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走りのよい軽自動車「N-ONE」「N BOX」の雪上パフォーマンスに驚く

鷹栖プルービンググラウンドで開催された「ホンダ雪上試乗会」(前編)

 2月中旬、北海道上川郡鷹栖町にある鷹栖プルービンググラウンドで「ホンダ雪上試乗会」が報道陣向けに開催された。この雪上試乗会は、ホンダの現行ラインアップを雪の降り積もったテストコースで一気に試乗するというもの。

 試乗車は、N-ONE、N BOX+(車いす仕様車)、フィット ハイブリッド RS、CR-Z、CR-V、MDX、アクティ 4WDの市販車に加え、新型4WSシステム「プレシジョン オールホイールステア(Precision All-Wheel Steer)」を装備した試作車、3モーター+1エンジンの新4WDシステム「SH-AWD」を搭載した試作車が用意されていた。

 装着タイヤは、N-ONE、N BOX+(車いす仕様車)、フィット ハイブリッド RSがブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザック REVO GZ」、CR-ZがREVO GZの前世代となる「ブリザック REVO 2」、CR-VがSUV用スタッドレスタイヤ「ブリザック DM-V1」となっていたが、試作車はいずれもダンロップ(住友ゴム工業)の「DSX」という2世代前のスタッドレスタイヤだった。

 本記事では、前編で市販車の雪上インプレションを、後編で新4WSシステム搭載車、新4WDシステム搭載車のインプレッションをお届けする。

雪上ではクルマの性能がより明らかになる

 鷹栖プルービンググラウンドは、トマトジュース「オオカミの桃」が特産品の鷹栖町にあり、寒冷地テストを中心に走りを鍛える総合テストを目的に建設されたテストコース。さまざまなコースを持っているが、今回試乗に供されたのはヨーロッパの走行環境を再現するという「EU郊外路」と、フラットな路面でのパイロンスラローム。EU郊外路はアップダウンとさまざまな曲率のコーナーが組み合わされたコースで、やや幅の広い峠道という趣。圧雪路となっていたが、試乗が進むにつれて、一部ツルツルの路面が増えてきていた。

 走りのよさが話題となっている軽自動車「N-ONE」の4WD車から試乗してみた。N-ONE、N BOX+(車いす仕様車)は、それぞれ2WD(FF)、4WDが用意され搭載エンジンは、最高出力47kW(64PS)6000rpm、最大トルク104Nm(10.6kgm)/2600rpmを発生するターボ仕様。N-ONEは、2WDで23.2 km/L、4WDで21.8km/Lの燃費性能を誇る。

ずらりと並んだN-ONEの試乗車
N-ONEの走りは軽快だ

 一般的な舗装路と異なり、圧雪路ですら路面には激しく凹凸がある。圧雪路の凹凸の特徴は、凍結路の凹凸と異なり、緩やかで凹凸の差が激しいこと。周波数は低く、波高が高い凹凸となっており、うねるような路面からの反力がある。そのためシャシーの剛性や、ボディー剛性が足りないと、路面への接地が安定せず、コーナリング途中にいきなりグリップを失ったり、そもそも真っ直ぐ加速するのが難しかったりする。

 N-ONEの4WDターボは、決してパワフルという加速ではないが、雪道でありながらしっかり速度を乗せていく。これは結構感動的な加速感で、軽自動車はバタバタ加速していくというイメージだったが、スムーズと言ってもよいほど。また平坦な圧雪路で50km/hほどのスラロームを行ってみたが、滑るには滑るものの、きちんとステアリングを切った方向に曲がっていく。

 N-ONEには、軽自動車としては珍しく、ABSとTCSと横滑り抑制を組み合わせたVSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)が全車搭載されている。この制御がしなやかに介入している感覚があり、雪道でも不安感のない運転ができる。それではと、VSAスイッチをOFFにして、再度同様のコースを走ってみた。VSAをOFFにしてもABSのみは制御が残るが、TCSやエンジン制御の部分がなくなり、よりN-ONEの素性が見えてくる。

N-ONEとフィット ハイブリッド
EU路を走行するN-ONE
N-ONEでのスラローム走行

 N-ONE+VSA ONと比べるとさすがにリアがスライドする感覚は増えるが、ステアリング操作に対する反応は高いレベルにある。ステアリングを切ると、その方向に曲がっていこうとするし、リアが唐突に横方向に飛び出すこともない。VSAの制御がよくできているためと思っていた雪道のスタビリティは、元々のシャシー性能のよさが支えていたことが分かる。

 このリアのスタビリティを生み出しているのが、N-ONEの持つ2520mmというロングホイールベース。これはスペース効率に優れたクルマとしてベストセラーを続けるフィットの2500mmよりも長く、N BOX、N BOX+と同様にNシリーズの特徴となっている部分だ。

 4WDのN-ONEの後に、2WDのN-ONEにも乗ったが、さすがに加速力は鈍いものの、その優れた雪道走行性能は快適そのもの。FFの場合、駆動輪が2輪しかなく、その駆動輪をきちんと接地させるシャシー性能がないと雪道は走りにくい。雪道は基本的に平坦ではないため、駆動力を確実に伝えるシャシー性能が、乾燥路よりも要求される。そういった意味でも、2WDでも加速するN-ONEの走りの性能の高さを感じることができた。

 また、N-ONEには安全装備として、後方のクルマに急ブレーキを知らせるために、ブレーキランプの点灯に加えてハザードランプが自動で高速点滅する「エマージェンシーストップシグナル」という機能が全車標準装備されている。100km/hからの急制動を行ってみたが、この機能が働くのを確認できたほか、素直に真っ直ぐ止まったのにはちょっと驚いた。横置きエンジンのクルマの場合、雪道で急制動を行うと、ステアリングを直進にしていても、左右どちらかに巻き込む力が働くものがある。それを制御でごまかすクルマもあるが、N-ONEは基礎からしっかり作られていることを感じた。

N BOX+の車いす仕様車もNプラットフォームらしい走り

車いす仕様車ながら、しっかりした走りをみせたN BOX+

 N BOX+の試乗車も用意されていた。こちらも駆動方式は4WDと2WD(FF)が用意され、さらに車いす仕様車となっていた。

 車いす仕様車のため、また、ボディー形状がトールタイプとなるため、N-ONEと比べると加速などは当然鈍くなる。2WD、4WDともそれは変わりないものの、走行性能は驚くほどバランスがよい。これはNプラットフォームに共通するロングホイールベースと、車いす仕様車のためリアが重くなっていることによると思われるのだが、運転していて安心感がある。

 N-ONEがキビキビといった感じで雪上スラロームをこなすのに対し、N BOX+の車いす仕様車は、ゆるやかにパイロンをクリアしていく。リアが重たいせいかリアタイヤの接地感があり、60km/hほどのスラロームでも、怖さを感じなかった。もちろん、このN BOX+の車いす仕様車でも100km/hの制動を行ってみたが、軸がぶれる感じがなく、しっかりと最後までブレーキを踏み続けることができた。

 一方、N ONEやN BOX+の車いす仕様車と同様な走りを行って、やや限界の低さを感じたのがフィット ハイブリッド RSだ。駆動方式は2WD(FF)となるものの、駆動力のかかりはよく、VSAをONにして走っている限りは楽しく雪道を走ることができる。ただし、VSAをOFFにするとその状況は一変する。

フィット ハイブリッド RS

 リアタイヤの限界速度がN-ONEよりも低く、さらに限界を超えた際の姿勢変化の速度も若干速い。これは、ホイールベースがN-ONEに比べて20mm短いプラットフォームということもあるのだろうが、電池などの搭載による1160kgという車重も影響しているのだろう。逆に言えば、フィット ハイブリッドのVSAのできがよく、N-ONEに比べて不利な条件でありながら、姿勢変化をうまく抑えていたと言える。

 絶対的なグリップ力が高い舗装路においては異なる印象を受けたのかもしれないが、雪道における性能では、ホイールベースは長く、さらに車重も軽いN-ONEがフィット ハイブリッドに比べて有利な点が多かった。

 CR-Zに関しては、明らかにタイヤの性能で差が付いていた。Nシリーズやフィット ハイブリッドがブリザック REVO GZを装着するのに対して、CR-Zは前世代のブリザック REVO 2を装着。フィット ハイブリッドに比べてバランスのよさを感じるものの、アクセルを踏み込んでも素直な加速力を得られない。特にコーナリング時は、VSAが積極的に介入して、安全方向の制御を行ってくれるため脱出加速を得られない。安心して運転できるのだが、積極的に走ることは難しく、スタッドレスタイヤの性能差を改めて感じた次第だ。

CR-Z

 CR-Zに関しても、VSA OFFで走ってみたが、横滑りが気になりアクセルを積極的に踏んでいけない。REVO GZが装着されていたら、また違った印象を得ることができたのだろう。

CR-Vと、アクティ トラック

 そのほか、CR-Vとアクティ トラックに試乗することもできた。CR-Vは、前後輪の駆動力を走行シーンによって変化させる「リアルタイムAWD」という4WDシステムを搭載。クルーズ走行時は前輪に100%の駆動力を、雪道など滑りやすい路面では、前後輪にそれぞれ駆動力を配分する。

CR-V

 装着されたタイヤはSUV用の「ブリザック DM-V1」で、4WDシステムのおかげかスムーズに発進するし、加速もなめらか。車重は1500kgを超えるものの、ホイールベース2620mmと長く、リアタイヤが急激にグリップを失うこともない。SUVやワンボックスのクルマは重心高が高いためか、重心位置とタイヤの接地面を結ぶラインが重心高の低いクルマよりも鈍い角度になっており、スタッドレスタイヤの能力をより引き出してくれるように感じる。

 スタッドレスタイヤにおいては、雪中せん断力をどれだけ発揮できるかが雪道でのポイントとなるのだが、SUVやワンボックスのクルマは上からタイヤを押さえつける成分が多く(しかも重いので、押さえつける力も強い)、しっかりとしたグリップ力を発揮する。CR-Vも同様な傾向を持ち、車高が高いにもかかわらず、安定した走行性能で楽しむことができた。

 働くクルマの代表であるアクティ トラックの試乗車は、ミッドシップ4WDというレイアウトを持つタイプ。しかも、5速MT仕様で、ホイールベースは1900mm。同じ軽自動車でありながら、Nプラットフォームよりも620mm短く、しかもトラックタイプのため、リア荷重は小さい。さらにVSAも装備されていない。

 結果として得られる走り味はシンプルかつ楽しいもので、アクセルを乱暴に開ければ滑るし、コーナリングもリアが簡単にグリップを失う。ただ、フロントにしっかりと荷重が乗っているためか、意外と不安感はなく、その軽量なボディーを存分に振り回すことができた。唯一怖かったのが、上り坂から下り坂に変わるようなコーナー。サスペンションの伸び側の速度が低いためか、いきなりコーナリングラインがずれる。どこかに飛んでいきそうな感じを受けるのだ。それさえ気をつければ、パワーも低く、車重も軽いため、おもちゃ感覚で走ることができた。

 現在市販されているホンダ車を雪上のテストコースで乗り比べて感じたのが、N-ONE、N BOX、N BOX+に使われているNプラットフォームのできのよさだ。2520mmのホイールベースが生み出すスタビリティのよさと、シャシー性能(モノコックボディー剛性)の適切さ、そして各タイヤの接地をきちんと確保できるサスペンションが基本性能を確保し、VSAが安全性をさらに高めている。VSAの介入も自然で、アクセルを踏んでもエンジンが吹けなくなったり、タイヤが変に引っ張られたりする感じもない。

 凸凹の雪上でも、アクセルを踏めば加速し、ブレーキを踏めば止まろうとし、ステアリングホイールを回せば曲がっていく。爆発的な加速力などはないが、とくにN-ONEにおいてはスポーツ感覚を感じるほどだ。走りのよい軽自動車のポテンシャルを改めて感じた試乗会だった。

N-ONEの走りのよさを雪上でしっかり体感できた。Nプラットフォームのポテンシャルの高さが光った

 後編では、ホンダの次世代車の走りをお届けしていく。

(編集部:谷川 潔)