トピック

カービューティープロが行なう「美しいクルマ」の作り方

街を走っていて、よく見かけるこの看板、何のお店か知っていますか?

 街中で見かける“いいな”と思うクルマはたいてい「きれい」である。新車を「いいな」と思う気持ちの中にも「きれい」であることが含まれているのではないだろうか。

 そしてクルマが新しい、古いに関わらず「きれい」であれば乗っていて気持ちがいい。そんなことからクルマが好きな人ほど、クルマをきれいな状態で維持することに興味を持つのである。

 そんなニーズに対するサービスに「カーディテイリング」がある。まだちょっと聞き慣れない名称だが、こちらは洗車や磨きを軸としたカーケアサービスのことである。そしてこの業界で特に長い歴史を持つ企業がカービューティープロである。

 カービューティープロの母体は1976年に創業した輸入中古車ディーラー。その後、アメリカで86年の歴史を持つカーケミカルメーカーの「BAF」社が発売したプロ向けのカーシャンプーやワックス類の日本総代理店となったことをきっかけに、カーディテイリング事業を本格的にスタート。同時にカーディテイリングの技術者を育成する「カービューティープロスクール」を開講したのだが、このスクールこそ日本におけるカーディテイリング業の発展の礎となったものである。

カーディテイリングのプロを養成するカービューティープロスクール

カービューティープロの内田好哉氏(左)と瀧澤修氏(右)のお2人にカービューティープロの業務、スクールのお話を伺った

 カービューティープロスクールはカーディテイリングの知識を教えるだけでなく、経験豊富で高い技術を持った講師陣による「技能の完璧な伝授」を行なうことが特徴。

 講習は東京都世田谷区にあるカービューティープロの施設にて行なっている。そこでは理論学習と実技講習を講習カリキュラムにより3日間~14日間、朝から夕方まで習うという濃密な授業があり、卒業前には筆記および実技の試験が行なわれる。そして合格者に「カービューティープロ認定書」というカーディーリング技術者の証しが渡される仕組みである。

 スクールを卒業したあとは個人では独立開業、法人では新規事業としての取り組みにて、業界で活躍することになる。なお、このカービューティープロスクールは2021年12月の時点で2390名の技術者を送り出していて、その卒業生が営むカービューティープロ加盟店は約350社にもなっているということだった。

 ちなみに、カービューティープロの技術者は、東京モーターショーや東京オートサロンという世界的な自動車展示会において、例えばワールドプレミアされる展示車の磨き作業や開期中のボディメンテナンスを依頼されるほどのスペシャリストである。そして、こうした人材がPROファミリー(加盟店をこう呼んでいる)のレベルの高さを証明するものにもなっているという。

スクールでは「新車は新車以上に、中古車は新車に!」と「お客様に感動を!」をテーマに技術力の向上を行なう。講習の仕上げとして技術検定試験を行なっているという
カービューティープロの加盟店の中には東京モーターショーや東京オートサロンなどに展示される車両のボディケアを担当するところもあるとのこと

最新のカーディテイリングの知識と技能を学ぶスクールの内容

 カービューティープロスクールには5つの技術習得コースがあるので、そこから紹介していこう。

 まずはカーディテイリングと聞いて真っ先に思い浮かべる洗車やボディコーティング、インテリアクリーニングを学ぶ「カービューティーコース」。講習期間は14日間で新車、中古車問わず、そのクルマ本来が持つ美しさを出していくための技術や理論を習得するのだが、現在のクルマでは塗料が進化しており、特殊な塗色の設定もある。また、現在の車両の塗料は、環境負荷軽減を目的に水性塗料が使われており塗膜が非常に薄くなっていることなどもあるため、塗装にあわせた施工を行なうことは必須。そこで講習中は塗料や塗装技術、塗装法なども学べるようになっている。

 ちなみに、カービューティープロでは加盟店から報告された塗装等の最新情報などを本社を通じて加盟店で共有しているので、全国の加盟店は常に一定のレベルが保てる仕組みだ。それゆえにユーザーが作業を依頼する際に、「どこがうまいかな?」というような感覚で店舗同士を見比べをする必要はなく、自宅近くにある店舗に依頼すればカービューティープロとしての仕上がりを手に入れることができるようになっているのだ。

 そしてもう1つ、カービューティープロコースではエンジンルームクリーニングのカリキュラムもあるのだが、この作業は搭載するエンジンに価値があるスポーツカーやプレミアム輸入車を中心にニーズがあるという。それに高級車の中古車販売業者から商品力を高める目的でエンジンルームのクリーニング依頼があるとのことだった。

塗装技術の発達により塗膜はとても薄くなっているので、塗装の状態を考慮しない磨き方をすると塗装を傷めてしまう。そんなことからカービューティープロスクールでは塗装の知識も学ぶようにしているとのこと
取材にうかがった日もスクール開校日。講習生の方が磨きを行なう前のマスキング術を学んでいる最中だった。白いマスクの方がスクールの校長である高井雅弘氏
実技を講習するスペースに掲げてあったPOP類。卒業したらすぐに起業できるレベルにならないといけないので、講習中の雰囲気はとても緊張感のあるもの
エンジンルーム洗浄前。各部の汚れが目立つ
洗浄後は新車のようなエンジンルームに仕上がっている

 続いて紹介するのは「カーフィルムコース」。こちらは8日間の研修となる。現在のクルマは純正で色の付いたプライバシーガラスを採用していることが多いので、カーフィルムでの室内のシェード効果を求める用途は減った。そのかわりに需要が伸びているのが、赤外線カットフィルム(IRカットフィルム)や紫外線カットフィルム(UVカットフィルム)である。これらを窓に貼ることで、内装や乗員の日焼けを防いだりエアコンの効きをサポートしたりするのだが、近年の夏場の暑さは尋常ではないので、UVやIRカットフィルムの需要はますます伸びていくだろう。

カーフィルム実習の様子

 ボディに付いたへこみを特殊技術を用いて短時間で修復する「デントシステムコース」や、ウィンドウについてしまった飛び石傷を修復する「ウィンドリペアコース」の人気も高まっているということだ。

 たしかに最近のクルマはボディが大柄になったからか、クルマの乗降時に開いたドアが隣のクルマのボディに当たってしまう事故も増えているという。こうしたトラブルでできるへこみは小さいものなので鈑金に出すほどではない。だけど小さくてもへこみには違いないので放置はしたくない。そんなときに役立つ技術がデントリペアである。

 また、飛び石によってフロントガラスのヒビや割れが生じてしまうのも珍しいことではないので、ウィンドリペアのニーズも高い。特にアイサイト等のカメラ付きウィンドウは以前より修理費が高額になっているので「交換より修理」を選ぶ人は多いという。こうしたニーズに対応できる技術を学ぶデントリペアコースの研修期間は10日間、ウィンドリペアコースは3日間の研修期間になっている。

ウィンドウリペアの実習風景

 このように、カービューティープロスクールではさまざまな技術が学べる体制を取っているが、すべてのコースで受講者に伝えていることがあった。それが「施工者にとっては作業を行なう1台であってもお客さまにとっては大事な1台であるから、その1台に合うオーダーメイドに近いこだわりを持った作業を行なう」ということ。

 こうした姿勢で取り組むことはユーザーの満足度を高めるだけでなく、カーディテイリング技術者としてさらなる技術力の向上にもつながるため、スクールを卒業したPROファミリーにとって初心を忘れないための心得となっている。

スクールは約2週間のコースなので受講する人は毎日スクールへ通う。スクールは東京都世田谷区にあるので地方から受ける人はウイークリーマンションなどを利用。今後も需要が見込まれるカーディテイリング業だけに、そこまでしても身に付けたい技術ということだ
新たに開設したのが「カーラッピング」の技術を取得するコース。輸入車や趣味性の高いクルマを中心に気軽な色変え、飛び石などからのボディ保護の目的で施工するケースが増えているので、そのニーズに応えるため受講する人も同時に増えている

ボディケアの逸品、Rコレクションでキレイを実演

 さて、ここからは実際の作業を写真を中心に紹介していこう。作業ではカービューティープロスクールや加盟店でも使用するメンテナンスグッズ「Rコレクション」を使う。まずはベーシックな洗車を見せてもらった。使用するカーシャンプーは「R-011 ボディシャンプー」(1320円)。こちらは塗装面のコーティング剤やワックスを落とすことなく、こびりついた汚染被膜やホコリ、泥などを除去する働きを持つ。「R-011 ボディシャンプー」は473mLの容器で販売されていて、使用時は100倍に希釈する。個人で使用する分ならかなりの回数を洗えそうだ。

カービューティープロのオリジナルメンテナンスグッズ「Rコレクション」。スクールや店舗で使用するプロ向けのものだが、カービューティープロのオンラインショップでも販売している
作業していただいたのは森山友寛氏(右)と前出の瀧澤氏
キレイなバケツなどに「R-011 ボディシャンプー」を少量注ぐ。液剤は青色なのでどれだけ注いだかが目視で分かりやすい
水道水で希釈。100倍に薄めて使うとのこと。泡立ちがとてもよく泡も細かい
洗う前にはたっぷりの水をボディの上からかけていく。その後、カービューティープロの「TYPE-A 洗車用スポンジ」(220円)に含ませてボディを優しくなでるように。スポンジで洗うというより泡で洗うイメージだ
洗車中、作業者は常に身体とボディの間隔に注意する。作業車の身体でボディを擦らないようにするためだ。カービューティープロの作業着は白色の面が多いが、これは汚れに対して常に注意深くなるためのこと。上級者になるほど作業着は汚れなくなる
低い位置はしゃがんで作業。洗う部分に目線の高さを合わせることで汚れが確認しやすいのだ。また、スポンジを動かす手の動きも前かがみの姿勢でやるよりスムーズに動かせるため、洗った箇所にムラが出ない
洗い終わったら上から水をかけてカーシャンプーを洗い流していく。ホースを使う際も片手でホースを握りボディに当たらないようにしている
この変わったカタチのスポンジは「TYPE-C 洗浄用スポンジ」(264円)。細くなっている部分を利用して通常のスポンジでは届きにくいところを洗うためのもの
今回はホイールを洗うために使用した。ナット周辺など洗いにくい部分も効率よく洗えている
先が細いので、手首を返すなどの動きを加えるとナットなども洗い残しがなく洗える。ホイールの洗浄に気を使う人にはきっと便利だ
水分の拭き取りには「PROクロス」(396円)を使用する。サイズは305×206mmと広い。構造は水分をたっぷり含めるスポンジ気孔なので吸水性はとてもいい。繰り返し使用できる
大きなクロスだがこのようにキレイに折り畳んで使用している。積層することで吸水性を高めることと均一に拭き取りするためだ
ハイルーフのクルマはルーフが特に汚れていたり、拭き取りしなかった水が乾いて白い水の跡が残っていることが多い。これらは塗装を傷めるのでクルマの価値を下げてしまう。自分で洗うのが苦手な場合はカービューティープロ加盟店に依頼したい
PROクロスは汚れをつかみやすい表面になっている
カービューティープロの洗車はボディ表面だけでなく、ドアを開けた際に見える部分も拭き取る
軽く拭き上げるだけでもこのように汚れが取れる。このクルマは隅々までキレイにしているつもりだったがプロから見るとまだまだだったようだ
PROクロスは汚れたら水洗いでキレイに戻せる。305×206mmの大きさでカービューティープロ加盟店が使うプロ仕様。それでいて396円は安いと思う
最近は雑巾というものを使わないのでぬれた布を絞る機会がない。それだけに雑巾やクロスの正しい絞りかたを知らない人もいる。写真のような手つきで絞るのが正解。この握りは力が入れやすいので、手の力が弱い人でもしっかり絞ることができる

洗車のあとに撥水コートを試す

 洗車のモデルになった本田技研工業の「N-VAN」は汚れが分かりにくいボディカラーなので、洗ったところで見栄えはそう変わらないと思っていた。ところが洗い終わったN-VANはちゃんとキレイになっていた。これはR-001ボディシャンプーの汚れ除去力もあるだろうが、カービューティープロの洗車では普段の洗車でサッと済ませてしまう(体勢的にきついのでしっかりやらない)ところまで、プロならではの目線で適切な道具を使ってていねいに行なうので、キレイになるべきところがちゃんとキレイになっているからそう見えることに気がついた。

汚れが分かりにくいボディカラーだけに自分で洗車してもあまり代わり映えしなかったが、今回はちゃんとキレイになっていた。塗装面は輝きがあり、黒い部分はしっかり黒い。そんなメリハリもあって本当にキレイ
撥水コーティング剤(メンテナンス剤としても使用可)は汚れが付きにくくなる効果もあるが、撥水の種類にはキレイな水玉ができる「撥水」タイプと、水が流れていく「低撥水」タイプがある。左が撥水タイプの「R-511 ウォーターアドヴァンス」。200mL入りで価格は1980円。右が低撥水タイプの「R-611 ウォーターヴェール」。200mL入りで価格は1980円
ボンネットセンターを境にしてR-511とR-611を塗ってみた
塗布後は「PROマイクロファイバータオル」で拭き取る。サイズは330×370mmで価格は1980円。拭き上げ専用に作られていて塗装面に傷を付けない
安価なタオルでは端の部分に縫い込みがあるが、折っていたり縫っているぶん固くなっている。そのため吹き上げの際にこの部分が塗装面に傷を付けることもあるという
PROマイクロファイバータオルのエッジレス処理をした端。タオルの全面を同じ状態とすることで吹き上げの際に塗装面にやさしい作りとしている
作業を見ているとタオルが手のひらからずれたりしないし、効率的に拭き取れていることに気がつく。そこで秘訣を聞いてみると、タオルの抑え方によってタオルの安定度や拭き取り効率が変わるそうで、親指を活用しているのが特徴。例となる写真を載せるので洗車のときに試してみてほしい
こちらはわるい例だが、自分はこんな感じだった気がする
そして水をかけてみる。左が撥水タイプのR-511で右が低撥水タイプのR-611。このようにはっきりした違いとなる。どちらも汚れが付きにくくなる効果は同じなので、撥水の仕方で選びたい。筆者の好みは右のR-611を使用した状態
洗車後の仕上げには撥水性+光沢性を持つ「R-055 プライムコート」もある。こちらは洗車後のぬれたままのボディに塗り込む。水あかを落とす効果もある。420mL入りで価格は8360円
もう1つアイテムを紹介する。「R-092 タイヤ&ラバーワックス」というものでタイヤやゴムを痛めることなく自然なつやを出す
R-092タイヤ&ラバーワックスは200mL入りで価格は1540円。たしかにテカりすぎない自然な仕上がりだ
R-092タイヤ&ラバーワックスを塗るときも腰を落としていた。この体勢ならサイドウォールだけにキレイに均一に塗ることができる

ボディコーティングの紹介の前にボディの磨きを見せてもらう

 続いてはカービューティープロがもっとも得意とするボディの磨きとコーティングだが、こちらは次回紹介する予定だ。そこで今回はコーティングの前に行なう「磨き」作業を見てもらうことにしよう。

 磨きに使用したのは黒色のフォルクスワーゲン「ザ・ビートル」。屋外で見るぶんにはボディはキレイだったが、カービューティープロの施設内にクルマを入れ、作業用のライトで照らすと細かい傷が無数に入っているのが分かったし、傷によって塗装が曇っているようにも見えた。オーナー(Car Watchスタッフ)はかなりショックを受けていた。

黒メタリックのザ・ビートル。屋外ではキレイなボディに見えたのだけど実際はこんな感じ
ボディカラーによっては単一の照明だと傷が分かりにくいので、いかなるカラーでも傷の判別が付くよう色の異なる照明を混ぜているとのこと
磨きの前はていねいなマスキング作業が行なわれる。ボディパネルのエッジ部分は磨きのパッドが強く当たることもあるので、削りすぎを防ぐため保護のためにマスキングをするのだ
マスキングテープは貼る場所ごとに太さを変えている
エンブレムやナンバープレート、ライトなどもマスキングして保護
ポリッシャーという電動工具に磨き用のバフをつける。固定はマジックパッドで行なうが、ここで大事なのはバフのセンターとポリッシャーの回転面のセンターをしっかり合わせること。こうすることでバフが安定してキレイに塗装面の上でまわるようになる
磨きの実演してくれたのはカービューティープロスクール校長の高井氏
高トルクで回転しているはずのポリッシャーだが、支える手が振動したり、機械自体が変に震えたりしないのは、バフの取り付け位置や熟練した研磨技術力のおかげ
高井校長の磨く姿はキレイ。身体のどこにも無駄な力が入ってない。ポリッシャーを塗装面に「滑らす(そういう感じに見える)」ときもヒザや足首を柔らかく動かして身体を揺らすよう操作。これぞ職人技だ
ポリッシャーの持ち方。右手でメインのグリップを支えて、左手は軽く添えて動かしたい方向へ身体ごと軽く押すように操作
どの位置でもポリッシャーと塗装面は平行に近い位置関係。均等に押し当てている証拠だろう
途中、傷の状態をチェック。そして仕上がりの状態に応じてバフを付け替えてさらに磨いていく。前記したように最近のクルマは塗膜が薄いので、磨き作業中の道具選択の的確さはとても大事
身体がボディに触れないようギリギリの幅で作業。また、ポリッシャーのコードがボディに当たらないよう肩にかける
撮影用にボンネット半分のみ磨いてもらった。結果はこのとおり。左右で違う色と言えるくらいの差が出た
磨き作業の結果を見比べる
ちなみに撮影後、もう半分も磨いたのでボンネットだけとてもキレイ

 このような大きな違いが出たカービューティープロの磨き作業。そしてこのキレイさをキープするために行なうのがボディコーティングである。紹介する内容がとても多いカービューティープロなので、今回はここまでとして、次回、ボディーコーティングの技とノウハウ、そしてその仕上がりを紹介していく。

 年末年始はクルマをキレイにしたい気持ちがもっとも盛り上がる時期だけに、今回の記事、そして次回の記事を参考にして、沸き上がってくる「キレイにしたい欲」の対処に役立て、キレイなクルマで年を越そう。

Photo:中島仁菜