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日立オートモティブシステムズ、自動運転技術や“次世代ビークル”の開発を目的に茨城大学と連携
茨城県を拠点とした産官学連携の次世代モビリティ社会実現を目指す
2016年9月2日 22:35
- 2016年8月31日 開催
日立オートモティブシステムズは8月8日、“次世代ビークル”に向けた新技術の創出と産業競争力の向上、茨城県の地域創世を目的に茨城大学と連結事業協定を締結。8月31日に東京都千代田区の日立製作所 本社で記者発表会を開催した。
発表会に出席したのは、茨城大学の三村信男学長と工学部教授 梅比良正弘氏、日立オートモティブシステムズの常務執行役員 CTO兼技術開発本部長 川端敦氏と執行役員 業務管理本部長 月森博基氏の4人。
この協定は、自動運転の関連技術や次世代ビークルに向けた新技術のための共同研究、委託研究などを行なうことが目的。また、それらに関する協力と支援を行なうことも協定内容に含まれている。さらに研究者や学生の派遣を含む学術交流や人材育成の推進、共同研究連絡会の定期開催なども行なうという。
プレゼンテーションは茨城大学側から開始された。茨城大学は1944年に創立され、茨城県の日立、水戸、阿見に5つの学部があるが、そのなかの工学部は1939年に創立した多賀高等工業学校が前身となったもの。その多賀高等工業学校は官立となっているものの、実は自治体が多賀高等工業学校を作ろうとしていた同時期に、日立製作所も会社創立30周年記念事業として学校設立を計画していた。そこで当時の多賀高等工業学校をその計画に当てはめ、学校設立資金を全額寄付したのだった。それだけに日立製作所と茨城大学は以前から関係が深いところでもあると説明された。
現代はとりわけ自動運転、人工知能、環境性能といった次世代モビリティへの期待が高まっているため、茨城大学の学内でもこれを重視する考えがあったが、そこに日立オートモティブシステムズから大学が望んでいた方向と一致する共同研究の案が出たため、大学と企業という組織レベルの産学連携が実現。これによって次世代を切り開く基盤の開発に共同で取り組むことになった。
最初の活動は、2015年9月に行なわれた包括連携のキックオフ会合。続いて2015年10月に共同研究ワークショップを開催し、2015年12月には研究テーマ打ち合わせを行なっている。そして今年の8月8日に茨城大学と日立オートモティブシステムズの包括協定が締結され、8月31日に発表会を実施したという流れだ。
さて、この包括協定を踏まえた茨城大学の次世代モビリティ基盤技術プロジェクトだが、体制は「自動運転基盤技術チーム」と「次世代モビリティ基盤技術チーム」の2チーム制となっており、自動運転基盤技術チームは発表会に出席している梅比良教授が指揮を執っている。
このチームはミリ波レーダーや画像認識、そのほかニーズや課題にあった研究を実施。また、次世代モビリティ基盤技術チームは茨城大学 工学部械工学科の金野満教授が指揮を執り、エネルギーの多様化対応技術、水素エネルギーの利用技術、自動車の高効率化対応技術、自動車の走行環境対応技術を研究していく。これらの新しい研究が始まるにあたって、茨城大学は工学部付属の「次世代モビリティ教育研究センター」を創立している。
続いて日立オートモティブシステムズのプレゼンテーションが行なわれた。日立グループと茨城大学は、これまでにもエンジンの燃焼技術やシャシー技術に関して共同で研究を進めていたという。図式としては基礎技術研究を茨城大学が手がけ、応用する技術を日立側が作りあげるというものだ。これまでの自動車用技術開発はこの枠組で上手くいっていたのだが、自動運転の分野ではGoogleやAppleなどほかの業界からの技術参入があり、それに伴って基礎から応用に移行する時間が非常に短くなっている。そのため茨城大学と包括的な連携を結ぶことで、基礎研究から製品レベルまで到達させる時間を短縮していくという。
さらに自動運転では単にクルマを動かすだけでなく、社会的な需要性を含めた大きな範囲での研究開発も必要になるが、茨城大学には社会的基盤を含めた基盤技術力もあるので、それもあわせて受け持ってもらうとのことだった。
次に、日立オートモティブシステムズが目指す次世代モビリティへの取り組みについて語られた。まずは現在のクルマ社会における課題として、渋滞の解消や緩和、環境負荷の低減、運転の快適性向上、交通事故の削減、高齢者等の移動支援を挙げていて、これらを解決する技術を提供していくとのこと。この目標を実現する手段が自動運転技術だが、日立は走行制御、パワートレーン、電子制御、車載情報システム、エンジン&シャシーなど、グループ内で自動運転に必要な技術をカバーできる体制を持っているのが特長。そこで日立グループが持つ幅広い技術を融合させるために、日立オートモティブシステムズ内に自動運転プロジェクトを立ち上げている。
日立オートモティブシステムズはすでに公道で自動運転の実証試験をしていて、その実験車両には自動運転のプロトタイプシステムを入れた「自動運転用ECU」を実装している。ちなみに他社では自動運転用ECUではなく、一般的なノートPCに自動運転用のプログラムを入れ、それをケーブルで車載ネットワークに接続して実験を行なっているということだが、それでは自動運転ECUが走行中に受けるさまざまな負荷について検証できない。そういった理由から日立オートモティブシステムズは量産プロトタイプのECUを製作して、制御だけでなくECUが受ける負荷までも検証している。これはシステムの安全性や信頼性という点で他社をリードするものと言える。
また、ECUとセットで使うセンシング技術や制御技術に関しても日立グループから最良のアイテムが提供されるので、こういった面でも他メーカーに対して優位になっているようだ。この自動運転の公道実証実験は茨城県の協力を受け、常陸那珂有料道路の1区間を使って行なわれた。動画では自動運転による車線維持と先導車追従、そして車線変更と追い越しのシーンが紹介された。
この自動運転に関しては、現在のレベル1からレベル2、レベル3へと今後引き上げられていくわけだが、それに対して必要となる技術は主に3つあるという。1つは外界認識の高度化で、そのために必要になるのが前後の遠方レーダーやミリ波レーダー、そしてステレオカメラなど。これらの車載センサーを高度化することは必須だが、この点こそ、茨城大学との2016年度の共同研究テーマになっているだけに期待していいだろう。
次に必要とされるのは、自動運転に必要な道路などの情報を得るための通信技術とIoTに対応するセキュリティ技術だが、ここは金融、放送、交通分野などで実績のある日立グループの技術を応用するという。
そして3つめはシステムの冗長化と高信頼性技術。自動運転システムが故障した場合に、どのようにそれをドライバーに伝えるか、また、運転をドライバーに受け渡すにしてもドライバーが混乱しないよう安全にどう引き継ぐべきかといった技術だ。これに関しては鉄道や情報インフラ系で使われる自律分散技術が適用できるという。
自動運転のロードマップとしては、2017年に高速道路でのレベル2走行を実現させたあと、一般道でもレベル2の走行を目指し、2025年には緊急時以外はドライバーが運転に関わらないレベル3の自動運転まで進化させていく予定を示した。
自動運転にはドライバーが運転に一切関わらないレベル4もあるが、これについて日立オートモティブシステムズは、レベル3までの技術の進化とは別の方向から作られていくものであると予測しており、今回のブレークスルーの延長には置いていないという。
このように、日立オートモティブシステムズと茨城大学との協力体制で、エンジニアリングとサイエンス、そしてグローバルな環境、人材の育成というやり取りを行なっていくのだが、そこで作られた技術を検証する場を、茨城県の協力で提供してもらうことも重要となる。つまり、茨城県を拠点とした産・官・学連携の次世代モビリティ社会を実現するのが連結事業実施協定が目指すところであると総括された。