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新型エクストレイルの4輪制御技術「e-4ORCE」の雪上性能はどうか? 実力を試しに東北へ

新型「エクストレイル」が搭載する4輪制御技術「e-4ORCE」の性能を東北で体験してきた

e-4ORCEと可変圧縮比エンジンを搭載する新型エクストレイル

 2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤーで大賞に輝いたのは日産自動車「サクラ」/三菱自動車工業「eK クロス EV」で、軽自動車初の戴冠だった。そして部門賞であるテクノロジー賞には日産の新型「エクストレイル」が選ばれた。エクストレイルは2022年に登場した数あるクルマの中で、選考委員が記憶に残るタイトルをこのクルマに残したいという思いの表れだったと思う。それだけ新型エクストレイルが与えたインパクトは大きかった。

 そのエクストレイルで長距離ドライブの真価を確認すること、そして日産独自の4輪制御技術である「e-4ORCE」の実力を試すために豪雪の東北を目指した。この長旅に付き合ってくれたグレードは「G e-4ORCE」。装着タイヤはブリヂストンの主力スタッドレスタイヤである「ブリザック VRX3」でサイズは235/55R19を履く。

 エクストレイルのハンドルを握り、八甲田山系にある豪雪で名高い酸ヶ湯温泉に向かった。数日前のニュースで駐車場のクルマが一晩で分からなくなるほど雪に埋もれたと報じられた豪雪地帯だ。個人的には雪シーズンのテストで何年か通ったこともありなじみ深い。標高は約900mあり、雪のない季節なら青森市内から約1時間で到着できる。さすが青森、除雪は行き届いており、酸ヶ湯温泉までは圧雪で通行できる。ただかなり道幅が狭く先が見通せない。

 エクストレイルの視界は高めにセットされたヒップポイントで直前視界が良いだけでなく、Aピラーとミラ-で隠される死角が少ない。何気ないことだがキャビンが明るいのもそのためだ。ドライビングポジションも自然に腰が収まるスタンスを取っている。

2022年7月に発売となった新型「エクストレイル」。4代目となる新型エクストレイルは、初代からのDNAである「タフギア」を継承しながら新たに上質さを付与したのが新しい。撮影車は「G e-4ORCE」(449万9000円)で、ボディサイズは4660×1840×1720mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2705mm。従来モデルから30mm短く、20mm広く、20mm低いプロポーションとなり、広い室内長はそのままに全長をコンパクト化した
ヘッドライトは上段にポジションランプとターンランプを、下段にメインランプを配置する2階建ての構造を採用。リアコンビネーションランプのシグネチャーは視認性が高く、無垢のインナーレンズには日本の伝統的な切子パターンからインスピレーションを得た光り輝く加工が施された。足下は雪上試乗するということでブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザック VRX3」(235/55R19)をセット。なお、撮影車両はフロントアンダーカバー、リアアンダーカバー、フロントバンパーフィニッシャー(ブラック)をセットにした「アドベンチャーズパッケージ」(16万2940円)、タフなイメージを強調する「フードディフレクター」(2万9800円)などのアクセサリーを装着する
インテリアではタフさと上質な心地よさを兼ね備えたデザインを目指し、コンソール部分を宙に浮かせたブリッジ構造のセンターコンソールなどを採用。G e-4ORCEのシートは日産が独自で開発を行なったしっとりとした肌触りと包まれる心地よさをもたらす次世代シート素材「TailorFit(テーラーフィット)」
本革巻きステアリングは全車標準装備。電制シフトの近くに走行モードセレクターを用意。STANDARD(2WD)/AUTO(e-4ORCE)、SPORT、ECOに加え、e-4ORCEではSNOW、OFF-ROADを用意。全てのモードでより強い減速力が得られるBレンジの設定が行なえる
メーターには2種類の表示モードを選択できる12.3インチのアドバンスドドライブアシストディスプレイを採用。センターディスプレイとして採用されている12.3インチのNissanConnect ナビゲーションシステムには自然な言葉で操作できるハイブリッド音声認識機能やAmazon Alexaを搭載

 路面は完全に圧雪。氷点下の中で轍もできにくい。モーターによるe-4ORCEは快調に圧雪路面を捉え、1.5リッターの可変圧縮比3気筒ターボエンジンは滑らかにまわって発電を続けている。駆動力が必要な時にエンジン回転が上がってもエンジン振動はなく、その存在を感じさせることはない。

日産が世界で初めて量産化に成功した可変圧縮比エンジン「VCターボエンジン」を採用。直列3気筒DOHC 1.5リッターターボ「KR15DDT」型エンジンは最高出力106kW/4400-5000rpm、最大トルク250Nm/2400-4000rpmを発生する無鉛レギュラーガソリン仕様。「BM46」型フロントモーターは最高出力150kW/4501-7422rpm、最大トルク330Nm/0-3505rpmを発生。e-4ORCE仕様では「MM48」型後輪モーターを搭載し、最高出力100kW/4897-9504rpm、最大トルク195Nm/0-4897rpmを発生する。WLTCモード燃費は2WDが19.7km/L、4WDが18.4km/L(3列シート車は18.3km/L)

 圧雪とはいえ場所によっては新雪もあり、タイトコーナーではときおり雪の轍ができて凍結している路面も顔を出す。新雪でもブリザックは快調に雪を吐き出し、轍の中のちょっとした凍結路面は嫌なものだが安定したグリップを見せる。

 そしてエクストレイルのe-4ORCEだが、グリップ力の極端な変化を感じずに軽快に山道を走る。e-4ORCEは前後の駆動力配分と左右のブレーキ力を制御してオンロードから雪、荒れた路面まで安心して走れるシステム。前後モーターはフロントが150kW/330Nm、リアは100kW/195Nmの最大出力を出す。モーターの美点は出力を即座にコントロールできることで、合わせてブレーキ制御を行なうことでその路面に合った4輪の駆動力配分を行ない安定したグリップを目指している。減速側でも後輪の回生ブレーキも使えるためにノーズダイブの少ないフラットな姿勢で減速する。このようにドライバーが何気なく行なう操作にも安定した制御を見せてくれるのがe-4ORCEだ。

 コーナーでのターンインではハンドル舵角によって前後の駆動力配分をコントロールするが、シンプルに言えば直進時よりも後輪に駆動力をかけて旋回力を高くする。コーナー前半はそのコーナー全体をイージーに走るためのポイントなのでこの制御は大きい。コーナリング中は外側の駆動力を大きくして旋回力を維持する。この一連の駆動力配分を流れるように行なうことができるのがe-4ORCE。電動モーターの瞬発力を活かしたAWDの強いところだ。

 轍のない新雪を選んで走ってみたが、舵角が少し大きくなるもののライントレース性は高くて、駆動力も強くてグイグイと旋回していく。ドライブモードではアクセルレスポンスが雪に適して緩やかになるSNOWモードも選べる。しかし今回の圧雪ではAUTOモードで十分だった。発電用のエンジンは常にまわっているが、長い登坂でも発電量が不足することはなく、力強い駆動力が続く。

 酸ヶ湯温泉からの下りは回生ブレーキと通常のブレーキを併用した新型e-PedalをONにする。アクセルOFFのみで0.2Gの減速度が得られので、フットブレーキを使うまでもなくアクセルOFFにするだけで安定した姿勢のままで減速する。雪の山道では使いやすい。

 フットブレーキだけでもe-4ORCEの安定性は高いので、下りでe-PedalのON/OFFを試しながら走ってみたが、結論から言えば普段の運転感覚に合うモードを使うのが自然だ。ちなみにAUTOモードではDレンジで減速Gは0.05G、Bレンジでは0.12Gの減速度が得られるので、アイスバーンでの下りなどコースによって使い分けることでより安全に走ることができる。

 青森市内は意外にも除雪されていない深雪もあったが、SNOWモードでじっくり雪をつかみながら走る様は頼もしい。どんな場面でも強力で最適な駆動力が得られることが分かった。通常のAWDでも路面によっては頭を振られるなど癖もあるが、e-4ORCEはどの路面でもスリップを感知すると素早く反応して駆動力を制御するのでドライブにむずかしさを感じさせない。

疲れ知らずの感動のロングドライブ

 翌日は青森から十和田湖経由で一気に東京を目指した。その距離は約750km。この日は日本海側の豪雪のため、十和田湖まで行けるルートが限られていた。道路は除雪されているが雪も重い。エクストレイルが巻き上げる雪もすぐにリアウィンドウに張り付く。リアデフォッガーとワイパーの出番が多くなった。

 冬のルートはすれ違うクルマもなく夏の賑わいからはほど遠く、重く降り積もった雪に耐え切れなくなった木が道路に覆いかぶさるように張り出している。色のない世界が続くがエクストレイルの12.3インチセンターディスプレイでナビを呼び出し、10.8インチある大型ヘッドアップディスプレイに必要な情報が映し出されているので彩華やかだ。視線を動かす必要はないので、雪に覆われた道から少ない情報収集に集中することができる。ドライバー正面にある12.3インチフル液晶メーターも数字が見やすく読み取りやすい。表示方法も明確でドライバーに優しい。曲がりくねったルートを通りながら十和田湖へと進む。

 大きなシートは身体をよくサポートしてくれる。ホールド優先のバケットシートではないが、シート全体でほどよく身体を支えてくれる。ずっと同じ姿勢で運転できるので疲れも少ない。

 乗り心地は腰のある柔軟性が持ち味。しかも凹凸の通過時にもショックをよく吸収してバネ上の動きはフラットに保たれる。雪の中ではハンドル操舵量も少し増えるのが通例だが、ステアリングの剛性が高く、小さな操作にも的確に反応してくれ、滑りやすい道ではとくにありがたい。

 雪の山道でe-4ORCEの実力を存分に味わった後は東北道でひたすら東京に向かう。いつの間にか当たり前にあった雪がなくなっている。それに気づかないほど安定感が高かったということか。帰りの長い道のりではプロパイロットを作動させて前走車についていくが、適度な間隔を取るのが上手でドライバーの緊張に伴う疲労を軽減してくれる。東北道は120km/h制限区間もあるが、エクストレイルの高速直進性の高さもありがたい。

 座面の凹凸を減らした後席では、前後長のあるレッグルームを広く使えてゆったりと座れる。センターアームレストを出すとラゲッジルームとつながるのでロードノイズが直接入ってきそうだったが、車体の剛性と遮音がしっかりして耳障りな音が伝わってこないところも好感度が持てた。後席は前席ほどドラマチックではないが平穏で快適だ。

 そして何よりも感嘆したのは走行時の振動がないこと。直列3気筒1.5リッター可変圧縮比ターボ(VCR)エンジンは、構造上コンロッドの振れ幅が小さく振動の発生源が抑えられている。逆に各メーカーがエンジンの振動対策にいかに努力しているかを知る機会になった。加えてモーター駆動のために微妙な加減速を滑らかに行なえることでe-POWER史上最強の組み合わせになっていた。

 エクストレイルが疲れないクルマなのはこれまでの試乗で伺い知れたが、700km以上のドライブでその確信は深まった。東京まで一気乗りしても疲れ知らずの感動のロングドライブだった。

Photo:安田 剛