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奥川浩彦の「F1大好き! 今年も鈴鹿に行くぞ」

第3回:F1日本グランプリを低コストに楽しもう

2006年、日本GPのFP3にダンロップコーナーで撮影。土曜日午前のセッションでも多くのファンが観戦している

 全5回でお届けしている本連載も3回目となり、折り返しを迎えた。連載の第1回、第2回では30年続くF1日本グランプリの観客数が減り、日本でのF1開催が消滅の危機を迎えていること、今シーズン2017年のF1は面白いことなどを紹介した。今回は様変わりした鈴鹿サーキットの観戦事情やチケットについてお伝えしよう。

劇的に改善され、自由を取り戻したF1日本グランプリ

 この写真は逆バンクの立ち上がり、ダンロップコーナー付近(現在のE-2席)から東コースを撮ったものだ。撮影データを見ると、撮ったのは2006年10月8日13時44分。観客数がピークだった2006年の決勝直前の写真だ。

2006年の鈴鹿、決勝直前の東コース。細かく見るとストレートエンドの仮設スタンドが凄い。当時はS字2つ目から逆バンク、ダンロップコーナー付近は自由席で人、人、人で埋め尽くされている

 まさに立錐の余地もない大観衆だ。2006年以前の自由席の争奪戦は凄まじいものがあった。金曜日のセッションが終わって正面ゲートを出ると、シートを敷いて座り込む人の列ができていた。土曜日の早朝の開門を待つ人たちだ。夜明けには列が長くなるので、正面ゲートからグランドスタンド裏のサーキットゲートまで民族大移動し、サーキットの開門とともにダッシュで場所取りをしていた。記憶では土曜日は終夜オープンで、そのまま決勝までコースサイドに留まる人もいたと思う。

 筆者のイメージは、2006年以前のF1日本グランプリは「放置」かつ「自由」だった。サーキット内もそうだが、駐車場も今ほど整備・管理されておらず、木曜日の晩に駐車場にクルマを停めると、出庫したら満車で2度と入れないので、買い出しや飲食は徒歩だった。昔は「勝手に見に来て、勝手に帰ってね」という印象だ。

 2009年は一変して、イメージは「統制」となった。グランドスタンドをリニューアルし、シケインに立派なスタンド(Q2席)が新設され、S字~逆バンクの土手は常設スタンドとなった。西コースも130Rの常設スタンド、スプーンや西ストレートに仮設スタンドが設置され、観戦環境は大幅によくなった。

グランドスタンドはリニューアル。シケインには見晴らしのよい立派なスタンドが新設された
2009年は指定席を持っていないとスプーンカーブを観戦することができなかった

 自由席が廃止されて全席指定となり、スプーンカーブ一帯も指定席券がないと観戦できなくなった。正直、快適さと引き替えに自由を失った印象だ。この年の筆者のF1撮影記には「3日間、5セッションを同じ場所で見るというのは、少々寂しい感じ」「来年以降は自由な観戦スタイルを取り戻してほしい」と書かれている。

平日である金曜日の午前中からヘアピンスタンドは満席。金曜日自由席をした効果は絶大(2012年撮影)

 鈴鹿サーキットの対応は早かった。翌2010年はグランドスタンド(V1/V2席)以外を金曜日は自由席とした。2006年以前の自由席観戦券は常設スタンドも仮設スタンドも入ることはできなかったので、金曜日自由席化により2コーナースタンド(B2席)、シケインスタンド(Q2席)、ヘアピンスタンド(I席)といった人気のスタンドをハシゴして見られるようになった。これは画期的で、2006年以前には考えられないことだった。カメラマンエリアが設置されたのもこの年だ。

スプーンカーブは2006年以前と同様に自由な雰囲気となった(2016年撮影)

 その後もさまざまな改善がなされ、ここ数年は西エリアチケットという、事実上の自由席も販売されている。昔の「放置/自由」がいったん「統制」となり、現在のF1日本グランプリは「統制/自由」になったと思っている。指定席が増えたことで小さな子供連れでも安心して観戦できるし、グランドスタンド裏や遊園地には子供トイレなども用意されている。駐車場の予約もでき、出入り自由なので駐車場の心配をすることなく通うことも買い出しもできる。

 現在のF1日本グランプリは統制・管理されたことでよくなった面を持ちつつ、金曜日の自由席や西エリアチケットにより観戦の自由度は増した。

 サーキット関係者に「どうして自由席じゃなく西エリアチケットにしたのですか」と聞くと、「東コースはほぼ全域指定席になったので、自由席というと語弊がありそうだから」とのこと。良心的な考えではあるが、東コース、西コースを知らない初観戦の人には「自由席」とした方が分かりやすい気がする。

捨てたと思っていたら突然出てきた1987年のF1日本グランプリのチケット。今と違って印刷が豪華。当時の一般観戦席(自由席)は1万2000円と今より高かった
2つ折りのチケットの内側に記載された観戦エリアを見ると、1987年の指定席はシケイン、最終コーナー、グランドスタンドのみ。ストレートエンド、S字、逆バンク、ヘアピン、スプーンなど、ほとんどが一般観戦エリア(=自由席)だった

コストパフォーマンス重視なら実質自由席の西エリアチケット

 F1日本グランプリのチケットは紹介しきれないほど種類が多い。今回は「初観戦、コストパフォーマンス重視」「ファミリーでゆったり観戦」というテーマでチケット選びと観戦方法を考えてみたい。

 F1グランプリは金・土・日と3日間のイベントだ。走行時間は、金曜日が1時間半のセッションが2回で3時間ともっとも長く、土曜日がFP3の1時間と予選の1時間で2時間、日曜日は決勝が約1時間40分で、マシンがグリッドに移動するレコノサンスラップやウィニングラップを含めると約2時間となっている。

 金曜日券以外のチケットは3日間通し券なので、日曜日だけ見ても金・土・日と3日間見ても料金は同じ。さらに金曜日はグランドスタンド以外の指定席が自由席扱いとなる。走行時間を加味すると金曜日から3日間観戦すると圧倒的にお得だ。

 料金は大人、大学生・高校生、子供(3歳~中学生)の3区分が基本で、大人料金でもっとも安いのが西エリアチケットの9000円。人気の高いI席(ヘアピン)が3万6000円、Q2席(シケイン)が4万9400円、B2席(1~2コーナー)が5万8700円。もっとも高いのがグランドスタンド上段のV2席で6万5900円~7万8200円だ。ちなみに筆者が2009年以降に購入したチケットは、B2席が4回、D席(D-4)が1回、G席が1回、J席が2回、Q2席が1回だ。

現在の観戦エリア。東コースはすべて指定席。西コースはヘアピンのみ指定席で、それ以外は自由に観戦できる

 1度はF1を見てみたい、という「初観戦、コストパフォーマンス重視」の人にお勧めなのは西エリアチケットだ。初めて鈴鹿サーキットに行く人は「西ってどこ?」と思われるだろう。鈴鹿はメインストレート、S字、逆バンク側を東コース、デグナー、ヘアピン、スプーン、130R側を西コースと呼んでいて、西エリアチケットは西コース側のエリアという意味だ。名称は分かりにくいが、一般的には自由席と呼ばれるチケットだ。

 西エリアチケットの大人料金は9000円だが、U23という区分があって高校生以上23歳以下であれば学生、社会人を問わず6000円で観戦することができる。子供料金も3000円なので、お父さんと小中学生の子供2人なら1万5000円で観戦が可能となる。若者のスポーツ離れが叫ばれる時代なので、個人的にはU23をU29くらいに拡大し、もっと若いファンを増やしてほしいと思っている。

西エリアマップ。ヘアピンは指定席、カメラマンエリアのチケットがないと見られないが、それ以外はほぼすべてのエリアで観戦ができる

 西エリアチケットで観戦する人は金曜日から観戦するとお得度が高い。筆者のお薦めの観戦方法は、金曜日午前のFP1はB2席。ずっとB2席で観戦してもよいが、欲張るならC席、D席とS字までハシゴして観戦することもできる。

B2席の1コーナー側はストレートの奥の方まで見える。B2席は1コーナー側から混むので、早く行くと1コーナー側で見ることができる
D席(D-5)まで移動するとS字が目の前。セッションの後半はマシンの速度も上がるので、S字の高速カーブをF1マシンが駆け抜ける様子を間近で見ることができる

 午前のセッションが終わったら逆バンク裏のオアシスで食事をし、グランドスタンド裏のGPスクエアで遊んで午後のFP2はQ2席だ。Q2席は130Rからシケイン、最終コーナーを見渡せる人気のスタンドだ。

Q2席は見晴らしのよい上段から混雑する。上段で観戦したい人は早めに行こう

 土曜日のFP3は130Rと立体交差が見えるGエリア。午後の予選は200RのJエリアでヘアピンからデグナーへ加速するマシンを観戦しよう。欲張るなら予選Q1をJエリアで見て、予選Q2までのインターバルを利用して西ストレートのOエリアに移動することも可能だ。

Gエリアのヘアピン側は西ストレートと立体交差からヘアピンに向かうマシンが見られる
Gエリアのシケイン側は130Rからシケインに向かうマシンが見られる
Jエリアはヘアピン立ち上がりの200Rが目の前
Jエリアの難点は階段がきついこと。この写真はJ席スタンドがあった頃に撮影。セッション中に移動するならJエリア→Oエリアの方が階段が下りになるので楽
Oエリアは西ストレートから130Rへの進入が見られる。最高速の計測ポイントもこのあたりだ

 日曜日の決勝はL・M・Nエリアのあるスプーンカーブだ。スプーンはマシンを長時間見ることができ、エンジン音でドライバーのアクセルワークを楽しむこともできる。スプーン1つ目の進入はパッシングポイントなので、決勝を見るならスプーンをお勧めだ。

Lエリアはスプーンの進入
Mエリアはスプーン2つ目のコーナー付近
Nエリアはスプーンの立ち上がり。西ストレートも見える

 初めてF1を観戦してみようと思う人は、鈴鹿サーキットのホームページにある「はじめてのF1観戦!」も見ておくと参考になるだろう。久々にF1を観戦しようという人は「久しぶりの観戦の方」を見ると、様変わりした現在の鈴鹿サーキットと2000年ごろの様子を見比べることもできる。

ファミリーでゆったり観戦

 F1日本グランプリは子供連れでも楽しめるイベントだ。最終コーナーのS席はファミリーシートとして販売されていて、家族の人数に応じたセット割引がある。S席以外でもA1席、E1席、R席の子供料金は3000円ほどで、子供連れで観戦する人にはリーズナブルだ。

ファミリーシート(S席)はシケインの立ち上がりから最終コーナーを見ることができる
ファミリーシート価格
大人子供価格
1141,300円
1244,500円
2176,200円
2280,300円
A1、E1、R席
大人大学生/高校生子供
A1席42,200円28,800円3,000円
E1席14,400円11,400円3,100円
R席45,300円30,900円3,000円

 観戦方法は西エリアチケットの場合と同じで、金曜日はB2席、Q2席、I席などをお勧めするが、小さな子供連れで混雑を避けたい場合はB2席は2コーナー側、Q2席は下段、あるいは比較的ゆったりしているC席などと、混雑状況を見て観戦場所を決めよう。

B2席の2コーナー側はストレートや見えないが、S字を見ることができて1コーナー側より空いている
金曜日FP1のC席の様子。ゆったり観戦することができる(2016年撮影)

 土曜日午前のFP3は、ファミリーシートから近いGエリアならベビーカーで移動することも可能だ。小学校高学年、中学生の子供と行くならスプーンまで足を伸ばすこともできる。予選、決勝はサーキットビジョンのあるファミリーシートで観戦しよう。メインゲートから最終コーナー(R席付近)を経由して130Rまで移動するルートが動画で紹介されているので、ファミリーで初めて観戦する方は事前に確認しておくと安心だ。

鈴鹿サーキット公式動画

 ファミリーシート(S席)には、ベビーカーの駐車場や授乳室などもエリア内に設置されている。また、決勝終了直後にメインストレートに入れる特典が用意され、表彰式を親子でコース上から見ることができる。

 ファミリーでF1を観戦しようと思う人は、鈴鹿サーキットのホームページにある「家族で楽しむF1」もチェックしておこう。

観戦券があれば遊園地は4日間乗り放題

 ファミリーシート、西エリアチケットなど、すべての3日間観戦券にはレースウィークの金曜日~月曜日の4日間「モートピアパスポート」の特典が付いている。モートピアパスポートはほぼすべてのアトラクションが利用でき、プッチグランプリキッズバイクコチラレーシングカートなど、鈴鹿サーキットの遊園地ならではのアトラクションも乗り放題だ。

鈴鹿サーキットのコースレイアウトを再現したプッチグランプリ
キッズバイクは3歳から小学生まで乗れるバイク
コチラレーシングカートは小学3年生(身長130cm以上)から乗れるジュニア専用レーシングカート

 パスポート価格、大人(中学生以上)4300円/日が無料になるのでメッチャお得。とくに子供連れの人には嬉しい特典だ。セッション前やセッション後に親子で楽しんでいただきたい。

モートピアパスポートの料金
大人(中学生以上)子供(小学生)幼児(3歳以上)
4,300円3,300円2,100円

指定席は席を選んで買うことができる

 F1日本グランプリのチケットはオンラインショップ「MobilityStation」で購入することができる。今シーズンから航空券や映画館のように、指定席の座席を選択して買うことが可能となった。「通路側の席にしよう」などと席選びができる以外に、指定席の混雑しているエリアを確認したり、1席だけポツンと空いているお宝シートを探し出すことも可能だ。

 一部の席はすでに完売で、ファミリーシートは在庫が残りわずかとなっている(7月下旬)。西エリアチケットも過去に完売になったことがあるので、お目当てのチケットの在庫状況は早めに確認したい。

V2席の1コーナー側は完売。場所により「△:残りわずか」「○:在庫あり」と表示される
ファミリーシートは「△:残りわずか」となっている(7月下旬)
指定席の空席位置を確認できる。上段はポツン、ポツンと空席がある。まとまった人数の席は下段となる

提供:株式会社モビリティランド

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。