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ホンダの次世代技術「プレシジョン・オール・ホイール・ステア」「スポーツ ハイブリッド SH-AWD」搭載車に雪上試乗
鷹栖プルービンググラウンドで開催された「ホンダ雪上試乗会」(後編)
(2013/3/14 00:00)
2月中旬、北海道上川郡鷹栖町にある鷹栖プルービンググラウンドで「ホンダ雪上試乗会」が報道陣向けに開催された。前編では現行のホンダ車の試乗リポートをお届けしたが、後編ではホンダの次世代技術「プレシジョン オールホイールステア(Precision All-Wheel Steer)」(以下、PAWS)、「SH-AWD」搭載車の雪上試乗リポートをお届けする。
PAWS搭載車は編集部小林が、SH-AWD搭載車は編集部谷川が試乗した。
新4WSシステムPAWS
PAWSは、米国で今春発売予定のフラグシップセダン・アキュラ「RLX」の量産2WD(FF)モデルに搭載する、後輪を左右独立で制御するリアトーコントロールシステムだ。
ホンダは3代目「プレリュード」(1987年)で4輪操舵システムの4WS(4 Wheel Steering)を市販車でいち早く採用した。プレリュードの4WSは、コーナーなどを曲がる際に後輪が前輪と同方向を向く同位相方式、後輪が前輪と逆方向を向く逆位相方式それぞれを取り入れたシステム。ステアリングと前後輪をシャフトなどで繋ぐ機械式を採用し、ステアリング操作に対して忠実に運転できたり、小回りが利いたりといったメリットがあった。そもそも後輪をより積極的に使いたいとの意で採用された4WSだが、システムの登場以降、タイヤの性能が向上したことなどの理由で、その後同社の市販モデルで4WSが採用されることはなかった。
今回雪上で試乗したPAWSは、4WSの進化版にあたるもので、従来の4WSが機械式で後輪の両輪を同時に制御していたのに対し、電子制御により後輪それぞれを独立してコントロールしていることが大きく異なる。システムはリアサスペンションに搭載するアクチュエーターとセンサーで構成し、アクチュエーターの伸び縮みによって後輪のトー角度を最大で2度変えることができるというものだ。
このPAWSを体験できたのは、EU路と呼ばれる全長3.8kmの周回路とスラロームコース。クルマはインスパイアで、タイヤはダンロップのスタッドレスタイヤ「DSX」(タイヤサイズ:245/40 R19)になる。はじめに体験走行したスラロームコースでは、パイロンがタイトに設定された区間と、ワイドに設定された2つの区間が用意されていた。
タイトな区間では切り返しを細かく行う必要があるわけだが、ステアリング操作に対してボディーが“無理なく自然に”ついてくる感覚がとても印象的。それは高速走行になるワイドにパイロンが設置された区間でも同様で、“無理なく自然に”というのがこのシステムの大きな魅力に感じる。
筆者は以前、電子制御の4WSシステム搭載車が愛車だったのだが、自分がイメージする走行ラインに対して車両の挙動が安定しないためシステムをキャンセルしていた。要するに4WSの挙動に不満を感じていたのだが、今回試したPAWSはステアリング操作に対して素直にサポートしてくれるような印象を受ける。それはおそらく電子制御で緻密に左右輪をコントロールしてくれるということと、最大で2度という微量なトー角の設定によるものなのだろう。
また、EU路では低速・高速コーナーが待ち受けていたわけだが、例えばタイトなコーナーにオーバースピードで進入してしまった場合、グリップが回復しないとステアリング操作に応答してくれないところ、そんな状況でもPAWS付きのRLXは曲がりたい方向にクルマが向きを変えてくれる。雪上という低μ路でもそれを体感できたのは、とても大きな驚きだった。
(編集部:小林 隆)
新4WDシステム「スポーツ ハイブリッド SH-AWD」
スポーツ ハイブリッド SH-AWD(Super Handling - All Wheel Drive)は、PAWSと同様に次期アキュラ「RLX」に搭載する新システムになる。PAWSがFF用の新システムに対し、スポーツ ハイブリッド SH-AWDは、4WD用、しかも3モーター+1エンジンのハイブリッド4WDシステムとなる。
これは、ホンダの掲げる走りと燃費を高次元で両立させる新世代パワートレイン技術「EARTH DREAMS TECHNOLOGY(アース・ドリームス・テクノロジー)」の1つとして発表されたもので、V型6気筒エンジンと高出力3モーターシステムの組み合わせにより、V型8気筒エンジンと同等の加速性能と、直列4気筒エンジン以上の低燃費を同時に実現すると言う。
SH-AWDは、後輪の左右駆動力を右:0%~100、左:100%~0%まで配分することで旋回性能を高める技術だが、スポーツ ハイブリッド SH-AWDでは後輪の左右輪それぞれをモーターで駆動。前輪はV型6気筒3.5リッター直噴エンジンと新開発の1モーター内蔵7速DCTで駆動するものだ。
つまり、前輪と後輪左右はそれぞれ別個に制御され、後輪の左右の回転差による旋回力を自在に発生できるシステムとなる。旋回力を自由自在にコントロールできるのは素晴らしいが、一歩間違うと思ったとおりに動かないクルマになってしまうかもしれず、高度な駆動制御が必要となるシステムと言える。
試乗コースはPAWS搭載車と同様で、最初にスラロームを実施し、次にEU路を走行する。まず、走り出して感じるのはモーターによるトルクのスムーズな出方だ。このスポーツ ハイブリッド SH-AWD搭載車はモーターのみで走り出すことができ、その後エンジンが始動した。雪道の場合、1度タイヤを滑らしてしまうと雪面が溶けて空転気味になりがちだが、モーターのトルク制御がよくできているためかタイヤがスムーズに回り出す。それが実に自然な感じだ。
ステアリング操作にしても同様で、フラットなスラローム路面であろうが、凸凹のあるコーナーであろうが、ステアリングを切った方向にクルマが曲がっていく。前編でも触れたが、現行のスタッドレスタイヤ「ブリザック REVO GZ」を履いたクルマと、前世代のスタッドレスタイヤ「ブリザック REVO 2」を履いたクルマでは劇的なグリップ力の差のあるコースでありながら、2世代前のスタッドレスタイヤ「DSX」を履いたスポーツ ハイブリッド SH-AWDはアンダーステアを出さずに曲がっていくのだ。
単純なブレーキでは2世代前のスタッドレスタイヤ装着車らしくグリップを失いがちだが、発進加速とコーナリングに関しては自然なフィーリングで運転ができる。モーターの働き具合はモニターでき、右に曲がるときは左後輪のモーターがより働き、左に曲がるときは右後輪のモーターがより働いているのが分かる。これだけ滑りやすい路面で、違和感のない制御ができていることには感心するばかり。N-ONEのVSA制御もそうだが、ホンダの運動解析能力、動的制御技術が高いレベルにあることが分かる試乗だった。
ホンダによると、フロント:1モーター+1エンジン リア:2モーターのこのシステムは、フラグシップセダン用に開発されているとのこと。次世代NSXは、このフラグシップセダン用のスポーツ ハイブリッド SH-AWDシステムを逆配置したものとなり、フロント:2モーター リア:1モーター+1エンジンの構成を採る。フラグシップセダン用、フラグシップスポーツカー用に制御はそれぞれ最適化されているとのことで、フラグシップセダン用スポーツ ハイブリッド SH-AWDの仕上がりのよさから、フラグシップスポーツカー用のできにも期待したい。
PAWS搭載車、スポーツ ハイブリッド SH-AWD搭載車は、米国ではアキュラ RLXとして登場する。日本での導入にも期待したい。