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ダラーラのエンジニアが語る2014年型スーパーフォーミュラ「SF14」の秘密
ドライバーの感想は「速くて、乗りやすい車」
(2013/7/24 15:31)
アジアのトップフォーミュラレーシングシリーズとなるべく、2013年から新しいスタートを切った「スーパーフォーミュラ」。運営を行うJRP(日本レースプロモーション)は、7月10日に富士スピードウェイにおいて2014年から導入を予定している次期レース車両「SF14」の初期テストの様子を公開した。
その模様は別記事に紹介したとおりだが、本記事ではその後の追加取材などで分かったSF14の詳しい情報についてお伝えしていきたい。
設計・製造を担当したイタリアのダラーラによれば、SF14はシミュレータ技術を活かして設計した最初のレーシングカーであり、2014年は搭載されないもののエネルギー回生システム「システムE」を標準で搭載できるように設計されているなど、今後数年を見据えた設計になっている。また、新しいNREと呼ばれる直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンに関しては、トヨタ、ホンダの両社とも、過給器まわりのデザインや、アンチラグと呼ばれるターボラグをなくす仕組みの開発に注力しているように見えた。
シミュレータの技術を本格的に取り入れたSF14
SF14は、JRPの依頼に基づいてイタリアのレーシングカーメーカーであるダラーラが設計、製造したシャシーになる。ダラーラは、インディカー・シリーズ、GP2/GP3、F3といったトップレベルのフォーミュラカーでワンメイクシャシーを供給している実績がある。現行シャシーとなるSF13(FN09)は、米国のスイフト・エンジニアリング製だったため、シャシーメーカーが変わっているのだ。
異なるカテゴリーのシャシーであっても、“設計思想”ともいえるものは共有されていることが多く、今回のSF14もインディカー・シリーズ用やGP2用とのシャシーと共通部分は少なくない。外観から分かることは、F1ライクな空力を採用していることだろう。SF14のハイノーズにつり下げ型ウイング、大きく絞り込まれたサイドポンツーンといった空力設計は、F1のトレンドを取り入れたもので、ダラーラのほかのシャシーにも取り込まれているコンセプトだと言ってよい。
そうしたトレンドを入れつつも、SF14はスーパーフォーミュラのニーズに合わせた独自設計になっている。ダラーラ チーフデザイナー ルカ・フィニャーカ氏によれば「SF14を設計するにあたり、JRPからはスピードがあり、追い抜きができる車という要求をいただいた。そこで、ダラーラの最優先事項である安全性を維持しながらできるだけ軽い車として高性能を実現でき、かつ空力パッケージを工夫して後ろを走っている時にも前の車の影響をできるだけ受けないように設計した」とのことで、基本的な設計コンセプトに関してはJRP側からのリクエストがあり、それに基づいて安全性に配慮しつつ設計した車だとした。
実際、JRPの白井裕社長は本誌のインタビューに対して「ダラーラに対しては鈴鹿で1分35秒を切るような性能を持ち、かつ追い越しができる車をリクエストした」と述べていた。安全基準に関してはF1の2010年規定によるクラッシュテストをすでに通過しており、F1カーと同等の安全性を確保するように配慮されている。
また、ダラーラのフィニャーカ氏によればSF14のもう1つの特徴は、デザインのシミュレーションをまず作り、そのシミュレーションのフィードバックを元に設計した車であるという。「新しい車を設計するに当たりシミュレータのデータを作り、それを実際に2人のドライバー(筆者注:最初のテストでトヨタ車をドライブした中嶋一貴選手とホンダ車をドライブした伊沢拓也選手)に乗ってもらい、フィーリングを確認してもらった。当初は日本側からのリクエストでパワーステアリングはつけない予定だったが、ドライバーからのフィードバックでつけた方がよいということになり、KYBのパワーステアリングを搭載する場所を初めから用意した」とし、ドライブシミュレータのデータを設計に利用した同社初の車になったという。
エネルギー回生システムをいつでも搭載できるよう設計
ダラーラはSF14に関する詳細をいくつか明らかにした。JRPがザイテックなどと協力して開発してきたエネルギー回生システム(通称:システムE)は、標準で搭載できるようにしてあるという。フィニャーカ氏によれば「最初から乗せるスペースを用意しているのと、後付けで搭載するのでは車のバランスがまったく変わってくる。このため、SF14ではバッテリーとインバーターをドライバーの背中の部分に搭載し、モーターはエンジンの後部にあたるベルハウジングの上側に搭載している」と述べた。ギアボックスは縦置きされており、それもあってSF14のリアセクションはやや長めになっている。
ただ、SF14は来年からシステムEを搭載するわけではない。JRPは2014年のシリーズに関してはシステムEを搭載しないことを明らかにしており、システムEの搭載は今後の検討課題だとしている。仮にシステムEを搭載するとしても、それは2015年以降ということになるだろう。
SF14は数年(過去の例で言えば少なくとも3年)利用することになるので、ライフの途中でシステムEを搭載するという決断がされたとしても、チーム側の負担もより小さくすることができる。
SF14を見ていると、サイドポンツーンの両側にチムニー(煙突)があることが目につくだろう。このチムニーの役割に関してダラーラ SF14プロジェクトマネージャ ワルター・ビァサーティ氏は「チムニーの役割はエンジンおよび過給器の冷却になる」と述べ、その役割が冷却にあることを明らかにした。サイドポンツーンから取り込んだ風が、このチムニーから抜けることでエンジンや過給器などの冷却を行う仕組みになっているのだ。
ただ、今回のSF14に搭載されるトヨタ、ホンダ両メーカーともに過給器はいずれも右側のサイドポンツーンに集中しておかれている。このため、左右にチムニーの必要はないと思われるのだが「左側にもチムニーを置いたのは、1つには左右対称のデザインの方が美しいということ。もう1つは将来的にトヨタ、ホンダ以外のメーカーが参戦する場合に、過給器を左側に置くこともありえるため、左右対称にしている」(ビァサーティ氏)とのことだった。基本的にはデザイン優先とのことだが、万が一ほかのエンジンメーカーがスーパーフォーミュラに参戦したいといった場合でも、レイアウトの自由度を担保しておきたいと説明した。
ブレーキに関しては、ブレンボからシステムが供給される。キャリパーはブレンボ製で、ディスクはヒトコ製となる。従来のSF13/FN09との最大の違いは、ディスクプレートがカーボンに変更されることだ。一般的にカーボンディスクブレーキは、金属製ディスクに比べて制動力が高いというメリットがあるが、熱が入りにくいため稼働温度に持って行くのが金属製ディスクに比べて時間がかかるとされている。これまでスーパーフォーミュラでは金属製ディスクが利用されてきたため、そのフィーリングの違いが出る可能性がある。ダラーラのフィニャーカ氏は「カーボンにしたことで制動能力に関しては十分な性能が確保されていると考えている。しかし、これまでとはフィーリングが違うので、ドライバーはそれに慣れる必要がある。例えば中嶋一貴選手のようにF1で乗った経験があるドライバーに有利に働く可能性がある」と述べ、ドライバーの経験がレースでの差となって現れる可能性を指摘した。ただ、テスト初日にホンダエンジン搭載車をドライブした伊沢拓也選手、トヨタエンジン搭載車をドライブした中嶋一貴選手はともに「違いはそんなに気にならない」と説明しており、実際に影響はない可能性もある。
NRE開発のポイントは過給器まわりやアンチラグの設計
SF14に搭載されるエンジンはNRE(Nippon Race Engine)という名称がついている、日本発のユニークなレーシングエンジンの規格だ。2.0リッター直列4気筒の直噴エンジンで、ターボチャージャーを搭載している。
NREでは、燃料流入制限の仕組みが用意されており、ある瞬間に利用できる燃料の量に制限がかけられる。つまり、同じ燃料をできるだけ効率よく燃やしてトップパワーを出した方が勝つという仕組みになっている。従来の燃料総量制限だと、レースの終盤でいずれの陣営もスピードを落として走ることになるなどして、レースそのものの魅力がスポイルされることになっていたが、燃料流入制限であればその瞬間に使える燃料の量を制限する仕組みなので、できるだけ少ない量の燃料でピークパワーなりトルクを出すという方向ならざるを得ない。つまり燃費に優れたエンジンの開発とレースの面白さが両立できる仕組みといえる。
エンジンを設計、製造するのはトヨタ、ホンダの2社で、富士スピードウェイで行われたSF14の開発テストではそれぞれのメーカーが1台ずつ走らせた。ただし、今回両陣営ともに、ガレージに車が帰ってくると、すぐにシャッターを閉めて報道陣をシャットアウトするなどピリピリした感じでのテストになっていた。
両陣営ともに相手陣営に見られたくないと思っているのは、過給器まわりのレイアウトであるようで、両陣営のデザインの差が大きく出ている模様だ。実際、テスト初日に中嶋一貴選手がドライブするSF14がコースにストップした時には、レッカー車で車体が運ばれてきたのだが、右側のサイドポンツーンのチムニーには布が被されており、そこを見られたくないトヨタ陣営の思惑が垣間見えた。
報道関係者を集めて写真撮影が行われた時には、トヨタ、ホンダともに相手陣営の車の後部に集まってしげしげと眺めているのが印象的だった。つまり、どちらもマシン後部のデザインが、重要な差別化ポイントになると考えているということだ。
トヨタ スーパーフォーミュラ プロジェクトリーダー 永井洋治氏は「今後のエンジン開発ではおそらくターボラグの解消が鍵になる。それを両メーカーがさまざまなやり方でやってくると思うので、そこを見てほしい」と述べており、今後ターボラグ(ドライバーがアクセルを踏んでから過給圧が効いてパワーが出てくるまでの時間差)をどのように解消していくのかなど、過給器まわりのレイアウトが開発競争で鍵になると説明した。
SF14におけるオーバーテイクシステム(現行のSF13/FN09でも採用されている、ボタンを押すことである一定の時間だけ回転数が上がり、前の車を追い抜きしやすくするシステム。現在は5回まで利用することができる)についての質問が出たが、ホンダ スーパーフォーミュラプロジェクトリーダー 坂井典次氏は「現在燃料の流量制限の中でどうやってトップスピードを稼げるかの研究を行っているが、ターボエンジンでは独特の方法(筆者注:おそらくブースト圧を上げることだと思われる)でパワーを上げることもできるが、そうすると熱害が発生する可能性がある。あるいは、ある瞬間の燃料の流入を1にしているのを、その瞬間だけ1.1にすることも考えられる」と述べ、現状のエンジンの回転数を上げるという方法とは別の形でオーバーテイクシステムを検討していることを明らかにしている。
いずれにせよ、各メーカーとも、このNREはスーパーフォーミュラだけでなく、SUPER GTにも利用されるため、あまり大々的に見せたりすることができない模様だ。8月の鈴鹿1000kmレースでSUPER GTの2014年型車両が公開されれば、もう少し詳細な内容が明らかにされる可能性が高い。
ドライバーの感想は「速くて、乗りやすい車」
気になるドライバーのフィーリングだが、ホンダ車をドライブした伊沢拓也選手、トヨタ車をドライブした中嶋一貴選手、いずれのドライバーも速くて、ブレーキもよく効く車ということでは一致していたようだ。
伊沢選手は「走り始めから乗りやすかった、車は非常に速くてブレーキもよく止まるフォーミュラらしい車。正直に言って、現行車に戻ってくると感覚のズレがあって、遅く感じるぐらい」と言うほど。伊沢選手によれば特に富士スピードウェイのセクター3(低速コーナーが連続するテクニカルセクション)が現行車に比べて速く感じるようで、そうしたコーナーを軽快に回っていけるのがSF14の特徴だ。「高速コーナーだと空力に頼って走るSF13が速いが、SF13は非常にスイートスポットが狭いので行きすぎると戻ってこれない。これに対してダラーラ(SF14)はミスが出にくい車で許容範囲は大きい」(伊沢選手)と高評価を与えていた。
ただ、現時点ではいくつかの初期トラブルや課題も見えてきているようだ。中嶋選手によれば「現在はハンドクラッチがついておらず、ブレーキの隣にクラッチのペダルが仮についている状態」とのこと。ここから分かることは、SF14はドライバーの足下に割と余裕があり、ブレーキを右足で踏みたいドライバー、左で踏みたいドライバーと好みに合わせてある程度位置を調整できそうだ。また、中嶋選手によれば「現時点ではハンドリングに課題がある。現行車に比べてクイック過ぎるので、そのあたりを今後修正していかなければいけない」とのことで、今後はそのような点を中心に開発を進めて行くことになりそうだ。
今後は、遠征となる韓国を除きスーパーフォーミュラが行われる前週にサーキットを借り切って開発テストを続けていく。ファンとして注目したいのは11月7日~8日に予定されている鈴鹿サーキットでのテストだ。JRPの白井社長はこのSF14のタイムターゲットを1分35秒、タイヤなどの条件が合えば33秒台も可能としており、開発が進み熟成したSF14で、鈴鹿サーキットをどれくらいのタイムで回ることができるかに注目だ。