首都高、中央環状線山手トンネルの工事現場を公開 トンネル内で転倒したトラックの排除訓練も実演 |
首都高速道路は10月1日、2010年3月の開通を目指し現在建設している中央環状線山手トンネル(新宿線~渋谷線間)の工事現場を、報道関係者向けに公開した。公開したのは、山手通りと井の頭通りの交差点付近にある代々木換気所から、新宿線付近までの約1.5km。換気所設備や、実際に転倒したトラックを使った車両排除訓練も行われた。
山手トンネルは、中央環状線の1区画で、中央環状線高松入口から3号渋谷線までの約11km。そのうち高松~4号新宿線間は、2007年12月に開通しており、残りの新宿線~渋谷線間4.3kmが来年3月に開通する。
代々木八幡から徒歩数分。井の頭通りの真ん中に忽然と換気所の入り口が現れる |
見学のスタート地点となる代々木換気所は、小田急線代々木八幡駅のすぐそばにある。換気所は、山手トンネルと地上の間に長さ約190m、幅40mという巨大なスペースで作られた施設。都心の地下にこのような巨大な建造物が作られていたことに驚かされる。ここには換気用のファンや消音装置といった設備のほかに、変電設備なども備える。現在は工事のために人の出入りがあるが、開通後は無人となり三宅坂にある施設から遠隔操作されるとのこと。
新宿線~渋谷線間には、このほかに3つの換気所があり、代々木換気所が換気を行うのは約1kmほどの区間だと言う。環境への配慮のため、排気は電気集塵機でSPM(浮遊粒子状物質)を80%以上除去し、さらに低濃度脱硝装置でNO2を90%以上除去。そして高さ45mの換気塔の上から上空に拡散する。また、送気、排気ともに消音装置を用い、およそ100dBの騒音を45dB程度まで低減している。設備は内回り、外回りそれぞれに吸気と排気の設備が設けられるが、実物を見るとそのすべてが巨大で驚かされる。
換気所の設備の見学後、いよいよ山手トンネルへ向かう。山手トンネルは巨大なシールドマシンで地下を掘り進むシールド工法によって作られている。一方で地上とつながる出入口やJCT(ジャンクション)は、一般的には開削工法と呼ばれる地上から穴を掘り下げる工法が使われる。しかし、山手トンネル周辺は地下鉄などの地下施設やライフラインが多く、広い面積を掘る開削工法は難しい。そこで、最初にシールド工法でトンネルを掘り、そのシールドの一部を切り開いて出入口を作る「シールド切り開き工法」を採用。これにより、開削工法に比べ、コストと工期を大幅に削減できたと言う。
この公開では、代々木換気所から北上し、新宿線につながる西新宿JCTを見学。ここも切り開き工法によって作られた部分だ。シールド工法では、トンネルの内壁にセグメントと呼ばれるパネルを貼り付けるが、一般的に鉄筋コンクリート製のセグメントを使うのに対し、切り開き工法を行う部分には、その後の作業のため金属製のセグメントを用いている。金属製セグメントは火災などの熱に弱いため、表面に耐熱のパネルが張られており、通常のシールド工法の部分との違いを確認することができた。また、西新宿JCTでは、丸いシールド工法で作られた部分と四角い開削工法で作られた部分の違いが、開通後にも確認できるはずだ。
西新宿JCTを過ぎてさらに北上すると、それまでの丸かったトンネルから四角い空間につながる。ここは、開削によって掘られた部分で、シールドマシンを地下に入れるために作られたスペースとのこと。ここから新宿池袋方面のトンネルは、1999年に最初のシールドマシンが掘り進み、ここより渋谷方面のトンネルは、渋谷方面から掘り進んできたシールドマシンがUターンして反対車線を掘り進んだのだと言う。そのため、ここからトンネルの作りが若干変わり、ここより渋谷側では丸かった天井が、新宿池袋側では平らになっている。この平らな天井の上は排気用のダクトになっているのだと言う。
丸かったトンネルから四角い開けた空間に到着。ここは直径13mもの巨大シールドマシンを地上から運び入れるために作られた空間だ | 内回りと外回りがつながっているところ。巨大なシールドマシンもここでUターンしたのだと言う |
ここより先は初期段階に掘られたトンネルとのことで、天井があるなど、トンネルの形状が今までと異なる | 排気用ダクトは天井に設けられ、天井の裏が排気管としての役割を担う | 路側帯の部分に設けられた送気用ダクト |
こちらはこれまで歩いてきたトンネル。屋根が丸いのが特徴 | 排気用のダクトは上方から吸い取り壁面に沿って路面下に排気される | 送気用のダクト。こちらでは送気も排気も路面下の空間を使って行われている |
さらに北上すると、トンネル内にトラックが横転していた。もちろん本当の事故ではなく、あらかじめ用意されたものだが、実際に事故が発生した状況を想定した訓練として、その対応を見学することができた。
首都高ではバイクによるパトロール隊を配備しており、2時間に1回トンネル内をパトロールする。事故が発生した場合は、真っ先にバイク隊が現場に急行し、状況を報告。場合によってはトンネル入り口に設けられた遮断機でトンネルを封鎖すると言う。こういった横転事故の場合、ドライバーの安否や車両の状況、火災の有無などを確認し本部に報告。今回の訓練では、横転したトラックを起こすためのエアジャッキとレッカー車を要請する。
実際に4tトラックを横転させての訓練を行った。今回は時間短縮のため、エアジャッキの道具類がすでに置かれていた | 事故現場にはいち早くバイク隊が到着。写真では見えないが車両後方にもう1台のバイクがいる | 事故状況を確認し、レッカー車とジャッキアップ隊を要請する |
エアジャッキというのは、コンプレッサーによってふくらます大型のエアマットで、車体の下に入れてふくらますことで、横転した車両を起き上がらせるもの。通常であればクレーンを使うところだが、トンネル内という上方空間に制約がある状況下では、クレーンが使えないため採用された。
エアジャッキは、スターター・クッションという薄型のエアマットで最初に隙間を作り、その隙間にジャンボ・リフトと呼ばれる大型エアマットをセットする。さらにランディング・バッグと呼ばれる荷重がかかるとエアが抜けるバッグを反対側に設置しておき、車両を静かに正立させる。
エアを送るコンプレッサーはエンジン式のため、トンネル内には大きな音が鳴り響くが、その音とは裏腹にトラックはゆっくりと起き上がり、最後もランディング・バッグを押しつぶしながら静かに正立した。あとは、レッカー車が車両を撤去すれば、とりあえずの事故処理は完了となる。
山手トンネルでは、このほかにも、火災や事故に対する多くの対策が施されている。監視システムとしては、25m間隔で火災検知機が設置され、さらに100m間隔で監視カメラを設置。カーブとなる部分ではより短い間隔でカメラを設置し、死角をなくしている。その数はなんと370台にもなるというが、すべてを人間の目で確認することはできないため、コンピューターで車の動きを監視し、異常があった場合にはその映像を監視室に映し出すというシステムになっているとのこと。
トンネル内を監視する火災検知機(写真左)とカメラ(写真右)。いずれもまだカバーが掛けられていた |
また、消火栓は50m間隔、非常電話は100m間隔に設置、さらに山手トンネル独自の避難路として独立避難通路が設けられている。これはトンネルの脇に壁で覆って作られた避難専用の通路で、火災発生時にも炎や煙から身を守ることができる。この避難通路につながる非常口は、最長で350m間隔で設けられている。350mというのは、人が10分程度で移動できる距離で、火災発生時には換気用のダクトを使って排煙を行うため、10分間は路面から120cm程度の空気を確保できるのだと言う。
さらに、非常時にスムーズな誘導を行うため、150m間隔でスピーカーが設けられる。しかしトンネル内で複数のスピーカーを鳴らすと、音が混ざり合って聞こえにくくなるため、時間差で音を鳴らし聞き取りやすくする時間遅延技術を採用している。これはコンサートホールなどではすでに使われている技術だが、トンネルで採用したのはこれが初とのことだ。
なお、今回見学した代々木換気所や、山手トンネルの切り開き工法の見学会が、首都高講座として、一般向けにも開催される。開催されるのは11月26日の14時~16時30分で、参加費は無料。参加資格は18歳以上のペアで、15組30名を募集するとのこと。
参加申し込みは往復はがきでの受け付け。11月6日までに、首都高の各PA(パーキングエリア)で配布されている「首都高News2009年9-10月号」の見学会応募券を貼付して申し込む。応募多数の場合は抽選となる。
(瀬戸 学)
2009年 10月 2日