トピック

奥川浩彦の「F1大好き! 今年も鈴鹿に行くぞ」

第2回:今年のF1は面白い&今年の鈴鹿はF1日本グランプリ存続の天王山だ

 今年の“世界3大レース”は色々な意味で興味深いレースで、筆者は生中継+追いかけ再生で堪能した。その中でもインディ500の佐藤琢磨の優勝は感動的だった。正直に言うと、F1好きの筆者はフェルナンド・アロンソの活躍を見るため深夜に生中継を見ていたら、運よく歴史的な瞬間に遭遇した。

2002年のジョーダン 無限ホンダ、2006年のスーパーアグリに乗る佐藤琢磨。振り返ると佐藤琢磨がF1で表彰台に立ったのはインディアナポリスで行なわれたアメリカグランプリだった。佐藤琢磨とインディアナポリスには縁があったのかも

 もしアロンソと琢磨がリタイヤしたら寝ようと思って見始めたら、まさかまさかの琢磨優勝。早朝5時半過ぎに放送が終了しても興奮が収まらず、1時間ほどして出勤前の息子を起こし「佐藤琢磨がインディで優勝した」といきなりまくし立てた。まったくもって迷惑なオヤジだ。

フェラーリとメルセデスががっぷり四つ、久しぶりに面白くなったF1

 今年のF1は面白い。前回の記事では、モナコグランプリ前までセバスチャン・ベッテルとルイス・ハミルトンがともに2勝でがっぷり四つとお伝えしたが、モナコをベッテル、カナダをハミルトン、荒れに荒れたアゼルバイジャンはダニエル・リカルドが制し、ベッテル3勝、ハミルトン3勝と競り合っている。

 F1に限らず、スポーツは競り合いが僅差になると面白い。余談となるが、年配の読者は10.8という数字にピンと来る人がいるだろう。1994年10月8日に行なわれた巨人vs中日戦はプロ野球史上初、同率首位で並んだチーム同士が最終戦で直接対決。勝った方が優勝という歴史的な1戦は、当時社会現象となった。

 1993年のサッカー・ワールドカップ最終予選の最終戦は、ロスタイム(アディショナルタイム)に日本代表が同点ゴールを決められ初出場を逃し、「ドーハの悲劇」として語り継がれている。4年後のジョホールバル、“野人岡野”が延長でゴールを決めてワールドカップ初出場を決めた試合も記憶に残る人がいるだろう。

 応援するチームや選手が大差で勝つと安心はできるが、僅差の争いの方が深く記憶に刻まれることは多い。ちなみに10.8のTV視聴率は48.8%、ドーハは48.1%、ジョホールバルは47.9%とされており、日本人のほぼ半分がTVに釘付けになったという、今では考えられないほどの注目度だった。接戦はスポーツの魅力の重要な要素だ。

 話をF1に戻そう。前回の記事でF1日本グランプリにおける30年間の観客数の変動をグラフ化し、2006年以前に比べ大幅に減っていることを紹介した。筆者は観客数の減少には数多くの理由があると思っている。地上波の放送がなくなった、日本人ドライバーがいなくなった、リーマンショック後のホンダ、トヨタ、ブリヂストンの撤退、F1以外を含めたスポーツ離れなどいくつもの要因が重なった結果だろう。

2011年に地上波の放送が終了。日本人がポイントを獲得したのは2012年の可夢偉が最後。2008年にホンダ、2009年にトヨタ、2010年にBSが撤退

 数ある要因の1つとして「F1が面白くない」という声を筆者は否定しない。実際、2015年シーズンはF1よりMotoGPの方がはるかに面白かった。次のグラフは過去30年のコンストラクターズポイントの1位、2位のチームの獲得ポイント差を%表示したものだ。

コンストラクターズポイント1位を100%とし、2位のチームのポイントを%表示したグラフ

 値が高ければ異なるチームが接戦をしたこととなる。逆に低い年は1チームの独走状態だったことを示している。この値が面白さに直結しているわけではないが、1つの指標として見ていただきたい。過去30年で、やや接戦と思える70%を超えた年は16回。かなり接戦と思える90%を超えた年は6回だ。この6回を2006年を境に比較すると2006年以前は20年で5回、2007年以降は10年でたった1回となっている。

90%を超えた6回のうち、1番古い1990年はフェラーリに移籍したプロストとマクラーレンのセナが鈴鹿の1コーナーで散った年。プロストとマンセルがドライブしたFerrari 641は、上から見たデザインによりコークボトルと呼ばれ、最も美しいフェラーリと呼ぶ人が多い
6回のうち、1番新しい2010年は最終戦のアブダビでアロンソ(フェラーリ)、ウェーバー、ベッテル(レッドブル)、ハミルトン(マクラーレン)がチャンピオンの可能性を残し激突。優勝+アロンソ5位以下という条件をクリアしたベッテルが史上最年少チャンピオンに輝いた
ポイントトップで最終戦に臨んだアロンソはウェーバーに追随して早々にピットイン。このピット戦略のミスでルノーの後方に封じ込められ7位に終わった

 グラフを見て筆者が気になるのは、2013年から2016年まで4年連続で約60%で推移していることだ。2013年はレッドブル、2014年からはメルセデスの1人勝ちで、4年連続で1チームが独走したのは30年間でこの4年だけだ。

 だが今年は違う。ここ数年、面白くなかったF1が今シーズンは劇的に面白くなった。全20戦中8戦を終えて、コンストラクターズポイントもドライバーズポイントも1位と2位の差は10%以内だ。16戦目となる日本グランプリはもちろん、最終戦のアブダビまで目が離せないシーズンになるだろう。

8戦終了時のポイント
コンストラクターズポイント1位2位
チームメルセデスフェラーリ
ポイント250226
90.4%
ドライバーズポイント1位2位
ドライバーベッテルハミルトン
ポイント153139
90.8%

 念のために付け加えると、1チームが独走しても面白かったシーズンはある。その代表は1988年だ。マクラーレン・ホンダが16戦15勝を記録したこの年は、グラフの値が33%と過去30年で最も低い年だが、セナ、プロストがガチンコで接戦を繰り広げ、日本グランプリでセナが初めてチャンピオンを獲得した。

1988年、鈴鹿サーキットを走るアラン・プロスト。優勝7回、2位7回で現在のルールであればチャンピオンを獲得したが、11戦有効ポイント制のルールにより、優勝8回、2位3回のセナがチャンピオンを獲得した

 だが、独走する1チームで2人のドライバーが接戦になることはまれで、ドライバーの実力差やチームオーダーなどで1人勝ちになることが多い。やはり異なるチームが接戦となる方が面白味は増すので、繰り返しとなるが今シーズンのF1は面白い。

スカパー!オンデマンドならTVや衛星アンテナがなくてもスマホ、タブレット、PCなどでも視聴できる

 面白くなったF1グランプリだが、残念ながら2011年で地上波の放送がなくなり、2015年をもってBS放送もなくなった。現在視聴する方法は「スカパー!」「スカパー!オンデマンド」「DAZN(ダ・ゾーン)」による有料放送だ。スカパー!が基本料 421円+フジテレビNEXT 1296円=1717円/月。スカパー!オンデマンドはスカパー!でフジテレビNEXTを契約すれば追加料金なしで視聴可能だ。DAZNはF1以外にJリーグ、NFL、NBAなども観戦できて月額1750円(税別)、docomoユーザーなら月額980円(税別)となっている。

F1日本グランプリ消滅の危機

 1987年から鈴鹿サーキット、富士スピードウェイ、再び鈴鹿サーキットと30年間連続で開催されたF1日本グランプリだが、観客動員数は2006年の決勝日16万1000人、延べ36万1000人のピークから減少し、2016年は決勝日7万2000人、延べ14万5000人と過去最低を記録。ピーク時の約4割に減った。F1日本グランプリが消滅する可能性は否定できない。

 F1日本グランプリは2018年まで鈴鹿サーキットで開催されることになっている。6月19日に暫定カレンダーが発表され、2018年の日本グランプリは10月7日が決勝日だ。ドイツグランプリとフランスグランプリが復活してマレーシアグランプリが消滅し、全21戦を予定している。だが、これらはそれほど重要ではない。今、重要なのは……。

 1年後の6月、2019年の暫定カレンダーから日本グランプリが消滅していたら、筆者はショックで寝込んでしまいそうだ。多くのF1ファンが「きょうは会社休みます」とツイートするだろう。2019年の暫定カレンダーが発表されるまでに開催されるF1日本グランプリは1回。今年の日本グランプリは連続開催が継続されるか否かの天王山と言っても過言ではない。

F1開催のお金を考える

 19年続いたマレーシアグランプリ(セパン)が今シーズンで幕を下ろす。韓国グランプリ(2010-2013年)は4年、インドグランプリ(2011-2013年)は3年と短命に終わっている。来年復活するフランスグランプリは2008年以来の開催、ドイツグランプリは2015年と2017年に開催されず、ここ最近は隔年開催となっている。撤退、開催断念の理由はおおむねお金だ。

 ザックリとお金の話をしよう。一般的にイベントはお金を払って招致し、チケットを売って利益を得るのが基本だ。ライブハウスを例にすると、地元ミュージシャンを3万円の報酬で呼んで、1000円のチケットを30人に売ればチャラ。店内の飲食などで得られた利益が儲けとなる。

 大物ミュージシャンを100万円で呼んだ場合は、5000円のチケットを100人に売った段階では半分赤字。店内の飲食で50万円の利益がなければイベント自体は赤字となる。細かく計算すると人件費、水道光熱費、宣伝費などの運営費もあるので、損益分岐点はもっと高くなる。

 F1を開催する場合、バーニー・エクレストン率いるFOM(フォーミュラ・ワン・マネジメント)に数十億円と言われる開催権料を支払って招致する。サーキットはチケットを売り、売り上げが開催権料を上まわれば黒字となる。どちらかと言うと「チケットが売れなければ赤字となる」が正しい。

 やや細かく計算すると、サーキット内のグッズ販売や飲食の売り上げの一部もサーキットの収益になるが、1人平均数万円の売り上げがあったとしても、サーキットの収入は数千円と思われるので、チケット代と比べれば大きな収益ではない。

 経費面では仮設スタンド、ステージイベント、警備員、スタッフなどの人件費、宣伝費などがあり、通年で見るとサーキット全体の維持・改修費、さらにF1、8耐、SUPER GTでしか使用しない駐車場を自前で持っていれば、年に350日は使用しない駐車場の固定資産税なども必要となる。

ストレートエンド付近に設置された仮設スタンド(今年はなくなる予定)
様々なイベントでステージ設営やゲストの招待などに費用が発生する
マシンの展示も費用がかかる
休憩用テントを設置するにも費用がかかる
クレーンなどの重機にも費用が発生する
F1ではスポンジバリヤの使用が認められないので、レース前にコース全域からスポンジバリヤを回収し、スプーンのインフィールドに仮置きする。これにも膨大な労力がかかっている
コースの改修も行なわれる
取材陣に提供される食事もサーキットの経費

 気になる開催権料だが、正確な金額は不明だ。ある情報には各グランプリの開催権料の一覧が掲載されていて、モナコだけが無料で伝統的なグランプリは十数億、シンガポールや中東諸国は40~50億円などとなっている。一方でモナコの関係者のインタビューには「安くしてもらっているが払っている」というコメントもあり、バーニー自身が「開催権料はすべて非公開」と答えたインタビューもある。

 関係者やベテランジャーナリスト、国内外のWebサイトの情報から類推すると、開催権料は十数億円から50億円でサーキットごとに異なる。ほぼすべてのグランプリが赤字。政府や地元自治体が招致することが多く、鈴鹿サーキット(株式会社モビリティランド)のように民間企業が招致しているのは少数派ということだ。

 調べてみるとマレーシア政府、シンガポール政府など国が開催費用を負担しているケースは多く、オリンピックに近いイメージだ。政府や自治体が招致していれば、F1自体が赤字でもトータルの経済効果が期待できる点は大きい。

 新幹線代、高速代、ガソリン代などの交通費や宿泊費がチケット代を上まわる人もいる。F1開催時には三重県内だけでなく名古屋市内のホテルも満室になる。地元のスーパーやコンビニも売り上げが増えるなど様々な経済効果はあるが、民間企業である鈴鹿サーキットの収益にはならない。このまま観客数(=チケットの売り上げ)が減り続ければ、赤字が増え開催を断念する可能性はある。

2019年以降のF1日本グランプリのためにできること

 2019年以降も連続してF1日本グランプリを開催するために、我々ができることの1番はチケットを買うことだ。TVで海外のF1を観戦できれば満足という人もいると思うが、サーキットでの生観戦はTVでは味わえない魅力がある。筆者のようにF1を撮りたいと思う人は、日本でF1グランプリが開催されることの意義は大きい。

 どうしてもF1を見に行くことができない人は、鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎで開催されるレースを観戦し、モビリティランドの収益に貢献してほしい。レースではなく遊園地やキャンプ場を利用するだけでもよいと思う。

 鈴鹿ももてぎも遠くて行けないけど、F1日本グランプリを継続してほしいと思ってくれる人は、SNSなどで情報発信をしてほしい。「今週末はオーストリアグランプリ開催」「昨日のF1は面白かった」「7月9日からF1の西エリアチケット発売開始」など、些細なことでもよいので多くの人にF1の情報を伝えていただきたい。

5月下旬に今年のF1日本グランプリのチケットは届いている

 ここ数年、筆者は取材パスが支給されるようになったが、今でもチケットを購入していて、すでに3月に購入したチケットは手元に届いている。取材パスの申請が通らなかったときに自力で観戦するための保険と、F1日本グランプリが継続されるための微々たる貢献だ。

 こうして記事を書くこと、サーキットの撮影ガイドF1の撮影記F1の4Kフォトギャラリーなども貢献の一環で、筆者にできることはこれからも続けていきたいと思っている。読者の皆様も何かできることがあればご協力をいただきたい。

提供:株式会社モビリティランド

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。