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JAL、整備工場見学施設を「JAL工場見学 SKY MUSEUM」としてリニューアル

Webから見学を申し込め、入場無料

天井から自然光を取り入れた「JAL工場見学 SKY MUSEUM」
2013年7月22日リニューアルオープン

入場無料

 JAL(日本航空)は7月22日、同社の機体整備工場見学施設を「JAL工場見学 SKY MUSEUM(スカイミュージアム)」としてリニューアルオープンした。見学は同社HPに用意されている専用サイト(http://www.jal.co.jp/kengaku/)からの事前予約が必要で、入場料は無料。

 JALは創業間もない1950年代半ばから整備工場の見学を実施してきており、2012年度の見学者数は9万2899人と盛況だ。ただ、利用者からは施設の古さや展示物の少なさなどさまざまな指摘を受けることがあり、今回その内容を全面的にリニューアルすることになった。

 今回見学した施設は工場見学コースの一部として、JALの業務内容や歴史などを知るために見学者が見てまわることができる施設で、工場見学時にはこのほか、実際に機体整備工場の見学もできる。

 施設内は「アーカイブズエリア」「仕事紹介エリア」「新商品・サービスエリア」の3つに大きく分けられる。

アーカイブズエリア

 アーカイブズエリアで最も目立つのは、戦前の日本の航空史から同社創業以来の歴史などを、全幅50mを超える壁面に展示する「大年表」だ。戦前、世界水準にあった日本の航空機産業は敗戦後、米国の主導によって事実上壊滅させられたが、1951年のJAL創業時にはそこで辛酸を舐めた人々が多数関わっており、そうした人たちのエネルギーが爆発して創業時の勢いを加速させたそうだ。

戦前の日本の航空業界
終戦まで存在した当時の航空会社「大日本航空株式会社」の航空路図
昭和14年の定期航空便発着時間表

 大年表では創業時の1950年代から10年ごとにその変遷を追っている。自社の航空機もなくノースウエスト航空の運行委託業務からスタートした同社だが、2年後には国際線を就航。1960年にそれまでのプロペラ機からジェット機へと機材を変更する。北回りのヨーロッパ線などが開通する一方、万が一の事故に備え、北極熊などに対応するためのライフルなどサバイバルキットも搭載されていたという。

50mにわたるJALの大年表
当時の洋上飛行には欠かせない六分儀や航路図
当時の運行機材であったDC-6B機内で配布されていたアメニティ。窓の外を見るときに目を痛めないための紙製サングラスや気圧変化によるインク漏れに備えた万年筆袋など
1960年代に入るとジェット機の時代に
北極上空をフライトする機体に搭載されたサバイバルキット。ライフルも搭載されて乗員は射撃訓練を受けていたが、幸い1度も使うことはなかったという
東京オリンピックを記念してファーストクラスの乗客に配布された限定フライトバッグ。JALはアテネからの聖火輸送も行った
当時開発が進められていた超音速旅客機「コンコルド」のJAL仕様模型。日の丸と鶴のマークが描かれた貴重なコンコルドの姿。結局、騒音などの問題がクリアできずに導入には至らなかった

 1970年代になると500人乗りの「ジャンボ機」としてボーイング747が登場し、輸送力は大幅に向上。新東京国際空港(現在は成田国際空港)も完成し、レジャーとして飛行機を利用する乗客がさらに増えてきたという。1980年代になるといよいよ旅客機にも電子化の波が訪れ、操縦システムのコンピュータ化が進み始める。「国際線のJAL」「国内線の全日空」「ローカル線の東亜国内航空(JAS)」という棲み分けもこのころから規制緩和され、自由競争が加速していった。

1970年代はジャンボ機の時代に
747-100の模型
当時、2階は客席ではなくファーストクラスの乗客向けの休憩室になっていた
747-100の客席
海外支店では「日本美」をアピールするためさまざまな取り組みをしていたという。写真はフランクフルト支店に飾られていた金屏風
1980年代はハイテクの時代に
国内航空会社で各社の規制がなくなり、自由な航路を運行できるようになった。これは新しい航路などを記念したファーストフライトカバー

 1990年代はバブル崩壊などの影響で景気が低迷し、各社の競争が激化。JALもサービスの原点に帰り、マイレージサービスの導入など、新しい顧客サービスの開発に取り組んだ。2000年代の航空業界は世界規模で統廃合が繰り広げられ、JALも2002年にJASを統合した。サービス面では自動チェックイン機や「eチケット」などが始まり、Webチェックイン、機内Wi-FiサービスなどIT化による乗客の利便性が大きく向上してきた。

1990年代はバブル崩壊など厳しい経済状況の中でのスタートとなった
JALオリジナルドリンク「SKY TIME」と機内専用インスタント麺。沸点が低い上空でも3分で湯戻しが完了する
ハワイ線などでリゾート気分を演出した「リゾッチャ」。さまざまなキャラクターグッズが作られた
1990年代はさまざまな業界とコラボレーションした特別塗装機も初めて登場した
2000年代は航空会社の統廃合が繰り広げられた
IT技術を応用して乗客の利便性を向上
「あえて空の上で食べる贅沢」として吉野家の牛丼などを提供するサービスも実施した。各商品とも高度1万2000mという条件下で美味しく食べられるよう工夫されていた

 以上、簡単に大年表の概要を簡単に紹介したが、まだまだ書ききれないほどの「歴史」がこの年表には詰まっている。

 このほかにもアーカイブズエリアには、皇室フライトや争乱時の救援チャーター便といった歴史的なフライトの資料、JAL/JASの歴代制服展示、過去の時刻表や機内誌、グッズやポスターなど貴重な実物が展示されている。

JALの歴代旅客機を模型で展示
JALのオリジナルグッズ
1960年~2007年までの時刻表
お土産として配布されていたという扇子
機内誌
手荷物タグ
昔の航空券なども
JALの歴代ポスター
特別フライトブース
JALが関わった紛争や災害時などでの国際貢献、救援、支援などの記録
デジタルアーカイブス。会場では展示できない過去の資料などをタッチパネルモニタを使って見ることができる
仕事紹介エリア

 仕事紹介エリアでは、同社における5つの代表的な職種(運行乗務員、客室乗務員、航空整備士、空港スタッフ、グランドハンドリング・貨物スタッフ)を、ブース毎に分けて紹介している。各職種毎に日常業務で重要な役割を果たす「7つ道具」も展示。また、この内覧会では各ブースで現職の職員から説明が行われたが、実際の見学でもいずれかの職種経験者が見学に付き添い、案内をしてくれるそうだ。

 それではブース毎に紹介していこう。

 運行乗務員とはパイロットのことで、ここでは実際に使用されたコクピットが展示され、座ることもできる。そのほか、パイロットがフライト前にやっているチェックやフライト中にはどんなことをしているのかなど、その仕事の概要がわかるようになっている。

パイロットブース
アナログ時代の計器盤も展示
パイロットの7つ道具
パイロット自身が操縦したフライト内容などを記録する「フライトログブック」
アナログな航空地図も未だ手放せない
サングラスや手袋なども安全な運行には欠かせないアイテム
運行乗務員ブースで最も目立つのはDC9-81型の実物を使ったコクピット。機長席に座っているのはJALの現役パイロットの方。見学者も実際に自分で座ってみることが可能だ

 客室乗務員は、いわゆるキャビンアテンダントで、フライトの機内の安全確保や乗客へのサービスを提供する。直接乗客と接する時間が長く、身だしなみに気を使うことも大切な業務の一環だ。ブースではさまざまな国籍のJAL客室乗務員のアナウンスを聞くことができたり、客室乗務員用のシートに座ることもできる。

客室乗務員ブース
フライト前からフライト中までさまざまな仕事がある
客室乗務員の椅子も展示。あまり座り心地はよくなさそうだが実際に座ることができる
客室乗務員の7つ道具
手鏡やハンドクリームなど身だしなみも大切な仕事の一部。特に機内は乾燥するため、ハンドクリームは手放せないそうだ

 航空整備士は飛行機を安全に運行するため、機体の各部が正常に動作するかをチェックして手入れをする仕事。ブースでは分厚い整備マニュアルや実際に整備に使う道具などが展示され、普段はなかなか目にすることができない航空機整備という仕事の概要がわかるものになっている。また、ボーイング777-200実機のタイヤのカットモデルやボーイング767の1/4スケールのエンジンモデルも展示されている。

航空整備士ブース
分厚いメンテナンスマニュアル。帽子に付いている月桂樹のマークは熟練整備士である「ライン確認主任者」の証
整備に使う道具。かなり使い込まれている。航空機のパーツはボーイング777で約300万個あるという
ボーイング777-200実機の主脚車輪カットモデル
プラット・アンド・ホイットニー製「JT9Dジェットエンジン」の1/4模型。実際にファンが回転する様子を見ることができる

 空港スタッフは、チェックインカウンターでの搭乗手続きや手荷物預かり、搭乗ゲートでの機内への案内など、旅客ターミナルで乗客を案内するのが主な業務。空港内オフィスでは飛行機の重量やバランス、パイロットへの運行情報伝達なども担当する。このブースでは実際にチェックインカウンターで搭乗手続きを体験できる。

空港スタッフブース
空港スタッフの7つ道具
まずは無線機。飛行場内で連絡を取り合うには欠かせないアイテムだ
手荷物預かり時に使うタグなど
アナウンスの仕方などを確認するクイックリファレンス
搭載指示書とウェイト&バランスマニフェスト。前者は貨物室の手荷物の搭載位置などを指定する書類。後者は飛行機の重量やバランスを確認するために使う

 グランドハンドリングスタッフは、飛行場内で飛行機を駐機場まで正確に誘導したり、ボーディングブリッジの装着、乗客の荷物の積み下ろしを担当する。飛行機の前でパドルを振って飛行機に合図を送るシーンを見たことがある人も多いだろう。貨物スタッフは貨物の形状や重量を考慮しながらコンテナやパレットに荷物を積むのが主な仕事。また、動物など特別な貨物を搭載する際の書類の準備や確認なども担当している。

グランドハンドリングスタッフ&貨物スタッフブース
グランドハンドリングスタッフ&貨物スタッフの7つ道具
注意が必要な荷物に貼り付けられる貨物タグ
蛍光ベスト
飛行機を誘導する「マーシャラー」が使うパドル
マーシャラーの動きとその意味
パドルを使って飛行機を駐機場に誘導するミニゲーム。実際に現役のマーシャラーの方に実演をしていただいた

 そのほか、新商品・サービスエリアには、国際線の新座席(ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラス)と、国内線ファーストクラス、クラスJの座席の実物が展示されており、座ることもできる。また、JAL、JAS、東亜国内航空の歴代制服も展示されている。

ファーストクラスからエコノミークラスまでのシートを展示
国内線ファーストクラスシート
国際線プレミアムエコノミーシート
制服体験コーナーでは、子供から大人までJALの制服を着て記念撮影ができる。制服は背中が開いていて簡単に着替えられる
制服体験コーナーにあるコクピット。こちらは子供向けに実機に似せて作ったもの。レバーなどは動かないがディスプレイに映っている計器類は本物と同じ
東亜国内航空(TDA)初代制服(1971年5月~1971年9月)
TDA 2代目制服(1971年10月~1975年)
TDA 3代目制服(1975年~1988年)
JAS 4代目制服(1988年~1997年)
JAS 5代目制服(1997年~2004年)
JAL 初代(1号)制服(1951年8月~1952年9月)
JAL 2代目制服(1954年2月~1960年8月)
JAL 3代目制服(1960年8月~1967年3月)
JAL 4代目制服(1967年3月~1970年6月)
JAL 5代目制服(1970年7月~1977年9月)
JAL 6代目制服(1977年10月~1987年12月)
JAL 7代目制服(1988年1月~1996年9月)

(清宮信志)