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スーパーフォーミュラ、ダラーラ製の2014年型レーシングカー「SF14」を初実走

エンジンはNRE(Nippon Race Engine)の直列4気筒2.0リッター直噴ターボ

富士スピードウェイで公開されたSF14。左側がホンダエンジン搭載車、右側がトヨタエンジン搭載車
2013年7月10日公開

 日本のトップフォーミュラである全日本選手権スーパーフォーミュラを主催するJRP(日本レースプロモーション)は7月10日、富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)においてスーパーフォーミュラが2014年に導入を予定している新型レース車両「SF14」の実走テストを初めて行った。

中嶋一貴選手がドライブしたトヨタエンジン搭載SF14

 イタリアのシャシーコンストラクターであるダラーラにより開発・製造されたSF14は、2009年に導入された現行車両「SF13」(導入当初は「FN09」)を置き換える完全な新型車両で、スーパーフォーミュラにエンジンを供給するトヨタ、ホンダ両社のエンジンを搭載して、富士スピードウェイを実際に走った。
 テスト初日となった7月10日は、両メーカーともに走行周回は少なく、車の状態などを確認しながら確認走行を行うという状況にとどまった。

伊沢拓也選手がドライブしたホンダエンジン搭載SF14。ターボエンジンということもありアフターファイヤーはかなり派手だった。サーキットでの見所の1つになるかも

新生スーパーフォーミュラを象徴する新型車両の導入

 JRPが主催する全日本選手権スーパーフォーミュラは、昨年まではフォーミュラ・ニッポンとして開催されていたが、今後はアジア進出などの国際化を意識して今年からスーパーフォーミュラへと名称を変更して再スタートを切ったばかりだ。

 フォーミュラカーのレースと言えば、最も格式が高いのは世界選手権のF1世界選手権で、それに次ぐレースとして北米中心のインディカー・シリーズがあり、それらがトップ2と言える。前身となるフォーミュラ・ニッポン、さらにその前の全日本F3000選手権、全日本F2選手権などを含めると40年近い歴史を持つスーパーフォーミュラは、F1、インディカーシリーズに次ぐ格式を持つと言ってよいだろう。

 特に今年は、韓国のインジェにあるインジェ・インターナショナル・サーキットでシリーズ戦が開催される予定で、日本ローカルなレースからアジアのフォーミュラカーレースとして羽ばたこうとしている。なお、スーパーフォーミュラへと名称を変更した意図に関してはJRP白井社長へのインタビュー記事を参考にしていただきたい。

 シリーズ名称こそ変更されたものの、今年度利用されているレース車両(SF13)は、フォーミュラ・ニッポン時代の2009年に導入されたFN09(スイフト製)のリネーム版であり、新しい車両ではない。2009年から5シーズン目に突入しており、SF13以前は3シーズンに1度は新しいシャシーが導入されていたことを考えると、目新しさがなくなってきているのも事実だった。2008年末に起きたいわゆる“リーマンショック”と呼ばれる経済の落ち込みなどを勘案すると、チームに対して新たな負担となる新型車両の導入を求めるのは難しいという状況もあり、SF13(FN09)がここまで利用されてきたのだ。

 しかしながら、現行車両はいくつかの課題を抱えていた。特に追い抜きが難しい、パワーステアリングをつけてもドライバーへの負担が大きいという点は以前から指摘されており、それがレースの面白さをスポイルしている部分があったのだ。また、世界最高峰のレースであるF1、インディカーと肩を並べるようなシリーズとなり、アジアのトップフォーミュラーとなるためには、やはりそれなりの速さを持つ車が必要になってきていたのだ。そこで、来年以降用の新型車両としてSF14が計画され、今回のテストで初めてその姿を現したのだ。

ダラーラが製造したSF14は、軽くて速い新世代レーシングカー

 今回JRPが委託してイタリアのダラーラが製造したSF14は、JRPが意図した追い抜きが可能で、かつ従来よりも速いラップを刻めるシャシーへと仕上がっているという。

 JRPの発表によれば、新型車SF14の特徴はオーバーテイクが可能な車両を目指していることにあるという。SF13に比べると全長が+200mm、車幅が-100mm、ホイールベースが+160mmとなっており、全体的に長めな車となっている。全長を伸ばしたのは前走車からの空力的な影響をできるだけ排除し、オーバーテイクを容易にするという意図があるという。また、このほか、リアウイングの幅や左右のスリットなども後続車への影響を極力削減するような設計が施されており、こちらもオーバーテイクをし易くするためだ。

 さらに、フロントウイングをつり下げるノーズは、グランドエフェクト(車両の下面を利用して吸い付く力を発生させる効果)を最大限に追求するために高めのノーズとなっており、最新のF1カーのように左右の壁に対してノーズの中央部分が凹むデザインになっている。

 このほか、車体の重量が軽くなっている。SF13(FN09)ではドライバー込みの重量が670kgであったのに対して、SF14ではドライバー込みの重量は650kgとなる。これはシャシー、エンジンなどで軽量化されたほか、ブレーキに関しても新しくカーボンブレーキが採用されており、それらが軽量化に貢献しているのだ。軽量化されたからといって安全性がおろそかにされているわけはなく、FIA-2010 F1規定と呼ばれるF1の安全規定と同じ安全性が実現されており、FIAのクラッシュテスト(実際のシャシーを利用して壁に激突させて壊れないかを検査する試験)もすでに通過しているとのことだ。

 従来操舵力が重いと問題になっていたステアリングに関しても、KYB製の電動パワーステアリングが標準で装備されている(現行のFN09=SF13でも途中から装着されていた)。また、ギアボックスに関してもリカルド製6速ギアボックスが採用されており、ザイテックのパドルシフトと組み合わせて操作することができる。

ホンダエンジン搭載のSF14
トヨタエンジン搭載のSF14
フロントノーズはF1などでも流行のハイマウントノーズ
フロントウイングは2つのエレメントから構成されている
フロントウイングの翼端板
ブレーキはブレンボより供給されているカーボンブレーキシステム。ディスクはヒトコ製
サイドポンツーンは、空力を意識して絞り込まれたデザインになっている
モノコックの前方にはペダルを調整するサービスホールが開けられている
バックミラー
コックピット。ステアリングにはやや大きめなマルチインフォメーションモニターが装備されている
後方から見たショット。シャークフィンが特徴的なデザイン
右側には排気管が見える。直列4気筒なので、排気管は右側にだけ出ている。左に見えるチムニーはターボやインタークーラーなどを冷却している
リアタイアまわり
リアセクション
マシンの底部にはスキッドブロックが取り付けられている
ディフューザー部
リアウイングはフラップの角度をさまざまに変えることができる

NREと呼ばれるトヨタ、ホンダ両メーカーの直列4気筒 2.0リッターターボエンジン

 エンジンに関しては、トヨタ、ホンダの両メーカーが新しく設計したエンジンが用意される。この新エンジンはNRE(Nippon Race Engine)と呼ばれている、直列4気筒2.0リッターターボエンジン。最大の特徴は、直噴を採用していることで、低燃費を実現しながら出力を向上することが可能になっている。そこにターボを組み合わせることで、排気量が現行のエンジン(3.4リッター)より減っているが、出力はあまり減らずに、重量を減らす(従来型が120kgだったのに対して85kg)ことなどに成功している。

 NRE規定がユニークなのは、燃料流入量の制限を実地していることだ。エンジンに1度に送り込める燃料の量に制限を加えることで、無駄にターボのブーストを上げてピーク出力を上げるよりも、同じ燃料量の中でできるだけ出力を出すという方向に開発が進むことになり、必然的にエンジンの効率を改善したメーカーが勝つという仕組みが採用されている。

 つまり、単純に燃料の量を制限すると、最終周でガス欠になる車が増えたり、各チームが淡々と走るレースになりがちだが、燃料流入量の制限であれば、少ない燃料でできるだけ出力を出す方向で開発が進むのだ。これにより燃費の改善と、見ていて楽しいレースが両立できるメリットがある。

 なお、現時点では両メーカーともエンジンの詳細に関しては未発表で、今回のテストでもエンジンに関してはまったく公開されなかった。両メーカーのエンジン搭載車は、ピットに帰ってくるとガレージの戸がすぐに閉められ、互いに情報が漏れないように配慮されてのテストとなっていた。

 SF14には、従来からJRPが開発してきたエネルギー回生システム「システムE」も標準で搭載できるようになっており、エンジンとドライバーの間にシステムが介在可能なようになっているという。ただし、JRPは2014年はシステムEを搭載しないことをすでに決定しており、利用されるとすれば2015年シーズン以降ということになる。

●シャシー諸元

項目内容
全長5268mm
全幅1900mm
全高950mm
ホイールベース3165mm
重量650kg(ドライバー含む)
ギアボックスリカルド 6速(ザイテック パドルシステム)
ブレーキブレンボキャリパー/ヒトコディスク(カーボン)
フロントタイヤブリヂストン 235/55R13
リアタイヤブリヂストン 340/620x13
モノコックアルミ/ノーメックスハニカム入りカーボン/ザイロン複合材コンポジット
ボディーワークノーメックスハニカム入りカーボンコンポジット
ステアリングシステムKYB 電動パワーステアリングシステム
フロントサスペンション形式プッシュロッド トーションバースプリング
リアサスペンション形式プッシュロッド
安全基準FIA-2010 F1規定

●エンジン諸元

項目内容
気筒数直列4気筒
燃料噴射システムダイレクトインジェクション
過給器ターボチャージャー(ワンメイク)
排気量2000cc
出力550馬力
重量85kg
出力制限方法燃料流入制限の実施

初日は、システムチェックの段階で本格的なタイムアタックはなし

 SF14のテスト初日となった7月10日は、午前中2時間、午後2時間の合計4時間の占有走行の時間が設けられた。トヨタエンジンを搭載したSF14のテストはトムス所属の中嶋一貴選手が担当し、ホンダエンジンを搭載したSF14のテストはダンディライアン所属の伊沢拓也選手が担当した。

 午前中には両メーカーともピットアウトすると、メインストレートを通らずすぐにピットインする、いわゆるインストレーションラップと呼ばれるチェック走行に終始しており、ほとんど走行はなかった。そんな中で、トヨタ車が最初にメインストレートを通過したのはテストが始まってから1時間後だったが、3周目に突入したところでコース上にストップし、赤旗でテストは一時中断されることになった。残り30分でテストは再開されたが、両メーカーともに走行ラップは少なく、ほとんどインストレーションラップ程度でテストが終わってしまった。

 午後になり、両メーカーとも周回数がこなせるようになると、まずはトヨタが走り込みを続け、いち早く本日のベストラップとなる1分29秒157を記録し、その後も1分30秒~29秒程度のラップで走り込みを続けた。これに対してホンダは走行ラップ数も少なかったが、テストの終盤になってようやくタイムを縮めることが可能になり、最終的に1分30秒578を記録してテストを終えた。なお、参考までに昨年富士スピードウェイで行われたフォーミュラ・ニッポン第4戦の予選1回目トップのアンドレ・ロッテラー選手のタイムは1分25秒811だ。1回目のテストだったことを考えるとタイムを比較する意味はあまりないだろう。

 JRPによれば、7月11日も引き続き富士スピードウェイでテストが行われるほか、7月31日~8月1日にツインリンクもてぎで、9月11日~12日に鈴鹿サーキットで、9月30日~10月1日にスポーツランドSUGOで、11月7日~8日に鈴鹿サーキットでのテストが予定されている。本格的な走行が始まれば、SF14の本来の性能が見えてくるだろう。

 なお、今週末の7月13日~14日には富士スピードウェイでスーパーフォーミュラ第3戦が開催される。

トヨタエンジン搭載SF14
ホンダエンジン搭載SF14
両メーカーともに車が戻ってくるとピットのシャッターがすぐに閉められる厳戒態勢
中嶋選手のドライブするトヨタエンジン搭載SF14がコース上にストップするシーンも

【お詫びと訂正】記事初出時、SF14の車体幅をSF13(FN09)に比べて-100mと記述しておりましたが、正しくは-100mmとなります。お詫びして訂正させていただきます。

(笠原一輝/Photo:高橋 学)