クルマはメーカーから市販されたノーマル状態こそが、基本的に誰が乗っても不具合がないような、まさに万人に向けた操縦性と安定性と乗り味で造られている。つまりノーマルの状態こそ、クルマとしてトータルバランスが整っているということだ。

モータージャーナリストの桂伸一が試乗

では何故チューニングと言うアフターの世界があるのだろう!? それは人間、慣れるにしたがって個性を要求するからだ。ヒトと違った見栄えが欲しい事もひとつだろうし、あるいは操縦性はもう少しシャープなほうがいいとか、乗り心地はもっとソフトなほうがいいとか、高速域はもっと硬くて姿勢変化が抑えられた安定感がいい。等々、ないモノねだり。

そこでパーツを付け替えたり、付け足したりするが、個人で、あるいは街のショップで手を加えたモノは、例えば、ある領域はよくなるかも知れないが、それと引き換えにクルマのトータルバランスは崩れる可能性もある。

しかしその手を加える主が、自動車メーカー直系…… となれば話は別だ。何をどう変えればどう変わるのか? という事が分かった上で、バランスを考えながらチューニングし、性能を引き上げるからだ。

さらに重要な事は、量産車では決められたコストのなかでモノ造りが行なわれるが、アフターの世界では、チューンするためのコストを支払ってくれる分、さらに優れたモノ造りが行なえる。ホンダのハウスチューナーであるModulo(モデューロ)も、そうしたクルマ造り、味造りが行なわれているのだった。

ステップワゴン、フリードのコンプリートモデル「Modulo X」

もう、まさにこれが標準仕様としてあればいいと思う。もちろんコストが掛かる分お値段も張るが、しかしその走りは心地いい。

操作した事が“リニア”にクルマの走りや動きに反映される!! それがいいに決まっている。と思うのが一般常識。

だが、コンプリートモデルである「Modulo X(モデューロ エックス)」はそこにこだわってはいない。あらゆるドライバーに向けて、仕様を考えると、そこは、あえて初期の応答を“ナマして”穏やかに滑らかに応答するようにしている。

どういう意味か? ステアリングを操作した時、切り始めの応答が自然で穏やかに反応して向きを変える。そこがドライバーにとって扱いやすく、感性とマッチする。キビキビ走りたい!! ならばステア操作を速くすれば、そう動く。

フリード Modulo X

フリード Modulo Xは標準モデルからの乗り味がガラリと変わっている。標準と同一のタイヤなのにロードノイズが違うのは、Modulo Xのサスペンションが、まさに正確にタイヤを接地させているという証明である。

ハイブリッドモデルのフリードは、低速での加減速、加速途中に急減速して、再加速、というような市街地でありがちなシーンで、エンジン系の動きにスナッチが出る。ここはモデューロの手が入っていない部分で、ホンダ本体の制御系とさらに煮詰める必要がある部分。

フリードの走りは、サスを硬めに締め上げる事でステア操作に対する動きがより明確さを増すと同時に、ボディの緩慢な動きが抑え込まれた。反面、細かな凹凸でフロアの共振から、2列目シートの上下振動は気になるところ。が、ソコは家族内での話し合いか。

もう1台のコンプリートモデルのステップワゴン Modulo Xにも試乗。全高が高く重心も高いステップワゴンの動きをどうするか? まずは乗り味。標準ならガツンとステアリングを通して手にも衝撃が伝わる段差の通過を、姿勢の動きを抑えながら角のない滑らかな乗り味に変えている。

ステップワゴン Modulo X

「左右のふらつきが大きくなりました」!! とクルマに言われる事が多いホンダ車にあって、ステップワゴン Modulo Xは高速をビシッと直進する。もちろんサスの効果だが、ここにエアロパーツ、特にリアを抑えた空力効果が高いのだと言う。空力は体感できないが、例えば道路上に落ちている板の上を通過すると、その板を舞い上げるほどボディ下面の空気の圧力や流れが高い証明。で、明らかにふらつかない!!

過敏な動きにならないステアフィールのいい意味での“ナマし感”と操縦安定性から、今回の試乗で最も気に入った2台のうちの1台がステップワゴン Modulo Xだった。

S660 Modulo仕様

MTのModulo仕様 S660はスタートして2速にシフトアップした瞬間に、その吸込まれるように入るシフトフィールに感動する。チタン製シフトノブの重さ(軽いが)の効果で、ある程度の角度から次のギアに吸込まれカチッと止まるこの操作感こそ、“優れた”マニュアルシフトの醍醐味である。

S660 Modulo仕様

試乗コースは正丸峠。ツイスティなうえに舗装の剥がれによるギャップも多い路面に対して、S660は走りも路面に吸い付くようである。

路面に吸い付くようなハンドリング

バネとショックアブソーバーを最適化して、前後で上下にヒョコヒョコする動き、ピッチングを抑えた事が最大の成果である。

フラットな乗り味は、とても軽自動車の範疇ではない質感の高さを示す。ミッドシップらしい旋回性能の高さはヒラヒラと峠を先行するバイクに対して、少ないステアリング舵角だけでコーナーをトレースし、楽に追従して行くS660の特性にさらに上質さを加えて磨きをかけた完成度の高さである。

これでもう十分満足だが、S660にはさらにModulo X が控えているので、これからさらにどう仕上げるのか!? 興味深い。

 

グレイス Modulo仕様

今回の試乗で特に気に入ったもう1台がこのグレイスである。

グレイス Modulo仕様

セダンとは無縁の身だが、乗り込んでアクセルひと踏み、流れるように転がる滑らかさ、アクセルに対するクルマの動きのダイレクト感が実に心地いい。HVだが、モーター~ミッション~エンジンのミキシングも実にスムーズ。しかし!! そこに関してモデューロでは一切手を加えていないと言う。サスペンションと空力が基本のチューンながら、このパワーユニットの制御感の違いは不思議としか言いようもないが、確実に違うクルマに変身している。

乗り味の上質感!! と言えるほどの進化だが、これもタイヤは純正装着品。特に乗り味はタイヤのグレードアップが大きくモノを言うのだが、あえて純正タイヤにサスの違いだけでここまで変化する事に拍手を送る。

フィット Modulo仕様

2ボックススタイルの、いわゆる独立したトランクスペースがないフィットは前後の重量バランスの違いからだろうか、基本は同じでも3ボックススタイルのグレイスとは乗り味に大きな違いがある。

ジェイドRS Modulo仕様

と言うそれは、標準モデルの話。クルマの個性によるユーザー層の違いからか、グレイスのほうが前後均等にサスペンション・ストローク感があり、フィットはリアを硬めている乗り味になる。

そのリアをグレイス同様にストローク感のある動きに変えたのがフィット用のサスペンション。とはいえグレイスほどの上質感とは違い、フィットはスッキリ軽快な乗り味を披露する。

ジェイドRS Modulo仕様

走りのワゴンをイメージさせるスタイリングと室内の使い勝手のよさがジェイドの個性。とくに2列目シートの寄せて下げた状態の足元広々空間がいい。標準から1インチアップして18インチの推奨タイヤとモデューロのサスが、硬いがストローク感のある乗り味を生む。ジワッと始まるロールからコーナリング姿勢が造りやすく、抑えられたロールから高い旋回速度も可能。剛性の高い専用ホイールも操縦感覚の引き上げに貢献する。

ジェイドRS Modulo仕様

モデューロに共通する事は、操作に対していかに滑らかに自然に正確に応答するかである。ここにサスペンションをそのクルマの個性やユーザー層を見据えてカスタマイズ。スムーズにストロークさせ、それを独自の味付けで減衰させると、角張った反発のない、滑らかな動き、上質感にも繋がる。結果としてノーマルで見劣りしていた部分を補い、その上を行く乗り味になっている。