奥川浩彦の「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」攻略ガイド【第2回】
レース撮影編。正面撮りから流し撮りへ


 10月22日、23日に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で「2011 FIA 世界ツーリングカー選手権シリーズ 日本ラウンド(WTCC KENWOOD Race of Japan)」が開催され、それにあわせて「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」が行われる。

 WTCCフォトコンテスト攻略ガイドの第2回は「流し撮り」について。前回(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20110920_478696.html)は、機材や金網対策について紹介したが、機材が用意できたところでレース撮影には欠かせないテクニックとも言える流し撮りについて紹介する。筆者はキヤノンのAPS-C一眼レフカメラで撮影しており、撮影設定には同社のカメラ固有のものもある。一般名称も併記するので、適宜自分のカメラ設定に読み替えていただければありがたい。



 まずは、カメラ設定から。筆者の普段使用しているカメラ設定は下記のものとなる。

撮影モード:シャッター速度優先オート
連写モード:最高速
AFモード:コンティニュアスAF(AIサーボ)
AFポイント:センター1点(たまにほかのAFポイントも使用する)
ISO感度:ISO 100~200(雨天のレースや、夜間のレースは高感度も使用)
ホワイトバランス:オート
ファイル形式/画質:JPEG/FINE

 ホワイトバランスは太陽光(晴天)で固定という人もいるし、ファイル形式はJPEGでなくRAWで保存という人もいる。これはレース写真というより、デジタル写真に対する考え方なので、好みで選択すればよいだろう。

 フォーカスや露出もマニュアルで撮る人もいるが、最初はある程度カメラ任せでスタートすればよいと思う。筆者自身はほとんどオートで撮っていて、モニターで確認して露出補正を少しマイナスにすることが多い。フィルム時代は露出計やアスファルト路面から露出を決めたが、現在はSUPER GTマシンを正面から撮るときだけ、ヘッドライトの影響が出るのでマニュアル露出にすることがあるが、ほかのレースはほとんどオートで撮影している。

正面から高速シャッターで写し止める
 設定が決まったらいよいよ撮影だ。レース写真と聞いて思い浮かぶのが流し撮りだが、初心者にお勧めは正面からの撮影だ。長めの望遠レンズと撮影ポイントさえ見つければ、初心者でも比較的簡単に撮影できる。

1/1000秒 F8 300mm(480mm相当)

 正面からマシンを写し止めるなら、最初は高速シャッターを使おう。目安としては1/500秒から1/1000秒くらいだ。撮影方法は撮りたいポイントの少し手前からマシンをファインダーに入れ、シャッターボタンを半押しにし、小さくレンズを振ってマシンに追従させながら撮る。コーナーではアウトインアウトのラインやクリッピングポイントがドライバーによって微妙に異なるので微調整しながら撮ろう。正面からの撮影は一脚を使用すると微調整がしやすくなり手持ちより楽に撮ることができる。

 撮りたいポイントで待っていて、マシンがファインダーに入ったらシャッターボタンを押せば撮れそうな気もするが、この方法では上手く行かない。カメラのオートフォーカスを正しく動作させるためには、被写体が近付いてくることを認識させなければならない。そのためファインダーにマシンを捕らえ、常にピント機構を動作させ、マシンを追いかけさせることが必要だ。


正面でもスローシャッター
 ここからは応用だ。正面とやや斜め方向からのスローシャッターでの撮影だ。まずシャッター速度を変えて正面から撮った画像を比べてみよう。1/500秒、1/250秒、1/160秒、最後にオマケで1/30秒を見てみよう。1/160秒まではパッと見ても大差ないだろう。細かく見るとリアウイングの文字がマシンの回転の影響で徐々にブレていることが分かる。路面も少しずつ流れている。

1/500秒 F5.6 300mm(480mm相当) (クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます)1/250秒 F11 300mm (480mm相当) (クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます)
1/160秒 F13 300mm(480mm相当)(クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます)1/30秒 F22 300mm(480mm相当)(クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます)

 さすがに1/30秒は大きくブレて動きを感じる絵になっている。1/160秒までの3枚は劇的に違いがあるとは言えない。レンズは300mmを使っているので焦点距離は480mm相当。当然シャッター速度を落とせばブレる確率は増えてくる。だとすれば成功率の高い1/500秒、1/1000秒で撮ればよいという結論になる。

 では次の3枚を見てみよう。ヘアピンへの進入、クリッピング、立ち上がりを1/160秒で連写した中の3枚をそれぞれトリミングしている。これを1/500秒で撮ったら進入、立ち上がりは動きのない写真になってしまう。特にタイヤ側面の文字やホイールはシャッター速度が速いとハッキリ見えてしまいスピード感のない写真になる。正面からの撮影でシャッター速度を遅くすると、クリッピングの前後もシャッターチャンスにすることができる。

1/160秒 F6.3 300mm(480mm相当)。1/160秒で撮ればヘアピン進入も絵になる1/160秒 F6.3 300mm(480mm相当)。クリッピングポイント1/160秒 F6.3 300mm(480mm相当)。立ち上がりも少しトリミングすると絵になる

 正面からの撮影の基本は高速シャッターだと思うが、少し慣れたらシャッター速度を下げて撮影のバリエーションを増やしていただきたい。

流し撮りのポイントはシャッター速度
 レース写真と撮ろうと思った人が目指すのは「流し撮り」だろう。カメラとレンズを振って、被写体を追いかけながらシャッターを切るわけだが、この流し撮りでポイントとなるのが「シャッター速度」だ。9月11日~12日に富士スピードウェイで行われたSUPER GTの写真を見ていただこう。

 撮影ポイント、撮影意図によってシャッター速度を1/160秒、1/60秒、1/25秒と使い分けている。撮影する際にどういう条件でシャッター速度を決定するかを考えてみたい。

1/160秒 F13 59mm(94mm相当)。9月11-12日に行われたSUPER GTにて撮影1/60秒 F8 59mm(94mm相当)。同じくSUPER GTにて撮影1/25秒 F14 47mm(75mm相当)。同じくSUPER GTにて撮影

 実際に同じ場所でシャッター速度を1/1000秒、1/500秒、1/250秒、1/125秒、1/60秒と変えて撮った画像を見てみよう。背景の看板、スポンジバリヤ、マシンのタイヤ・ホイール、コースの路面、手前のエスケープゾーンなどを各画像で比較してほしい。

1/1000秒 F3.5 200mm(320mm相当)。撮影場所は鈴鹿のS字手前。ホイールまで止まって見え、停止しているようだ1/500秒 F5 200mm(320mm相当)。少し看板が流れ始めたが、ホイールのメッシュ部分がまだ見える1/250秒 F7.1 200mm(320mm相当)。だいぶ動きが出てきた。看板、タイヤバリア、手前の地面、すべて流れてはいるがスピード感はない
1/125秒 F10 200mm(320mm相当)。やっと流し撮りというレベルになった。だが、この構図ではまだ迫力は感じられない1/60秒 F16 200mm(320mm相当)。スピード感が出てきた。1/60秒の撮影は難易度が高い

 シャッター速度を遅くすると背景が流れ、タイヤも回転し、動きの迫力が増すことが確認できる。それでは遅いシャッター速度で撮ればよいかと言うと、遅くすれば当然ブレる率も高くなりボツ写真が増える。実際にどれくらいのシャッター速度で撮ればよいのかを考えてみたい。

 静止物を撮る場合、一般的に「1/焦点距離」が手ブレしないシャッター速度と言われている。100mmの焦点距離(35mmフィルム換算)なら1/100秒、300mmなら1/300秒が目安となる。これはあくまで静止している被写体が対象で、動いている被写体の場合は手ブレ以外に被写体ブレもあるのでこの条件には当てはまらない。

 動いている被写体もレーシングカーや電車のように形状変化が少ない被写体と、陸上競技や競走馬のように形状変化+移動する被写体では条件が異なってくる。流し撮りと言ってもさまざまな条件で最適なシャッター速度は異なることを認識する必要がある。

マシンの速度でシャッター速度を変えよう
 レーシングカーの撮影に限って言えば、筆者は流し撮りのシャッター速度の基本を1/125秒にしている。これをベースに、条件や撮影意図によって上げ下げして撮っている。その条件を順番に説明していこう。まずは「マシンの速度」。次の2枚の画像はどちらもシャッター速度1/250秒で撮ったものだ。最初の1枚は先ほどのシャッター速度の比較用に撮った画像で、場所は鈴鹿サーキットのS字手前、もう1枚は130Rの立ち上がりだ。1枚目より2枚目のほうが動きが感じられると思う。2枚の画像で大きく異なるのはマシンの速度だ。130Rの方がマシンは速く走っているので、同じシャッター速度でも動きのある写真になっている。

1/250秒 F7.1 200mm(320mm相当)。車速が遅いと流れない1/250秒 F16 200mm(320mm相当)。車速が速いと流れる

 車速が速ければ、速いシャッター速度で撮っても背景は流れる。慣れればある程度車速が速くてもマシンをフレーム内に収めることは難しくないが、遅いシャッター速度でマシンを正確に捕捉することは難しい。初心者は車速が遅い撮影ポイントのほうが撮りやすいと言われることが多いが、筆者は少し慣れれば車速が速いほうが流し撮りはしやすいと思っている。

 もう少し詳しく書くと、マシンの速度とは時速○kmという絶対的な速度ではない。例えば、800km/hではるか上空を飛ぶ旅客機を地上から撮る場合と、20km/hの自転車が2~3m横を通り抜けるのを撮影する場合を想像してほしい。旅客機はゆっくりとカメラを振って撮るが、自転車ははるかに速くカメラを振る必要がある。同じシャッター速度なら、カメラを速く振ったほうが背景は流れる。サーキットの場合、至近距離で撮ることは少ないが、被写体までの距離と車速によって、カメラを速く振って撮る場合は多少シャッター速度を上げても背景は流れることを理解しよう。

広角レンズはスローシャッターで撮ろう
 次にシャッター速度を上げ下げする条件は「背景とレンズ」だ。同じ場所から撮っても、マシンがフレームいっぱい、あるいはフレームからはみ出すような望遠レンズを選んだ場合と、比較的広角のレンズで背景がたっぷり入り、マシンが小さめに写る場合でシャッター速度を変化させている。

 2枚の画像を比較してみよう。ツインリンクもてぎのダウンヒルストレートのエンド、ほぼ同じ場所から撮った画像で、1枚は焦点距離100mm(160mm相当)の中望遠レンズでシャッター速度1/160秒、もう1枚は標準ズームの広角側で38mm(60.8mm相当)、シャッター速度1/30秒で撮っている。望遠で撮って背景の写りこみが少ない場合はシャッター速度を速くしてもスピード感が出るが、広角側でたっぷり背景が入る場合はシャッター速度を遅くしないと動きのない写真となってしまう。

1/160秒 F8 100mm(160mm相当) 1/160秒でもスピード感がある(クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます)1/30秒 F13 38mm(60.8mm相当) 広角で撮る場合はシャッター速度を遅くしよう(クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます)

 これは、一般的にいわれる、望遠はブレやすく、広角はブレにくいことがそのまま反映されている。同じ場所で撮影しているので、カメラを振る速度は同じだが、広角側ほど背景のブレは少なくなるのでスローシャッターで撮らないと流し撮りの効果は少なくなくなる。

いざ撮影
 サーキットのコースサイドに立ったら、野球やゴルフに素振りがあるように、まずはマシンが通るレコードラインに沿って素振りをしてみよう。流し撮りはある意味スポーツだ。ゴルフのスイングがテイクバックからフォロースルーまで大切なように、シャッターを押す前後も大切だ。カメラを振るスイング全体がシャッターを押す瞬間に影響する。

 もし可能なら、サーキットへ行く前に乗用車など動く被写体を望遠レンズで捕らえる練習をしておくといい。ドアミラーやウインカーなど、どこか1点をファインダーの中心に捕らえ続ける練習だ。但し、不審者と思われ「何撮ってるんだ」と怒鳴られないように撮影場所は慎重に選びたい。

 ズームレンズの場合、最初はズームをやや広角側にして、マシンを小さくして捕捉。そこから徐々に望遠側にズームして、マシンを大きく捕らえてみよう。おそらく望遠になればなるほどフレーム内に収めるのが難しくなるはずだ。

フレーミングは最初は少しゆとりがあったほうがよい。画面いっぱいにマシンをとらえると、頭が切れたり、尻切れトンボが多発する。デジカメは後からトリミングするのは簡単なので無理することはない。そこそこマシンに追従できる焦点距離で撮影を始めよう。

 走り抜けるマシンを何回も撮っているとマシンの動きに慣れていくはずだ。マシンは一定速で移動することはなく、加減速をするので撮る側もスイングする速度をあわせる必要がある。コーナー手前のブレーキングにあわせスイング速度を落とし、立ち上がり加速にあわせスイング速度を速くするイメージだ。

 シャッター速度は1/125秒が基本と書いたが、まずは1/250秒あたりで何枚か撮ってみる。シャッター速度のステップはカメラによって異なるが、そこから徐々に1/200、1/160、1/125くらいで撮り比べて感触を掴んでいただきたい。実際にシャッターを切ると、連写の場合はファンダーの消失時間でマシンを追従するのが少し難しくなるが、一般的な一眼レフでは避けられないので慣れるしかない。

 筆者が流し撮りで心掛けていることは、漠然とファインダーをのぞくのではなく、マシンの1点を見ることだ。筆者はAFポイントをセンター1点にして撮ることが多いので、フレーミングによってそのAF点をマシンの何処かに合わせて、その1点を見続けている。

 ほかに心掛けているのは、スイング途中にファインダーの中でマシンが上下左右に振れても、無理に位置を修正せずにスムーズにスイングすること。例えばヘルメットにあわせようとしてスイングを始めたらバックミラーがファインダーの中心に来てしまっても、修正しないでそのままバックミラーを追い続けたほうがスイング全体がスムーズになる。

 もう一つは両足のスタンスをシャッターを押す撮影ポイントに正対することを心掛けている。これはゴルフのボールを置く位置のイメージだ。例えば右から左へマシンが走り抜ける場合、コースと平行にスタンスを取り、上半身を右にひねって近付いてくるマシンをファインダーに捕らえ、身体の正面でシャッターを切り、上半身を左にひねって走り去るマシンをフォロースルーする感じだ。

 以上が流し撮りの基本だ。撮る前には理解できないことも多いだろうが、1度撮影をして、自分で撮った写真を見ながら読み直していただけると理解できる部分もあるはずだ。幸いデジカメになって、撮影現場で撮った画像をすぐに確認することができる。さらに画像に記録されたExifの情報を見て、確認、反省、検証をすることも上達への近道だ。ちなみにCar Watchで掲載しているフォトギャラリーの画像はExifを残すようにしている。トリミングをしているので、焦点距離は目安にしかならないが、シャッター速度などは参考にしていただきたい。


 最終回となる第3回は、WTCCの開催される鈴鹿サーキットの撮影ポイントについてお届けしていく。

(奥川浩彦)
2011年 9月 21日