには違いない。

世界初「ダイレクトアダプティブステアリング」によるメリットの数々

 フットワークの印象もかなり違う。

 まずステアリングフィールがまったく別物で、執筆時点ではハイブリッド車のみに設定されている「ダイレクトアダプティブステアリング」によるハンドリングは圧倒的にクイックで、応答遅れもない。あまりクイックだと挙動が乱れやすくなるところだが、修正舵の制御がとても巧みなおかげでまったくそんなことはなく、サスペンションチューニングの最適化もあいまって揺り返しも小さく抑えられている。もちろん、駐車する際の取りまわしもよい。

 荒れた路面を走ってもキックバックが小さく、快適であることも特徴だ。また、独自の「アクティブレーンコントロール」は高速道路を巡行する際など、自動的に修正舵を加えて進路のズレを減らしてくれるので、とてもラクにドライブできる。おかげで長距離を走ってもさほど疲労感を感じなくて済むことも別の機会に確認している。非常に有益な装備だと思う。

 半面、まだ世に出たばかりのものだけに、いささか制御には荒削りなところも見受けられなくはない。その点では、現時点では一般的な電動パワーステアリングの次世代ターボ車の方が、フィーリングとしては人工的な印象は薄い。ここは好みの分かれる部分だろう。なお、次世代ターボ車にも、先で述べたダイレクトアダプティブステアリングが間もなく追加設定される予定なので、興味のある人はもうしばらく待たれたい。

 また、走行モードを多彩に選択できるのもスカイラインの特徴で、ハイブリッド車は96通り、次世代ターボ車は12通りと大きな差がある(執筆時点)のも同ステアリングによる部分が大半だ。

新型スカイラインは上部に8インチワイド、下部に7インチワイドモニターを配置するツインディスプレイを採用。シフトレバー後方にあるドライブモードセレクターのスイッチと下部モニターを使い、「パーソナル」「スポーツ」「スタンダード」「エコ」「スノー」という5つの走行モードの選択が行える。「パーソナル」を選択すると、ハイブリッド車はエンジン&トランスミッション4通り、ステアリング4通り、アクティブレーンコントロール3通り、コーナリングスタビリティアシスト2通りと、計96パターンから好みの特性が選択できる。次世代ターボ車はエンジン&トランスミッション3通り、ステアリング2通り、コーナリングスタビリティアシスト2通りの計12パターンを用意(写真は次世代ターボ車)
「パーソナル」
「スポーツ」
「スタンダード」
「エコ」
「スノー」
「ドライブモードセレクター」内の「PERSONALモード編集」を選択すると、好みの特性を選択できる

最先端の各種安全装備が充実

 すでにたびたび試乗しているが、今回もスカイラインに触れて、あらためてスタイリングのよさに惚れ直してしまった。

 加えて、ボディーパネルへの風景の映り込みがとてもキレイであることにも感心させられた。これには塗装面に特別な技術を用いたり、ボディーパネルの隙間を徹底的に小さくしたりと、通常よりも手間をかけたことが功を奏しているようだ。

新型スカイラインではボディーパネルの隙間を詰めることで上質感を高めた。また、すり傷などを時間とともに修復する「スクラッチシールド」を全色に採用

 ユーティリティ面では、ご覧のとおりトランクの広さが違う。次世代ターボ車は奥行きが30cmほど大きい。ハイブリッド車ではそこにバッテリーが積まれるので、トランクスルーができない。とはいえゴルフバッグが4つ積めるほどの、実用上で十分な広さは確保されている。

 インテリアのつくりや装備は基本的に同一で、例のツインディスプレイは直感的に操作できて使いやすい。

岡本氏は「直感的に操作できて使いやすい」とツインディスプレイを評価
ハイブリッド車のインテリア(内装色はベージュ。フィニッシャーは本木目)
次世代ターボ車のインテリア(内装色はブラック。フィニッシャーは本アルミ)
最適なドライビングポジションを得られる運転席・助手席パワーシート(スライド、リクライニング、リフター、サイサポート)は全グレード標準装備。Type P以上は運転席ランバーサポートも電動で調整できる。後席では必要にして十分なスペースが用意される
ハイブリッド車(写真左)ではリアシートとトランクの間にハイブリッドシステム用のバッテリーが設置されるためトランク容量は400Lだったが、次世代ターボ車(写真右)ではバッテリーが不要なので500Lまで拡大されている。ちなみに巻尺でトランクの前後長を測ったところ、ハイブリッド車が約68cm、次世代ターボ車が約94cmだったが、ハイブリッド車でも9インチのゴルフバッグを4個積み込めることがシールで示されている

 V37型スカイラインの訴求点の1つである先進安全装備や運転支援装備は、前述のステアリングに関するもの以外は同様の設定で、非常に充実している。装備の数が多いだけでなく、1つ1つの性能が高いこともあらためてお伝えしておこう。

 たとえば「エマージェンシーブレーキ」は、約60km/hという高い車速でも衝突を回避できるというスグレモノだ。また、新型ミリ波レーダーにより、2台前の車両の動きを検知できる点も特筆できる。今回の取材中も、ごく普通に流れていたところ急に警報を発したのでどうしたのかと思ったら、2台前の車両が突然減速したため、直前の先行車両が急ブレーキで減速したというシチュエーションがあった。どうやら直前の先行車両は対応が遅れてしまったようだ。この機能があれば、同様の状況において確実に追突の危険性を減らすことができるはずだ。

 そのほかにも、車線変更の際に後側方の車両を検知して接触を防いだり、バックで駐車場を出る際に接近する車両を検知して衝突リスクを低減したり、日産お得意のアラウンドビューモニターに接近する自転車など移動物を検知する機能を加えるなど、全方位にわたって運転を支援する先進装備を身に着けている。同クラスで、これほど充実したクルマなど存在しない。

 このように、伝統ある車名を受け継ぎながら、世界的にも最先端を行くインテリジェントなプレミアムセダンとなったV37型スカイライン。そしてそれが、お伝えしたとおり大きく性格の異なる、いずれも“主役”の2タイプから選べることを、あらためて興味深く思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛