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橋本洋平の「三菱自動車“AWC”を雪上コースで体感」
十勝スピードウェイの特設コースで“手の内に収まる”制御と思想を実感
(2016/2/15 07:25)
「当社の4駆はAWD(オール・ホイール・ドライブ)ではなく、AWC(オール・ホイール・コントロール)と呼んでいます」。そう開発担当者が自信満々に説明する三菱自動車工業の4輪駆動システム。これは単に駆動力を得るのではなく、4つの車輪を独自に制御して車両を動かせているということらしい。それを余すことなく味わわせたいというのが今回の雪上試乗会である。
十勝スピードウェイに特設された雪上コースには、4輪駆動システムが異なる三菱自動車のさまざまな車種が並んでいる。三菱自動車のイメージリーダーである「パジェロ」に始まり、「デリカD:5」「アウトランダーPHEV」、ガソリン仕様の「アウトランダー」、そして日本未発売の「トライトン」や「パジェロスポーツ」までをラインアップ。それだけで終わらず、駆動力制御をより進化させたというアウトランダーPHEVの試作車まで用意されていた。
ここまでキャラクターの異なるクルマ達を準備した理由はただ1つ。それは同じ4輪駆動ながら、システムが1台1台異なるからだ。詳しくは会場で配布されたPDF資料の写真をご覧いただきたいが、それぞれのクルマが目指しているシーンを達成するため、行き着いた方式がそこにある。
例えばパジェロなら、基本的にはパートタイム式で悪路走破性を備えてはいるのだが、実はセンターデフに遊星ギアを採用することで、前後33:67の不等トルク配分を実現。FR的に走れてしまう実力の持ち主だったりするらしい。実際に雪上コースを走れば、たしかにアクセルで思いどおりにクルマの方向を変えられる印象があり、あの巨体がスルリとターンして見せてしまうのだから面白い。同じ方式を選択し、前後配分を40:60にしているトライトンやパジェロスポーツもまた、基本的には同じような特性。“第2のステア”としてアクセルが効いてくれる感覚で、雪の上という低グリップ領域では誰もが走り出しからクルマを手の内に収められるはずだ。この不等トルク配分は、巨体をねじ伏せられるように考え抜かれた末の結論とも見える。車種別にそこを吟味しているあたりから、三菱自動車の拘りが感じられる。
一方で、FFベースの電子制御4WDを採用するデリカD:5は、明らかに前述したタイプとは異なっている。フロントタイヤがスリップしたり、加速時などのトラクションが必要な状態になってから、駆動力を算出してリアタイヤにトルクをかけるのがこの方式だ。つまり、通常走行ではわずかにリアタイヤにトルクを配分しつつ、基本的にFF状態で走る。それによって駆動ロスを低減し、低燃費を実現してやろうという目論見である。走ってみると、たしかにパジェロなどとは違い、アクセルで向きを変えるという芸当はなかなかできない。一般的な走行では、問題ない程度にトラクションをかけて走っているというほうが正しいかもしれない。
「やはりFFベースはこんなものか……」。実は半分諦めかけていたのだが、試しに思い切って攻め込んでみると、1回ドライバーが姿勢を作ってしまえば、アクセルでコントロールできる底力があることを発見! ハッキリ言って乗り手を選ぶタイプだが、そのクセさえ飲み込んでしまえばOK! これはこれで楽しめちゃう作りをしているあたりが三菱自動車ならでは。デリカD:5でドリフトできるなんて想像もしませんでした、ハイ(笑)。
そして最後はアウトランダーである。ガソリンモデルもPHEVも、ともに「S-AWC」と名乗る電子制御4WDを採用しているが、中身は全くの別物だったりするところが面白い。ガソリンモデルはプロペラシャフトを持ち、リアデフに電子制御カップリングを備える一般的な4WD。だが、フロントには電子制御クラッチを持ってLSD効果を発揮。アクセルでフロントのコーナーリングフォースを稼ぎ出すことができる仕様になっている。一方のPHEVは、リアに駆動用のモーターが備わっているため、当然ながらプロペラシャフトの存在はなく、フロントにLSD効果を発揮する電子制御クラッチも持っていない。PHEVはリアモーターに駆動トルクを多めにかけることで、クルマの向きを変えてやろうという考え方がある。
ガソリンモデルに乗ると、フロントからスッと曲がる感覚に溢れている。FFモデルのLSD付きのクルマに乗った人なら理解できると思うが、ステアリングを切りながらアクセルを入れて行くと、インを突き刺すように曲がっていけるのだ。その軽快さたるや、本日一番! PHEVよりも300kgほど車体が軽いということもあり、まるで別のクルマのようにスイスイと向きを変えるところが面白かった。
PHEVは車両重量もあり、ドッシリとした走り味。けれどもモーターでグッと駆動力をかけていけば、リアが巻き込むように旋回していくところにFR的な感覚があって心地いい。いざ滑ったとしてもスタビリティコントロールが絶妙に介入しながら、ロスなく路面にトラクションをかけていくところにも感心した。
今回は次期モデルの試作制御を入れたアウトランダーPHEVにも試乗することができたが、こちらはリアタイヤへのトルクをもっとかけるように仕立てていることが明らかだった。つまり、よりFR的であり、積極的にクルマの姿勢変更ができるような仕様なのだ。これはPHEVに新たなる可能性がありそうだと感じるに十分なポテンシャルだった。しかし、一方でPHEVの難しさも感じた。リアタイヤへのトルクが増えた分、トルクのかかり方が急激になることがあり、一瞬でリアタイヤが空転を始めたり、車両姿勢が発散してしまう場面があったのだ。モーターはアクセルの踏み始めから瞬時に高トルクを立ち上がらせることができるが、それを低μ路ではネガティブに感じる部分もあったのだ。面白味がある制御ではあるが、クルマの安定性も確保しなければならないことを考えると、モーターのトルクをジワリと発生させるような制御がこれからの課題となりそうだ。
こうしてひと通りのAWCを味わったあと、最後は「媒体対抗タイムトライアル」なるものが始まった。編集者とライターが1組になり、合計タイムを競うというこのイベントは、1台はアウトランダーPHEVを使用することがマストで、もう1台はアウトランダーPHEV以外から自由に選んで走るというレギュレーション。そこでCar Watchでは、まずは編集者SがアウトランダーPHEVでアタックすることに。電子制御に全てを任せ、なんとかタイムを稼ごうという作戦だ。
だがしかし、編集者Sはストレートエンドでオーバースピードのままコーナーに侵入し、盛大なアンダーステア状態のまま雪壁に乗り上げるという大失態! クルマはスタックしてしまい、リタイヤでノータイムとなってしまった。これで勝負はTHE END。いくら電子制御が進もうと、慣れないクルマで無理をすればこうなってしまうということを編集者Sは身をもって見せてくれた。みなさまもご注意を。雪壁が柔らかくて(それでスタックしたのだが)クルマが傷つかなかったのがせめてもの救いである。
というわけで、後半の僕のアタックはなんの意味もなく行なうことになってしまったのだが、それなら記録よりも記憶に残る走りをしてやろうと、クルマは敢えてデリカD:5を選択して派手に走ってみました(笑)。すると、ご覧のとおりのドリドリっぷり。これじゃタイムは出ないわな~なんて思っていたが、車重の重さもあってか、アイスバーンでかなりのトラクションがかかり、気づいてみれば全体のトップタイムをマーク! ライバル誌の参加者から「アウトランダーPHEVを引き立てなくちゃダメじゃん!」と突っ込まれたことはここだけの話である。
というわけで、三菱自動車の“AWC”を隅々まで体験できた今回のイベントは、たしかにトラクションだけではない、オール・ホイール・コントロールがもたらすクルマとの一体感を試すいい機会だった。どんなジャンルのクルマであっても手の内に収められるその制御と思想は、さすがはラリーからサーキットまで“AWC”で戦ってきた三菱自動車だけのことはあると感心させられるばかりだった。